第七十九話 『日曜日』
「めっちゃ緊張する」
とは、哉の言葉だ。
本日は晴天。
お出かけ日和の日曜日。
そして実際お出かけ中。
まぁ、細かいことを言うとお出かけするための待ち合わせ中なんだがな。
でだ。
その、緊張とか言っている哉は、言葉に似合わず凄い楽しそうだ。
まだ何もしてないのに。
俺と陽介が戦った、何も無い広場であいつらを待っているのだ。
今この状況の、どこに楽しい要素があるのだろう。
ああ、そうだ。
こいつは緊張してるって設定だったか。
「だってあれだろ
今から会うのって他ん所の最強さんだろ」
「そうだな」
「その友達って奴もすげー強いんだろな
何かあったら助けてくれよ」
俺は哉の言葉に、笑顔で返した。
こいつ、何言ってんの?
お前、俺より強いじゃん。
序列1位じゃん。
何?バカにしてんの?
「おーい」
遠くから、声が聞こえてきた。
陽介の声だ。
その後ろから、可愛い子も着いてきている。
おそらく、あの子が陽介の連れなんだろう。
ん?可愛い子?
陽介の連れって、女子だったのかよ!
「なぁカケ
あの子、めっちゃ可愛くね?!」
哉はバッと俺の方を見ながらそう言った。
「お前、彼女いるだろ......」
そう、こいつには彼女がいる。
あの子はやめておくんだな。
と、俺は思っていたのだが、哉は「チッチッチ」と言いながら人差し指を左右に振った。
なんだろう、腹の立つ動きだ。
「好きと可愛いは違うんだぜ!」
「ハハ......」
哉の発言に、俺は苦笑いを零す。
こいつ、最低かも知れない。
「冗談だよ
あの子はお前に譲るよ」
哉は俺の呆れた様子を見て、すぐさま訂正した。
でもそんなに焦ってはないようで、笑いながらだ。
つか、譲られても困るんだが。
別に俺は狙ってないわけだし。
「待たせたか?」
「いや、そんなに待ってねぇよ」
なんか、付き合いたてカップルの鉄板会話みたいになったが、実際それほど待ってない。
俺の返答に、陽介は「それやったら良かったわ」と、安心した様子を見せた。
「おっ!」
その後陽介は、今哉に気づいたような声を出した。
なんともわざとらしい。
さっきから見えてただろ。
「カケルの友達がジブンか?
随分と強そうやな」
陽介は哉へと詰め寄ってそう言った。
距離近いな。
とても初対面とは思えないぜ。
それにしても流石最強。
一目で強いかどう分かるとは、お目が高い。
「そいつが序列1位だ」
「ほえー
こいつが......」
陽介には前に、俺が序列2位であることを話した。
その時の陽介は心底不思議そうだった。
気持ちはわかる。
だって、序列2位が最強なんて矛盾もいいところだ。
しかし最後には、「そんな事もあるんやなぁ」とか言って無理やり納得していた。
納得と言うより、自己暗示に近いな。
で、その話によって陽介が気になっていた序列1位を、彼はまじまじと見つめている。
そんなに見ないであげておくれよ。
ほら、哉も照れて後ずさってる。
否、哉の顔は困惑そのものなので、照れてと言うよりは距離をパーソナルスペースへの侵入を防ぐための後ずさりだろう。
そんなの分かってるよ。
「そいつは哉伽月だ」
とりあえず、困ってそうな哉を助けてやろう。
このままでは、話も進まないだろうからな。
上も下も名前みたいな氏名だが、何も言わないでやってほしい。
彼は悪くないのだ。
「伽月......
俺は讃岐陽介。能力は『人形』
よろしゅうな、カヅキ」
陽介は適切な距離を取り、手を出した。
握手を求める手だ。
それには哉も快く手を差し出す。
「よろしく
能力は『統岩』だ」
てなわけで、新しいコンタクトが取れた。
哉と陽介。
どっちも明るい奴なので、すぐに仲良くなりそうだ。
で、その間ずっと黙っていた可愛い奴が一人。
ベリーショートの髪型で、中性的な服装をしている。
黒スキニーに、少し大きめの白パーカーだ。
すらっとしたスタイルで、俗に言う萌え袖っぽくなっている。
それでもあざとさは無く、全体的に可愛い。
そんな彼女は一人だけで黙っていたが、居心地悪そうにしているわけでもない。
哉と陽介のやり取りを、微笑ましいものを見るような優しい顔で見守っていた。
なんだか、親みたいな笑顔だった。
陽介と握手を交わした哉の視線が、そんな彼女に寄せられた。
哉の視線を浴び、その子は「あっ」という顔をした。
「僕は九条菜月」
声も中性的だ。
しかも一人称は『僕』ときた。
彼女は、中性的可愛い系ボクっ娘美少女ってところか。
今まで九条のことを可愛い可愛いと言ってきたが、やはり宙の方が可愛い。
宙を超える可愛いは、絶対に現れないのだ。
宙はいつだって世界一なのだ。
「これでも男だよ」
「「......は?」」
俺と哉の声は、ほぼ同時に出たと思う。
今、俺はとんでもないことを聞いたかもしれない。
こいつ、『男』とか言わなかったか?
「本当に?」
と哉。
どうやら彼は、未だに信じれない様子だ。
九条の体を下から上まで凝視している。
俺も信じられないよ。
こんなの、そこら辺の女子よりよっぽど可愛いじゃないか。
理不尽だ。
恐るまじ、男の娘。
「確認......してみる?」
九条は顔を赤らめ、恥ずかしそうにモジモジしつつそう言った。
「いや、大丈夫だ......」
今現在も可愛い動きをしているが、そこまで言うのなら男なのだろう。
彼は、男の子キラーの男の娘だ。
「能力は......」
「ナツキ、それ言うんか?」
九条が自分の能力を言おうとした時、陽介がそれを止めた。
九条の能力は、言うのを躊躇うようなものなのだろうか。
雪音の能力みたいに......
「言うよ
言っておきたい」
決意の籠った九条の言葉に、陽介は少し困った顔を作った。
しかし、それ以上止めはしない。
「さよか」と、心配そうに言うだけだった。
「僕の能力は『読心』
制御はできるから安心して」
九条はとびっきりの作り笑顔でそう言った。
彼はあまり演技が得意ではないのだろう。
不安や恐怖が、その笑顔から読み取れた。
最初、発音のせいで『独身』かと思ったが、雰囲気からしてどうも違うようだ。
『読心』、心を読む能力か......
いくら制御ができているからと言って、普通の奴らならそう近づきたいとは思わないだろう。
誰にだって、知られたくない秘密くらいあるのだから仕方ないと言える。
普通の奴らなら......
「そうか
すげぇな!」
哉はそう言って、ニカッと笑う。
生憎こいつは、はっきり言って普通じゃない。
なんというか、良い方にバカなのだ。
とびきりのバカなのだ。
特に何も考えておらず、今を楽しもうと頑張っている感じがする。
まぁこいつにも、知られたくないことくらいはあるんだろうが......
「心を読まれるの、嫌じゃないの?」
九条は、驚いた様子で哉に近づいた。
可愛い子に詰め寄られて、流石の彼女持ちも顔を赤くしている。
そいつ男だぞ。
「別に、嫌じゃねぇよ?」
哉は不思議そうにする。
なんでそんなこと聞くんだ、みたいな顔だ。
「それより早く移動しようぜ
ここに居てもつまんねぇよ......」
俺も、この何も無い場所にいつまでもいるのは、流石に飽きてきた。
「そうだな
早く移動しよう」
困惑する西方神国組を置き去りにする勢いで、俺と哉は歩き出した。
それを、思い出したように陽介らも着いてき出した。
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てなわけでそれから、転移装置を使って都市の方まで飛んだ。
北方神国の都市と言えば、中心区だ。
中心区とはその名の通り、この世界の中心にある地区である。
ちなみに、俺が転生した場所も中心区なのだとか。
でだ。
中心区ってのは四つの国すべてにあり、例外なく都市である。
理由としては、もともと四神は中心区にいるはずなのだ。
世界の真ん中にある、高床の城みたいな建物に四人で住んでいる。
本当なら。
東西南の神様はそこに住んでいるのだが、うちの国の神様は静かな所に住みたいと、現在の住神地区まで来たのだ。
神様の命により、北方神国の都市とするのは他国と同じく中心区。
住神地区を発展させることは無い。
だからあそこの地区は森が多いんだね。
それで、遊びに行くと言ったら、都市である中心区だろう。
この世界は前世と違い、転移で移動できるので移動時間なんてそんなに気にしなくていい。
金はかかるが、俺ら4人の内半数が最強なのでそこも心配ない。
中心区に着いて、最初に行ったのは武器屋である。
一応住神地区にも武器屋はあるが、都市の武器屋は段違いだ。
武器しか取り扱ってないくせに、大型ショッピングモールくらいある。
しかもそれぞれの武器の専門家もいるのだとか。
ドラックストアの薬剤師みたいな感じだろう。
実際、俺は刀を買いに行ったのに、刀コーナーに着いたのは武器屋に着いて20分後だ。
デカいってのもあるが、品揃えもいいのだ。
なんでも、この世界にある武器のほとんどがここにはあるらしい。
流石に、マイナーすぎる武器はないがな。
だが、逆に言うとそれ以外はあるのだ。
流石は中心区だね。
でまぁなんだかんだあって、俺は刀の刃を買うことができた。
この日本刀の魔道具、どうやら柄に魔法陣が埋め込まれているらしく、普通の刃でも正常に糸へと戻る。
不思議なことだが、そういうものらしい。
俺が無事に刃を買った後、服、本、雑貨屋と、あっちらこっちらの店を回った。
元々どこに行きたいという感じで計画していなかったせいで、通った道を引き返すことが何度もあったが、それはそれで楽しかった。
俺自身、今まで服に興味は無かったのだが、菜月に試着させられやたら褒められるので何着か購入した。
九条のファッションセンスは、素人目にも分かるほど良いものだ。
俺だけでなく他の2人にも巧みな会話術で服を買わせ、自分はその倍とも言える量を購入していた。
前半に行った洋服屋で買い込んだものだから、後半はすごく重そうだった。
それを何も言わずに持ってやる哉。
ああいうところが人気出るんだろうな。
陽介はと言えば、意外なことに本屋に行きたいと言い始めた。
失礼なことかもしれないが、陽介は本に興味が無いワンパク系人間かと思っていた。
それが、なんと文学少年だったのだ。
驚いたね。
本屋には、陽介が言い出さなければ俺が行きたいと言おうと思っていたので都合がいい。
俺は、お金が無くて買えていなかった欲しい本を無理しない程度に買い揃えた。
勿論、全部が全部ラノベと言う訳では無い。
まぁ、そうは言っても過半数がラノベな訳だが。
俺もかなりの量の本を買ったが、それと同じくらいの量を陽介も買っていた。
2人揃って本を買い込み、総重量がすごいことになった。
鍛えている俺ら最強でも、重いと感じるほどである。
いや、俺はあまり鍛えてないか。
俺がパワーを出せるのは、力の使い方に秘密があるわけだし。
そんなに鍛える必要も無いからな。
多分だが、他国の最強との筋肉勝負では瞬殺だろう。
そして雑貨屋。
ここも菜月が行きたいと言い出した。
この男の娘、見た目だけでなく選ぶ雑貨も可愛いのだ。
ちっさいクマの人形だとか、葉っぱを持ったカエルの置物だとか。
その店で何かを買ったのは、俺と菜月だけだった。
ちなみに、俺が買ったのは可愛らしい小物入れである。
俺が使うものではない。
宙へのお見上げである。
流石都会と言ったところだろうか。
どこに行っても大きなお店ばかりで、品揃えがいい。
買いたいものがすべてある。
ショッピングも楽しいもんだな。
俺らがそれぞれ行きたい場所に、みんなで行った。
が、哉だけは行きたい場所を提示しなかったため、彼の行きたい場所には行けていない。
実際、行きたい場所があったかさえも分からない。
行きたい所があるかと聞いても、「あんまり」としか答えなかったのだ。
そのため、哉はあまり物を買っていない。
それぞれの店で、チョコっとずつ買ったって感じだ。
個人の荷物で言うと、俺ら4人の中で1番少ないだろう。
だが、菜月の荷物を持つという優男であるがために、手に持っている荷物はかなり多い。
現在は夕方。
日が赤くなり始めた頃だ。
陽介らとは、この中心区で別れる。
中心区の駅から西方神国へと帰るそうだ。
てなわけで俺たちは今、駅へと向かっている。
俺と陽介、哉と菜月で、二人づつ並んで歩いているのだが、哉と菜月の2人が俺たちとは少し後ろを歩いているせいで別のグループに見える。
別に、周りからの目とかどうでもいいんだけど。
もしあれを彼女に見られたら、哉は浮気現場だと思われるんじゃなかろうか。
まぁ、俺の知ったことではない。
彼女持ちの贅沢な悩みってやつだな。
今日一日で、哉と菜月はかなり仲良くなった。
ああして2人で歩くほどだ。
何やら、俺たちに聞こえないような声量で話している。
向こうからすると、内緒話と言う訳では無いだろう。
距離があるだけで、2人にとっては普通の声量だ。
まぁ、俺には聞こえてるんだけどね。
「カヅ君は、僕の能力を嫌がらないの?」
菜月は突然、寂しいような嬉しいような、よく分からない表情を作って哉に問いかけた。
「なんで嫌がるんだよ
制御できてんだろ?」
哉は不思議そうだ。
当然のことを聞かれたような反応だ。
「能力の危険度ってのは、何を持つかじゃなくて誰が持つかで決まるって聞いてな
ほんと、その通りだと思うよ」
哉は黙っている菜月に、どこかで聞いたような言葉を言った。
いやほんと、どこかで聞いた事あるんだよな。
どこだったかな。
まぁいいや。
哉の言葉を聞いて笑顔になっている菜月を横目で見ていると、そんな気がしてきた。
「なぁ、ちょっと俺の心読んでくれよ!」
哉は楽しそうに菜月に頼んだ。
「いいよ」
菜月も楽しそうに了承した。
そして、菜月は哉に耳打ちをする。
多分、読み取った内容を伝えているのだろう。
流石にそれまでは聞こえない。
「カケ!
ナッちゃんすげぇぜ
お前も心読んで貰えよ!」
こうして、俺たちの日曜日が終わった。
第七章『最強』・終了
次章・第八章『夏休み』




