ナイトのモテ期
「ねぇねぇ福島くん! 王女様とはいつから付き合ってるの!?」
「福島くん、今度勉強教えてくれない? この前のテスト、あの王女様を破って学年トップになったんでしょ!?」
「何か最近、福島くん変わったよね。何か、ちょっとカッコいいかも……?」
「いや、最初から福島くんはそうだったと思うよ。あたしはそう思ってたし!」
冬休みが終わり、そろそろ1月も終わりに差し掛かっていたが、休み時間に春希がクラスの女子たちに囲まれている日々が続いていた。今まで仏頂面で何を考えているのか分からないと言われていた春希が、真冬との交際を経て心境に変化があったということを、周囲が少しずつ気づき始めていた。
春希は戸惑いながらも、1人1人にそつなく返事をして対応していく。そんな春希に、クラス中の男子たちの殺気立った視線が向けられており、春希は生命の危機を感じる日々であった。
そんな春希を遠巻きに見守っていた真冬であったが、自分の予想以上に彼氏である春希が人気者になっていることに、多少の戸惑いを感じていた。
「春希が心配? 王女様」
「秋田さん……いえ、そんなことはありません。春希くんの良さが周りの人たちに理解されているからこそ、あのようなことになっているんだと思います」
「大人な対応だねぇ、王女様は。彼女がいる俺でさえ、リア充爆発しろって念を送っているんだから、王女様だって心穏やかじゃないと思ったんだけどな」
窓際の席に座っていた真冬は、その前の席に座っていた綾乃に話しかけられる。彼氏である夏も加わり、3人は多数の女子に囲まれている春希を見守っていた。
真冬とて、表面上は綾乃にあのようなことを言ってはいたが、内心は心穏やかではなかった。春希の良さを1番知っているのは自分だという自負が、少なからず揺らぎ始めていたのである。もしも春希が他の女子に靡いてしまい、自分と別れるなどということになれば……そう思うと、春希のことを信じていないのではないかと思う自分にも嫌気が差していた。
そんな真冬の僅かな表情の曇りを、綾乃は見逃していなかった。普段は勉強も得意ではなく、流れに任せて何とかなるだろうという精神で生きている綾乃であったが、意外にもこういうことには敏感であった。
「まあ、夏が同じようなことになってたら、私なら夏をボコボコにしちゃうけどね。謝っても許してあげないんだから」
「オレは綾乃一筋だから大丈夫だ! だから心配するな!」
「ふふ、そうだね。夏は私のこと大好きだもんね! ほら、春希ぃっ! 王女様が悲しんでるから、そろそろこっちおいで!」
「あ、秋田さん!? わ、私は別にそういうわけでは!」
綾乃に呼ばれた春希は、周囲を囲んでいた女子たちに声をかけると、3人が集まっていた窓際の席へと向かって来る。そして、真冬の表情を見ると、春希は真冬の頭を優しく撫でた。
「ごめんな、真冬。綾乃も助かった。どんな対応をして良いのか分からなくてな……」
「まあ、いきなりモテ期が到来して戸惑うのは分かるけど、彼女を放っておくのはダメだと思うなぁ? 王女様、とても悲しい顔してたよ?」
「ああ。本当にごめんな、真冬。そういうつもりじゃなかったんだ。オレが好きなのは、真冬だけだから」
「わ、私は別に何も言ってません……春希くんが誰かと話しても、私には関係のないことですから」
「じゃあ、オレが真冬にこうしたいのも、オレの勝手で良いんだよな?」
「それは傲慢ですよ! もう……春希くんのバカ。今日の夕飯、春希くんの分は無しです」
周囲の視線など気にも留めず、春希と真冬は2人の世界に入っていく。頬を膨らませて不満をぶつける真冬に、春希は申し訳なさそうな顔をしつつも、真冬の頭を撫でることは止めずに続けていく。
一緒にいた夏と綾乃の存在すら忘れ去られ、2人は苦笑いを浮かべている。更にその周囲では、人目を憚らずにイチャイチャとしている2人を見て、クラスメイトたちが騒ついている。主に春希に対して殺気めいた男子たちの視線であったが、目の前で繰り広げられる学年トップ2人の逢瀬に、胸をときめかせている女子たちの姿も多数存在していた。
「あー、その……春希?」
「なんだ、山形と秋田か。いたのか?」
「いたのか? じゃねぇよ! お前、そんなやつだったっけ!? いつもつっけんどんな対応なのに、王女様絡みになるとそこまで変わるのか!?」
「何を言ってるんだ、お前は? 真冬はオレの彼女なんだから、特別扱いするのは当然だろ?」
「はぅっ!」
「真冬より可愛いやつが、この世にいるはずがない」
「あぅぅ……」
周囲の視線を感じ、見かねた夏と綾乃が春希に声をかける。しかし、もはや真冬のことしか考えていなかった春希は、羞恥心の欠片すら存在していないかのように、真冬への愛の言葉をぶちまけていく。
もはや無敵と化していた春希に、真冬は頭から湯気が出るほどに顔を真っ赤にしていた。
「はぁ……まあ、仲が良いのは良いことだけどさ。さっきの王女様、とても悲しい顔してたよ? 春希は誰かに靡くような男じゃないってのは分かってるけど、王女様はまだまだ春希と知り合って間もないんだからさ。王子様に誤解されるようなことは控えた方が良いよ? まあ、無理なことかもしれないけど」
「無下にあしらうのもどうかと思ってな……実際、どう対処して良いのか分からないから困ってるんだよ。本当は真冬と一緒にいたいんだけど、そうもいかなくて」
「リア充! リア充の悩みだぜこいつは! ああ、神様よ! どうか春希に天罰を! 勉強も運動も出来て、その上学園ナンバーワンの美貌を持つ王女様と付き合っているんなんて!? 周りの男子たちの声を代弁してやろう、春希! リア充爆発しろだ!」
その声に、周囲の男子たちは一斉に頷くのであった。




