第七十七話 『忠告』
あれから、かなり話し込んでしまった。
休日の買い物のために出てきたのを忘れ、日が傾くまで話したり軽く戦ったりしていた。
まぁいい。
刀の刃が無くても、今回のように氷剣で戦える。
買いに行くのはまた今度でもいいだろう。
「いやぁ、ホンマに悪いな
急に押しかけしもて」
陽介は、話を終わろうとするようにそう謝った。
謝ると言っても、そんなに真面目腐った感じではない。
軽く。
軽く頭を下げ、軽く謝るという感じだ。
依然として、明るい雰囲気のままである。
「いや、まったく問題ない」
「さよか?
どこぞの行きしなやったやないんか?」
「大した用事じゃねぇよ」
「ふっ、すまんな」
たったそれだけの、軽い謝罪である。
謝罪とも言えないだろう。
そんなのでも、十分すぎるくらいどうでもいい。
「そうや、俺しばらく北におるつもりなんやけど、今度どっか行かへん?」
「それは良いな」
こうして話していると、陽介がいい奴だってことが分かる。
いい関係を築きたい。
それなら、どこかに行くのも悪くないだろう。
「おー」
陽介は嬉しそうである。
「ほな、誰ぞ一人だけ友達連れて来てや
俺も、一緒に来とる奴と行くさかい」
「分かった」
連れて行くなら哉だろう。
俺の男友達は哉しかいない。
いや、一応三上もいたか。
まぁ、あいつを連れて行くのは嫌だ。
「ほんならちょうど来週の日曜、ここに集合な」
ここに集合か。
この何も無いところに。
まぁいいか。
「分かった」
来週の予定ができた。
なんだろう。
来週の予定があるって、なんかいいな。
おらワクワクすっぞ。
てかこいつ、この国に友達と来てたんだな。
まぁ、死ぬつもりも無かっただろうし、ちょっとした旅行感覚だったのかもしれない。
こいつの友達、嫌な奴じゃなければいいんだが......
こういう良い奴の周りには、良い奴も集まるが嫌な奴も集まるのだ。
どうか、陽介と一緒に来ているのが前者でありますように。
「ほんでジブン、ホンマに強いんやな」
突然話が変わったな。
「ほんで」ってのが、「話はかわるが」みたいなやつなんだろう。
俺は関西弁についてそんなに詳しくないが、意外と会話の雰囲気から察することができる。
それにしても、俺が強いか。
「いや、俺はまだ弱いよ」
俺はそうやって答えた。
「じゃぁ、俺はその弱い奴に負けたっちゅうことやな」
陽介は冗談めかした口調でそう言った。
なんかすごい笑ってる。
俺もこれと一緒に笑っていいのだろうか。
「ほんなら、ジブンはもっと強くなるんか......」
陽介は笑うのをやめて、何かに思い耽るように上を向いた。
腕を組み、優しい顔でな虚空を見ている。
急に、なんなのだろうか。
「一つ忠告や」
突然話し出した陽介の口調は、真剣なものだった。
「南の最強とは戦うな
あそこの最強は、タチが悪い
もし戦うことになったら、少なくとも腕の1本はのうなる思うとけ」
「......分かった」
できるだけ戦わないようにしよう。
腕が無くなるのは嫌だしな。
だが、誰か俺の周りの奴を巻き込むのであれば......
俺は静かに決意を固めた。
「南の最強は、そんなに強いのか?」
それは単純な疑問。
決して、戦いたいから強さを聞いた訳では無い。
むしろ、遭遇すれば逃げるための情報収集と言った方が近いだろう。
「強いなんてもんやない
あんなんチートもええとこや」
南の最強が、4国の中で1番強いというのは知っている。
だが、他の最強にチートと言われるほどなのか?
「あんなんに勝てるんは北方神様だけや」
「そこまでなのか......」
「ああ
聞ぃた話やけど、能力は『時針』
時間の停止開始を操るらしい」
「それは......」
確かに、そんなのと戦うとなるとだいぶ辛い。
時間を止めると言うことは、体感的には瞬間移動とそう変わりない。
しかも時間を止めている間に体制を立て直すことだってできるのだ。
俺は今回、異常な数を相手しただけで精一杯だった。
今の俺の力で、『時針』なんて能力に対応できる気がしない。
そんな奴と戦うつもりなんて毛頭ないが、最強同士ってことはいずれ戦うことになるかもしれない。
何とか逃げ切れるくらいには強くなりたい。
「命一個で、ようやっと1ダメージってとこやろうな
絶対に戦うなよ」
「ああ......」
ここまで言われて、自分から戦いに行くわけが無い。
俺には守りたいものがある。
簡単に死ぬわけにはいかないのだ。
この幸せを、簡単に手放してたまるものか。
「なんか暗い雰囲気になってしもたな」
「いや、助かった
忠告ありがとう」
暗い雰囲気になったのは確かだが、陽介にこれを教えてもらわないと俺は早死していたかもしれない。
有益な話であったのには違いない。
「さよか
ほんなら良かったわ」
陽介は少し嬉しそうに、照れたようにそう言った。
そしてニカッと笑う。
これがかわいい女の子ならいいんだろうけど、こいつみたいな男じゃな......
宙とか雪音とか明香とか、清楚系だが穂香でも意外といいかもしれない。
小夏は......まぁ、あいつはあいつでいい所がある。
きっとそうだ。
おっと、話がズレたな。
とは言っても、もともと大した話はしていなかった訳だが。
「ほなな
また来週」
一通り話が終わり、他に話すことが無くなったところで、陽介は大きく手を振りながらどこかへ帰って行った。
俺は何も言わず、遠ざかる陽介に向かって手を振り返した。
刀は買えなかったが、友達と来週の予定ができた。
刀はまた今度買いに行くとしよう。
来週、陽介らとどこかへ行く時にあいつらと選ぶってのもいいかもしれない。
思えば、友達と一緒に買い物をするのは初めてな気がする。
早くから来週が楽しみである。
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「あなた、西の最強と戦ったらしいわね
どうだったの?」
陽介と別れてから、俺も家へと帰り少しゆっくりした後にバイトへと向かった。
で、今はそのバイト中な訳だが。
こいつ、なんでいるんだ?
それに、なんでついさっき陽介と戦ったことを知っているんだ?
最強同士が戦ったという話は、こんなにも早くから知れ渡るものなのか。
でも、どうだっかのかを聞くあたり、結果までは出回っていないのだろう。
「そういうのは部活で聞いてくれ
てか、なんでお前がここにいるんだよ」
俺と会話している客は小夏である。
小夏は相変わらず1人でファミレスに入店し、俺の前で頬杖をついて話している。
「休日の買い物の帰りよ
で、どうなったの?」
別に今答えてやってもいいのだが、今ここで答えると話が続きそうで怖い。
見ての通り、俺はバイト中なんだ。
「だから、そういうのは部活で聞けよ
今バイト中なんだよ」
「日曜日にまでバイトなんて......
ご苦労なことね。フフ」
小夏はわざとらしく口に手を当て、少しバカにするような口調でそう言った。
何が「フフ」だ何が。
お前普段、そんな笑い方しないだろ。
「まじ帰れよお前......」
「お客様は神様よ
神様に向かってその口の聞き方は何?」
またもなおバカにするような口調。
なんなんだよこいつ。
てかそもそも、それは店員側の言葉だ。
客が言う言葉じゃない。
こいつもバイトしてるくせに、そんなこともわからんのか。
あっ、そうか。
「お前の場合は、神様じゃなくてご主人様だったか」
「あなたね......」
小夏が怒りで震え出した。
でもな小夏。元はと言えばお前が悪いんだぞ。
それでだ。
俺は最近、小夏について気づいたことがある。
それは何かと言うと、小夏は人目のある場所では殺しにかかってこないのだ。
普通に考えれば普通のことだが、人目のつかない場所に連れ出してから殺しにくる。
「裏に来なさい」
ほらな。
「悪いな
見ての通り、俺は今バイト中なんだ」
俺は両手を広げて見せる。
小夏は悔しそうだ。
なんか面白いな、これ。
「で、何を注文するんだ?」
本題に戻ろう。
もともとこっちが本題なのだ。
だってここはファミレスなのだから。
店員と話す場所ではない。
店員と話たいなら、それ専門の店にいけ。
そう、メイド喫茶とかな。
まぁ、そこも話す専門の店ではないんだろうけど。
「かけ君、話し過ぎだよ」
と、俺がようやく注文をとろうとしたとき、通りかかったよんちゃんに軽く怒られてしまった。
いや、言い訳させてくれ。
俺だって話したくなかったんだ。
でもこいつかな......
「まぁ、今はお客さんも少ないからいいけどね」
あ、そうなんですね。
いいんですね。
ですよね。
客が少ない時は、店長が酒飲んでるような店ですもんね。
「それで、何の話してたの?」
怒られたと思ったら、よんちゃんも話に混ざろうとしてきた。
お前も話したいのか。
じゃぁ、こいつの相手しててくれないか。
俺は早くどこかに行きたいよ。
「くだらない話だよ」
適当に答えて置いた。
だが、それを訂正したのは小夏だ。
「こいつが西の最強と戦ったって話よ」
その話に戻るのな。
だいぶ前半の話だと思うのだが。
でもまぁいいや。
「えっ!
かけ君、西の人と戦ったの?
大丈夫だった?」
「ああ」
大丈夫だったからバイトに来ている。
大丈夫じゃなければ来ないだろう。
「で、どうだったのよ」
「あっ、それ私も気になる」
小夏の再度質問に、こいつしつこいなとか思ったていたら、よんちゃんもそれに乗ってきやがった。
しょうがない。
ここまでくれば、もう答えるしかないだろう。
「......勝ったよ」
俺は少しめんどくさそうに答えた。
そうやって答えるつもりは無かったのだが、特に意識せずに答えるとそうなってしまった。
「やったね」
そう言ってくるのはよんちゃん。
まるで自分のことであるかのように喜んでくれる。
それに対し......
「私の質問には答えないのに、この子の同じ質問には答えるのね」
「何拗ねてんだよ」
小夏は、そうやってぶつくさ言っている。
そっぽを向いてしまった。
「別に、拗ねてなんかないわ
気に入らないだけよ」
拗ねてんじゃん。
なんだよこいつ。
意外とかわいいかよ。
「なんなのあなた
こいつの事好きなの?」
「はっ?」
何てこと言い出すんだ。
俺自身は別に彼女のことは嫌いじゃないが、よんちゃんが俺に好かれてるなんて思ったら、嫌な気持ちになるかもだろ。
そういうの、勘弁してほしいよな。
俺はそう言った意味を込めてよんちゃんを見たのだが、彼女の様子がなんだか変だった。
......おや!?
よんちゃんの ようすが......!
いやまぁ、進化はしそうにないが、それでも少し変なのだ。
なんというか、浮かれているというか気が抜けているというか。
小さい声だが「えへへ」とかも聞こえてくる。
「大丈夫か?」
「えっ、あっ、うん
大丈夫だよ」
「そうか」
大丈夫ならいいんだが......
話が終わった。
なんだこの変な空気は。
ここに居るのも嫌だが、仕事にも戻りたく無くなるような変な空気。
誰だよこんな空気作ったの。
小夏か?小夏だな。
全てお前が悪い。
「ねぇかけ君」
少しの沈黙の後、よんちゃんが声をかけてきた。
「普通に話してたけど、この子は誰なの?」
あれ?
よんちゃんって、こいつと前に合わなかったっけ。
たしか、闘校祭の時に会ってた気がするんだが......
ああそうか。
よんちゃんに、小夏の名前は言ってなかったんだっけ。
「こいつは、遠坂小夏
こんなでも高校生だ。子供扱いされるのが嫌らしいから気を付けるんだ
こいつはキレると凶暴になる」
とりあえず、適当に小夏を紹介し、こいつを扱う上での注意事項を述べる。
こいつは、説明書がないと本当に危ない。
「そうなんだ
よろしく」
よんちゃんはそう言って、危険人物に握手を求める。
「あ、こちらこそよろしく」
小夏はそれに大人しく応じた。
「あなた」
小夏はいきなり、俺に向かって指をさしてこう言った。
「私、この子と話がしたいわ
ポテト持ってきなさい」
「ポテトですね
サイズはどうしますか?」
「Mでいいわよね?」
と、小夏はよんちゃんに向かってそう問いかけた。
一緒に食べるつもりなのか。
問いかけられたよんちゃんも「私も食べるの?」と言っている。
「Mでいいわね
Mでお願い」
小夏はよんちゃんの返答を待たず、勝手に決めてしまった。
この気分屋め。
注文を受け、俺は厨房へと向かう。
ついでに控え室にも行ってみる。
するとそこでは、案の定店長が飲酒していた。
否、飲酒途中で寝てしまっていた。
この店、大丈夫なんだろうか。
できるだけ潰れて欲しくはないんだがな。
店も店長も......
「できたぞ」
この店が閉店しないかと不安を抱きつつ、控え室から戻って来たら厨房のスタッフからそう声をかけられた。
随分と早い仕上がりだな。
いや、ポテトだけだとこんなもんか。
「持ってきたぞ
じゃぁごゆっくり」
俺は一応お客様である小夏のテーブルへとポテトを置き、踵を返した。のだが。
「あなたも一緒に話すわよ」
「えー」
「嫌なの?」
「別に嫌ってわけじゃないけど......」
嘘だ。
正直、こいつとの会話は疲れるので哉を間に挟みたい。
「俺、バイト中なんだけど」
「いいじゃないそれくらい
早く座りなさい」
小夏の強引な誘導で、俺は会話に参加した。
参加させられた。
疲れる会話だが、それでも意外と楽しいのだ。
会話は弾んだ。
だが、そんな時間もすぐに終わる。
少ししてから、俺と明香は先輩のウェイターに軽くチョップされ、「何やってんだ」と怒られた。
ですよね。
何やってんでしょうね、俺たち。
その言葉、店長にも言ってやって下さいよ。




