生徒会の打ち上げ
「ん? 山形と秋田は来ないのか?」
「夏くんと綾乃ちゃんなら、補習に行ったよ? 今回は春希くんが助けてくれなかったから、2人とも数学が赤点だったって言ってたよ」
「そうか。残念だけど、今回は本気でいかせてもらったから、あいつらのサポートをしている余裕は無かったんだ」
「しっかりと赤点を取るところが、なんともあの2人らしいね。生徒会の不信任決議案が出ないか心配になるよ。せっかくのバレンタインデーなのに、2人にはほろ苦いチョコレートになりそうだね」
商店街の中にあるファミレスにて、生徒会のメンバーは学年末考査が無事に終わったことを記念して、打ち上げ会を行っていた。生徒会会長である夏と副会長である綾乃は欠席しており、本日は4人での打ち上げとなっていた。
春希の向かい側に座っていたのは、庶務の透と広報の渚。そして、会計を担っている春希の隣に座っていたのは、書記であり春希の大切な恋人である真冬であった。
「福島がそこまで順位に拘るところを、初めてみたかもしれないね。前回に引き続き、首席の座を死守したこと、本当におめでとう」
「そうそう! 真冬ちゃんとの壮絶なデッドヒート、ホントに凄かったよ! いつもより平均点が下がってるのに、2人だけ違う世界で争ってるみたいだったよ。2位と3位の差が凄かったからね!」
「……悔しいです」
それぞれが頼んだ料理とドリンクが入ったコップを囲みながら、生徒会のささやかな打ち上げが始まる。春希が首席の座を守り抜いたことに対して称賛していた透に対して、渚は惜しくも首席の座に返り咲くことが出来なかった真冬を慰めていた。
「そんな風に感情を表現している宮城さんを見るのは初めてだね。これも、福島と付き合っていることによる影響なのかな」
「こう見えても、真冬は負けず嫌いだからな。真冬に負けないように、オレも必死だったよ」
「ずっと一緒に勉強していたはずなのに、私が帰ってからこっそり勉強していたの? 今回は自信あったのに……」
「いや、前日の夜も早く寝たよ。真冬と勉強した以外では、全然勉強はしていなかった。だからそんな拗ねるなよ。ほら、ご飯粒付いてるぞ?」
「す、拗ねてなんかないです! あっ、ご飯粒……!」
真冬の唇の端に付いていた米粒を指先で取り、春希はそのまま自らの口の中へと運んでいく。春希としては自然な行動をしたつもりであったが、やられた方の真冬はみるみるうちに顔を真っ赤に染めながら、春希のことをポカポカと叩いていた。
そんな2人を見ながら、向かい側に座っていた渚と透は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
「なるほど。これが周囲の人たちがバタバタと悶絶しながら倒れていってる理由なんだね。同じクラスではないから分からなかったけど、実際に見て納得したよ」
「そうそう。こんなの毎日見せ付けられてる同じクラスの男子たちからしたら、息も出来なくなるくらいのダメージを受けてること間違い無しだからね。それに、春希くんをこっそりと狙っていた子もいたって言うし、これじゃあ周りが付け入る隙なんてあるはずがないよねぇ」
「山形や秋田が生徒会室で悪態をつくのも分かる気がするね。確かに、これはかなりの猛毒だ」
春希に宥められていた真冬は、渚と透の会話が耳に入っていたのか、途端に不安に満ちているような表情になる。そして、自信なさげに渚に問いかける。
「あの、渚さん……春希くんって、やっぱりモテるんですか?」
「春希くんがモテるかって? そうだねぇ……やっぱり前回の定期テストで真冬ちゃんを破って首席に上り詰めたくらいから、春希くんのことを狙っている女の子がチラホラと出始めたかな? ほら、春希くんって普段は愛想悪いけど、話してみるとしっかりしてるっていうか、他の男子にはない落ち着きがあるっていうか、そもそも元のスペックも悪くないんじゃないかって言う声が出てたよ。まあ、私はバイトで春希くんと接してる時間がそれなりにあったから、そういうのは分かっていたけど」
「だ、ダメですよ! いくら渚さんでも、春希くんは渡しませんから! でも、バイト中に春希くんが渚さんとそういう関係になったらどうしたら良いんですか!? 私よりも、よっぽど渚さんの方が春希くんのこと知っているでしょうし……」
「ははは、それは大丈夫だよ。私には他に好きな人がいるし、そもそも春希くんは真冬ちゃんしか見えていないよ。バイト中も、いつも真冬ちゃんの話しかしないから、よっぽど大事なんだなって思うよ」
「こら、渚。あまり余計なこと言うなよ。聞いてるこっちが恥ずかしくなる」
「彼女の口に付いてたご飯粒を取って食べるのと比べたら、全然恥ずかしくないと思うけどなぁ? ねぇ、透くん」
「福島も宮城さんも、意外に大胆なところがあるね。面白い一面があるって知ることが出来て、僕は満足だよ」
「そういうお前こそ、毎日のように女子たちから告白されてるって聞くけど、どうなんだ? 岩手に振られたって泣いてる女子を、これまでにたくさん見てきた気がするんだが」
真冬の頭を撫でることが無意識の癖になりつつあった春希は、真冬の温もりを感じながらも、渚にこれ以上の情報をリークしないように釘を刺す。そして、自分とは対照的な立ち位置であった透に対しての疑問を投げかける。
生徒会の庶務である岩手透は、サッカー部のレギュラーとして活躍していた。部活が忙しく中々生徒会に顔を出すことが出来ないが、その評価は学園の関係者であれば誰しもが知っている存在である。サッカーの運動神経も良ければ、成績も常に1桁をキープしており、何よりもその人当たりの良さが周囲からの評価を爆上げしていた。仏頂面をしていた春希とは違い、常に穏やかな笑みを浮かべており、男女問わず平等に接している。その容姿端麗も決め手となり、今まで数多の女子生徒たちに告白されてきた。性別こそ異なるが、学園では真冬と少し似ているようなポジションと言っても差し支えない存在であった。
「気持ちだけ受け取っているよ。僕には彼女たちの気持ちに応えることは出来ないし、そんな資格も無いからね」
「そんなこと言って、高校に入ってからずっと彼女を作らずにいるってわけか。この調子だと、卒業するまでにはもっと多くの女子たちが撃沈していくことになるな」
「はは、僕には福島と宮城さんのような関係を見ているだけで満足なんだ。僕にはとてもではないけれど、福島と同じことは出来そうにもないって思ってる。周りの全てを投げ出してでも宮城さんを守ろうと決意している福島を見て、僕は尊敬しているんだよ。本当に、福島は変わったね。人当たりも良くなっているって聞くし、宮城さんと付き合って良かったと思っているよ」
「それはどうもってところだな。あんまりオレが言えたことじゃないけど、あんまり苦労かけるなよ。お前のことを見ている人間は、もっと近くにいるんだから」
「そうだね……本当に、福島の言う通りだと思うよ」
春希と透が話している内容に心当たりが無かった真冬は、首を傾げながら2人の会話を聞いていた。そのとき真冬は、透の背後に何か影が見え隠れしているのを感じていた。そしてそれは、今の自分が口出しをして良いことではないということも、また理解していたのだった。
そして、そんな2人の会話を聞きながらも、目の前にあったコップに視線を落としたまま動かないでいる者もいた。その人物は、向かい側に座っていた真冬に声をかけられると、ハッとしたように顔を上げる。
「渚さん、どうかしましたか?」
「えっ? あっ……ううん、何でもないよ! そうだ、ドリンクバーを取りに行きたいから、真冬ちゃんも付き合ってよ。ほらほら!」
「え? は、はい」
自分の気持ちを悟られないよう、渚は冷静を装って真冬の手を引いていく。その様子がいつもとは違うように見えたが、真冬はそのまま渚の手を取り、一緒にドリンクバーコーナーへと向かっていった。
「……オレで協力出来ることなら声かけろよ。そんなしんみりとしたお前たちを見てるのは、きっと誰の本心でもないだろ」
「そうだね……渚には本当に申し訳ないって思ってるよ。僕なんかのために……ね」
透にしては珍しく、歯切れの悪い回答に終始する。余計なことに首を突っ込む気はない春希であったが、勘が鋭い真冬が気付くのも時間の問題なのではないかと思い、どこまで真冬に話しておくべきかと思案する。
生徒会の参謀とも呼ばれている透だったが、そんな彼にも想いを寄せる人間がいたのだった。




