王女様は大切な彼女
「真冬……本当に良いのか?」
「春希くんは嫌ですか? その……私と一緒に寝るのは」
春希と真冬が恋人となってから数時間後のこと。いつもは春希が使っている寝室のベッドに、真冬が布団を被って入っていた。その様子を、春希は逡巡しながら見つめており、真冬が春希に問いかける。
「いや、その……嫌じゃなくて、むしろ嬉しいって気持ちが大きいんだけど、真冬が大丈夫なのかなって思って。ほら、オレが変なことしないとも限らないし」
「春希くんは、私に変なことをしたいんですか?」
「……オレだって男だぞ? 好きな女を目の前にして、平静でいられる自信なんか無いさ」
「ふふ……春希くん、いつもそう言ってましたけど、私に手を出したことは1度もなかったですよ? 私が鍵を無くして泊めてもらったときも、何もしなかったじゃないですか」
「そのときとは状況が違うっての。もう、どうなっても知らないからな」
大胆な真冬の行動に驚きを隠せていなかった春希であるが、やがてゆっくりと布団を捲り上げ、真冬が待っていた布団に入っていく。
2人で入るには少々狭いベッドであったが、今の2人にはそれは些細な問題であった。お互いに向き合うように布団に入り、恋人の顔を見つめていく。そして、どちらからもとなく視線を逸らし、お互いに顔を赤く染めていた。
「真冬……頭、乗せて良いよ?」
「でも、重たくないですか?」
「こうすれば、もっと真冬を近くに感じられるから」
「……では、失礼します」
春希が左腕を伸ばし、真冬の頭の下へと差し込む。真冬が春希の腕に頭を乗せると、2人の距離が更に接近していく。唇と唇が触れてしまいそうになるほどに、春希と真冬の距離は限りなくゼロに近付いていた。
真冬のことを心から大切に思っていた春希は、右手で真冬の頭を優しく撫でていく。真冬にとって、誰かに優しさを与えられるのは初めてのことであった。
「何があっても、真冬のことを絶対に守るから。約束する」
「……ダメですよ、春希くん。こんなに近いところでそんなこと言われたら、もっと春希くんを好きになってしまいます」
「もっと好きになってほしい。オレはもっと、真冬から頼られる人間になりたいんだ。まだまだ頼りないけど、頑張って真冬のことを守れる人間になるよ」
「春希くん……もっと近付いても良いですか?」
「ああ……おいで、真冬」
真冬が春希の胸元に納まり、春希は真冬のことを優しく抱きしめる。心の底から安心していた真冬は、春希の胸の鼓動が高鳴っているのを感じていた。
「春希くんの心臓、ものすごくドキドキしてますよ?」
「それを言ったら、真冬だってドキドキしてる。さっきからずっと、真冬の心臓の音が伝わってきてるよ」
「春希くんの心臓の音ではなくて?」
「それは、好きな人と一緒にいたらドキドキするさ。ましてや、相手が真冬なら尚更だよ」
「それはどういう意味ですか? 春希くんの口からちゃんと聞きたいです」
「真冬……わざと言ってるな?」
「はい。何度でも、春希くんの口から聞きたいです」
「まったく……」
小さく嘆息した春希であったが、それすらも愛おしく思える程に、真冬の存在が春希にとっては大きかった。
春希は今まで、これほどまでに誰かを守りたいと思ったことはない。言葉では言い表せないほどに、春希は真冬のことを大切に思っていた。
「真冬のことが好きだからだよ。好きだから、こんなに心臓がバクバクしてる。こんなオレと一緒にいてくれるなんて、夢なんかじゃないかって思えるから」
「夢なんかじゃないですよ? 私も、春希くんのことが大好きです。これでも夢だと思いますか?」
「学園の王女様がここにいて、自分の彼女になってるなんて、昨日までのオレに言っても信じてもらえないと思う。それくらい、真冬は周りの男子から見たら憧れの存在なんだよ」
「じゃあ……こうすれば、夢じゃないって信じてもらえますか?」
「っ……!? ま、まふゆ……?」
春希の胸元に顔を埋めていた真冬が視線を上げると、そのまま春希の唇にそっと自分の唇を重ねていく。春希が状況を理解するよりも前に、その感触はあっという間に離れていった。
優しげなキスを落とした真冬は、その表情を悟られないように、再び春希の胸元に隠れていく。恥ずかしさで真っ赤に染まっていた顔を見られないよう、真冬は春希のことを抱きしめていた。
「春希くん……ありがとうございます。こんな私を好きになってくれて、本当にありがとう」
「っ……これからもっと好きになる。真冬のこと、もっともっと好きになるから、覚悟しておけよ」
「はい、覚悟しておきます」
決して広いとは言えないベッドで2人が寝ていたが、その夜はお互いにこれまでには無いくらいの安心感に包まれたままで眠りに落ちていた。




