王女様とのデート
クリスマスを直前に控えた週末。駅前で待ち合わせをしていた真冬は、ほぼ同じタイミングで現れた春希に引き連れられ、電車で1時間ほど揺られていた。そして、終点へと到着して電車を降りると、目の前に大型のショッピングモールが姿を見せる。
電車を降りると、春希は変装として着用していた帽子を外していく。真冬も自分のキャラクターからは想像し難い程似合わないサングラスを外し、電車から降り立った。
「……どうして私を連れてこんなところに来ようと思ったんですか?」
「真冬は、あまりこういうところは好きじゃないか? まあ、オレは休みの日に家から出ることは少ないから、あまりこういうところは来ないけど」
「じゃあ、どうして来ようと思ったんですか?」
ショッピングモール内に入り、2人は案内板で目的の店を探していく。本日のデート(?)プランは、ほぼ春希が決めたものだった。
「真冬も、あまりこういうところは来ないかなって思ってさ。インドアな者同士、たまには外の空気を吸った方が良いと思ってな」
「勝手に私を同じ属性の人間にしないでください。ここには友達と何度が来たことありますし、春希くんほどインドアじゃありません」
「それは失礼。まあ、ここなら良いだろ? 学校近くだと、誰かしらに会うリスクが高いけど、ここだとそう簡単には見つからないだろ。真冬はどこか行きたい店はあるか?」
「それはそうですけど……前から気になっていた喫茶店に行ってみたいです。あと、冬用の服も新調しようと思っていたので、そこも行ければ」
「了解。時間はまだまだあるし、先に真冬の行きたい服屋にでも行くか」
クリスマスを控えていたこともあり、ショッピングモール内は多くの人で溢れかえっていた。家族連れで来ている人たちもいれば、友人や恋人と来ている人たちもたくさんいる。油断するとすぐに見失ってしまいそうになるほどに人の流れは早く、人気の喫茶店やレストランは早々に行列が出来ていた。
真冬に案内されるようにして、春希はとある服屋を訪れる。そこは、安価で誰しもが通ったことのあるチェーン店だった。
「こんなありきたりな店で良かったのか? もっとこう、ブランド物の洋服とか扱ってる店があるだろ?」
「私は両親から仕送りをされて生きている身ですから。そこまでファッションに興味があるわけではありませんし、倹約することに越したことはありませんから。余ったお金は貯金しておいて、卒業したら両親に返そうと思っています。たとえ親と言えども、借りを作るのは嫌いなので」
「そうか……変なこと聞いたみたいだな。ごめん」
「春希くんが謝る必要なんてありませんよ。もっとこう、楽に生きられたら良いなと思っているんですけどね」
真冬は苦笑いを浮かべながら、ブラウスやスカートといった女性用の服が並べられているコーナーを見ていく。そのどれもが数千円もあれば買えるであろう商品であり、おそらく側から見れば真冬のルックスには釣り合わないのではないかと思う人が多いのかもしれない。
真冬の両親と姉は、今は海外を拠点として活動しているという話を、春希は思い返していた。才能のある姉を持ち、両親は姉に大きな期待を持っているという。どのような仕事をしているのかまでは聞いたことはなかったが、少なくともそう簡単に踏み込んで良い問題ではないと、春希は感じていた。
きっと、真冬も自分とどこか似ている部分があるのではないかと、春希は勝手に自らが思うようになっていた。理由は異なるが、親元を離れて生活せざるを得ない状況であり、真冬の置かれている境遇も、春希にはどことなく共感出来る部分があったのだった。
「みんな、すれ違う度に真冬のことを振り返っていくな。誘っておきながら、一緒にいるのが恥ずかしくなってきたぞ」
「そうでしょうか? 私は、みんな春希くんの方を見ていると思っていましたよ?」
「いや、どう考えても真冬だろ。オレみたいな地味なやつと一緒にいるから、余計に真冬の存在感が際立ってると思う」
「まあ、そこ辺りはそれなりに自信があるところはありますが……春希くんはそこまで自分を卑下しなくても良いと思いますよ? そうやってすぐに自分を見放してしまうところ、良くないと思います」
「真冬にそう言われてもなぁ……」
今まで告白した男子生徒の数は分からないほど、真冬は学園内でダントツの人気を誇っている。清楚な外見とそれに見合う振る舞い、そして王女様と呼ばれるに相応しい成績を治めている。しかし、今まで誰として真冬の心を射止めた者はおらず、たとえ運動部のエースや学園トップ10に入る秀才でさえ、真冬が靡くことは決して無かった。
ある程度の事情を知っていたとはいえ、こうして周囲から注目を浴びている真冬を見ると、春希は自分との差を感じざるを得なくなる。中途半端に伸びた髪や愛想の悪さも相まって、春希は学園内では生徒会のメンバー以外と関わる機会はほとんど無かった。
「春希くん、ここが終わったら少し早いですがお昼にしましょう。この混み具合だと早めにお昼を済ませた方がよいでしょうし、春希くんとお話したいことがたくさんありますから」
「え? あ、ああ……」
今の会話の中で何か気になる部分があったのか、真冬は真っ直ぐな視線を春希へと向ける。自分の心の内を見透かしているかのように視線に、春希は真冬の言う通りに返事をするだけだった。




