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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第八章 『夏休み』
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第八十一話 『夏だ。海だ。山だ。』

 諸君らは、『夏休み』というものをご存知だろうか。

 なんでも、学生に与えられる長期休みだそうだ。

 一学期を乗り越えた者に与えられる特権だね。


 俺もかつて、それを与えられていたらしいが、不登校であったためいつからいつまでが夏休みだったのかさっぱりだ。

 学校に行っていた頃は夏休みを楽しみにしていた気がするが、何せ最後に学校に行ったのが小3の頃なのでほとんど覚えていない。


 てなわけで、今年の俺は夏休み初体験と言っても過言ではない。


 そんな夏休みが、明日からやってくると言う。

 楽しみだ。

 明日ある終業式を抜きにして、明日がめちゃくちゃ楽しみだ。


 明日の終業式では『夏休みの過ごし方』とかいう、校長先生のありがたい話が聞けるという。

 正直、聞きたくもない。面倒だ。


 しかし、そんな面倒なことが待っていても明日が楽しみだ。

 明日というより、夏休みが楽しみだ。


 だが俺はキャラ上「夏休みだー!!」とか言ってはしゃぐやつではない。

 静かに盛り上がるとしよう。


 別に、キャラ付けを徹底している訳では無いのだが、いつも大人しいやつがいきなり騒ぎ始めたらヤバい奴みたいに思われるかもしれない。

 俺は大人しいキャラなのだ。


 俺は心の中うるさい系男子。

 1人で盛り上がるのは得意だ。

 任せとけ。


 見ると、クラスの全員が『夏休み』という単語に心踊らせているようだ。

 哉を筆頭にしたクラスの中心人物たちは、夏休みどこかに行こうと楽しげに話している。


 俺は夏休み自体を楽しみにしているが、彼らは夏休みに何かをすることを楽しみにしているようだ。

 でもせっかくの長期休み。

 1回くらいはどこかに行きたいな。



 ---



 夏だ! 海だ! 水着だ!!


 そう。

 夏と言えば海。


 よくアニメとかで見たものだ。

 夏休みの海を舞台にした水着イベント。

 あれは良い。


 女の子と海に行けば、波やらタコやらに水着を持っていかれてしまってあら大変。

 あんなところやこんなところが見えちゃうわけだ。


 幸い、俺の知り合いには女の子が多い。

 てことはわかるだろ?

 男として、そういったイベントは逃せない。

 いざ海へ!



 残念。

 この世界に海はない。

 結界で囲われているため、海へと行くことすら出来ない。


 いや、行こうと思えば行けるのだろうが、結界を出たら最後、戻ってくることは無いだろう。

 外には魔物がうじゃうじゃしている。

 言葉の通じない獣が、女の子達を襲うのだ。

 性的な意味ではない。食的な意味だ。


 水着の下ではなく、皮膚の下が見えてしまう。

 そんなの見たくない。


 あっでも、ゴブリンとかなら食べられることは無いかもしれない。

 女の子は食べられるかもしれないが。

 それはそれで嫌だな。


 てなわけで、海は無しだ。


 夏と言えば海か山か、なんて言う論争をたまに聞くが、この世界では山一択である。

 山にも魔物は出るが、結界の外ほどではないだろう。

 遭遇率で言うと、野生の熊と同じくらいだ。


 そんなわけで夏休みが始まって数日後。

 俺たちは今、山を登っている。

 山と言っても結構緩やかで、登ると言っても麓を歩いているだけだ。


 向かっている場所には川もあるらしく、自然溢れる場所なんだとか。

 川があるってことは、水着イベントも無くはない。

 期待が膨らむね。


 総人数は8人。

 花火大会の時に集まっていたメンツだ。


 このメンバーで集まるのは2回目だが、全員がいい関係を築けている。

 イツメンって感じだ。


「ねぇ

 あとどれくらい......?」


 いくら緩やかでも、歩いている時間は結構なものだ。

 最近では1番運動量が少ないであろう小夏が、最初に音を上げ始めた。

 顔が「疲れた」と言っている。


「大丈夫か?

 おんぶしようか?」

「大丈夫よ」

「じゃぁ、肩貸してやるよ」

「ありがとう」


 どうやら三葉さんもかなりお疲れのようだ。

 確か彼女も運動をする方ではなかった気がするし、歩き疲れるのは無理もないだろう。


 それでも、小夏みたいに疲れたオーラをばらまかないあたり、流石だ。

 小夏も三葉さんを見習って欲しい。


「伽月は優しいわね

 それに比べてあなたは......

 もう少し伽月を見習った方がいいんじゃない?」


 小夏はそう言って、俺に「しゃがめ」とジェスチャーしてくる。


「おんぶしろってことか?」

「そうよ

 それ以外に何があるの?」


 どうしてこいつはこうも上から目線なんだろう。

 こいつ、人にものを頼んでる立場だよな。

 あまりにも上から目線で、そのへんが分からなくなりそうだよ。


「分かったよ」


 まぁ、小夏が疲れているのは一目瞭然なわけだし、おんぶくらいならいいだろう。

 こいつ、軽そうだし。


 それに、こんな奴でも女の子。

 女子をおんぶするなんて、夢のシチュエーションじゃないか。

 この機会は逃してはいけない。


「ほら」


 俺はしゃがんで背中を見せた。


「あ、ありがとう......」


 小夏は俺の行動を見て、驚いたような顔をした。

 お前から言い始めたんだから、意外そうな顔するなよな。


「回復したら降りるわ」


 その声と同時に、背中に重みが加わった。


 わかってはいたのだが、背中に伝わってくる柔らかいそれはない。

 小夏だし。

 でも男の子が女の子をおんぶする醍醐味ってのはそれだろ?

 それがないってのはな。

 わかっていたがちょっと残念だ。


 まぁ、小さいのも嫌いじゃないよ。

 でも今じゃない。



 ---



「着いたわね!」


 こいつの言うことはもう信じない。


 背後から聞こえてくるその声を聞いて、俺はそう思った。

 こいつ、「回復したら降りるわ」とか言っておきながら結局最後まで俺の背中に居やがった。


 おかげで、俺はクタクタ。

 肩で息をしている。


「疲れすぎよ

 だらしないわね」


 こいつ......


 俺の背中から降りてそんなことを言う小夏に、1発食らわしたくなったがそれを寸前のところでこらえる。

 行き道の半分くらいは俺の背中で休んでいたくせに、よくもまぁ「だらしない」なんて言えたもんだな。

 まぁ、こいつらしいセリフと言えばそうだな。

 本当に腹が立つ。


 だが、本当に疲れているせいで何も言えない。

 いくら体力があるとはいえ、いくら小夏が軽いからとはいえ。

 人一人を背負って山道を歩くのだ。

 それに加え1日分の食材やら着替えやらを肩から下げている。

 そりゃぁ疲れるさ。


「おにぃ、大丈夫?

 ......荷物貸して、持っていとくよ」


 あぁ、やはり宙は優しいな。

 惚れてしまうぜ。


 ちなみに、どうして着替えと食材を持っているかというと、これがキャンプだからだ。

 それも一泊二日のキャンプ。

 これからのことを考えると楽しみだ。


 楽しみだった。

 今は少し、不安が生まれている。

 すでに川辺まで走って妹とはしゃいでいる小夏のせいだ。

 先が思いやられる。


「かけ君大丈夫?」

「水いりますか?」


 そう優しく話しかけてくれるのは、よんちゃんと穂香の二人である。


「大丈夫だ、ありがとう」


 心配をおかけして申し訳ない。

 全部あのお姉さまのせいなんだ。


 それに、そろそろ息も整ってきた。

 俺はゆっくりと立ち上がり、歩き出した。

 楽しいであろう久安pの始まりだ。



「哉、テント立てるの手伝ってくれ」


 三葉さんと楽しそうにしているところ悪いのだが、テントの設営を一人でやるのは大変だ。

 一人用テントならまだしも、小夏がわがままを言ったせいでかなり大きいやつだ。

 これもまた小夏のせいかと思うが、許してやってほしい。

 これに関しては、言い始めたのが小夏なだけで、俺も了承して結構ノリノリで購入した。

 まぁ、あのテントに入れるのは女子群だけなんだが。


「了解

 ちょっと待っててくれ」


 哉はそう言って、何やら三葉さんと話し始めた。

 だが、さっきの雰囲気とは違うから、「すぐ戻って来るよ」とかそんなのだろう。

 それを聞いた三葉さんは、嬉しそうな寂しそうなそんな顔。


「よし、パパっと終わらせよう」


 哉はそう言って、まずは小さなテントに手をかけた。

 男子テントだ。


 このテント1人でも組み立てられるが、2人の方が早く終わるだろう。


 骨組みを建て、シートを被せて、地面に杭を刺して完成。

 川辺に設置したため、横になった時に痛くないよう毛布も引いてある。

 今は夏なので少し暑いだろうが、痛いよりはいい気がする。

 我慢してくれ。


 で、次は女子テント。

 大きいやつだ。


 手順は小さいのと同じなのだが、それでも結構しんどい。

 当然だが、それぞれの部品がでかいのだ。


 さらに、作る手順は同じでも、出来上がりは全く違う。

 なんか変な形をしている。

 ゲルとかパオみたいな、移動式住居のような形だ。


 骨組みの形が全く違う。

 骨組みにそれぞれ番号が書かれていて、同じ番号どうしを繋げばいいらしいのだが、それでもわからなくなってくる。


 結局、骨組みだけで30分くらいかかった。

 時間がかかっていたので皆手伝ってくれたが、それだけかかった。

 テント選び、失敗。


 目的地に着いてほぼ1時間。

 ようやくテントの設営ができた。


 てなわけであとは簡単。

 キャンプ道具とか椅子とかテーブルとかの準備だ。

 畳んであるものを広げるだけ。


 もう大丈夫だからと、女子軍には遊んでいてもらった。

 服のまま川の浅い部分に入り、水を掛け合って遊んでいる。


 あれ楽しそう。

 あれ、よくアニメとかでやってるやつじゃん。

 俺もやりたい。


「早く終わらせるぞ」


 俺が水辺の少女たちを見ていると、哉からお叱りをくらった。

 手が止まっているとの事だ。


「そうだな」


 すいません少佐。

 直ちに作業を終わらせます。


 俺は極力スピーディーに、邪念を消して作業に取り組んだ。

 椅子を出し、テーブルを組み立て、炭を用意し。

 集中すれば、ほんの数分で終わる作業だった。

 それが2人がかりともなれば一瞬だ。


「じゃぁ、俺らも行くか」


 哉は準備が終わった途端、そんなことを言った。

 さっき俺に注意した人と同一人物だとは思えないほど、期待がその目から伺える。

 哉も、早く遊びたかったらしい。


 俺たちは、女子軍の軽い水遊びに加わった。


 水をかけたりかけられたり、それはもう青春っぽくて楽しかった。

 楽しかったのだが、俺はすぐに飽きてしまった。


 楽しいのだが、何が楽しいのかが分からない。

 それに、この水をかける行為。

 よくよく考えれば、どこにいたってできる。

 俺は水を操るのだ。

 たとえ水辺じゃなくても、俺に至ってはできるのだ。


 そう考え始めてしまえば、楽しさがいきなり半減。

 つまらなく感じてしまう。



 てなわけで、俺は少しだけ水を掛け合ったあとは川辺に座って、遊ぶみんなを見ていた。

 その後、この地の自然を改めて実感した。


 俺たちが来た方から、山、川辺、川、山の順で自然が並んでいる。

 川を挟む二つの山は北東山脈。

 北方神国と東方神国のちょうど間に通る山で、結界の外から伸びており、中心の方が微妙に盛り上がっているこの地形に、中心に届かない辺りで飲み込まれている。

 

 ここはそんな山脈を横切っている川で、ぎりぎり北方神国側である。


 この山、標高はものすごく高い。

 正確な数値は分からないが、ヒマラヤ山脈と張るくらいだ。

 当然、山頂の方には木なんて生えちゃいない。

 しかし、麓の方には生えている。


 俺たちが来た方の山は、背の高い木が数え切れないほどたっていて、少し明るい山である。

 少し樹海っぽい。

 傾斜もなだらかで、人を背負ってなければそう辛い登山にはならないだろう。


 川辺はこぶしサイズの石が一面に敷き詰められており、横幅が広い。

 石ばかりなので寝るとなれば少し痛いかもしれないが、そこに目を瞑れば、広さもちょうどよくキャンプするには最適な場所かもしれない。


 川は初めは浅いのだが、あるラインから急に深くなり始めるので注意が必要だ。

 初めは足首が浸かるくらいの深さだが、奥まで行くと胸辺りまで水が来ることだろう。

 ここがもし激流なら、流されること間違いなしだ。

 しかし幸いなことに流れはゆっくり。

 それに加え俺がいるので、誰かが流されるなんてことはないだろう。


 川の向こうには川辺が一切なく、川から直接山である。

 その山は俺たちが来た方とは違い、それほど背の高くない木が多く生えており、クネクネとうねるよく分からない木がいくつか生えている。

 蔦も所々見え、あの山に入っていけば少し不気味な感じがするだろう。

 遠目に見ていても少し不気味だ。

 ああいう山から、魔物が出て来そうなイメージがある。


「えいっ!」


 俺が自然を見ていると、『パシャッ』という音とともに少量の水が飛んできた。


 しかしそれは俺に届くことは無い。

 無意識に能力を使ってしまい、俺の目の前で一度止まり、『パシャ』という音を立てて地面へと落ちた。


「えへへ」


 見ると、俺に水をかけてきたのはユキちゃんのようだ。

 水を掬ったであろう両手をこっちに向け、可愛らしく笑っている。

 一人でいる俺を可哀想に思い、水をかけてきたのだろう。


 だが、心配ご無用。

 俺は好きでこうしているのだ。


 しかしまぁ、気にかけてくれたのだからこの空気に乗るべきだろう。


 俺は手のひらをユキちゃんに向け、水鉄砲ほどの威力で水を出す。


「わっ

 濡れちゃうじゃないですか」

「先に濡らそうとしてきたのはそっちだろ?」


 咎めるようなセリフが、俺の口調は穏やかそのものだ。

 イタズラでやり返している感じの声である。


 無論、濡れないように撃っているし、万が一濡れても俺の能力で水分を取り除けば乾かせる。


「ねぇ、お腹空いたわ

 そろそろ、お昼にしましょう」


 そう言ったのは小夏だ。

 確かに言われてみれば空腹だ。

 時計は持ってきていないが、太陽の位置的にもちょうど良い時間だろう。


「じゃぁ、魚捕ろ!

 この川、いっぱい魚いるよ!」


 その提案をしたのは、ヒラヒラスカートのした半分くらいを水で濡らした明香だ。

 いつも元気な彼女らしい状況だし、彼女らしい提案である。

 だが、かなりいい案だと思う。


 2日分の食料を持ってきているとは言っても、今日の夕食用お肉以外の食料は全て携帯食と米だ。

 できるだけ、キャンプっぽいものが食べたい。


 ナイスアイデアだぞ、よんちゃん。


 俺はこんなこともあろうかと、釣竿を借りてきていたのだ。

 山の麓に、『釣竿貸出』なんて看板があったので念の為だ。

 その念が功を奏したわけだな。


 で、釣竿を配布して、さぁレッツフィッシング、と思っていたのだが。


 いつの間にそんなことをしたのだろうか。

 鷲宮明香が、水着姿になっていた。

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