王女様とナイトの約束
「春希くん、先ほどは取り乱してしまってすみませんでした」
「全然気にしてないよ。少しは落ち着いたか?」
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます」
夕食を終え、春希と真冬は2人でキッチンにて食器を洗っていた。真冬が洗った皿を春希が拭き上げ、棚にしまっていく。真冬の頬にはまだ涙の痕が残っていたが、今はもう普段通りの真冬に戻っていた。
片付けを終えた2人は、春希が淹れたコーヒーを飲みながら、リビングにあるテーブルへと座る。そのとき、ふと春希が何かを思い出したかのような声を上げた。
「あっ……真冬、ちょっと待ってて。渡したい物があるんだ」
「私にですか?」
春希が寝室へ姿を消すと、しばらくして戻って来る。その手には、ラッピングされたプレゼントが抱かれていた。
「オレからのクリスマスプレゼントだ。いつも真冬にはお世話になってるから、その感謝の意味も込められてる」
「春希くん……ありがとうございます。開けてみても良いですか?」
「ああ、もちろん」
「中身は一体、何なのでしょうか……?」
両手に収まるくらいの大きさだった袋を春希から受け取り、真冬はゆっくりとラッピングされた紐を解いていく。そして、中身を確認していくと、その中から黒のマフラーが取り出された。
「まだまだ寒い日が続くから、風邪引かないようにって選んだんだ。センスは……まあ、あまり突っ込まないでほしい」
「いいえ……嬉しいです。クリスマスにプレゼントをもらうなんて、久しぶりのことですから、本当に嬉しいです。ありがとうございます、春希くん。どうですか、似合ってますか?」
「ああ。とてもよく似合ってると思う」
受け取ったマフラーを、真冬は首に巻いていく。純白なイメージがある真冬のカラーとは対照的だったが、それが良いコントラストを出していた。
嬉しそうな表情をしている真冬を見て、春希は少し安心していた。真冬の泣いている顔を見たのは初めてだったため、春希にも少なからずの動揺はあったのだった。悲しい過去は消えないが、真冬の悲しみが少しでも癒えるのであれば、春希にとっても嬉しいことだった。
「実はですね、春希くん……私からもプレゼントがあったんですよ? 春希くんから受け取ったプレゼントと被ってしまいそうでしたが……どうぞ」
「えっ、オレに?」
「当たり前ですよ。今日はクリスマスなのですから……大切な人にプレゼントを渡すのは、当たり前のことです」
「真冬……ありがとう。早速開けてみるよ」
真冬が持参していたポーチの中から、小さな袋を取り出して春希に渡す。春希が真冬に渡したのと同じように、袋は綺麗にラッピングされていた。
真冬からプレゼントを受け取った春希は、そのままプレゼントを開封していく。すると、中からは黒の手袋が姿を見せた。
「春希くん、いつも手袋をしないで学校に来ているなと思っていたので、選んでみたんです。私も……センスはあまり無いので、そこはご了承ください」
「いや、めちゃくちゃ嬉しいよ。ちょうど欲しいなって思ってたところだったから、すごく助かるよ。何よりも、真冬がくれたってところが、オレは1番嬉しいよ」
「あっ、あの、春希くん? そういう恥ずかしいことを平然と言うのは、どうかと思いますよ? その……恥ずかしいじゃないですか」
「恥ずかしいも何も、本当のことだから仕方ないだろ。オレの中で真冬は1番可愛く見えるから、そんな人からプレゼントをもらったら嬉しいに決まってるよ」
「あぅ……」
まるで頭から湯気でも出て来そうな勢いで、真冬の顔が真っ赤に染まっていく。そんな真冬を見て、さすがの春希も少し照れ臭くなっていた。
「あの、春希くん……? 今更なのですが、確認しても良いですか?」
「どうした? そんなに改まって」
「あのですね……私の聞き間違いでなければ、先ほどの春希くんは、私のことを好きって言ってくれました。それは……本当ですか?」
「そう改まって聞かれると恥ずかしいな……けど、真冬の聞き間違いじゃないよ。確かに、オレは真冬に好きだって伝えたよ」
「そ、そうですよね? ごめんなさい、私……まだ信じられないんです。春希くんに好きだって伝えてもらえるなんて、想像もしていませんでしたから」
「それこそ、真冬だってオレに言ったよな? 好きになるのも当たり前とか、大切な人だとか」
「は、恥ずかしいので忘れてください! もう、怒りますよ、春希くん!」
ポカポカと音を立てるように、真冬が春希の胸の辺りを軽く叩く。その様子が可愛らしく見えた春希は、真冬のことを再び抱きしめた。
先ほどとは違い、取り乱していない真冬にとって、春希に抱きしめられるということは、中々の恥ずかしいさを秘めていた。しかし、真冬は抵抗することなく、素直に春希の胸の中に収まっていく。
「真冬のこと、大切にするよ。真冬からちゃんと信頼を得られるような男になるから」
「私はもう、春希くんのことを信頼してますよ? 何か心配なことでもあるんですか?」
「きっと、真冬が抱えている傷は、簡単には消えないんだろうなって思ってる。だったら、オレは行動で真冬の信頼を勝ち取らないといけない」
「春希くん……」
真冬のことを抱きしめながら、春希は真冬に対して何が出来るのかを考えていた。想いは伝わったが、これで終わったわけではない。むしろ、これからが様々な障壁を乗り越えるための正念場でもあった。
「真冬は、中学のときに付き合っていた男から裏切られた。オレも両親が死んでから自暴自棄になって、誰のことも信じないようになっていた。理由は違うけれど、人間不信になってしまったからには、そう簡単に立ち直ることは出来ない。ましてや、オレはそいつと同じ男だ。真冬が学校の男たちから一定の距離を保ち続けていたのを見ていたから、何かあるのではないかと思ってた。オレは、誰かを信じるということを教えてくれた真冬に、ちゃんとお礼がしたい。真冬の側を離れないで、いつでも味方でいると、それを行動で示していきたい」
「それなら……春希くんはもう行動で示してくれていたじゃないですか。私だって、それくらい分かりますよ? 春希くんは、私がお付き合いしていた人とは違います。春希くんは、地位や財産を目的として私と関わっている訳ではないということを、私は春希くんと関わって来て知りました。こんなに無欲な人は、見たことがありませんよ。だって春希くん、私に全然興味が無いってバッサリと切り捨てたじゃないですか?」
「まあ、それは、その……言葉のアヤってやつだよ。オレだって男なんだから、好きな女の人を目の前にしたら、少なからず意識するさ」
「でも、私には全然そうは見えませんでしたよ? むしろ、嫌われてるんじゃないかって思っていましたから」
春希の胸の中で、真冬は苦笑いを浮かべていた。春希はバツが悪そうに、頬をかいて誤魔化している。
「なんかこう、真冬を目の前にすると色々上手くいかないんだよ。カッコ悪いところを見せたくないのか、ついそんな態度ばかり取ってしまってたよな。本当にごめん」
「いえ、私は怒っているわけではありませんよ? むしろ、今はこうして本当の春希くんを知ることが出来ましたから」
「そう言ってくれると助かるよ。オレも、本当の真冬をこれからもっと知っていきたい。そして、真冬のことをずっと守れる人になれるようにするよ」
「はい……ずっと私の側にいてくださいね、春希くん」
紆余曲折を経て、春希と真冬の2人は晴れて恋人という関係になったのであった。




