第九十三話 『修学旅行』
あれから、一カ月ほどたった。
一カ月間、特に大したこともなく平和に過ごすことができた。
三上・穂香・ユキちゃんと数日ごとに訓練しつつ、魔法陣について学ぶという日々。
前の世界の常識からすると全然普通ではないのだが、この世界ではそれほどおかしくもなく、平和な日々だった。
これこそが夢にまで見た『普通に生きる』ってやつなんじゃないか?
学校にも行って部活もして、バイトもして宙とイチャイチャもする。
青春できてるんじゃね?俺。
この日々が、いつまでも続けばなぁ
しかしそうはいかないだろう。
俺自身は北の最強で、一般の生活とは大きくズレているのだ。
このままってことはないだろう。
今は偶然居ないだけで、挑戦者もまた来だすと思う。
憂鬱だ。
まぁでもしかし、今が楽しいことには違いない。
てなわけで、今を楽しもうじゃないか。
それでそれで、俺は今何をしているのかと言うと班決めだ。
学校の授業を2時間潰して、班決めをして計画を立てる。
なんのための班決めだって?
そんなの、決まってるだろう。
高校2年生のビックイベント。
風の噂で聞いたことがある。
多くの学園モノアニメでも、ほとんど取り上げられているイベント。
『修学旅行』だ。
修学旅行かぁ......
楽しみだ。
てか、異世界にも修学旅行はあるんだな。
俺は修学旅行に行ったことがないからワクワクする。
いや、こういうのは行ったことある奴でもワクワクするのだろうか。
みんな、「オラ、ワ○ワクすっぞ!」とか思っているのだろうか。
ん?なんで俺が修学旅行に行ったことがないかだって?
そんなの、お察しの通りだ。
引きこもりに修学旅行は無縁だよ。
俺は小三から高二までみっちり不登校出会ったため、修学旅行なんてものは画面の向こうの存在だった。
それが数日後、実際に体験できるなんて。
夢じゃないかしら。
で、ここで問題。
俺の友達が少ない。
数少ない俺である哉が取られそうだ。
やめて、私の哉を取らないで。
その子は私のものよ。
てか、取られると班が組めなくなる。
困ってしまう。
哉のやつ、凄い人気だな。
どうしてだろう。
いつも一緒にいる俺と哉で、こうも人気度に違いがあるのは。
俺も最初と比べかなり人見知りを克服したので、全然普通に話すことが出来るんだけどな。
しかしまだ、人気度が上がらない。
会話もほとんどしないからな。
上がるはずもない。
クラスメイトの中で、俺は第一印象のままな訳だ。
「カケ!
一緒の班になろうぜ!」
哉は寄ってくるクラスメイトの誘いを断って、こちらへと寄ってくる。
あの人達より。
俺を選んでくれるのか。
嬉しい限りです。
まぁ、俺に友達がいなくて可哀そうだからってのもあるかもしれないが。
いや、哉はそんな同情心で仲良くしてくれるような人じゃないよ。
「いいぜ」
「じゃぁ次だな
誰誘いたいとかあるか?」
ある訳ないじゃん?
この学校で、俺の男友達はお前だけだよ。
三上は友達っていうよりは、俺の弟子を自称しているオラオラ系のリーダーだし。
「いない(友達が)」
「そっか
じゃぁ誰にすっかなぁ......」
ちなみにこの班決め、男子3女子2の計5人グループを作らねばならない。
この学校での同学年の友達が、男1女1しかいない俺にとっては、非常に難易度が高い。
「とりあえずこなっちゃん誘って来ようぜ」
「そうだな」
どうせあいつも、俺と同じで班決めに手こずっているんだろう。
あいつ、俺と同じくらい友達少なそうだし。
てなわけで小夏の席を見ると、案の定一人だった。
みんなが席を立ち、クラス間も移動して班を作っている中、小夏は一人だけ座って本を読んでいる。
めっちゃ浮いてるぞ、あいつ。
そういうのを気にしないところは、本当に小夏らしい。
それにしても気にしなさすぎじゃないか?
「こなっちゃん
同じ班になろうぜ!」
そんな一人の小夏に話し掛けるのは哉。
いつも通りのハイテンションで話し掛けている。
「いいわよ
あなた達、私を入れてまだ三人しか集まってないの?」
一人だったお前に言われたくねぇよ。
「誰か同じ班になりたい人とかいるか?」
「もう誘ってあるわ」
そうだよな。
お前、俺と同じで友達いないもんな。
「はぁ!?」
こいつ今なんて言った?
もう誘ってあるって?
うっそだぁ
「何?
私が人を誘ってるのがそんなに変なの?」
「いや、変じゃないけど意外だった」
そう。
意外だった。
こいつに、俺ら以外の友達がいたなんて。
「で、その人はどこにいるんだ?」
「そこにいるじゃない」
哉の言葉を受け、小夏は振り返ってロッカーの前で話していた二人を指さした。
男女二人組だ。
まるでカップルみたい。
カップルなんだろう。
おさげのかわいい系女子と、長身のスポーツマンっぽい男子だ。
すごく仲良さげの二人で羨ましい......
いや、羨ましくなんてねぇよ?
「こなちゃん
この人達?」
「そうよ」
小夏とおさげちゃんが話している。
その傍らで、
「お前だったのか!」
「ホント偶然だな!
よかったぁ、知ってる人いて」
哉とスポーツマンが話していた。
スポーツマンの口ぶりからして、彼と小夏は親しくないようだ。
おさげちゃんと小夏の仲がいいから巻き込まれたって感じか。
カップルにもいろいろあるんだな。
で、俺はその二人のどっちとも仲良くないんだがどうすればいいんだ?
今の俺、取り残されている感が凄いんだけど。
二人ずつのペアを作って、俺の両サイドで話されている。
俺は、これを待っておけばいいのか?
班を作ることができたってのは良いのだが、その結果一人になった。
どういう事なんだ?
「カケ」
どう立ち回ればいいのか分からず、ただただ突っ立っていた俺に、哉が話しかけてきた。
俺は、その声にすぐさま反応する。
別に、俺の相手もしてくれて嬉しいなんてことじゃないし。
待たせると悪いと思っただけだし。
「なんだ?」
「紹介するよ、こいつは笠原悠真
これとうった特徴は無いけどいい奴だぜ
あとバスケ部」
いやいや、長身っていう特徴あるじゃん。
これといった特徴あるじゃん。
背が高いと、それだけでかっこよく見える。
俺とか平均身長もないのに。
めっちゃズルくない?
「よろしく」
「よろしく......」
まぁ、よろしくされたので俺もよろしくしておく。
こういうコミュニケーションって大事だよね。
「こいつは有名だから知ってるだろ?」
「知らないやつなんていないだろ」
とは哉と笠原の言葉。
そっかぁ〜
俺、知らない人がいないレベルの有名人かぁ〜
密かに、ファンとかいっぱい居たりして。
「そうだな
いい意味でも悪い意味でも、カケはすげぇ目立ってるからな」
多分、悪い意味の方が目立つ原因の大半を占めているのだろう。
ファンなんて、いるわけが無い。
いたら奇跡だ。
「あ、あのっ!」
俺が勝手に舞い上がって、勝手にうなだれているところに、おさげの女の子が話しかけていた。
「私は三浦遥です
2人のことはよく耳にするので知っています
よろしくお願いします!」
彼女は敬語キャラなのだろうか。
それとも、ただ初対面だから敬語になっているのだろうか。
「ちなみに俺ら、付き合ってます!」
はい。
知ってます。
だろうと思ってました。
いちいち言わなくて良くない。
彼女のいない俺が、可哀想になるだろ。
「ねぇ、そういうの言わなくても良くない?
恥ずかしいよ」
どうやら、三浦さんは敬語キャラではないらしい。
笠原とは普通に話している。
とても仲良さそうに。
彼女が敬語だったのは、初対面だったからだろう。
それにしても、三浦さんの言う通りだ。
わざわざ言う必要なんてないだろ。
それともなにか?
何らかの理由があるのか?
俺が納得できるような理由が。
「言っとかないと、お前を取られるかもだろ」
「大丈夫だよ」
なんなんこのカップル。
イチャつかないで欲しいんですけど。
てかこいつ、俺が三浦さんを取っちゃうかもとか考えてんの?
この俺が?このスポーツマンの彼女を取るって?
冗談じゃない。
勝てるわけないじゃん。
序列2位の最強ってこと以外大した特徴のない俺の平凡さを舐めるなよ。
俺はつい数ヶ月前まで引きこもりこじらせてたんだぞ。
元人見知りで元引きこもりクズニートだったやつに、こんないい子そうな子を奪えるわけない。
てか、まだイチャイチャしてるよ。
なんか2人の世界に入っている。
「好きだぜ」「私も」とか言ってる。
うわぁー......
(こいつら、どうすんの?)
そういう意味を込めて哉に目をやる。
彼女持ちの哉も、流石にここまでイチャイチャするのは見ていて呆れて来るらしい。
やれやれって感じのポーズをとっている。
小夏なんて嫌悪の表情だ。
まぁいいや、班はできたんだし。
お楽しみの修学旅行には行けるのだ。
このおふたりには、おふたりでお楽しみ頂こう。
まぁ残念ながら、ホテルでは男女別の部屋になるのでお楽しみできないだろうがな。
ざまぁ......
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てなわけで修学旅行当日。
乗り物がないこの時代。
どうやって移動するのか。
徒歩である。
徒歩で移動からの転移魔法陣で、また歩き。
足がぶっ壊れるかもしれない。
行き先で自転車とかレンタルしようかな。
今日は、学校で修学旅行の諸注意みたいなのを聞いて各班出発である。
俺たちの班の行き先は西方神国。
他の班は東やら南やらと、色んな場所で2泊3日。
それぞれの班で話し合いをして決めたのだ。
その話し合いで初めて知ったのだが、西方神国の雰囲気は大阪と京都を合体させたような感じらしい。
観光の国とまで呼ばれている。
歴史的建造物が沢山な天下の台所ってところだろうか。
写真を見ただけだと、やはり分かりにくい所があるな。
ちなみに、東方神国は産業の国、南方神国は水の国、北方神国は雪の国だ。
「切符買ってきたぞ」
切符を掲げて俺らに見せつつ、そう言って近づいてくるのは笠原だ。
隣には三浦さんも並んでいる。
2人はいつも一緒である。
羨ましい。
まぁいつまでもそんなことを言ってたってしょうがない。
こいつらはこういうやつらなんだ。
そういう生き物なんだ。
2人で1人的な。
で、そんな2人が俺たち5人分の切符を買ってきてくれたのだ。
「ありがとう」
「サンキュな!」
「よくやったわ」
1人、何様だよと思うやつもいるが、残っていた3人はそれぞれのお礼を言う。
おそらく彼女も、お礼のつもりなんだろう。
「じゃぁ、行くか!」
この哉のウキウキ度は、見ているだけでも伝わってくる。
ほんと楽しみだったんだな、修学旅行。
俺もだ。
俺たちの目の前には、直径2メートルの丸い台。
駅にあるあれだ。転移魔法陣だ。
この転移魔法陣に乗って、魔力を込めるだけで西方神国までひとっ飛び。
らくらくだね。
「俺がやる」
俺は台の横にある壁の手形に手を重ね、魔力を込めた。
直後、目の前が真っ白の光に包まれ、すぐに光が引いていく。
これが転移した証拠。
光が晴れると、そこはもう西方神国だ。
駅の感じが、住神地区とは全然違う。
駅が比にならないくらいに広い。
都会の駅って感じ。
多分、でっかいビルとかと隣接していて、渡り廊下的なやつで繋がってるんだろう。
それにしてもこの駅、めっちゃ広い。
それにデザインもいい。
なんだろう。
ザ・○阪駅みたいな感じだろうか。
それとも京○駅か?
足して2で割った感じ。
壁一面がガラスになっている場所もあった。
そのせいでより広く感じる。
「めっちゃ広いじゃん!」
俺の隣で、テンションを跳ね上げているのは哉。
さっきまでも高いテンションだったが、それよりももっとテンションが上がっている様子だ。
キョロキョロと辺りを見渡し、気になるところに走っていっては「スゲェ」と言っている。
やめろ、田舎民がバレるだろ。
「ほんと、すごいわね......」
これにはあの小夏さんも驚きの様子。
哉ほどではないが、キョロキョロと首を動かしている。
例のカップルは、手を繋いで「凄いね」とか「そうだね」とか言い合ってイチャイチャしてる。
これ以上は彼らについて語らないでおこう。
羨ましくて狂いそうになる。
で、そんなふうにテンションが上がっている一同を見る俺も、かなりテンションが上がっている。
やはりキョロキョロしてしまう。
俺は前世で、広い駅に行ったことはある。
しかしやはり、何度行ってもすごいものはすごいのだ。
「じゃぁ、とりあえず旅館に行くか」
だがこうしてはいられない。
この世界にはネットとか電話とかでの予約手段が無いため、旅館は当日に抑えるしかないのだ。
早く行かないと部屋がなくなるかもしれない。
てかこれ、旅館を取れなかった班ってどうするんだろうな?
まぁいいか。
俺たちは最初に、駅から一番近い旅館に赴いた。
だが、そこは既に満室だった。
でも予想通り。
どうせここはダメだろうと思っていた。
次。
俺たちは運が良かったのだろう。
ギリギリ、2つ目の旅館で泊まることができた。
本当にギリギリ。
男子と女子の部屋で2部屋取らなければならないのだが、俺たちが撮った部屋はここの旅館で最後の部屋だった。
後ろに並んでいた人には申し訳なく思う。
が、早い者勝ちだ。
俺たちの方が早かった。それだけだ。
「何とか取れたな」
「そうだな」
部屋に入った俺たちは、荷物の整理をする。
いるものだけを、移動用のカバンに移すのだ。
この部屋は、よくある旅館みたいな部屋だ。
6畳くらいの畳の部屋に、低い机が1つ。
そして、座布団やポットみたいな魔道具、ちょっとしたお菓子などが備え付けられている。
軽い整理が出来れば出発。
一日目は付近をぶらつく。
別に旅館にいてもいいのだが、せっかくの修学旅行なのだから観光を満喫したい。
てなわけで、班の全員でお散歩タイムだ。
特に目的地などは無い。
そんなわけで数分後、俺たちは旅館を出た。
で、いろんな店を見て「こんなのがあるんだなぁ」とかって思う。
しばらくぶらぶらと散歩をしていた。
その中で哉が木刀を買っていた。
「修学旅行と言えば木刀だろ」と自慢げに掲げていたが、初日に買う馬鹿がどこにいる。
ここにいる。
それ、後で絶対に邪魔になるだろ。
まぁいいや。
それにしても、ひと昔っぽい建物が多くある。
これは発展していないのではなく、あえて残されているのだ。
改修工事なども行われているのだろう。
どれも微妙に新しい。
流石観光の国だな。
どこを見ていても飽きない。
が、そんなワクワク感も、哉の一言によって焦りに変わる。
「なぁ、女子二人どこ行った?」




