心強い常識人
「そういえば春希くん、王女様とのクリスマスはどうだったの?」
「なっ……!? あっ、うわっ!」
渚と同じ時間帯のシフトでアルバイトをしていた春希は、空いている時間を見計らって商品の陳列作業を行っていた。レジでの対応を終えた渚が春希の作業を手伝っている中、ふとした瞬間に渚が春希に問いかける。
渚からの予期せぬ質問に動揺してしてしまった春希は、棚に並べようとしていた缶コーヒーを次々と床に落としてしまう。その様子を見た渚は、少しだけ驚いたように目を見開いていた。
「あれ……春希くんをからかおうとしたつもりだったんだけど、もしかして本当だった?」
「…………」
「あれれ、私に隠しごとは良くないんじゃないかなぁ、春希くん?」
「…………」
「王女様がストーカーに困っているのを助けたのは、誰だったかなぁ?」
「……何が望みだ、渚」
一生の不覚と言わんばかりに、春希は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、歯を食いしばる。普段は見ることの出来ない春希の表情を見た渚は、満足そうな笑みを浮かべていた。
「ふふ、別に面白がってるわけじゃないよ。ただ、王女様があんな顔しているところなんて珍しいなって思ってたんだ。喫茶店から一緒に帰るときに、春希くんの話をしたら照れてる王女様が見れたから、もしかしてと思ってたのよね」
「渚、このことは……」
「誰にも言わないよ。普段は誰とでも分け隔てなく接している王女様が、あれだけ誰かを特別扱いしているところを初めて見たら、応援しないわけにはいかないよ。それに、周りに言いふらしたところで、何のメリットも無いでしょ?」
「……渚のことは信用してる。オレと真冬が付き合っていることは、しばらく周りには黙っていてくれないか」
「ええっ!? もう付き合ってるの!? 私、ただ一緒にクリスマスを過ごしたのかって聞いただけなのに!?」
「なっ、何だって!? お前、それは勘違いするだろうが! そう思ってたなら、最初からそう言え!」
自ら白状してしまった春希は、頭を抱えてしゃがみ込む。春希と関わってそれなりに春希のことを理解したつもりでいた渚であったが、まさかそこまでの関係となっていたとは予想外であった。
同時に、普段は感情の起伏がほとんどない春希をここまで感情豊かにしている真冬に、渚は感謝していた。何かと誤解されがちな春希を理解してくれる人間が身近にいることに、渚は友人として安堵していた。
そして、ここからアルバイトが終わりまでの間、春希は真冬との関係性を渚に白状させられることになる。
「へぇ……あのマンション、春希くんの部屋の隣に真冬ちゃんが住んでいるんだ?」
「…………」
「この前の勉強会のときも、私たちが帰った後に2人で勉強してたんだ?」
「………………」
「そもそも、家に帰ればいつも隣の部屋に真冬ちゃんがいるってことだよね?」
「……………………」
「ストーカー騒ぎのときに自分が別々に帰ったのは、真冬ちゃんと同じマンションに住んでいるという事実を知られなくなかったからかな?」
「……勘弁してくれ、渚」
誰も客がいないことが、春希にとっては地獄の時間と化していた。
レジのカウンター越しに渚が春希を尋問しており、春希は重くて大きなため息をつく。渚とて春希をからかうつもりは毛頭無かったが、春希のことを多少なりともイジらないわけにはいかなかった。
「私って、そこまで信用無かったのかぁ。私は春希くんの良き理解者だと思ってたのになぁ」
「いや、そういうわけじゃ」
「ウソウソ。大丈夫、分かってるよ。春希くんがそこまでして隠したかったってことは、それだけ真冬ちゃんのことを大切にしようとしているってことでしょ? 普段の春希くんを見てると、そこまでする春希くんは珍しいじゃない? でも、多少は私のことを信用しても良いと思うなぁ?」
「……ああ。渚のことは、他の誰よりも信用してる。だからこそ、渚にはオレと真冬のことは温かく見守ってほしいんだ。そして、勝手なお願いだけど、真冬のことをこれからも助けてやってほしい。オレが守れないとき、真冬のことを守ってくれないか」
「……ふふ、すっかり彼氏面するようになったんじゃない? 王女様の本物のナイトになれるように、応援してるよ」
「ああ。ありがとう、渚」
同じ生徒会に所属し、同じ場所でアルバイトをしている渚。春希のことを最も理解している者が味方でいてくれるというのは、春希にとってこれ以上ない安心感があった。
「さて、口止め料で春希くんに何をご馳走してもらおうかなぁ? 駅前の美味しいケーキ屋さんにでもしようかなぁ?」
「まったく……」
不敵な笑いを浮かべる渚に、春希は少しだけ嘆息するのであった。




