常識人と参謀の恋物語
「はー、満足満足。いっぱい食べたってのもあるけど、ラブラブな2人を見ていたから胸の方がいっぱいになっちゃったよ」
「はは、確かにそうだね。僕たちのクラスでも有名な2人になってしまったけれど、他の誰かが付け入るような隙が無くて安心したよ。うちの部活の部長ですら落とせなかった宮城さんだったけれど、福島と一緒にいるときの宮城さんは等身大の宮城さんだったね。なんとなくだけれど、福島が宮城さんに惹かれる理由が分かったような気がするよ。逆もまた然りだけれどね」
生徒会の打ち上げの帰り道、春希と真冬と別れた渚と透は、途中まで一緒であった帰り道を並んで歩いていた。
まだまだ冬の寒さが続く2月のバレンタインデーは、すっかり辺りが真っ暗になっており、すれ違う人たちの中には数多くのカップルたちがいた。
「透くんは今年もたくさんチョコレートもらったんでしょ? 下駄箱も机の中も、相変わらず不特定多数の女の子たちからのチョコレートで埋め尽くされてたもんね」
「もらえるのは嬉しいけれど、全部食べ切るのが大変なんだよ。かといって、その気持ちを無下にすることも出来ないし」
「それ、もらえない男子からしたら、リア充爆発しろって感じだよね。透くん、そのうち後ろから刺されないでよ?」
「そんなに怖いこと言わないでくれよ。渚の勘は当たることが多いんだから」
少し手を伸ばせば、その手を取ることが出来る。しかし、渚から見たその距離は、見た目の何倍も遠くにあるように見えていた。
透が今まで、何人の女子に告白されてきたのかは分からない。最初こそ数えてはいたものの、今となっては数えても無駄だということを、渚は知っていた。透の気持ちを知っているからこそ、渚は今まで何も言うことはなかったのだった。
しかし、目の前で仲睦まじい2人を見た後となっては、渚もその気持ちを多少なりとも乱されてしまっていた。
「……はい、透くん。溢れ返ってると思うけど、私からのバレンタイン」
「えっ? 僕にくれるのかい?」
「……一応、本命だからね」
2人の帰り道が分かれてしまう十字路に差し掛かったとき、渚がカバンの中から綺麗にラッピングされたチョコレートを取り出す。そして、頬を赤く染めながらも、両手で透に差し出した。
目の前の状況が掴めていなかったのか、透は目を見開いて驚いているようだった。それでも、すぐに渚からのチョコレートを受け取ると、大切そうな視線を向けていく。
「もらえないかと思っていたよ。もらえても、生徒会からの義理チョコかなと思ってた」
「そ、そんなことするわけないでしょ? 私が本命チョコを渡すのは……透くんだけなんだから」
「渚……」
「ちょっ、透くん……っ!?」
人気の少ない住宅街で、透は渚のことを抱きしめる。唐突の出来事に、渚は上手く言葉を搾り出すことが出来ず、体は固まったまま動かないでいた。
今まで渚が透と関わってきた中で、このようなことを透にされるのは初めてであった。密かに想いを通わせていた2人であったが、決して人には言うことの出来ない理由で、男女としての関係までには発展していなかった。
「あっ、あの……どうして?」
「ごめん……理由はよく分からないけど、渚のことを抱きしめたくなった。いきなりこういうことされても困るよね」
「わ、私は別に嫌じゃないけど……透くんは大丈夫なの?」
「ああ……ずるい考えだけど、今は渚のことをだけを考えていたい」
渚の体を引き寄せ、透は愛おしそうに渚の頭を撫でていく。透の抱えている問題を知っていた渚は複雑な心境であったが、ゆっくりと両手を透の背中に回していく。
「……私は、透くんのことが好きだよ。どんなに辛いことがあっても、透くんの力になりたいって思ってる。重い女かもしれないけど、透くんへの想いはいつまでも変わらないよ」
「……ありがとう、渚。いつまでも昔のことを引きずっている男なんてきっぱりと切り捨てて、違う人を探せば良いのにって思うときがある。それでも、僕は渚の気持ちに応えたいって思ってるよ。中々信じてもらえないかもしれないけど」
「ううん、大丈夫。ずっと待ってるよ、透くん」
透の過去に何があったのかを知る者は、渚以外には春希しか知らないことである。そして、春希もそれを他の誰かに口外したことは1度としてなかった。順風満帆に見えているであろう透の学園生活だが、こちらもこちらで悩みを抱えているのであった。
「今日は家まで送るよ。せっかくのバレンタインデーだから、もう少し渚と一緒にいたい」
「ふふ、仕方ないな。透くんがどうしてもって言うのであれば、家まで送ることを許可しようではないか」
透の体温を惜しみながらも、渚はゆっくりと透の背中から手を離す。そして、2人は渚の自宅の方向へと、再びゆっくりとした足取りで歩き始めた。
「そういえば……真冬ちゃんは気付いていなさそうだったよね? 今日が、あの日だってこと」
「ああ、そうだね。さっきまでの様子だと、福島も話していないんじゃないのかな。それでも、宮城さんなら気付いていそうだけど」
何かを思い出したかのように、渚が人差し指で顎先を撫でながら首を傾げる。言葉にしないまでも、透には渚が何を言おうとしているのかが分かっていた。
「自分の誕生日を教えていないなんて、何とも福島らしいよ。宮城さんが激怒する姿が目に浮かぶようだ」
小雪がちらつく中、渚と透は先ほどまで一緒にいた2人のことを案じていた。




