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生徒会の王女様は距離感がバグってる  作者: レイチェル


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姉からの刺客

 その日の午前中は、転校生を一目見ようとする者たちで学年中が異様な盛り上がりを見せていた。休み時間になると、名取は周囲の友人たちからの質問攻めに遭い、穏やかな口調と微笑みを浮かべながら対応していた。

 その様子を見た真冬は、休み時間になるとクラスから忽然と姿を消していた。春希が声をかけるも、気にしないで欲しいと言われたため、春希もそれ以上は真冬に干渉しないようにしていた。

 そして迎えた昼休み。野次馬たちに包囲される前に、名取が真冬に声をかける。そして、人気の無い屋上へと真冬を連れ出したのだった。



「そんな怖い顔をしないで欲しいな。僕だって、立夏さんに言われるがままにここに来たんだから、ある意味被害者なんだよ? まったく、父さんも立夏さんやおじさんたちの言いなりなんだから、困ったものだ」


「……やはり、姉の差し金というわけなんですね。いつかは来るかと思っていましたが、まさか貴方が来るとは思ってもいませんでした」



 おどけた様子で肩をすくめる名取に、真冬は毅然とした態度で振る舞う。それは、春希ですら感じたことのないほどの、冷酷な真冬の姿だった。

 春希や渚、透が真冬の背後でその様子を見守っているが、名取は春希たちを排除しようとする様子は見られない。少なくとも敵対する様子は見られなかったため、春希は真冬とのやり取りを見守ることにした。



「後ろにいるのは、彼氏の福島春希くんかな? 立夏さんから話は聞いていたけど、まさか真冬が本当に付き合っているとは思わなかったよ」


「……真冬をアメリカに連れ帰るために、真冬の姉がお前を差し向けたってことか?」


「はは、随分とストレートな物言いだね。さっきも言ったけれど、僕だって被害者なんだよ。いきなりこんなところに転校させられて、立夏さんには文句の1つも言わないと気が済まないくらいなんだから」



 真冬の隣に歩み寄った春希は、警戒心を解くことはしないまま、名取に問いかける。おそらく、春希たちからこのような反応をされることも想定内だったのか、名取は飄々とした態度を崩すことなく、話を続けていく。



「昼休みもそんなに長くはないし、君たちが望んでいる本題とやらに入ろうか。そう、僕は立夏さんの命令を受けて、真冬をアメリカに連れて帰るという目的を持ってここに来たんだよ。転校の手続きの段階で真冬と同じクラスに入ることが決まっていたから、さすがは立夏さんだね。真冬はそうでもないみたいだけれど、僕は真冬と再会出来るのを楽しみにしていたよ。中学のときに付き合っていた以来だから、2年ぶりくらいかな?」


「それはもう終わった過去の話です。姉からの差し金であるならば、早々に立ち去ってください。私は、貴方たちの言いなりになるつもりはありません」


「そうは言われてもね。これは立夏さんの命令なんだから、僕が背く訳にはいかないんだよ。もし立夏さんに楯突くようなことがあれば、父の会社諸共消し去られてしまうからね。だから、真冬も諦めなよ。立夏さんに歯向かってもロクなことが無いのは、君もよく知っているだろう?」



 やれやれといった様子で、名取は首を振りながらため息をつく。この場にいないながらも絶大な影響力を持つ自分の姉に、真冬は心底嫌気が差していた。

 真冬の家族関係を知らなかった渚と透は、2人の会話からそれとなく状況を察していく。そして、今は動くときではないことを理解していた透は、渚に耳打ちをしてその場に留まっていた。



「君が僕と婚約してアメリカに行けば、全てが解決するんだ。君だって、それくらい分かっているだろう? あの立夏さんのことだ、今回の案を呑まなければ、今度は更なる手段を講じて来ると思うけどね。これは、立夏さんなりの温情なんじゃないかな? 宮城財閥に刃向かおうとしている妹への、せめてもの情けだと僕は思うけど」


「あの人が私に情けをかけていると、本当に思っているのですか? 貴方こそ、姉の駒に過ぎないと分かっているはず。今にして思えば、中学のときに私に近寄って来たのも、姉や父の思惑があったのではないですか? 名取家は、今となっては宮城財閥の傘下として吸収されている。名取家の跡取りである貴方ならば私の婚約者に相応しいと、姉や父は考えたのでしょう。そう思えば、あのときの貴方の言葉も合点がいくというものです」


「あのときは僕も下手なことをしたと思ったよ。せっかく君を懐柔して、宮城財閥の懐に上手く入り込んだつもりだった。あの失言が無ければ、今も君は僕と付き合っていただろう? 君だって、満更でもない様子だったからね。初めての男が出来て少し舞い上がっている真冬を見たとき、内心罪悪感すら覚えたよ。それでも、簡単に堕ちる女だという印象の方が強かったけど」


「っ、お前っ……!」


「そうですね……貴方の言う通りでしょう。貴方に踊らされていた日々は、私の人生で最大の汚点と言っても過言ではありません」



 不敵な笑みを浮かべながら、名取は真冬を見下すような発言を繰り返す。何の悪びれた様子もない名取を見た春希は、強い不快感を示していた。

 そんな春希を制止するように、真冬は春希の手を握る。そして、その手を強く握り返した春希に微笑みながらも、毅然とした態度のままで名取に対して軽蔑の視線を向けていく。



「でも、そのおかげで春希くんと出会うことが出来ました。私の人生における最大の汚点を払うどころか、私に生きる希望を見出してくれた人と出会えるきっかけを作ってくれたこと、むしろ私は貴方に感謝すらしたいくらいです」


「……本当に、君は立夏さんに刃向かうつもりでいるのかい?」


「ええ。宮城家の名前など、私にとっては邪魔な足枷でしかありません。このまま貴方と一緒にアメリカに行くのであれば、死んだ方がマシです。もし姉と話す機会があれば、そう伝えておいてください。私は、貴方たちに屈するつもりは毛頭無いと」


「……行こう、真冬」


「はい、春希くん」



 春希の呼びかけに、真冬はゆっくりと振り向いて微笑む。そして、その手をしっかりと握ったまま、渚や透がいる扉の方へと歩いていく。

 3人の様子を見守っていた渚と透は、2人に対して何か質問を投げかけるようなことはしない。ただ、何か強大な敵に立ち向かっているということを理解しつつも、穏やかな表情を浮かべて2人を受け入れていたのだった。



「……真冬。立夏さんの恐ろしさを知らないわけじゃないだろう? やれやれ……これは面倒なことになりそうだ」



 1人屋上に残された名取は、深いため息をつく。その目は、これから真冬と春希に降りかかるであろう障害を想像していたのか、憂いに満ち溢れていた。

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