招かれざる転校生
春休みが終わり、春希たちは高校生活最後の年を迎えていた。クラス替えがあり、春希は真冬、渚、透と一緒のクラスになり、夏と綾乃は別のクラスに振り分けられた。
春希と真冬が付き合っていることは周知の事実であったため、クラスが変わったからといって周囲の反応が大きく変わることはなく、相変わらず春希に羨望と妬みが入り混じった視線が向けられていた。その様子に春希は嘆息をつき、渚や透が微笑ましそうに見守っていた。
しかし、新学期を迎えた最初のホームルームで、事態は一気に急展開を迎えることとなる。
「突然だけど、4月からこの学校に編入して来た生徒がいるので紹介するわね。さあ、入って」
担任となった女教師が教室の入口に向かって声をかけると、ゆっくりと扉が開く。そして、1人の男子生徒が穏やかな笑みを浮かべながら入って来た。
「紹介するわ。今年からこの学園に編入してきた、名取優馬くんよ。最後の1年だけだけど、みんなよろしくね。じゃあ名取くん、挨拶をお願いしても良い?」
「はい」
ゆっくりとした口調で話し出す転校生に、教室内は小さくない騒めきに包まれていた。1番後ろの席に座っていた春希は、前の席に座っていた渚と透が小さな声で話しているのが目に入る。おそらく、その内容は春希が持っていた疑問と同じであると、春希は感じていた。
しかし、渚や透が座っている列の1つ前の列に座っていた真冬の背中に視線を移すと、真冬の体は小さく震えているように見えた。真冬の表情を見ることは出来ないが、春希はとてつもなく嫌な予感を抱えていた。
「福島……宮城さんの様子、分かってるね?」
「……ああ」
「何か嫌な予感がするの、私だけ?」
「……いや、そうじゃない」
状況をよく理解していない春希に、同じような疑問を持った渚と透が振り返る。その間、名取と名乗る転校生の挨拶が続いていくが、春希は真冬の様子が気がかりであり、話の内容は全く頭に入っていなかった。
姿勢良く、凛とした様子の転校生は、穏やかな笑みを浮かべながら自己紹介を続けていく。どこかの家の御曹司を彷彿とさせるかのような容姿は、さもトップエリートたちが集うこの学園に良く似合う人物であった。
だがしかし、自己紹介が終わりかけたとき、名取は視線を真冬へと向ける。そして、視線を逸らした真冬に対して、名取は不敵な笑みを浮かべた。
「やあ、真冬じゃないか。元気だったかい?」
「っ……!」
「あら? 宮城さん、名取くんと知り合いなの?」
「ええ。お互い、良く知った仲ですよ。なあ、真冬?」
「し、知りません! どうしてっ……どうして貴方がっ!」
唇の端を吊り上げた名取に、真冬はここが教室であることを忘れていたかのように、取り乱した声を上げる。その様子に、周囲のクラスメイトたちもただならぬ気配を感じるようになっていた。
その瞬間、春希の脳裏に真冬の姉の姿が浮かぶ。そして、その疑念は現実のものとなるのであった。




