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生徒会の王女様は距離感がバグってる  作者: レイチェル


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ナイトの気持ち

「春希くんは、もう少し自分に自信を持って良いと思います。私にこれだけ優しくしてくれたのに、どうして他の人には無愛想な態度を取ってしまうんですか? 春希くんの優しさを、周りの人たちが知らないだけだと思いますよ」



 真冬の提案で、ショッピングモール内に入っていたパスタ専門店に入る2人。そこは全国チェーン店のパスタ専門店であり、周囲からの評価は可もなく不可もなくといった店だった。そのため、人気店のように行列が出来ているということはなく、スムーズに入店することが出来た。

 料理を注文して待っている間、真冬が真面目な表情で口を開く。その傍らには、先程の服屋で買った紙袋が置かれていた。



「誰にでも愛想良くしている真冬を見ていると、すごく尊敬する気持ちになる。みんな、真冬のことを王女様と呼んでいるし、真冬もそれに見合った振る舞いをしている。渚や山形、それに秋田もあんな性格だし、周りとすぐに打ち解けられる。でも、それを見ていると自分に同じことは出来ないと思ってるよ。それは、オレの性格上合わないことだと思う」


「私は、そういう春希くんの優しいところは周りの人たちにも知っていてもらいたいです。少なくとも、渚さんや山形さんたちは春希くんの良いところを知っているでしょう? だからきっと、春希くんの周りに集まってきているんだと思います」


「そう言ってもらえるのはありがたいが、オレは今のままで良いんだよ。あまり周りから注目を浴びるのは嫌いなんだ」


「むぅ……素直じゃないですね、春希くんは」



 不満そうな表情を浮かべている真冬を前にして、春希は肩をすくめていた。何を言われるのかと思ったが、普段の夏や綾乃から言われていることと同じことであった。

 愛想を良くすれば、周りの人間はもっと自分のことを評価してくれる。その良い部分を知らないのは周りが損をしていると、夏や綾乃から口うるさく言われてきたことであった。



「それに、山形や秋田はそんなオレのことを良く知ってるし、渚や真冬もいる。それだけで十分だと、オレは思うよ」


「でも、私は今まで春希くんに何度も助けてもらいました。別に放っておけば良かったのに、どうして私を助けてくれたんですか? それに、学年1位を取ったのも、まるで私を守るためだと言っているようなものでした。今日まで何度もそのことを考えてみましたが……分かりませんでした」


「……真冬」



 戸惑いと不安が入り混じっているような表情の真冬に、春希は小さく嘆息を吐く。それは決して真冬に向けられたものではなく、自分自身に向けられたものだった。

 偶然が重なって、春希はこうして真冬と関わる機会が多くなった。それならば、自分が真冬に抱いていた想いを話すべきであろうと、春希はその視線を真冬に向けた。



「なんだろうな……オレはきっと、本当の真冬を見て欲しかったんじゃないかな」


「本当の私……ですか?」



 首を傾げる真冬に、春希は小さく頷く。



「学園の王女様と崇められているけど、オレの知っている真冬はそうじゃない。1人で強く生きている女の子だけど、儚くてすぐに消えてしまうんじゃないかって心配になる女の子に見えていた。家でも王女様みたいに裕福な家庭で生きているんだろうなって思われてるから、オレとしてはそういうやつらに対しては、あまり好感が持てるような感じじゃないんだよ。そういう風にしか真冬を見ていなくて、少し冷めた目で見てるんだ。だからかきっと、自然に距離を取るような振る舞いになっているんじゃないのかな」


「春希くん……私のこと心配してくれているんですか?」


「まあな……これだけ長いこと隣の部屋に住んでいるのに、真冬の部屋から出て来ている人間を見たことは1度もなかった。つまり、それは真冬が1人で暮らしていることを意味していて、きっとあまり良い意味ではないんだなって思ってたよ。時々真冬のことを見かけることはあったけれど、学校で王女様と呼ばれている姿とはかけ離れてたかな。まるで、何か悲しみに包まれているような、閉じ込められている王女様のようだった。同じ学校のやつが隣に住んでいるって気付かない方が良いかと思って、真冬に話しかけることはなかったけれど」


「そんなの、わりとすぐに気が付きましたよ。同じ学校に通っている人がいて、その人も私と同じで一人暮らしをしているんだなって。それならもっと、私に話しかけてくれても良かったのではないですか?」



 真冬からの問いかけに、春希は首を振る。周囲が家族連れや恋人との会話で盛り上がりをみせている店内で、2人は切り離された世界にいるかのように、2人だけの世界に入っていた。



「万が一にでも、学園の王女様がこんなところで一人暮らしをしているなんて知られたら、学校のやつらはどんな噂をするか分からない。オレはともかくとして、真冬にそんな噂が立つのは大変だろ? まあもちろん、オレ自身の身の危険もあるからだけどさ。真冬の素性が知れたら、それにつけ込む人間もいるかもしれないだろ? みんながみんな、味方でいてくれるとは限らないからな」


「それは、以前にお付き合いしていた人を見て感じました。信じていた人から裏切られるというのは、想像以上に辛いことでした。それから私は、あまり誰かを信じるということをしなくなりました。もちろん表向きでは普通に振る舞っているように見えますが、どことなく距離を置いているといのは事実です。でも……春希くんは違うのではないですか?」


「オレが?」



 先ほどとは違い、今度は春希が首を振る。そんな春希に、真冬はふと頬を緩ませた。



「そうやって春希くんは、本当の私を見ようとしてくれました。それは私の素性を知っていたからかもしれませんが、きっと私のことを知らなくても、春希くんの行動は変わらなかったと思います。今まで春希くんと関わってきて、私はそう思いましたよ? だって春希くん、自分が思っているよりも、ずっと優しい人ですから」


「……そんなこと、初めて言われたな」


「それは、まだみんなが春希くんのことを知らないからですよ。今まで春希くんにたくさん助けられてきた私が言うんですから、間違いないと思います。私は人を信じるということを諦めていましたが、春希くんを見て少し考えが変わりました。春希くんと関わっている生徒会の方々の反応を見て、私は春希くんが信じるに値する人間だと思っています。そうでなければ、2人でデートなんてこと、絶対にしませんよ?」


「デート? ああ……そう言ったの、オレだっけか」


「なっ……は、春希くんが言い出したんですよ! テストで私に勝ったご褒美として、デートしたいって!」


「ごめんごめん。ちゃんと覚えてるよ」



 2人が注文したパスタが届き、春希と真冬はフォークとスプーンを使って食べ始める。真冬は春希の反応に不満があったのか、パスタを食べながら春希を非難する。



「大体、春希くんはそうやって思わせぶりな発言ばかりしてます! いつも私のこと困らせようとしてませんか?」


「はは、そういうわけじゃないよ。ただ、な」


「そうやって、いつも誤魔化してばかりじゃないですか。掴みどころのない感じで飄々として、私の反応を見て楽しんでるようにしか見えません!」


「あ、いや、そういうわけじゃないんだ。嫌な気持ちにさせるつもりは全然無いんだ。ただ、真冬との距離感が分からなくて、ついそういうことばかり言ってるのだと思う」


「どういう意味ですか? 私が王女様と言われてるけど、実はそうじゃない私を知って困っているってことですか?」


「いや、そうじゃない。オレが、真冬とどうやって距離感を取ったら良いのかなって思ってるんだ。真冬の迷惑になるようなことはしたくないからさ」


「……どういう意味ですか?」



 パスタを食べる手を止めた真冬は、同じ質問を春希に投げかける。少しだけ揺らいでいるように見える瞳に、春希は自らの行いを反省していた。

 春希は、人との関わり方を知らない。両親を亡くしてから、春希は里親制度を使って新しい親に引き取られた。里親は春希を実の子どものように育ててくれたが、春希にとって血の繋がりの無い他人であることに変わりはない。今まで誰かと深く関わることを避けてきた春希にとって、真冬という存在は極めて珍しい存在であった。そしてそれは、春希にとって初めての感情として芽生えていた。



「なんだろうな……上手く言えないけど、鍵を無くして困っていたり、ストーカーに付きまとわれて困っている真冬を見たら、助けてあげたいっていう気持ちが自然と込み上げてきたんだ。それは、山形たちや渚には抱いたことのない気持ちだった。真冬の困っている顔を見たくないって言うか……守ってあげたいって気持ちになっていたんだ」


「……あ、あの、春希くん。それは本当の話ですか? また、さっきみたいに私のことをからかっているというわけではないのですか?」


「不安にさせてしまっていたのなら謝る。でも、今の話は嘘じゃないよ。誰かの助けになりたい、誰かを守りたいって思ったのは、真冬が初めてだよ」


「…………」



 その気持ちの名前が分からない春希は、戸惑いながらも自分の気持ちを口にする。いつも飄々と俯瞰しているような雰囲気を持っている春希がこのような表情をしているのを、このとき真冬は初めて見た。

 そしてそれは、真冬にとって春希に抱いていた感情と似ているものだった。



「……ありがとうございます。そういうことを言ってくれたのは、春希くんが初めてです。とても嬉しいですよ、春希くん」


「真冬に感謝されるようなことは何もしてない。ただ、オレは真冬の困ってる顔が見たくなくて……笑ってる顔を見たかったのかもしれないな」


「あ、あの、春希くん……それ以上はちょっと……」


「えっ?」



 春希が視線を上げると、先ほどまで頬を膨らませて不満を漏らしていた真冬が、今度は頬から耳まで真っ赤になっていた。まるで熱を帯びているような、そんな様子に見えた。



「春希くんの気持ち、私には伝わってますよ。何度も守ってくれて、ありがとうございます。春希くん」


「真冬……」


「……ほら、早く食べないとパスタが冷めてしまいますよ? これを食べたら、またお買い物に行くんですから。春希くん、デートはこれからが本番ですよ?」


「……ああ、そうだな」



 作りものではない真冬の笑顔に、春希もふと頬を綻ばせる。真冬に抱いている感情が何なのか、このとき春希は少しだけ分かるような気がした。

 そして意識してしまった以上、春希は真冬との関係性を周囲に悟られないよう、今まで以上に注意を払うべきだと、気を引き締めた。

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