表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第七章 『最強』
73/158

第七十一話 『呪いという呪い』

「どうしてここに来た?」


 俺は、淡々とした声でそう尋ねた。

 いかにも、話せと言われたから話しているような、そんな態度が滲み出ている。

 印象は最悪だろう。


 無論、俺はそれを意図的に行っている。

 嫌な気持ちになってまでに、その場に留まり続ける奴は少ないだろうから。

 早く、帰ってくれ。


「先輩と、お話がしたかったからです」


 雪音は、迷う間もなく即答した。


 こいつ、何言ってるんだ?

 死を運ぶような俺と話がしたいだと?

 彼女は死にたいのだろうか。

 俺はそんなことを、冷たい視線を送りながら考える。


 雪音の表情はいつも通り。

 笑うでもなくむくれるでもなく、優しい顔だ。

 目の奥には、小さな期待のようなものも読み取れる。


 期待しているのか、俺に。

 間違いだな。

 期待するなら、もう少しまともな奴に期待すべきだ。

 少なくとも、俺みたいな人殺しに期待することなんてない。


「何の話だ」

「どうして学校に来ないんですか?」


 ああそれか。

 どうせ、そんなことだろうと思っていた。


 で、どうしてかだって?

 そんなの簡単だ。


「行きたくないからだ」

「どうして行きたくないんですか?」


 全て言わなきゃなんないのか。

 もう少し自分で考えたらどうなんだ。

 まぁいいや。


「分かるだろ

 俺が行くと、人が死ぬ」


 そう。

 俺が行くと人が死ぬ。

 死の呪いを無意識にかけてしまう俺が学校なんて場所に行けば、人が大勢死ぬことになる。

 俺は人を死に導くのだ。

 言わば死神だ。


 俺が呪いをかけて人を殺す。

 それは人殺しと同意である。

 例えそれが無意識であっても、人殺しという事実は変わらない。

 意図の有無なんざ、関係ないのだ。


「お前らも思っているはずだ

 俺が最強になった途端、リンが死んだ

 しかもそれは俺をおびき寄せるために

 俺のせいでリンは死んだんだ」

「......」


 雪音は俺の言葉を黙って聞いていた。

 そこに、さっきまでの優しい表情はない。

 真面目そうに、俺の狂言を聞いている。


「お前らだって、俺に殺されるかもしれないぞ?」


 最後、俺はそう言った。

 俺のその言葉に、雪音はゆっくりと口を開く。


「そんなわけないじゃないですか

 牧田さんが死んだのは先輩のせいじゃないです

 私たちだって、そんなこと思っていません」


 雪音は強くそう言った。


「嘘だな」


 だが、俺はそれを信じられない。

 どうせ誰もが、俺のせいだと思っている。

 そのはずだ。


「嘘じゃないです

 嘘だと思うなら、学校に来て確かめればいいじゃないですか

 皆、先輩が帰ってくることを望んでいます」


 どうしてそう俺をおびき出そうとするんだ。


「皆?

 皆って誰だよ」


 俺は特に意味もなく、そうやって言葉の揚げ足を取る。

 小馬鹿にしたように。


「お姉ちゃんと哉さん、それと穂花ちゃんです」

「立ったそれだけかよ」

「これだけじゃ、不満ですか」


 不満じゃない。

 不満じゃないが、皆と言うには少ない。

 今思い出した3人って感じだ。


 どうせその3人に、確認なんてとっていないのだろう。

 そんなこと信憑性皆無な説得で、納得出来るはずがない。


「信じられないな」

「そうですか......

 先輩がそう言うのでしたら、無理に信じろとは言いません

 でも、私たちは先輩を待っています」


 信じなくていいと言った後に、信じろと同意のことを言われた。

 確かに信じろとは言っていないが、屁理屈だな。


「......嘘だ

 お前らだって、俺のことを恐れているはずだ」

「そんなことないです!!」


 雪音にしては珍しく、声荒げて否定した。


「そんなこと......ないです」


 彼女はもう一度、悲しそうな声でそう言った。


「確かに先輩を怖がる人は、少なからずいると思います

 ですが、少なくとも能力研究部の皆は先輩を信頼しています

 恐れるなんて、絶対にありえません」

「今はそうかもしれないな......」


 雪音の言葉を、俺はそう否定した。


「今はまだ気づいていないだけだ

 少しすると、俺はリンを殺したってことが分かるはずだ

 そしたら、お前らは俺のことを......」


 俺はそこで言葉を止めた。

 これ以上口にするのが怖くなったのだ。

 俺だって、あいつらに嫌われたくなんてない。

 だが、仕方ないんだ。


「牧田さんを殺したのは、先輩じゃありません

 先輩は、最強になっただけ

 お姉ちゃんたちも、分かっているはずです」


 雪音は落ち着いた声音でそう言った。

 声だけでなく、顔も落ち着いている。


「そんなこと言ってられるのも今の内だぞ」

「......」

「実際に死が近づけば、理性なんて関係なく怖がるものだ

 お前らだって例外ではないはずだ」


 そう。

 今は口でそう言ってても、後にどうなるかは分からないのだ。


「......私たちは、先輩を怖がることは絶対にないです

 だから先輩も、恐れられることを怖がらなくてもいいんです」


 だから、なんだって?


「怖がらなくてもいい、か......」


 俺は想像よりも静かで、低い音が出た。


「そんなことできる訳ないだろ!!」


 いきなり荒げた俺の大声に、一瞬だけ雪音は身を震わせた。

 しかしそれでも、すぐに俺の言葉を聞こうとする。

 だが今の俺に、そんな雪音は目に入らない。


「俺と関わった人は、みんな残らず死んでいく

 生前からそうだった

 俺はそいつらを殺したい訳でも、死んでほしい訳でもない

 むしろ生きていてほしい人たちばかりだ

 俺にとって生きていてほしい人ばかり死んで、死んでもいい人は誰も死なない

 俺にとって大切な人だけが、次々に死んでいくんだよ!

 これはそういう呪いなんだよ」


 雪音は静かにそれを聞いていた。

 俺はそれを見て、何すまし顔してるんだと理不尽な怒りが湧いてきた。


「その呪いを持っているくせに、調子に乗って人に近づき、そいつを死なせるんだ

 自分で引き寄せた死を、自分で解決しようと苦戦してるわけよ

 自作自演もいい所だよなぁ!」


 もう、俺自身何が言いたいのか分からない。

 それでも、言葉は出てくる。


「俺はいつだってそうだ

 届きもしないのに手を差し伸べて、期待だけさせて死なせていく

 どうせまた同じことを繰り返すんだ

 今回なんて、俺は助けようとすらできなかった

 次の被害者はお前かもしれないぞ

 リンみたいに、殺されるかもしれないぞ

 俺の近くにいて、何の得がある?損しかないはずだ

 お前は俺から離れるべきだ

 距離を置くべきだ

 置きたいはずだ」


 俺は雪音のことなどお構いなしに言葉を投げつける。

 よくもまぁ、こんなにもつらつらと言葉が出てくるものだ。

 俺の頭は、もう何も考えられないほど真っ白で何もないくせに。


「俺と関わった人は皆死んでいく

 俺の呪いで死んでいくんだ

 俺はたくさんの人を殺した

 こんな死にまみれた人間を、周りはどう思う

 恐怖でしかない

 お前はあの目を......

 化け物を見るような目を知っているのか

 何もしていないのに恐れられる気持ちが、お前なんかに分かんのか!!」


 大声だったと思う。

 やけくそになって放った大声。


 それを受けて雪音は、驚くでも怖がるでもなく、ただ苦しそうに微笑んでいた。


「っ!」


 俺はそれを見て気づいた。

 思わず息を飲んだ。

 次の言葉が出てこなかった。


 俺は、言ってはいけない人に、言ってはいけないことを言ったのだ。


 雪音は、勝手な勘違いで周囲から嫌われていた。

 それを俺は知っているはずだ。

 ただ知っているのではない。

 実際に相談もされて、より深くその事情を知っているはずだったのだ。


 それを俺は何も考えず、「お前なんかに」と言ってしまった。

 雪音の苦しそうな笑みは崩れない。

 崩れないと言うより、変えられないと言う方が近いだろう。

 こんな顔したくないのに、どうしてもそうなってしまうと言った顔をしている。


 その顔を、見ているのが辛い。

 逃げてしまいたい。

 見ていたくない。


 どう考えても俺が悪いのに、なぜか謝罪の言葉が出てこない。

 謝れなければならないいのに。

 なのにどうしてだろうか。


「......帰ってくれ」


 この場にいるのがしんどくて、そう言ってしまった。

 これ以上、いい所の場所にいるのが嫌だった。


「......分かりました」


 雪音は、悲しそうな声色でそう言った。

 そのまま、俺の家を出て行った。


「あれは無いと思うよ」


 そう言ったのは、残された神様だ。

 確かに神様の言う通りだ。

 でも、


「仕方ないだろ」


 俺はそうとしか言えなかった。


「仕方なくないよ

 君はそういう人ではないと思ってたんだけどね」

「......」


 そういう人だよ。

 俺はどうしようもなくダメで、クズなんだ。

 それが俺の本質。

 表とは違う、裏のくらい部分なのだ。


「謝罪くらいはするべきだったね」


 神様は、表情こそ笑っているものの、声は冷たいものだった。

 彼が笑っているのはいつもの事。

 デフォルトの顔が、笑っているように見えるのかもしれない。


 謝罪くらいはするべきだった。

 その通りだ。

 俺も、しようとは思っていたのに。

 言葉が出てこなかったのだ。


「お前も、俺を学校に連れ戻すために来たのか」


 俺はそんなことを言った。

 さっきまで神様としていた話とは全く違う話だ。

 あの話を続けるのが嫌で、違う話に切り替えたのだ。


「別に、僕は君が最強でいてくれたら学校に行こうが行かまいがどうでもいいし

 僕自身は君に学校へと戻らせる気は無いよ

 でも、彼女らはどうなんだろうね」


 神様はそう言った。

 俺の心中を知ってか知らずが、逸らした話にも合わせてくれる。


 一瞬、神様の言葉を聞いて「どうでもいいとか言って、結局こいつも俺を学校に行かせようとしているのか」と思ったが、本当にどうでも良さそうだ。


 どうやらこいつは、俺を学校へと行かせる気はあまりないらしい。

 俺としても、そっちの方が楽だ。

 学校に行け行けと言われるより、何も言わずにそっとしておいてくれた方がいい。


「なら、どうしてここに来たんだ?」


 それは単純な疑問だ。

 雪音のあの表情を見て少し冷静になったのか、そういう疑問も出てくるようになった。


「それはあの子に頼まれたからだよ

 彼女は君の家を知らなかったし、知ってたとしても入れなかっただろうからね」


 そういうことか。

 こいつはこの家の大家みたいなもんだし、そういうこともできるのか。


 不法侵入がどうだとか言って、次からは勝手に入らないでくれと言いたいところだが、残念ながらこの世界に法律は無い。

 例え不法侵入であっても、マナー違反止まりなのだ。

 面倒な世の中だ。


「なぁ......」

「そうだ!」


 俺と神様の声が被った。

 だが、神様は言葉を譲らない。


「学校は行かなくてもいいけど、最強は続けてくれよ」


 どうして俺に最強でいさせるのか、意味が分からない。

 校内序列2位だし、最強になって初戦でコテンパンだし。

 どうしてこんな奴を最強にしたんだろうか。


 聞いてみよう。

 元々、聞きたいと思っていた。

 聞こうと思って声をかけたら、言葉が被ったのだ。


「なぁ......」

「じゃあね

 もし雪音ちゃんに次会う機会があったら、今日のことを謝るんだよ」


 そう言って、神様は俺の部屋を出て家も出た。


 結局、どうして俺を最強にしたのかは聞けなかったが、まぁいい。

 また今度にしよう。


「ユキちゃんには、悪い事をしたな......」


 神様の言う通り、次に彼女に会ったら謝ろう。

 もし、会うことがあるのなら。


「寝るか......」


 雪音も神様も帰って、俺は家に一人になった。

 別に眠たい訳ではない。

 ただ、することがないのだ。


 本を読んでもいいのだが、そろそろ家にある本を読みつくしてしまう。

 名残惜しいと言うか温存というか。

 そんな事情がある為、俺は眠りについた。



 次に起きたのは昼頃だ。

 今日は長い時間寝ていたと思う。

 体が痛い。


 俺はベットから立ち上がり、体をポキポキと鳴らしながら庭へと向かう。


 向かった先では、「あ゛ぁぁぁ!」とか「がぁぁぁあ!」とか、叫び声としか言えないような汚い声を出しながら木刀を振る。


 こうしている時は、倫太郎のことを忘れられる気がするのだ。

 無論、忘れたい訳では無い。

 ただ、何もしていないと俺のせいで死んだ彼のことが思い出されて辛いのだ。


 しかし、こうしていても完全に忘れられる訳では無いし、限界がくる。


 数分、滅茶苦茶に木刀を振り続けてからそれをやめる。

 体力よりも、声がもたない。

 無駄に声を出して考えないようにしているのに、声が出なくなってしまえば、これをする意味が無い。


 俺はグッチョリと湿った木刀をその辺に放り捨て、自室へと戻った。


 その後、ベットの上で温存しておいた最後の本を読む。

 最後の本の、最後の数十ページだ。

 手に取った本は、すぐに読み終わってしまう。


「飯、食うか」


 俺は誰に言うでもなくそう呟き、宙が置いていってくれた弁当を食べる。

 自室で。


 俺を食べ終わったら、睡眠だ。

 食べてすぐ寝ると太ると言うが、その前に運動もしているし大丈夫だろう。


 テレビもパソコンもないこの世界は、本当に暇だな。

 することがすぐになくなってしまう。

 起きたら、どうしようか。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。

 次に起きたのは夕方頃。

 時計を見たところ、学校はとっくに終わった時間帯だ。


 朝もあれだけ寝たというのに、よく眠れるもんだ。


「本でも買いに行くかな」


 どうも最近の俺は独り言が多い気がする。

 元々、内心1人で話す俺だったが、それを外に出すことはあまり無かったと思う。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 俺は服を着替えて、書店に向かう準備をした。

 相変わらず、晴れない顔のまま。


 前までは金が無くて本が買えなかったが、今の俺は一応最強。

 金だけはある。それと時間も。

 逆を言うと、それ以外は無いのだが。


 俺は家を出る際、ふと伝言板を見てみると宙の文字があった。


『バイトに行ってきます』


 バイトか......


 そういえば、しばらく行ってないな。

 最強になったから、少しシフトを減らして貰っていたが、それでも俺がこうしている間に2・3回は無断で休んだはずだ。

 まぁ多分、俺は今後バイトにも行かないだろうな。


「......行ってきます」


 何を思ったのか、俺は誰も居ない家に向かってそう言った。

 玄関の重たい扉を開ける。

 家を出てから、鍵を閉める。


 右の坂から丘上崖を下りるか、左の崖から降りるか。

 崖の方が近道だ。

 よし、飛び降りよう。


 十分に死ねるような高さだが、これくらいの高さなら着地する気で飛べば着地できる。

 そんなわけで、俺は崖の際に立つ。

 俺がヒョイと飛び降りようとした瞬間......


「死ぬ気なの?」


 その声は聞いたことのある声だ。よく聞く声だ。

 でも、今話したいと思える声じゃない。

 それに、俺は死ぬ気ではない。

 本屋に行きたいんだ。


 俺は、声をかけてくる彼女を無視して再度飛び降りようとする。


「死ぬことは許さないわ」


 強い言葉だ。

 強制力のある声音だ。


 俺はその声にようやく振り向いた。


「何の用だ......」


 俺は冷たくそう言った。

 だがは、遠坂小夏は動じない。

 絶対に死なせないという意思を感じる。


 俺へのあたりは強いが、なんだかんだ言って友達なのだ。

 目の前で死なれては夢見が悪い。


 それにしても、こいつらは強いな。

 倫太郎とそれほど深い仲ではなかったにしろ、知人が死んだと言うのに普通に過ごしている。

 それがこの世界の普通というのもあるのだろうが、やはりすごい。

 俺には真似できないな。


 と、俺がそんなことを考えていると、突如小夏はとんでもない言葉を口にした。


「ユキが攫われたわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ