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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第八章 『夏休み』
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第八十四話 『手作り温泉』

 キャンプをしたのは今回が初めてだが、キャンプというものはあまり風呂に入らないイメージがある。入っているとしてもドラム缶のイメージだ。

 俺はちゃんとした風呂に入りたい。


 これは俺だけの意見でなく、全員一致の意見である。

 しかし、こんな山の間を通る川のほとりに、風呂なんてあるわけが無い。


 風呂がないなら、作ってしまえばいいじゃない。


 てなわけで能力の出番だ。

 俺が『統水』でお湯を作り出し、哉が『統岩』で浴槽と覗き見防止の壁を作る。


 立派な温泉の出来上がりだ。

 本日のメンバー全員がご満悦。

 文句なしの風呂である。


 現在、女子軍がワイワイキャッキャと手作り温泉を楽しんでいる。

 いや、ワイワイキャッキャはしてないな。言いすぎた。

 楽しそうに話している声は聞こえるが、比較的大人しく入浴を楽しんでいる。


 で、そんな完璧と思える温泉にも、とある欠点がある。

 その欠点の原因となったのが俺達、もとい哉である。

 風呂として完璧に機能しているのに、風呂としては致命的な欠点。


 作ったのが俺達という部分がいけなかった。

 要は、男が作ったという部分が欠点なのだ。


「カケ、あそこを見ろ」


 哉は小声で話を初め、風呂の方を指さした。

 10mほど先のものを指さされても、こっちからするとよく分からないのだが......

 まぁいい、多分あのへんだろう。


 俺は哉が指さしたであろう場所、温泉の外壁端に目をやった。


「あそこに穴を開けておいた

 中からその穴は見つけにくくしてある

 早く行こうぜ」


 どうやら、温泉の建築士はとても優秀らしい。

 なんとも優秀だ。

 中で何かがあった時のため、中の様子が外から分かるようになっているのだと。

 なら、是非とも彼女らの安否を確認したいものだ。


 建築ミスにすらも使い道を見出している。

 と言っても、意図的なミスだが。


「そんなことして大丈夫なのか?

 バレたら大変なことになるぞ」


 そう、とても優秀な面白建築だが、雷対策ができていないのだ。

 この建築士が作り出したトリックを使うことで、雷に打たれる可能性がある。

 雷だけで済めばいいのだが......


「大丈夫だって

 バレなきゃいいんだよ」


 いやいや、そうは言ってもだな。


「俺達、気配を消すのとかできるだろ」


 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 戦闘のために高めたステレススキル。

 今この時に使わない手はない。


「行くか」


 俺は哉の意見に賛同した。


「よし、じゃぁ静かに近づくぞ」


 俺たちは忍び足で温泉の外壁へと近づき、あとはジェスチャーでやり取りをする。


『絶対に音は立てるなよ』

『分かっている』

『最初は俺から見る』

『了解だ』


 ジェスチャーをし終わったあと、哉はゆっくりと穴を覗き込んだ。

 健闘を祈る。


「うわぁぁぁあ!」


 途端、哉が後方へと尻もちを着いて驚いた。


 何があったのですか。

 緊急事態でありますか。教官。


「その目と声......

 カヅ君ね」


 壁の向こうから聞こえてきたのは、三葉さんの声だった。

 メーデー、作戦失敗。

 哉には悪いが、俺は退避させてもらう。


「伽月がそこにいるってことは、翔琉もそこにいるわよね」

「翔琉先輩!そこにいるんですか!」


 三葉さんの次に聞こえてきたのは、小夏と穂香だ。

 小夏は冷めた声、穂香は何故か嬉しそうな声。

 2人の口調は大きく違うが俺の所在を確認するという内容であることには違いない。


「......」


 俺は黙っていた。

 壁を1枚挟んだこっち側。

 哉が作った穴からも死角の位置だ。


 音を立てなければ、バレることなんてそうそうない。

 悪いな哉。

 俺は逃げきらせてもらう。


「穂香ちゃん、『天眼』を使って」

「分かりました!」


 あ、ちょっと待って。

 それはまずい。

 『天眼』はずるい。


「いました!」


 とても元気な報告ですこと。

 大事な報告は、ちゃんと伝わるようハキハキと話すのは大切ですよね。

 良い心がけですぞ。


「あなたたち、後で私の所に来なさい」


 でも、その報告はしないで欲しかったなぁ


 小夏の冷たい声は、俺と哉の体温を奪っていった。


「翔琉先輩!

 お説教が終わったら、後で一緒に入りましょう!

 そして子供を───」


 どうやら欲求不満だと思われたらしい。

 いや、穂香だったらいつでもそう言うか。



 ちなみに、女子軍は最初から穴に警戒していたらしい。

 なんでも、作ったのが俺と哉だからだそうだ。

 既にお見通しってやつか。流石だな。

 よくわかってんじゃねぇか。


 そんなわけで俺達は、ゴツゴツゴロゴロした石の上で30分以上お説教をくらったのである。

 いや、あれはお説教と言えるようなものではなかった。

 小夏の罵倒30分コースだ。

 それはもうキツかった。


 小夏の罵倒タイムが終わって少しして、穂香が俺の元へとやってきた。


「翔琉先輩、小夏先輩の話も終わったみたいですし、さっそく一緒に入りましょう!」


 とんでもないことを言い出した。

 まさか、さっき壁越しに言っていたのが本気だったとは。


「そうだな、入るか」


 俺は軽い冗談のつもりでそう言った。

 本当に一緒に入る流れになったら「やっぱりやめとく」と断るつもりで。


「えっ、やっ、ちょっ......えっ?」


 俺の言葉が予想外だったのか、いつもの敬語が外れるくらい穂香は動揺しだした。

 まぁ、俺も普段はこんなこと言わないしな。


 それにしても、穂香の顔はゆでダコのように赤くなっている。

 自分から言い出したくせにその反応とはな。


「冗談だ」

「えっ、あっ、そうですよね

 びっくりしましたよ」


 俺もお前の反応にびっくりしたよ。

 調子でも悪いのかな。


「で、では、女の子達の残り湯でゆっくりして行ってください」


 なんだ、絶好調じゃないか。



 ---



 で、今は男二人で温泉に入っているわけだが、我ながらとてもいい温泉が作れたと思う。

 そのへんで拾った丁度良い大きさの石が嵌まった穴がなければ完璧だ。


 もうあんなくだらないことで怒られるのはごめんだな。


 てか哉のやつ、「中から穴は見つけにくく」とか言ってたが、あるとわかっていればすぐに見つけられるレベルだぞ、あれ。


 こいつ、物隠すの下手そうだな。

 エロ本とか、すぐ彼女に見つかって怒られてるんじゃないか?


 俺たちを叱りつけていたさっきの三葉さんの口調から察するに、哉のああいう行動はこれまでも結構あったらしい。


 風呂に入っている三葉さんを覗いたこともあったそうだ。

 なんともけしから......羨ましい。


 やろうと思えば、うちには宙がいるので出来なくはないが、妹の裸を見てもどうも思わない。

 本気で殴られて、数日間口も聞いてくれなくなるだろう。

 メリットなんて一つも無い。

 むしろデメリットしかない。


 そんなこと誰が好き好んでやるものか。

 ちゃんと、殴られて数日間口も聞いてくれないのと同等のメリットがなければ。


 何考えてんだろう、俺......

 本当にくだらないことを考えていたな。


  「あんなダメ人間、死んだってなんの問題も......」


 俺が1度何も考えないようにした途端、小夏の言葉が頭の中で再生された。


 あいつ、いつも平気そうな雰囲気出してるけど、結構辛いんじゃないか?

 でも、遠坂家について聞く訳にもいかなさそうだし、どうしたら良いのだろうか。


「なぁカケ

 作ってから結構なるのに、お湯全然冷めてねぇぞ

 すげぇなお前の能力」


 俺の心中なんて知るはずもない哉は、そこそこ広い湯船の中で泳ぎながらそう言った。

 怒られてしょぼくれていた哉はもう居ない。


 ちょっと前までも泳いでたのに、ここでも泳ぐのか。

 元気だな。


 てか、めっちゃ冷めてたよ。

 俺がさっき入れ直したんだよ。

 能力で作ったお湯がすごいわけないだろ。


「だろ」


 だが、そんなことを訂正するのもめんどくさいので、適当に流しておく。


「いやでも、シャワーとかは流石に作れなかったんだな」


 あんなの、作れるわけない。

 あれはノズルに水魔法陣が組み込まれているからできること。

 要は、使用者の魔力でお湯を出すのだ。


 俺はそんなに有能じゃない。

 もし俺の能力であれをしようとしたら。

 シャワーをいつ使うのかと、それこそ裸の女の子をじっくり見ておかなければならない。


 最高の仕事だが、ごめんだね。

 未遂であれだけ怒られたんだ。

 実際に見ていたらどうなっていたことか。

 考えるだけでも恐ろしい。


 少なくとも、顔に凹みが2~3個できるだろう。


「シャワーはちょっと難しいな」

「そうなのかぁ」


 そんな訳なので、今哉に対してならシャワーっぽいものを作ることができる。

 だが、面倒なのでそのことは話さない。


 だってあれじゃん。

 出来るなんて話したら、哉の奴絶対やれって言うもん。

 そんな面倒なことしたくないよ。


「お前さ、あの中で好きなやつとかいんの?」


 突然、哉がそんなことを聞いてきた。

 何食わぬ顔で。


 話ぶった切るじゃん。

 急に話が変わってびっくりしたぞ。

 思わず「えっ」という声が出た。


「おっ

 動揺してるな

 ってことはあの中にお前の好きな奴がいるのか」


 哉がニヤニヤしだした。


「いや、いないよ」


 俺は「いない」と、そう言ったのだが、哉は相変わらずニヤニヤしながら「またまたぁ」とか言っている。

 正直に言ってウザい。


「いないって言ってるだろ」

「隠さなくてもいいんだぞ」


 しつこいな。


「じゃぁ宙だ」


 そうだなあの中では宙が一番だ。

 宙が唯一である。無二である。


 しかし哉は微妙な顔をした。


「そういうことじゃなくてだな......

 まぁいっか」


 納得は言っていないが、諦めてくれたみたいだ。

 異性として好きな奴か......

 考えたこともなかったな。


 誰なんだろうな。


「あの子も、これじゃぁ報われないな......」


 哉はボソッと呟いた。

 本来なら俺に聞こえないような声で。


 あの子?

 誰のことを言っているんだろうか。

 穂香の事かな。


 まぁ、穂香の可能性が一番高いだろうな。

 本当にありがたいことに、俺は穂香に好かれているらしいしな。

 俺のこの態度で報われないとなると彼女だろう。


 俺が湯に肩までつかりながら考えていると、哉は音を立てて湯船から出た。

 そして、桶を使って体を洗い始めた。


 俺もそうするか。


「今日のキャンプ、楽しかったな」


 そう言った哉は、ニカッとしたいい笑顔だった。


「そうだな」


 まぁ、いろいろあったが楽しいキャンプだった。

 後は寝るだけだ。

 こうして一日、皆といるのは初めてかもしれないな。



 ---



 新しい朝が来た。

 希望の朝だ。


 テント越しに差し込む光が、一日の始まりを告げる。


 目を開けると、そこにはくい持ちよさそうに寝る男。

 これが女の子なら、最高なんだけどな。

 これが女の子なら、早朝から幸せいっぱいなんだろう。


 まぁいいや。

 完全に目が覚めたせいで、もう一度寝られる気がしない。

 てなわけで俺は哉を起こさないようにテントから出る。

 まぁ、今まで二度寝とかしたことないんだがな。


 したくてもできないのだ。

 俺は寝起きが良すぎる。

 一回起きるとお目目ぱっちり。

 眠気なんかすっかりなくなってしまう。

 二度寝する気も起きないのだ。


 よく聞く話だが、二度寝は最高だという。

 俺もその最高を知ってみたいものだ。

 無理矢理二度寝することはできる。

 だが、そんな二度寝のどこがいいんだというんだ。


 テントの外に出ると、朝の光が川に反射していて、幻想的ともいえる風景が広がっていた。

 とても、昨日までと同じ場所とは思えないほどの違いようだ。

 これも感じ方の問題だがな。


 他の奴らを起こすわけにもいかないので模擬戦もできない。

 あれは結構音が出る。


 だとしたら、今できる事とはなんだろうか。

 ランニングとか筋トレとかか。

 そうだな。

 その辺なら、寝ている奴の迷惑にはならなさそうだ。


「あなた、起きるの早いのね」


 俺が今から走ろうとしていた時、背後から声が聞こえた。


「ああ、おはよう

 お前も早いんだな」

「ええ」


 俺の後ろから声をかけたのは小夏だった。


「まだ、だれも起きてこないわね」

「そうだな」


 とても静かな川のほとりで、たった二人。

 会話が無くなってしまった。

 気まずい。


 こいつと二人で会話が無くなると、どうも気まずい。

 これは最初に合った時から変わらないな。


「ねぇ......」


 その沈黙を破ったのはいつも通り小夏だ。

 彼女は少し、何かを決心したような顔をしていた。

 

「私たち姉妹のことについて、少し話を聞いてくれるかしら」

「どうせ強制なんだろ?」


 こいつの話はいつも強制だ。

 多分、これについても


「いえ、この話は強制じゃないわ

 私たちの父親の話よ

 聞くか聞かないかわは、あなたが決めなさい」


 静かな口調で、小夏は落ち着いて見せた。

 しかし、どこか辛そうだ。


 辛いことは言わせないようにしたいが、そこまでして話そうとしてくれていることだ。

 結構重要な話かもしれない。


「聞くよ」

「そう

 ありがとう」


 そうして、俺たち以外誰もいない幻想的な早朝。

 小夏は静かに、ゆっくりと話し始めた。

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