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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第九章 『二学期』
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第九十五話 『旅館』

 あれから、コンビニに行って旅館へと戻った。

 道中急いだこともあり、遅すぎるなんてことにはならず怪しまれずに済んだ。


 別に怪しまれるだけならいいのだが、どうせこいつらのことだ。

 俺が何かしているとなれば首を突っ込んでくるだろう。

 俺個人のことに、こいつらを巻き込みたくない。

 まぁ、もうすでに俺個人にはとどまっていないのだが......


 本当、俺以外に手を出されるのは腹が立つ。

 俺をおびき出すためには、周りから攻めていく方がいいという考えは分かる。

 が、それでもだ。

 関係ない奴を巻き込むなよ。


 まぁ、いつまでもピリピリしていたってしょうがない。

 切り替えが大事だ。

 てか、切り替えないとバレかねない。


「ヨーラ買ってきたぞ」


 俺は袋に入ったヨーラ三本を差し出しながら部屋に入った。


「いらっしゃい」

「お邪魔しています」

「......」


 どうしてこいつらがいる。

 女子二人は別の部屋だろ。


「部屋の移動は禁止されていなかったか?」


 そう、禁止されていたはずだ。

 修学旅行での注意みたいな話の時に言われていた気がする。

 かどちゃん先生も頑張って言っていた。

 俺にはそんな記憶がある。


「細かいこと言うなって

 どうせ見回りの先生とかいないんだからバレないだろ」

「そうだな」


 まぁいっか。

 どこかの宇宙人も言っていた。「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」と。

 そう。

 バレなきゃいいんだよバレなきゃ。


「ヨーラしかないの?」

「それ以前に男子の分しかないぞ」

「なんでよ

 気が利かないわね

 今から買ってきなさい」

「お前らが来ることを想定して買ってくるわけないだろ」


 ほんと、お前が勝手に来たんだろ。

 てか、来たやつが普通は何か持ってくるんじゃないか?


「はぁ......

 何が飲みたい」


 でもまぁ、今日くらいはパシられてやろう。


「分かったよ」

「え?

 ホントに行ってくれるの?

 それは申し訳ないわ」


 どっちなんだよ。

 行けって言ったり行くなって言ったり。

 今の俺はパシられてやる気分なんだから行かせろよ。


「何がいいんだ?」

「じゃ、じゃぁ私も行くわ」

「......そうか」


 こいつも来るのか。

 俺、何されるんだろう。


 俺が不安を抱く中、小夏は三浦さんの飲みたい飲み物を聞いてから靴を履いた。

 その後、二人そろって部屋を出た。


「あなた、西の最強と仲いいんでしょ?」

「あぁ、まぁそうだが

 なんで知ってんの?」

「伽月から聞いたのよ」


 あいつ、話したのか。

 いやまぁ、話されたからなんだと言う訳ではないが。


「その人ってこの辺に住んでるの?」

「知らない」

「そ」


 でも、陽介がこの辺に住んでいるのだとすれば、この修学旅行中に合えるかもしれない。

 陽介がいるってことは、幼馴染と言っていた菜月もいるだろう。

 どの辺に住んでいるんだろうか。


 いや、もしかするとあいつらも修学旅行かもしれない。

 彼らの家がこの辺だったとしても、修学旅行なら意味ないな。

 国外にいる可能性が高い。


 あいつら、どこに行ったんだろうな。

 雪の国である北方神国に、今の時期に行くってことは無いだろうから東か南のどっちかだな。

 ま、どっちでもいいか。


「あなたってさ、好きな子とかいるの?」

「は?」

「......何よ」


 こいつ、恋バナとかすんの?

 めっちゃ無縁だと思ってたんだけど。

 人の恋路なんて微塵も興味ないような、そんなやつだと思っていた。


 修学旅行の雰囲気でおかしくでもなったのだろうか。


「いるの?いないの?」

「いないけど」

「あんなにも女の子を侍らせているのに、一人も好きじゃないの?

 あなた、どうかしてるわよ」


 どうかしてんのはお前の方だよ。

 俺は侍らせている訳じゃない。

 てか、侍ているのは穂香だけなんじゃないか。

 他の人はたまに一緒にいるくらいで。


「で、誰が好きなの?」


 いないって言ってるだろ。

 これ、言わないと終わらないやつ?


「......宙」

「シスコン......

 キモ」


 シスコンの何が悪い。

 妹を大事にしているのは良いことだろ。

 いやいやそうじゃない。


 てか、


「お前もそうだろ?」

「私は家族としてユキが好きなのよ

 あなたのように邪な好意ではないわ」

「俺も家族としてだよ!」


 俺だって、宙をどうこうしたいなんて考えてねぇよ。

 てか考えもしねぇよ。

 宙は兄妹だ。


「じゃぁ誰が好きなのよ」

「だから誰も好きじゃねぇって」


 俺の返答のどこに不満なのかは分からないが、小夏はつまらなさそうに「ふーん」と言った。

 ようやく諦めたか。


「じゃぁ、......」


 じゃぁなんだ。

 なんだか嫌な予感がする。


「穂香ちゃんにあれだけくっつかれても、明香ちゃんの体を見ても、何とも思わない訳?」

「......」

「変態」


 だって仕方がないじゃないか。

 男の子だもの。

 女の子に近づかれたり、大きいソレを見たりしたら、ちょっとくらいはそういう気分になっちゃうじゃん?


 しょうがないんだよ。

 それが男の性なんだよ。


 でも我慢しているんだからいいだろ?

 実害ないんだから、ああだこうだ言うなよ。


 で、そんな会話をしているとすぐに購買に着いた。

 さっき俺はコンビニに行ったが、この旅館にも購買がある。

 そこで、メジャーなジュースを買うこともできるのだ。


 外に用事がないならここでいい。


 俺が奥の椅子に座って待っているうちに、お茶とオレンジジュースを買って返って来た。

 どっちがどっちのものか分からない。

 お茶もオレンジジュースも三浦さんっぽい。


 小夏は、お茶を好んで飲むようなキャラでも、オレンジジュースを好んで飲むようなキャラでもない。

 そんな感じだ。


「お前、どっちを飲むんだ?」

「オレンジジュースよ」


 なんだろう。

 似合わない。

 こいつ、毎日コーヒーとかを飲んでいるキャラじゃないか?

 いや、偏見か。


 オレンジジュースもお茶も、誰が飲んだっていいよな。

 どっちも美味しいもん。


「帰るか」

「そうね」


 いや、ちょっとだけ思ったが、見た目だけだとオレンジジュースもお似合いかもしれない。

 紙パックのジュースをチューチューと吸っているのも似合っているかも。


 まぁいいや。

 こんなことを考えてたって、どうともならない。


 早く帰って、またトランプゲームをしようじゃないか。

 あれを大勢でするともっと楽しそうだ。

 俺が大富豪で負け続けることも無くなりそうだ。


 よし、早く帰って再戦だ。



「お前弱すぎー」

「大富豪だと最弱だな」


 そんなに笑わなくてもよくない?

 傷つくんだけど。

 男二人と小夏はもちろんのこと、あの優しそうな三浦さんまでもがクスクスと笑っている。


 もういいじゃないか。

 いいだろう。

 俺がニート時代に極めたトランプテクニックで、圧勝してやろうじゃないか。

 いわばイカサマだ。


「次は俺がシャッフルするよ」

「いや、大丈夫

 俺がやるから」


 残念。

 作戦失敗だ。


 トランプを触ることができないとなると、イカサマもできない。

 また負けてしまうのか。

 いや、まだ実力で勝つという方法が残されている。

 勝ってやろうじゃないか。



 結果は惨敗である。

 てか大富豪とは所詮運のゲームだろ。

 そんなので勝って何が楽しいんだ。

 悔しくもないね。


 あれから何戦もしたが、一抜けは一度もなかった。

 惨敗である。


 今はいろいろ終わって女子たちは自分の部屋に帰っている。

 これからは風呂である。


 大浴場。

 俺らだけで貸し切り状態になるか、他の客も入っていて大人しくしておく必要があるか。

 希望を言うなら、俺らだけの方か全然いい。


 3列ほど並んだロッカーがある脱衣所で服を脱ぎ、大浴場への半透明の扉を開ける。

 やったね貸し切り状態。

 誰もいない。


「貸し切りだー!」


 哉のテンションの高いこと高いこと。

 今の状態を叫びながら、『バシャーン!』と音を立てて浴槽へと飛び込んだ。


 男湯の方は貸し切り状態だが、隣の女湯が貸し切りとは限らないんだぞ。

 お前の馬鹿丸出し発言が聞こえているかもしれない。

 見られている訳ではないのに、なんだか恥ずかしくなってくる。


 そんな哉を他所に、笠原がツンツンと俺の肩を突っついてきた。

 こいつは結構落ち着いているな。

 哉とは大違いだ。


「覗くか?」

「覗かない」


 前言撤回。

 こいつも落ち着いていなかった。

 俺は以前、風呂を覗いて痛い目にあっているんだ。

 しかもその時、次はないと言われている。


 今日同じことをもう一度してしまったら、どうなるか。

 前は石の上で正座だったから、今回は針の上とか......

 想像もできない。


「えー

 せっかくなんだからしようぜ」

「嫌だ」


 俺と笠原も、随分仲良くなったものだ。

 最初はこんなに接近しなかった。

 物理的にもそうだし精神的にも。


「お前、本当に男か?」

「男だよ!」

「じゃぁ覗こうぜ!」


 何がじゃぁだ何が。


「俺は覗かない

 それにおすすめもしない

 誘うんならあそこで泳いでるやつにしろ」


 おすすめはしない。

 俺はちゃんとそう言った。


 止めたからな。

 止めたからな?

 どうなっても知らないからな。


 笠原は、風呂でバタフライをしている哉へと走ってお誘いに行っている。


 風呂で泳ぐな。

 風呂で走るな。


「いいね」


 哉はお誘いに同意した。

 あいつ、キャンプの時の件を覚えていないのか?

 それともMなのか?


「穴はあるか?」

「いや、ない」


 女湯と男湯を仕切る竹壁の穴を探す2人を尻目に、俺は桶を使って体を流す。

 その後ゆっくりと湯に浸かる。

 あの恥ずかしい奴らに背を向けて。


 誰か入ってきても、俺は平然とした表情でこう言おう。

 「彼らは他人です」と。


「どうする?」

「肩車だ」


 こいつら、楽しそうだな。

 青春ってこういうやつなのか?


「まずは俺が下になる」

「わかった

 行ってこい」


 どうやら笠原が下になるようだ。

 まぁ、背が高いから適任だろうな。


「「いざ、出陣」」


 掛け声と共に、2人が立ち上がった。

 ぐいっと視点が上がった哉。

 笠原と哉の身長が、竹壁を越えた。

 哉が竹壁から顔を覗かせた瞬間。


『カコン!』


 いい音が鳴った。


 その後、上の哉がバランスを崩して降ってくる。

 俺は湯に浸かったまま、降ってくる哉を避けた。

 『バシャーン!』と大きな水しぶきが上がる。

 それに続いて桶が降ってきた。


「全部丸聞こえよ!

 馬鹿じゃないの!?」


 小夏の怒声が聞こえてきた。

 ナイスショットだよ、小夏。

 いいセンスしてる。


「この壁を越えるくらいになるってことは、下にいるには悠真ね

 二人とも、後で部屋に来なさい」


 残念だな。

 だからやめとけって言ったんだ。


「翔琉も来なさい」


 どうして俺まで......



 ---



 俺が部屋に呼ばれたのは、哉と笠原が言っていることが正しいかどうかを判断するためだったらしい。


「どうして覗いたの?」


 そう質問する小夏の目は死んでいる。

 死んでいるっていうか、ゴミを見るような目だ。

 明らかに見下している。


 ちなみに、例のふたりは正座中だ。

 わざわざ硬い床で正座だ。

 でも、石の上よりはマシだろう。

 まぁ、俺は正座していないので分からないが。


「いや、あれは覗いたんじゃない

 隣が女湯だとは知らなくて、外の景色を見たかったんだ」


 哉渾身の言い訳。

 効果は、


「嘘付かないで貰えるかしら

 余計に腹が立つわ」

「ごめんなさい」


 いまひとつのようだ。


 小夏は俺に確認をとることもせずに、哉の言っていることが嘘だと見抜いた。

 そりゃあそうだろう。

 あの時、「全部丸聞こえよ」って言ってたし。


 哉の考えた言い訳が無謀すぎるんだ。

 もっと考えて言い訳しろよ。

 まぁ、あれを言い逃れるのは無理があると思うが。


 てか、俺らの会話全部聞こえてたんだろ?

 確認役の俺、いらなくね?

 帰ってもいい?


 このピリついた空気、嫌なんだけど。


「伽月が女湯覗いてたって、加奈子さんに言っておくから」

「そ、それだけは

 それだけはやめてください!」


 効果は抜群だ。

 哉は、床に頭を擦りつけている。

 お手本のような土下座である。

 教科書に載っていても不思議じゃない。


 流石に、彼女にチクられるってのはヤバいのだろう。

 これが彼女持ちの不利な点だな。

 その分俺はフリーなわけで、好きなことし放題ってわけだ。


 なのにどうしてだ。

 どうして自由があるフリー状態の俺が、彼女持ちの2人を羨ましいと思うのだろう。

 どうして......


「で、あなたはどうして止めなかったの?」


 怒りの矛先が俺に向いた。

 完全にとばっちりだ。

 やめて欲しい。


「俺は止めた

 それでも聞かなかったんだよ」


 俺は止めたのだ。

 結構軽い言葉で、強制力もない口調だったが、それでも止めたことには違いない。


「全力で止めたの?」

「全力では......」


 俺は、全力では止めなかった。

 風呂で暴れるのは嫌だったし、覗こうという気持ちだってわかる。

 向こうに小夏がいると知っていなければ、俺も参加していただろうし。


「全力を尽くさなかったのに止めたと言うのね

 自分に甘いんじゃないの?」


 とばっちりが始まった。

 全力で止めはしなかったが、止めたことには変わりない。

 どうして俺が怒られないといけないんだ。

 理不尽だ。


「まぁいいわ

 あなたは覗いてない訳だしね」


 あれ。

 全然理不尽じゃないじゃん。

 今日の小夏は滅茶苦茶を言わない。

 おかしくなったか?小夏。


 でもまぁ助かったよ。

 出来ればずっとこのままでいてほしい。

 いつもの、理不尽な小夏には戻らないでほしい。


「お、俺も覗いてねぇよ?」


 確かに笠原は、下になっていたため見てはない。

 だがその事実は、言い訳に聞こえる。


「......黙りなさい」


 笠原の言い訳を聞いた小夏は、ゆっくりと真顔で振り返り、目の死んだ笑顔を作ってそう言った。

 恐ろしく怖い。


 笑顔って、こんなに怖くなるものなのか?

 とびきりの笑顔なのに、金剛力○像のような印象を受ける。

 怖い。怖すぎる。


 このモードになった小夏は止まらない。

 気が済むまで怒り続けるだろう。


「ユウ君、私からも追加でお話があるので残っていてください」


 あの仲良しカップル片割れの三浦さんが、敬語になっている。

 これはこれで恐ろしい。


 頑張れよ、笠原。

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