第八十八話 『お客じん』
『二年四組、佐々木翔琉君
至急、校長室へ向かってください』
前にもこんな感じの放送が入ったことがある。
あの時は神様が来てたんだっけ。
今回もそんな感じか?
「あなた、何したの?」
あぁ、前にもこんな流れになった気がする。
お決まりなのか?この流れ。
お決まりなのかもしれない。
「何もしてないと思うんだけどな」
「あなたのことだから、無意識下で女の子を襲ったりしたんじゃないの?」
お前の中の俺は一体どうなってるんだ。
小夏に俺がどう見えているのか、少し怖いよ。
脳内を映像化して見せて欲しい。
小夏密着24時みたいな感じで。
「そんなことしてない」
とりあえず、否定。
俺はそんなことしていない。
俺はそんな事しない。
健全で純粋な男の子なんだよ。
......健全で純粋は言い過ぎかもしれない。
でも理性はどんな時でも保っている。
俺は冷静沈着なクールガイだぜ。
「してる人はみんなそう言うのよ」
してない人もみんなこう言うんだなぁ
どうしてこいつは俺のとこを変態犯罪者扱いするんだ。
俺は何もしていない。
それを、小夏はよく知ってるはずなんだけどなぁ
後ちょっとで半年って仲だぜ?
「はぁ......
じゃ、行ってくるよ」
「ええ、頑張ってね」
何を頑張れと言うんだ。
まぁよく分からないことはどうでもいい。
俺は教室を出た。
いざ校長室へ。
あの憎たらしい校長が待っている。
てなわけで、行きたくもない校長室へと向かい始めたのだが、
「師匠ぉぉぉぉお!
何やったんすかぁぁぁぁあ!」
面倒なのが来た。
てかあいつ、久々に見るな。
ついさっきまで面倒なやつの相手をしてたっていうのに、三上の相手もするなんて嫌だ。
俺は向かってくる自称俺の弟子をちょいと避けた。
「あれ......」
結果、三上は手を挙げた状態でピタリとフリーズしている。
俺はそれを無視して、歩き始める。
面倒事には関われないのが吉である。
で、俺は1人で歩いている訳だが......
周囲の変な奴を見るような視線をものすごく感じる。
しかしそれは俺に向けられたものじゃない。
そうでないと願いたい。
ではこの視線はどこに向けられているのか。
それは、俺の後ろでワイワイ言っているやつだ。
「何やったんすか!
ねっ、ねっ、何やったんすか!
師匠おぉ!」
鬱陶しい。
でもこれに「何もやってない」なんて言ったら「そんなわけないじゃないっすかぁ」とか言って、また面倒な会話になるんだろう。
「師匠?
これ、師匠俺が見えてないんじゃね?」
そんなわけないだろ。
「今なら師匠に一発......」
三上は嫌なニヤケ顔を作って腕をブイブイ動かしている。
「おりゃあ!」
こいつは俺から何を学んだのだろう。
俺が教えたことを全て無視したとびきり遅い拳が向かってくる。
まぁ、見えてないと思っているならスピードなんて関係ない、か。
俺は向かってくる軽く受け流し、三上を人のいない方へと投げ飛ばす。
三上のことだから、能力で無傷だろう。
だから放っておいても大丈夫だ。
てなわけで三上を無視して階段を下りるのだ。
「あっれ~?
見えてねぇはずなんだけどなぁ
どういう事なんだ?」
予想通り無傷の三上が謎の考察をしているのが聞こえる。
いつから俺にお前が見えてないことで確定したんだ。
見えてない訳ないだろ。
どうして無視されていると思わないんだよ。
まぁいいや。
変な考察に夢中で、三上は俺を追っていない。
どうせ、俺が校長室に呼ばれていた理由を聞きに来たってことなんて忘れてるんだろう。
邪魔者が居なくなって歩きやすくなった。
変な視線も向けられない。
元気よく歩けるね。
これから行く場所を考えるととても元気にはなれないのだが。
あの性悪校長に会うんだ。
むしろ憂鬱にもなるね。
「はぁ......」
校長室の前に着いた途端、大きなため息が出てきてしまった。
面倒だ。
呼び出しも無視して帰ろうかな。
「早く入りなさい」
どうしてバレた。
大きなため息のせいである。
中まで聞こえていたのか。
「失礼します」
俺はどうして呼ばれたのだろうか。
全く心当たりがない。
まぁしかし、どうせあの神様が来て俺を呼び出したんだろうと思う。
そういえば、神様に会うのも久しぶりだな。
少し話すとするか。
「ノックもできないんですか?君は」
お前が早く入れって言ったから早く入ったんだろ?
どうしてノックする必要がある。
じゃぁこの校長は「どうぞお入りください」と言われた部屋に、ノックをして入るのか?
入らないだろ。
それとも何?
俺、なにか変なこと言ってるか?
「まぁ、君でしたらそんなもんですか」
何こいつ。
めっちゃ馬鹿にしてくるんですけど。
なんなの「君でしたら」って。
上から目線にもほどがあるだろ。
この校長、俺への対応が前よりも酷くなってないか?
前は、感じ悪いぐらいだった気がするけど。
もうこれ以上話したくないとさえ思えてしまう。
早く本題に移ってほしい。
「君、本当に最強になったんですね」
そうなんだよね。
俺、最強なんだよね。
あんまり癪に障ることばかり言ってたらボコボコにしちゃうよ。
「本校から最強が出るのは本来であれば嬉しいはずなのですが、君が最強となると気に入らないものですね」
そういう事、言わなくても良くない?
ボコボコしちゃうよ?
ボコボコにしようかな。
黙らせちゃおっか。
「君にお客様がいらっしゃっている」
ああ、ようやく本題ね。
客ってのはどうせ神様なんだろ。
早く会わせろよ。
「まったく
面倒ごとばかり引き寄せてきますね......」
面倒ごと?
今日の客は面倒な奴なのか?
じゃぁ神様じゃないか。
......いや、神様かもしれない。
あいつたまに面倒だし。
闘校祭強制参加とかいい例だろ。
それにしても、校長室奥の扉が開かない。
客って、あそこから出てくるもんじゃないのか。
前回はそうだったよな。
早く神様を出せよ。
校長の顔なんてもう見たくないんだけど。
「なにボーっとしてるんですか
早くグラウンドの中心まで行きなさい」
なんでこんなに上から目線なの?
「なんで行かないんですか?」みたいな口調で言ってくる。
どこかに行けなんて言われてないんだから行かないだろ。
俺が悪いみたいに言わないでほしい。
そっちの伝達ミスだろ?
「早く!」
「ちっ......」
「舌打ちはよくないですよ」
なんなんだ、こいつ。
いつか殴る。
フラストレーション爆上げだよ。
まったく......
でもまぁ、俺の客という人には当たらないようにしよう。
当たってもしょうがない。
てか、結果的にグラウンドに行くなら校長室行かなくてよかったじゃん。
最初から放送でグラウンドに呼びつけてもらってね。
そうしたらあのレベルアップした校長と関わらなくて済んだのに。
まぁ、そうは言っても放送部は悪くない。
彼らは伝えてくれと言われたことを放送しただけ。
悪いの全部校長だ。
校長が、俺を一度校長室へと呼んだのが悪い。
ん?
校長はわざわざ俺を校長室へと呼んだのか。
なんで?
もしかして、俺に会いたかったのか?
ヤダも〜校長の恥ずかしがり屋さん。
んなわけねぇよ。
そんなことあってたまるか気持ち悪い。
あの性悪ジジイに実は気に入られているだなんて、考えるだけでおぞましい。
おっと吐き気が。
拒絶反応かね。
とまぁそんな感じで、校長への愚痴を心中で並べながら昇降口へと向かっているのだが、どうも廊下にいる生徒が少ない。
いつもなら廊下でだべっている人がそれなりにいるはずなのに、今は何故かほとんどいない。
皆教室に入ってしまっている。
グラウンドに神様がいるから一目見ようと窓に張り付いているんだろうか。
それなら窓からじゃなくて外に出て見ればいいのに。
ま、その辺は彼らの勝手か。
近づくなんておこがましいなんて思ってるのかもしれないしな。
俺には関係ないことだ。
グラウンドへと急ごう。
てなわけで到着したのだが、そこにいたのは神様じゃなかった。
それどころか、俺が知っている人でもない。
少しダボ着いた長ズボンにタンクトップ。
岩のようなムキムキボディー。
いかつい顔の男。
腰に携えた短剣。
そして、何よりも特徴的なのがメカメカしい黒い右腕。
義手、か。
「やっと来たか......」
彼は後ろ向きで、俺を見ないままそう言った。
真っ黒な義手が際立たせる不気味さが、不安を煽る。
こいつは、嫌な予感がする。
「俺は鹿野津天明」
彼は振り向きながら太い声を出した。
地声が低いのだ。
それにもまた若干の恐怖心が湧く。
それいかつい名前。
ぴったりだな。
いやいや、そんな事言っている場合じゃない。
これはヤバい状況かもしれない。
その勘は当たっていた。
彼の次の言葉に、俺は息を飲むことになる。
「東の最強だ」
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「いかがだったでしょうか」
翔琉が校長室を出て行き少しして、校長は部屋の奥にある扉に向かってそう言った。
その扉は校長の言葉に答えるように『カチャ』と音を立てて開いた。
「そうだねぇ......」
そう言って扉の向こうから出てきたのは神様だ。
あの校長室には、神様で居たのだ。
そこに神様が居た理由。
それは校長に呼ばれたからである。
普段なら、呼ばれたくらいで神様は動かない。
しかし、あまりにも校長がしつこく呼ぶものだから仕方なく学校を訪れたのだ。
校長が神様を学校に呼んだ理由はこう。
佐々木翔琉に、最強を辞めさせる。
基本的に、他国の最強以外に負けそれを公表されれば最強の座を譲らなければならない。
実際、翔琉は最強になってから一度負けている。
だが未だに最強を続けている。
どういう訳か、ネオは自分の勝利を公表していないのだ。
しかし、あの日の校舎裏での出来事を知っているのは、神様を除いてネオと翔琉だけ。
校長はそんなの知るはずもない。
だからこそ校長は神様をここに呼んだのだ。
彼の負けを知らないのなら別の手で。
神様に、翔琉が最強の器ではないと思わせる。
翔琉を最強と定めたのが神様であるなのら、辞めさせることもできるかもしれない。
校長はそう考えたのだ。
本来なら、自分の学校から最強が生まれるのは願ってもないこと。
しかし今回だけはそうでは無い。
序列2位が最強だなんて聞いたことがない。
苦情もいくつか入ってきている。
その対応が、今でも続いているのだ。
しかもその最強が、自分の気に入らない佐々木翔琉ときた。
そんな理由から、校長は翔琉が最強であるのを一刻も早く終わらせたいのだ。
てなわけで今日、実際に見てもらい翔琉が最強にふさわしくないというところを見せようとしたわけだ。
が、
「うん
彼は最強のままでいい」
「どうしてですか!?」
校長には分からない。
あのいけ好かない生徒が、どうしてここまで神様に好かれているのか。
これっぽっちも分からない。
「なんでって、見たままだろ?」
神様は苦笑しながら、当然のように答える。
これもまた校長には分からない。
見たままとか言われても、校長からすればどれだけ見ても翔琉はいけ好かないままだ。
「分かりません!
あのような態度の悪い序列2位が最強だなんて納得しかねます
それに、彼が最強でいるせいで苦情が入っ―――」
「態度なら、君の方が悪いと思うけどね」
校長の熱弁は、神様の笑い混じりの言葉でかき消される。
「だってそうだろう?
他の生徒には優しい君が、気に入らないという理由だけで翔琉君には強く当たる
校長として、平等さに欠けるんじゃないかな?」
校長個人としては気に入らない言葉だが、何も言えない。
神様の言っていることは、何も間違っていないから。
「君を校長にしたのは失敗だったかな?」
神様の一言に、校長は血の気が引くのを感じる。
冷や汗が止まらなくなる。
「い、いえ、そんなことありません
私は校長として上手くやっていけるはずです
実際、このように学校も問題なく動いております」
校長は焦っている。
ここで失敗すれば、彼は職を失うから。
なんだかんだ言って、校長は今の職と地位に満足している。
それなりの給料が出るからだ。
今の状況から、引きずり下ろされる訳にはいかない。
それならば、面倒事を続けていた方がよっぽどマシだ。
「そうか」
神様は淡白は声色でそういった。
それは決して否定ではない。
その事実に、校長は心の中で胸を撫で下ろした。
「で、君の言い分はなんだったっけ?」
神様は卑怯だ。
クビをチラつかされた状態では、校長も好き放題は言えないだろう。
神様の機嫌を窺いつつ、ことを進めていかなければならない。
今までよりも一層慎重にならなければ。
「校内序列2位の彼が、国の最強であり続けるのは少々引っ掛かりがあると言いますか......
実際に、疑問の声も多く寄せられていますし......」
「で?」
神様の次を求める声が恐ろしい。
文末を曖昧にしたのが良くなかった。
「彼は最強には向いていないのではないかと」
校長は意を決した。
神様の逆鱗に触れるかもしれないとは思ったが、言うしかなかったのだ。
神様が結論を求めていたから。
「強者たる力すらも持たない君が、何を言っているんだ?」
神様は薄く笑っていたが、その目は笑っていない。
威圧を与える、大きく見開かれた目だ。
「あの子の強さも感じ取れないような君が、最強についてグダグダ言わないでもらいたいね」
どうやら、神様の機嫌を損ねてしまったようだ。
校長はクビを覚悟した。
が、
「君には分からないだろうね」
神様はすぐ笑顔に戻った。
その後校長のもとから離れ、話しながら窓際へと歩く。
そしてグラウンドにいる二人を見ながら、楽しそうな悪い笑顔を作って言った。
「彼はまだ、いろいろ隠しているよ」




