常識人と参謀の関係性
珍しく放課後のアルバイトが休みであった春希は、彼女である真冬と共に下校する。途中でスーパーに立ち寄って買い物をすると、真冬はそのまま春希の部屋に一緒に帰宅した。
春希の部屋のリビングには、真冬のパジャマなどの着替えが準備されており、冬休みの間にショッピングモールで購入した小さなタンスに収納されていた。
「でも、春希くんは嫌じゃないの? 自分の部屋に私の私物があって、気にならない?」
「元々あんまり物を置いていないし、全然気にならないよ。むしろ、オレが良いのかなって思ってるくらいだよ。バイトがある日は夕飯を作って待っててくれるし、部屋の掃除とかも手伝ってもらってばっかりだし。真冬には真冬の時間があるんだから、あまり無理してここに通い続ける必要も無いからな?」
「じゃあ……私がここにいたいって言ったら、春希くんはどうするの?」
2人でキッチンに立ち、息の合った雰囲気で夕飯を作っていく。真冬がその手を止めて春希をじっと見つめると、春希はふっと頬を緩めて穏やかな表情を浮かべる。そして、コトコトと音を立てている鍋を見守っていた真冬を、後ろから優しく抱きしめる。
「真冬がここにいてくれるなら、オレにとってそれ以上嬉しいことはないよ。ただ、真冬は周りから王女様だって言われていることには変わりはない。オレと付き合ってるから成績が落ちてるんじゃないかとか、不純異性交遊なんじゃないかとか、そんなこと言うやつらがいたとして、そんなことで真冬に余計な気を遣わせたくないんだ」
「大丈夫ですよ。その辺りは、ちゃんと公私混同しないで頑張るから。次のテストでは、春希くんを倒して首席の座を取り返すことになっているから、覚悟しておいてね?」
「真冬ならそう言うと思ったよ。でも、ここにいてくれてありがとうな。真冬がいてくれるから、オレは幸せ者だと思うよ」
「それを言うのは私の方だよ。春希くんと一緒にいるようになってから、幸せだなって感じることが多くなったから」
春希の手に自分の手を重ねながら、真冬は幸せを噛み締めていた。春希の要望通り、真冬が春希に対して敬語ではなく話すことも、少しずつ慣れてきているようだった。
鍋の中に入っている具が煮込まれ、そろそろ次の工程に移っても良い頃合いである。しかし、春希も真冬も、お互いの体温をいつまでも感じていた。
「時々、今の幸せが無くなったらどうしようかなって思うときがあるの。もしも今の生活が無くなってしまったら、私はどうなってしまうのかなって。きっと、今まで以上に周りと隔たりを作ってしまうかもしれない。それくらい、春希くんは私にとって大切な人。付き合ってからまだそんなに時間は経ってないけど、毎日色んな春希くんを見ることが出来て、たくさん幸せをもらってるよ」
「真冬の幸せを守ることが出来るように、頑張るよ。なんだかんだで、生徒会のメンバーも良いやつばかりだから、関わってみると意外と楽しいかもしれないからな」
「ふふ、そうだね。岩手さんとは初めて話したけれど、とても落ち着いていて良い人だなって思ったよ。なんだか、渚さんとあったのかなっては思ったけど」
「はは、さすが真冬は気がつくのが早いな。まあ、それに関しては間違いないよ」
鍋が沸騰しそうだったため、さすがに春希は真冬から離れて隣に立つ。真冬は鍋をくるくるとかき混ぜながら、少しだけ首を傾げていた。
そんな真冬の疑問を解消するように、春希はサラダの材料を切りながら説明をしていく。
「あんまり言うと渚に怒られるけど、あの2人は所謂、友達以上恋人未満って感じかな。高校に入ってから知り合ったらしいけど、何かと気の合う2人なんだ。実際に付き合ってはいないけど、側から見てると付き合ってると思われても仕方ないくらいには、仲が良いと思うよ」
「そうなんだ。この前渚さんと話したときにも感じたけれど、どちらかと言えば渚さんが岩手さんにアプローチしている感じなのかな? 岩手さん、サッカー部の中でも女の子たちからモテモテだって言われているけど、彼女がいるって話は聞いたことがなかったから」
「まあ、周りも渚と岩手の関係は気付いてるやつらが多いから、わざわざ横恋慕するような気にもならないのかもしれない。あいつは色んな女に靡くようなやつじゃないから」
「なるほど。岩手さんは渚さん一途というわけだね」
「ああ。オレも、真冬一筋だから心配するな」
隣に立つ恋人の頭を撫でながら、春希は今の幸せを噛み締める。春希の大きな手の優しさを感じていた真冬は、少しだけ唇を尖らせながら、甘えるような声を出す。
「……ダメです。春希くんは自分が思っている以上にモテるから、言葉だけだと信じられない」
「随分と厳しいことを言うなぁ……じゃあ、どうすれば良い?」
「それは、春希くんが自分で考えてください。言葉だけじゃなくて、女の子は行動でも示して欲しいときがあるの」
「じゃあ……何をされても文句は言うなよ?」
焦ったくなるような声を出す真冬の唇に、春希はそっと自らの唇を重ね合わせた。




