王女様との年越し
「手伝ってもらってごめんな。終わるまで待ってても良かったのに」
「いえ、掃除は好きなので気にしないでください。それに、2人でやればもっと早く終わるでしょう? そうすれば、もっとたくさん春希くんと一緒にいられるじゃないですか」
年末も年末となった大晦日。本日は朝から春希と真冬は春希の部屋の大掃除をしていた。真冬の部屋は常日頃から真冬が綺麗に整理整頓しているため、わざわざ年末に行う必要はない。その反対に、春希は普段からアルバイトに勤しんでいた影響で、隅々の掃除までは行き届いていなかった。
年末年始、春希は里親の元へと帰ることはなく、ひたすらにアルバイトに勤しむ日々が続いている。そして、真冬も違う理由で実家に帰省することはなく、今年も1人で年越しを迎えるつもりであった。春希と付き合い始め、本日は春希のアルバイトのシフトが入っていなかったため、2人で年を越す予定となっていた。
「そういえば、真冬の両親や姉は年末年始に日本に帰って来たりしてるのか?」
「両親と姉ですか? そうですね……」
「あ、いや、話したくないなら良いんだ。急に変なこと言ってごめんな」
床の雑巾がけをしている中、春希はふと思い付いたことを真冬に問いかける。キッチン周りの掃除をしていた真冬は、その手を止めて何を考えている様子を見せた。
その様子を察した春希は、自分が首を突っ込む必要性が無いことを察して、真冬に謝罪する。真冬は怒るわけではなく、淡々とした口調で返答する。
換気のために開け放たれていた窓からは、冬に相応しい冷たく乾いた風が流れ込んでいた。
「昨年も年末年始や長期休暇の際は帰って来ていたようでしたので、今年も帰って来る可能性はあるのではないでしょうか。連絡を取っているわけではないので、確証はありませんが」
「そっか……いや、突然真冬が誰かと結婚するからって言って連れ去られたらどうしようかなって思ってたら、何か不安になってさ」
「そうですね……もしかすると、両親たちの間ではそのような話を進めているかもしれませんね。これだけ世界的にも有名になってしまった企業ですから、日本だけでなく世界中の大企業ともコネクションが出来ているようです。なので、どこかの知らない国の方と婚約を水面下で進めている可能性もあると思います。私をアメリカに連れて行った後に、そのような話がきっと出て来るでしょう」
「……ごめんな、嫌なこと思い出させて」
「春希くんが謝る必要はありません。これは、私が背負わなくてはならない運命なのですから。私がどれだけ争っても、きっと運命には逆らえないでしょう。そう言ったら、春希くんはどうしますか?」
「そうだな……」
春希は洗面台で使い終わった雑巾を絞り、カーテンレールに掛ける。そして、キッチンに立っていた真冬の元へと歩み寄ると、そのまま後ろから真冬のことを抱きしめた。
「きっと、真冬のことをさらってしまうかもしれない。誰にも見つからないよう、真冬と2人で逃げようとするかもしれないよ」
「ふふ……そんなことしたら、世界中から指名手配されてしまいますよ? 捕まったら、春希くんの人生が終わってしまいます」
「それでも構わない。真冬を守れるなら、オレはどんな罪だって背負っていくよ」
「春希くん……」
春希の方を振り向いた真冬の瞳は、少しだけ揺れていた。そのまま春希の胸元に納まった真冬を、春希は優しく抱きしめる。
「その言葉……信じても良いですか? 私のこと、ずっと1人にしないって約束してくれますか?」
「もちろん。真冬が離れたいって言っても離さないよ」
「……ありがとうございます。この時間がずっと続けば良いのになって、最近はずっと思ってます。春希くんの隣にいられるだけで、私は幸せですから」
「その言葉、そのままオレが借りるよ。真冬と一緒にいられるだけで、オレは幸せ者だよ」
春希と恋人になってから数日が経過するが、冬休みということもあり、真冬は春希の家に泊まる日々が続いている。今日は大晦日であったため、そのまま真冬は春希の家に泊まる予定だった。さすがにベッドで2人で寝るのは狭かったため、春希が来客用の布団をベッドの下に敷いていた。
「真冬……今日も泊まっていくよな?」
「……春希くんが嫌じゃなければ」
「じゃあ、オレからお願いするよ。何ならずっと、泊まってくれて構わない」
「仕方ありませんね……特別に泊まってあげましょう」
背中に回された真冬の体温を感じながら、春希は真冬の頭を撫でる。平穏だった1年が終わり、新たな1年が再び幕を開ける。波瀾万丈の1年となることを、2人は予感していた。




