ナイトのバースデー
「春希くん、今日は何の日か分かってる?」
「何って、バレンタインデーじゃないのか? クラスの連中も、完全に浮き足立ってたけど」
「そうじゃなくて……本当に覚えてないの?」
「……何の見当も付かないんだが」
春希の家へと帰って来た2人は、順番に風呂を済ませてリビングへと戻る。後から風呂に入った春希が戻ると、真冬はソファーに座って春希を待っていた。
真冬が春希に問いかけるも、春希は首を傾げるだけで、心当たりが無い様子であった。その様子があまりにも自然過ぎて、真冬は本当に春希がそのことを忘れているのだと理解していた。
「春希くん……今日は、春希くんの誕生日だよ?」
「……あ」
訝しげな表情をしていた真冬に指摘され、春希は壁にかけられていたカレンダーを見る。そして、ようやく自分の誕生日が今日であることを理解したような表情を浮かべた。
何の悪気も無かった様子の春希に、真冬は頬を膨らませていた。そして、春希にソファーへと座るよう促し、隣に座らせる。
「もう……山形さんや秋田さんから聞かなかったら、ずっと知らないままだったよ?」
「いや、別に黙ってたわけじゃ」
「言い訳は聞きません。春希くんは、ここに横になりなさい」
「……はい」
言い訳をしようとする春希をピシャリとした口調で遮り、真冬は自らの膝の上に頭を乗せるよう促す。真冬の圧力に観念した春希は、ゆっくりと真冬の膝の上に頭を乗せて横になる。
しかし、春希が真冬の体の方を向いて横になったため、真冬は一瞬にして顔を真っ赤にする。そして、その恥ずかしさから春希の頭を何度も軽く叩いていた。
「ど、どうしてこっちを見て寝るの!?」
「え? いや、真冬が横になれって言うから」
「普通は反対側を向いて横になるの! 恥ずかしいじゃない!?」
「でも、こうしないと真冬の顔が見えないし……」
「わ、私が恥ずかしいの! スカートだし、春希くんの息が当たって……!」
「はいはい……真冬の顔が見れないのは淋しいけど、真冬がそう言うなら……」
渋々といった様子の春希は、ゆっくりと頭を反対側に向けて寝直す。予想外の春希の行動に動揺させられてしまった真冬であったが、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
そして、真冬は春希の頭をゆっくりと撫で始めた。
「もう……せっかくバレンタインの準備をしていたのに、春希くんの誕生日が今日だって知ってびっくりしたよ? 山形さんも秋田さんも、私が春希くんの誕生日を知らないことにびっくりしてた」
「ごめんな……隠すつもりはなかったんだ。本当に、真冬だけには隠すつもりはなかったんだ」
「ううん……怒ってるわけじゃないよ。たぶん、私も同じような気持ちだから」
真冬の柔らかな手の感触に包まれ、春希はゆっくりと目を閉じる。お互いに顔を見合わせているわけではないが、お互いが何を考えているのかは分かっていた。
おそらく、自分と同じことを相手も思っているのだろうという空気が、お互いの信頼関係から表れていた。
「私が言えるようなことではないけど……春希くんには自分を大事にして欲しい。もう、春希くんだけの人生じゃないんだよ?」
「……真冬」
「重い女だって思われるかもしれないけど、春希くんが私と結婚してくれるって言ってくれて嬉しかった。両親や姉からどんなことをされるか分からないのに、それでも春希くんは私と生きてくれるって言ってくれた。だから……私は春希くんにもっと自分を大切にして欲しいの」
「……ごめんな、そんな顔させて」
春希はゆっくりと起き上がると、そのまま真冬のことを抱きしめる。自分が思っていたよりも、真冬が自分のことを考えてくれていたということを知り、春希は真冬を愛おしいという感情が込み上げてくる。
真冬が離れないよう、春希はいつもより少し強めに真冬を抱きしめる。華奢ですぐに壊れてしまいそうな真冬の体だったが、真冬はしっかりと春希の背中に手を回して抱きしめ返していた。
「両親が死んでから、オレは抜け殻のように生きてきた。何のために生きているのか分からなかったし、これからの人生に希望を持ったことなんて1度もなかった。真冬と出会うまで、オレは自分の人生なんてどうでも良いと思ってた」
「……私は、春希くんの何かを変えることが出来たかな?」
「ああ。真冬は、オレが生きるための道標を与えてくれた。誰にも頼らず、1人だけの力で必死に生きている真冬を見て、オレは知らないうちに真冬に惹かれていた。真冬のように、真の通った強い人間になりたいと、そう思うようになったよ」
春希の過去に何があったのかは、真冬もある程度は知っていた。しかし、春希がどのような思いを抱えながら生きてきたのかということまでは、春希から聞いたことはなかったのである。
春希のことを抱きしめながら、真冬は春希の耳元でそっと囁く。
「じゃあ……これからも春希くんの道標になれるように頑張るね」
「真冬っ……!?」
真冬が春希に体重を預けると、春希はそのままソファーに倒れ込む。真冬の体を支えようとしていた春希だったが、真冬はその手を取り、自分の胸元へと押し当てていく。
春希の手に、真冬の鼓動が伝わっていく。そして、真冬の柔らかな乳房の感触も同時に伝わり、春希は心臓が一気に高鳴っていく。無意識に手を動かすと、真冬の甘い声が漏れると共に、春希の手の中で真冬の乳房が形を変えていた。
「急に春希くんの誕生日が今日だって知ったから、プレゼントはまた明日買いに行こう? その代わり……今日は私をあげる」
「真冬……」
「春希くんに触られたいって、ずっとそんなことばかり考えてしまうことがあるの。そんなことを春希くんに言ったら嫌われるかなって思ったけど、体が春希くんを求めて苦しいよ……」
「……嫌わないよ。オレは、どんな真冬だって受け止めるよ」
「ホントに? エッチな私でも、受け止めてくれる?」
「ああ。むしろ、オレが我慢出来なくなりそうだ。真冬のことを壊してしまうんじゃないかって、怖くなるときがある」
「我慢しなくて良いんだよ? 春希くんの全部……受け止めてあげるから」
誕生日を迎えた春希に、真冬は自分の全てを曝け出し、その全てを春希に委ねていた。




