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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第九章 『二学期』
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第八十九話 『鹿野津天明』

「俺は鹿野津(かのつ)天明(てんめい)

 東の最強だ」


 その言葉を聞いて、一瞬目を見開いた後眉を曲げた。

 8月の強い日差しかこの状況による緊張か、額にべっとりとした嫌な汗が張り付く。

 それは頬をつたって顎から落ちた。


「お前は?」


 鹿野津による謎の威圧に気圧され、言葉が喉で詰まっていた。


 なぜだろうか。

 今までで言うと神様やネオは俺より全然強いはず。

 だが強者の威圧っぽいものは無かった。


 しかしこの鹿野津って奴は違う。

 彼が巨漢ってのもあるが、異常な威圧を感じるのだ。

 明蓮寺父のような威圧を。

 話に聞くところ、明蓮寺父の『威圧』は能力によるものらしいが。


「俺は、佐々木翔琉だ」


 とりあえず、意識すれば普通に話せる。

 あのお父様みたいに、本能が恐怖するほどのものではない。


「佐々木翔琉......

 覚えた」


 別に覚えてほしい訳じゃないんだけどな。

 俺も、驚きのせいでお前の名前あんまり覚えてないし。

 鹿野津てんてんだっけ?

 もうちょっとカッコイイ名前だった気がする。


 鹿野津の黒い義手が目に入った。

 本当にメカメカしい。

 あれの中には腕があるのかないのか。

 無いのならどうやって動いているのか。

 まぁ、魔法陣だろうが。


「これか?」


 俺の視線に気づいたのか、超合金の重そうな腕を動かして鹿野津は言った。

 地声が低いせいで、怒っているように聞こえてしまって怖い。


「南の最強と戦った時に切り落とされてな」


 鹿野津は過去を見るような目をしている。

 いや、実際に思い出しているのかもしれない。

 腕があったころの自分を。

 もしくは南の最強との戦いを。


 そんな彼の様子を見て、俺は陽介の言葉を思い出した。


 「命一個で、ようやっと1ダメージってとこやろうな」


 一国を背負う最強がそこまで言う相手と、鹿野津は戦ったことがあるのだ。

 命をかけなければダメージを与えられないような相手と戦って、こいつは腕1本で済んでいる。


 こいつ、多分めちゃくちゃ強い。

 出来れば戦いたくないのだが......


「最強が2人

 することと言ったら1つだ」


 このムキムキ、見るからに戦闘好きだからな。

 こういう流れになると思ってたよ。

 いやだなぁ

 怖いなぁ


「戦だ」


 やっぱりか。

 最悪だ。


 彼の低い声は直接脳に語り掛けられるようで、変な感覚だ。

 不気味な感覚で、怖い。


 ていうか鹿野津からのこの提案、丁重にお断りしたい。

 俺としては、最強であっても出来るだけ平和に何事もなく生きていきたいし、鹿野津は多分めちゃめちゃに強いので戦いたくない。


 結構な陽介と戦ってからも、訓練を積んできているので少しは強くなっていると思うがこのムキムキはそれでもヤバい。

 勝てるか分からない。


 こいつは多分、陽介のように殺さないように戦ってくれるような奴ではない。

 見た目での判断になってしまって申し訳ないが、おそらくそうだ。

 戦えば最悪殺される。


 てなわけで戦いたくない。

 その戦はお断りさせていただこう。


「す......」


 お断りの言葉を言いかけた瞬間。

 俺はあることに気づいた。


 校舎の中、運動場わきの通路から俺達二人を見ている生徒がうじゃうじゃと。


 これは、とても断りずらい状況だ。

 俺はあまり雰囲気に流されるやつではないと思っていたのだが、意外とそうではなかったみたいだ。


 今ここで戦いを断れば、俺の最強としての株はなくなるかもしれない。

 序列2位である時点で異常なほど人気のない最強なんだ。

 ここで戦いの申し出を断ったなら、失望もいいところだろう。


 ここは断ってはいけないのだ。

 この鹿野津とかいう奴は、もしかするとこの状況をわかっていて運動場を舞台にしたのかもしれない。


 いや、もしかすると場所を設定したのはあの校長かもしれない。

 校長のニヤついた顔が想像出来る。

 なんか想像するだけで腹が立ってきたな。


 いやいや、何でもかんでも校長のせいにするのは良くないよな。

 それに、正直な話この場所を選んだのは誰だっていい。


 問題なのは場所がグラウンドだってことだ。

 俺は開けた場所で戦うのが苦手。

 この場所は、条件が悪すぎる。

 障害物なんて一切ないだだっ広いグラウンド。

 まずいな。


 こんな見るからに強そうな奴と、苦手なフィールドで1対1。


 無謀だ。

 それなのに断れない。

 これが生き地獄ってやつか。

 八方塞がりだ。


「......」


 俺が返答しなかったのを戦いを承諾したと思ったのか、鹿野津は少し重心を下げた。


 直後、彼は地を蹴った。


「っ!」


 速い。


 あの巨漢からは考えられないほどのスピードで、一瞬にして距離を詰められた。

 間髪入れずに超合金の腕でストレート。


 やはりこれも速い。

 拳が空気を切る音が聞こえる。


 その拳を、体をずらして最小限の動きで回避。

 眼前を黒い腕が横切る。


 ここでカウンター。

 横腹に一発重いのを......


『バコン!』


 刹那、俺は鹿野津の義手で吹っ飛ばされた。


 あの腕、可動域が普通の人間と違う。

 肘が反対側に曲がっている。

 あの異常な動きで、俺のカウンターにカウンターを入れたわけだ。


 頭を超合金で殴られた俺は、吹っ飛ばされ地面を削る。

 だが途中で体制を立て直し、止まる頃には二本足で立てていた。


 あんな常識外れの攻撃、避けれるはずもなくクリーンヒットだ。


「中身がないからどんな動きでもし出来るのか......

 ん?」


 額から何かが垂れてくる感覚。

 拭ってみると、それは血だった。


 そりゃあ、吹っ飛ばされるほどの威力で殴られたんだから額が割れるくらい当たり前だろう。

 一発で頭が潰されなかっただけ良い方だろう。


 おそらくあの腕、届く範囲なら関節など気にせずにどんな方向でも攻撃できる。

 それを考えて接近しなければ。


 次は俺から距離を詰める。

 鹿野津の義手に気を付けながら、超速度の殴り合いを始める。

 殴り合いと言っても、どちらの攻撃も当たっていない。

 殴っては捌かれ殴っては避けを繰り返している。

 たまに蹴りを入れても防がれる。


 どちらも一歩も引かない殴り合いを続けている。

 が、それもある一撃で戦局が傾くことになる。


 鹿野津が一発、今までよりも力の籠った拳を放ってきた。

 俺はそれをあえてギリギリで避け、ぐっと腰を下ろして彼の腹へと拳をねじ込んだ。


『ドン!』


 衝撃が、鹿野津の体を貫いた。

 この拳に相手を吹っ飛ば力はないが、内部に響かせる効果がある。


 内臓が潰れるだけの威力。

 決まれば戦局はこっちのもんだ。


 さらにその後、一度入った拳にもう一度力を入れ、そのまま拳をねじ込ませ彼を吹っ飛ばす。

 そのつもりだったのだが......


「硬すぎだろこいつ」


 一発目を入れた時、手ごたえはあった。

 だが同時に分かったのだ。

 こいつに、この技は効かない。


 この異常な筋肉が、衝撃を全て受け止めるのだ。


「こんなものか......」


 鹿野津が俺の心を砕くような一言を呟いた後、気付けば俺は『バゴン!』という音と共に殴り飛ばされていた。

 弾丸のように飛ばされた俺は、激しく地面と衝突する。


 一度地面ではねて地を抉る。

 もう一度跳ねて地面を転がり地を削る。


 今回は体制など立て直せるはずもない。

 俺はしばらく転がった後、よろよろと立ち上がりながら血を吐き出した。

 どうやら口の中を切ったみたいだ。

 当然、口以外からも血が出ている。


「くそ......」


 攻撃は高威力。

 普通の打撃は全然効かない。


 あの感じだと、最高条件での全力打撃が効くかどうかってところだろう。

 どうすればいいんだ......


 フラフラと立ち上がり顔を上げると、鹿野津が音もなく眼前まで迫っていた。

 目の前の彼は1本足で体を傾け、俺に背を向け回転していた。

 後ろ回し蹴りだ。


 これは避けられない。

 受け身だけ取っておこう。


 そんなわけなので、俺は軽々飛ばされる。

 その後、俺は再度地を転がった。


 そんな俺を追って、鹿野津が飛びかかってくる。


「!」


 俺は飛びかかる鹿野津を『キッ』と睨み、地面を殴った。


「ああ゛ぁぁあ!」


 俺は飛んでくる鹿野津目掛けて地面から氷柱を出現させる。

 その後すぐさま立ち上がり、彼を飛び越えるように大きく飛躍した。


「ふっ......」


 鹿野津は義手を振り下ろし、迫り来る氷柱を殴り砕いた。


 あの氷は、鉄ですらも貫通するような鋭利さなんだがな。

 これを真っ向から殴って破壊するなんて......


 しかもあの氷柱、かなり完璧なタイミングでの出現だった。

 あれに反応して、力で無効化するとは......


「化け物だな」


 俺は空中で逆さまになった状態で、二本指を開いて鹿野津へと向ける。


 水粒!


 開いた指の間と、俺の体の周りにいくつかの水球が出現。

 直後それぞれの水球から水の粒が超速度で発射される。


 肉眼でギリギリ捉えられるほどの大きさの粒。

 かつ超速度の水粒を、鹿野津はいとも簡単に避ける。

 しかしそれでも念のためか、ジャンプ中で隙だらけの俺から距離を取った。

 俺が放った数発の水流が地面を深く抉る。


 逆さまになっていた俺は、体制を立て直して着地。

 鹿野津を見る。


 彼の様子はさっきと全く変わりない。

 容姿はもちろん、表情もだ。

 戦いの最中だとは思えないほど落ち着いている。


 俺は、あいつの相手になってないってことか。


 しかし大丈夫。

 あいつの弱点が分かった。


 鹿野津には多分、刃物や槍などの肉を裂ける武器が効く。

 ごく普通のことだが、おそらくそうだ。

 あの筋肉も、鋭利な物には負けてしまうのだ。


 でなければ、さっきを氷柱の体で受けていたはずだ。

 直撃してなんともない物を、わざわざ超合金の義手で破壊することなんてない。


 それにあの義手、よく見ると刃物らしき何かで付けられた傷跡が無数にあった。


 今までの戦いでも、ああやって義手で防いできたのだろう。


 俺は腕の紐を解いて魔力を込める。

 その紐はたちまち刀へと形を変えた。


 相手が素手なら俺も素手でと思っていたが、そんな訳にはいかないようだ。

 てかあいつの腕、素手っていうかハンマーだろ。

 立派な鈍器だ。

 武器さながらだ。


 それなら俺も刀でいかせてもらおう。

 それにおそらく、あの筋肉だ。

 刃物が弱点とはいえ、うっかり一刀両断なんてことにはならないだろう。


 いくら敵とはいえ、半分仕事で戦っているような奴を殺す気は無い。

 俺が殺すのは、俺が守るべきものを傷つける敵だけだ。


 俺があいつを殺してしまう、なんてことは無い。

 むしろ俺があいつに殺されないか心配だ。

 近距離の戦いになるため、殴り殺される可能性がある。

 気を付けなければ。



「すーーー......はぁー」


 大きく深呼吸を一つ。

 乱れた呼吸を整えつつ納刀する。


 俺と鹿野津は、同時に地を蹴った。


 刀と義手が、『キン!』という金属音を立ててぶつかる。

 彼の力は強い。

 鹿野津の右腕一本の力を、俺は両手で振るう刀で何とか抑える。

 『キリキリ』と音を立てて刀が振るえるなか、鹿野津がもう一方の手で殴りかかってくる。

 それを体を動かして刀を両手で握ったまま肘で防ぐ。


 義手の打撃コースから俺の体がズレた。

 体を動かして鹿野津に近づく勢いをそのまま、『バコン!』と裏拳を顔面に入れる。


 が、鹿野津は「それがなんだ」という顔。

 さほど効いていないようだ。

 鹿野津の膝蹴りが来る。


 俺はそれをくらいはしたが、膝と腹の間に氷板を挟んでダメージを軽減。

 少し後方に飛んで、再度走り出す。

 その際、先ほどのような水粒の準備を左手で行う。


 彼に刀を振るう直前、指の間から水粒を一発。

 それを間一髪で避けて重心が傾いた鹿野津へ義手の無い左側から一刀。

 しかしそれも物凄いスピードの義手によって止められる。

 続いて左手での攻撃。


 俺はそれが腹に当たった瞬間に体を捻らせて横へと流す。

 そのまま捻ったことを利用して体を戻す反動で蹴り。

 その蹴りは、威力を上げるために氷でコーティングしてある。


 俺の蹴りは鹿野津の横腹に命中。

 鹿野津の重心が整っていなかったこともあり、彼は蹴り飛ばされる。

 だがそれほど遠くには飛ばないだろう。

 すぐに止まるはず。


 俺は彼の着地視点を先読みしてすかさず残りの水粒をまとめて発射。

 水粒は『ドゴン!』と音を立てて砂煙を巻き上げる。


 一発くらい当たったんじゃないか?


 そんな考えは、晴れる煙の中に立っている鹿野津を見て打ち砕かれる。

 あの様子じゃ、一発も当たっていない。


「なんだよそれ......」


 砂煙の中にいる彼の義手は薄く広がっており、盾のようになっていた。

 使い終わった盾はすーっと消えた。

 多分、俺の刀と同じ仕組みの細工が、あの義手の中に施されている。

 厄介だ。


 しかし見ての通り戦っているときは動きにくいのだろう盾を消している。

 だからその消している間がチャンスってわけだ。


 そんなわけで、俺が次の攻撃に移ろうとしていると......

 鹿野津が俺に向け、ゆっくりと義手を向けてきた。


「......何をするつもりだ」


 次の瞬間、俺の疑問を置き去りにして鹿野津の手が発射される。

 義手とワイヤーで繋がった手が、ヤバい速度で迫ってくる。


 俺はそれを何とか避けたのだが、その手は避けた俺の腕を掴んだ。

 飛んでくるだけじゃないのかよ。


 俺の腕を掴んだ手が、今度はまた凄いスピードで引き戻され始めた。

 まずい!


 俺を掴んだ手によって、いきなり鹿野津と近づかされた俺は体勢なんてめちゃくちゃだ。


『ドーン!』

「カハッ!」


 俺は鹿野津の打撃を避ける事が出来ず、まともにくらってしまった。

 氷板を挟んだのにも関わらず、それはいとも簡単に砕かれて彼の拳が俺の腹へと練り込んできて普通ではならない音がする。


 そのせいで俺はまたまた吹っ飛ばされる。

 だが何とか転がることは避けることができ、音を立てて両足でブレーキを掛ける。


「プェッ......

 何でもありだな、あの腕」


 俺は、腹から上がってくる血を吐き出した。


「これは、出し惜しみなんてしていられないな」


 あまりこの技は多用したくなかったのだが......


「玄名流奥義......」


 俺は刀を手で作った鞘に納刀し、体を低くして鹿野津を真っすぐ見る。

 そのまま深呼吸を一つ、速撃迅斬なみの速度で走り出す。

 だがこの技は速撃迅斬ではない。


 鹿野津の目の前で抜刀。

 刀を下段から中段へと振り上げる。


 しかしそれも鹿野津の突き出した義手によって防がれる。


 違う。

 この技は初見で防げるものじゃない。

 一撃必殺。


 鹿野津が殴って止めた刀は、ティッシュでも殴ったかのようにフワッと流れていき止まらない。

 そして俺はそのまま、鹿野津の脇下を通り抜けざまに斬りつける。


 それなりにあった距離を一瞬で詰め、一瞬で追い越して刀を振り抜いた。


「『流龍線』」


 鹿野津は動かない。

 ピタリと止まり、びくともしない。

 俺は納刀しながら振り返って彼を見る。


 鹿野津は銅像のように固まり、拳を振り抜いた姿勢のままだ。

 直後、彼のタンクトップが切れてムキムキの腹が現れる。

 その下には一本の線があり、そこから血が流れだす。


 だがその傷は浅い。

 それなりの量の血が流れだすってくらいの傷だ。


「むぅ......」


 鹿野津は固まっていた体を動かし、腹の傷を見ながら唸った。

 だが苦しそうにではない。何かを考えるように。


 マジかよ......

 一撃必殺。必ず殺す技だぞ......

 それ食らって普通にしてやがる。

 流石ムキムキマッチョメンだな。


 これマッチョ関係あるのか?

 ほぼ能力だぞ。


 ......ん?能力?

 そう言えば、こいつの能力ってなんだ。


「義手にも魔力を流す必要があったからあまりこれは使いたくなかったのだが......

 ......仕方がない」


 低い声でそう言った刹那、

 鹿野津はゆっくりと消え始めた。

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