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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第八章 『夏休み』
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第八十五話 『姉妹』

 神暦1808年、4月13日。

 北方神国住神地区に、1人の女の子が生まれた。

 元気でわんわん泣いている女の子。

 その女の子は矢野小夏と名付けられた。

 私である。


 私が生まれてすぐのこと。

 父の浮気が発覚し、両親は離婚。

 しかしすぐに違う男と再婚した。

 それによって、私の苗字は遠坂となった。


 その1年後。

 妹が生まれた。

 妹の名は雪音。


 2人の赤ん坊は両親共に愛され、健やかに育っていった。

 その出来事は、私が物心着く前の話。

 ()()()、の話である。

 当然、私はそんなこと覚えていない。


 物心つき始めた頃。

 言われてみれば、最初の方は父も優しかった気がする。

 だがそれも最初の方だけ。

 時間が経つにつれて、父の態度が変化していった。


 無視するようになってきたのだ。

 しかも私にだけ。

 自分の実の子供である、雪音には優しくしていた。


 それも厄介なことに、私を無視するのは母がいない時だけ。

 母が家にいる時は、私の相手もしてくれるのだ。


 けど、私はそんな父に、母の前でだけ優しくされるのがとても嫌だった。

 私は父から距離をとるようになった。


 母は銀行員。

 父は作家。


 両親の仕事がそんなせいで、母だけが家にいない日が続いた。


 父が私を避け、私も父を避ける。

 そのせいで、父と私の距離はみるみるうちに離れていった。


 挙げ句の果てには、お昼ご飯さえも、私の分だけ無くなったのだ。

 私の分だけ作らずに、自分に作った昼食を食べるユキを見て幸せそうな顔をしている。

 「美味しいかい?」なんて、吐き気のする声まで出して話しかけている。


 それを母に言っても、何故か信じて貰えない。


「どうして小夏はお父さんが嫌いなのかしら」


 と言って父に相談している。


 その言葉を受け「どうしてだろうねぇ」とか言って、本気で悩んでいる振りをする父が気持ち悪かった。


 そんな生活を続けていたせいか、明るくわんぱくな遠坂小夏は、姿を消した。

 小学校を卒業する頃には、誰も寄せ付けない常に不機嫌そうな女子になっていた。


 『氷の女王』なんて言われていた気がする。


「おねぇちゃん」


 そんな私の癒し。

 唯一の癒しがユキだった。


 ユキは父に優しくされていても、極力その優しさを拒絶していた。

 父親を諭そうとしていた。

 父がクズだと言うことを理解していたのだ。

 そのうえで、更生させようとした。


 極力というのは、父の機嫌を損なわないように、ということだ。

 あの父親は、機嫌を損ねると私に当たってきた。

 ユキはそれを知っているから、拒絶するのは極力なのだ。


 普通それくらいの子供なら、自分に良くしてくれる人はいい人だと勘違いしてもおかしくない。

 しかし、ユキは頭が良かった。

 だから、私の置かれている状況を把握し、優しくしてくれる父とではなく、冷たくなった私と積極的に遊んでくれるのだ。

 とても優しい、自慢の妹だ。


 しかしまた面倒なことに、それを父が気に入るはずもない。

 雪音の言葉は、何一つ父には届かない。


 父は私の唯一の癒しさえ、私から遠ざけようとしてくる。


 私が暴力的で危ないとか、素行の悪い不良だとか。

 そんな適当な嘘ばかり並べて、私にユキを近づけないようにしている。

 ありがたいことに、その嘘にユキは振り回されない。


 信じないユキに悪戦苦闘している父を見ていると、なんとも胸糞悪いし気持ち悪い。


 そんな境遇の私を見ながら育ってきたユキも、少し変わってしまった。

 明るくて優しいユキが、大人しくて優しいユキになったのだ。

 何事に対しても1歩引いたところにいるような、奥手な少女になった。


 これも、あのクズ男のせいだ。


 私は1度、怒って父に殴りかかったことがある。

 しかし、当時の私は小学生。

 とても大人の男の人には勝てない。


 今まで唯一暴力だけはしてこなかった父が、反発する私を暴力で黙らせた。

 ちょうど服に隠れる場所を狙って殴り蹴られ、アザだらけになったのを覚えている。



 私が中学1年の時、すなわちユキが小学6年生の時、ユキの能力が発覚した。

 「始まり」があるものを終わらせる能力『終末』


 その能力の発覚だけなら良かった。

 ユキのクラスのうち1人が、「人の命も終わらせられるんじゃ」なんてことを言ったそうだ。


 ユキは、たとえそれができても絶対にしない。

 それなのにユキのクラスメイトは皆、必要以上にユキを怖がり始めた。

 大人しくて優しいユキが、恐怖の対象になったのだ。


 ここでも父はクズ男っぷりを発揮した。

 今まで散々可愛がっていたユキを、怖がり始めたのだ。

 実の娘をだ。


 前々より、早くユキから離れろとは思っていたが、こんな離れ方はして欲しくなかった。

 ユキを傷つけるような離れ方だけは。


 クズ男はいつまでたってもクズなのだと、怒りを通り越しただただ無になった。


 あの男にとって恐怖の対象である娘と、嫌っている私。

 そんな私たちとは一緒に居たくないのか、あの男は頻繁に外出するようになった。


 ユキが大変な思いをしている中、私は「いらない奴がいなくなった」と、少し安心してしまった。


 ユキには、私がついてあげていれば大丈夫。

 私が全力でユキを支えてあげようと、そう決心した。


 そんな日々を過ごしていると、あの男から嫌がらせを受けるようになった。


「雪音ちゃんがあんなふうになったのはお前のせいだ」とか、「雪音ちゃんがあんな能力を持ってしまったのはお前のせいだ」とか、根拠もなく全てを私のせいにしてきた。


 しかし、私としてはそんなに気になることではない。

 嫌がらせと言っても、今までの態度も嫌がらせみたいな感じだったし、特別になることでもないのだ。


 ユキがクラスメイトとあの男から除け者にされ、私があの男から嫌がらせを受け初めて翌年、つまり今から3年前。

 ある大きな事件が起こった。


 この北方神国住神地区と周辺地域をザワめかせる大きな事件。

 当時出現していたダンジョンから、魔人が出てきたというのだ。


 既にいくつかの被害が出ていて、魔人の脅威レベルは中級らしい。

 中級と言うと、丘の上中学高等学校の十強に匹敵する強さである。


 学校は休みになり、自宅待機を強いられた。

 家から出なければ、基本的には安全。

 元は人間とはいえ、魔獣化したことで知性が無くなっている。

 何かを追って家に入ってくるなんてことは無いのだ。


 私達が自宅待機をしている頃、十強の人達が魔人を退治しに向かっていることだろう。


 私達姉妹は、仕事に行った母を心配しつつ、家で2人遊んでいた。

 父は当然のように外出している。


 中学生2人。

 家にいれば基本的には安全なのだから、学校が休みになってちょっと嬉しいくらいに思っていた。


 私はユキと話をしていた。

 そんな時、玄関を開ける音がした。


 母が仕事から帰ってきた。

 そう思った。


 いくら安全とはいえ、外が危険な状態で家に子供だけという状況は心細い。

 私達姉妹は帰ってきたであろう母を揃って迎えに行った。


 しかし、帰ってきたのは母ではなかった。

 あの男だ。

 楽しい時間が終わった。

 大人しくしていようと、そう思った。


 が、どうもあの男の様子がおかしい。

 いつもなら帰ってきて早々、私に暴言を吐いて来るのだが、今日はそれがない。

 それどころが、ぐったりとしている。


 何か、不運なことにでも会ったのだろうか。

 ざまぁ見あがれ。


「「ん?」」


 私とユキは、同時に気づいた。

 あの男から、普通ではない量の魔力が零れ出していた。


 力の無い佇まい。

 魔力の異常放出。


 頭の悪い私でもすぐに理解出来た。

 ユキはもっと早くから理解しただろう。


 魔人の正体は、父だったのだ。


 もともと父とは思っていなかった男が、魔人になって帰って来た。

 それを恐れないはずがない。


 立ち向かっても意味がない。

 勝てるはずがない。

 十強の人達が、私の家まで魔人を倒しに来るとも思えない。


 魔人は中級。

 私の能力は『発光』

 ユキは能力を使うのがトラウマ。

 助けが来ない。


 魔人(あの男)がすぐそこまで来た。

 手を振り上げ、汚いよだれを垂らしながら大きく口を開ける。


 死んだ。

 そう思った。

 魔人の手に付いた誰かの血が、さらに私たちをそう思わせた。


 切り裂かれ引きちぎられ、生きたまま食べられるんだ。


「ユキ!」


 私はせめて、ユキだけでも守ろうとユキに覆いかぶさった。

 こんなことしても、私が殺された後にユキも殺される。


 そんなことは分かっていた。

 しかし、最後にほんの少しでもユキを守りたかった。


 そうだ、窓からユキを外に出そう。

 そうすれば、可能性は低くても助かるかもしれない。


「ユキ、あなたは窓から逃げて」


 私は迫りくる魔人を背に、ユキにそう言った。

 しかし、優しいユキが私を置いていけるはずもない。


「やだ!

 お姉ちゃん!」


 ユキらしからぬ言葉になってない言葉だったが、ユキがどんな気持ちなのかは分かった。

 「私だけ逃げるなんてことはできない」ということを言いたいのだろう。

 それはユキらしい。


「逃げて!」


 私はそう叫んで、ユキを窓へと突き飛ばした。

 それでもユキは逃げようとしない。

 私は窓まで行って、ユキを外に押し出そうとした。


 その時―――


『バリン!』


 大きな音を立てて窓ガラスが砕け散った。

 飛び散る破片で、頬や腕を切った。

 でも私は、その光景を目を見開いて見ていた。


 窓を割ったのは高校生くらいの見た目のイケメン。

 長髪を一つに束ねた男の人。

 北方紳様だった。


 神様はソニックブームを作りながら魔人へと走り、魔人の頭を掴んで床へと叩きつけた。

 『ドン』なんて鈍い音はしない。

 『ドゴン』という轟音を轟かせ、家の床を割った。


 神様は拳を振り上げた。

 白く光った拳が、魔人の頭を潰して大きな衝撃を生んだ。

 その衝撃は、すぐそこで大きな爆発が起こったのではと思えるような衝撃だった。

 割れた木片と魔人の血が飛び散った。


 衝撃がまだ止んでいない頃、神様は立ち上がり、返り血の付いた顔を手で拭った。


「大丈夫だったかい?」


 優しく笑って声をかけてくれる神様は、まさしく神様だった。

 そんな神様に、憧れ恋慕っているのは、私だけの話。



 ―――佐々木翔琉視点―――



「とまぁそんな感じよ」


 俺は小夏の話を、ただ静かに聞いていた。

 俺は小夏の話に、どう反応していいのか分からない。


 寄り添えばいいのか、軽い気持ちで同情するべきでは無いのか。

 分からない。

 俺が分からないまま押し黙っていると、


「別に、同情して欲しくてこの話をしたわけじゃないわ

 ただ、ユキについて知っておいて欲しかったのよ

 ユキは、今までしんどい人生を送ってきているから」


 小夏はそう言った。

 あの話は、妹を思っての事だったらしい。


 しかし小夏はそう言っても、俺としてはあの話、より辛いのは小夏な気がする。


「大変だったんだな」

「そうね

 大変だったでしょうね」


 俺は小夏に言ったつもりだったが、彼女はユキちゃんに言ったものだと思ったらしい。


「でもね、

 私もユキも、今が結構楽しいの

 これからも、仲良くしてあげてちょうだい」

「ああ」


 こいつ、本当にいいお姉ちゃんしてるんだな。

 自分の境遇を差し置いて、ここまで妹のために何かをするのは、普通じゃできないと思う。


「でも、私はあなたが嫌いよ!」


 小夏は俺を指さした。


「へっ、そうかよ」


 本当に嫌いな奴には、こんな話しないだろう。

 小夏はそういうやつだ。


「ええ、そうよ」


 俺達は静かな川のほとりで笑った。


「あっ

 お姉ちゃんと先輩が仲良さそうにしてる」

「笑わせないで

 こんなのと仲が良いわけないでしょ」


 いつも通り俺にだけ毒舌な小夏は、後ろから近づいていていたユキちゃんの方へと振り返った。


「そんなこと言っちゃダメだよ」


 ユキちゃんの小言に、小夏は「でも」と反論している。

 そこに険悪なムードなどは全くなく、柔らかい空気が流れている。


 仲の良い姉妹っぷりを見せつけてくれる。

 まぁ、俺と宙も負けてないけどね。


「おはよう、ユキちゃん」


 そんなことで競い合ってもしょうがない。

 とりあえず朝一番。

 起きてきたのだからおはようだ。


「はい、おはようございます!」

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