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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第七章 『最強』
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第六十九話 『最強狩りのネオ』

 俺は後方へと大きく飛ばされ、木に吸い寄せられるようにして激しく叩きつけられた。


「カハッ!!」


 叩きつけられた衝撃で、肺の空気がすべて押し出される。


「ケホッ、ケホッ」


 空になった空気を、無意識で慌てて吸い込んだ。

 そのせいで俺は噎せる。


 その間、ネオは氷柱が当たった部分をポリポリと搔いている。

 まるで蚊にでも刺されたように。

 いや、彼にとってはあんな攻撃、蚊と同列なのだろう。


 おそらく彼は、ほんの一瞬でも自分に触れれば、その物体に能力を使用することができるのだ。

 すなわち、彼に物理攻撃は一切通用しない。

 すなわち、俺の攻撃でこいつにダメージを与えることができない。


 自分はダメージを与えられないのに、相手は俺に与えることができる。

 こんな相手、どうやって勝てというのだ。


 こんな絶望的な状況の中、俺はまだ殺気に埋もれていた。

 何とかして殺そう。

 殺せる手はまだあるはずだ、と。


 あるはずない。 

 俺の能力は第二級。

 物理的なものばかりなのだ。


 俺はそんなことすらも考えられないほど、俺は怒り狂っていた。


 俺は木からずり落ちつつ、腹の前に作り出した氷の板を消す。

 ネオの膝蹴りをくらう寸前、俺とネオの間に作り出していたのだ。


 彼の能力の対象になる事は避けることができた。


 だが痛い。

 能力を使用したのだろう。

 だとしても凄い威力だ。

 ガードの為、強度に重きを置いて作った氷板が、身体の深くまでめり込んだのだ。

 内臓を抉られる感覚だった。


 俺が痛みに顔を歪めている間、ネオは俺を蹴った足を見て、どうにも不思議そうな顔をしている。

 その後冷めた顔になり、俺へと飛び掛かって来た。

 高速で。

 音速で。


 むしろ、音速なんてはるかに超える、神様に匹敵するスピードかもしれない。

 実際の判断は、俺には付けられない。

 なぜなら、俺が見えたのは走り出す予備動作だけだからだ。


 それ以外は、追えていない。

 いや、追えていない訳では無いのだ。


 ただ、遠くに居て小さかった奴が、一瞬にして大きくなったような、そんな感覚だった。


 その急激な拡大は一瞬で止まり、気づけばネオは片足を撓らせていた。

 蹴りだ。

 しかし、ただの蹴りではない。


 関節でしか曲がらないはずの脚が、関節を含め他の部分でも曲がって見える。

 無論、そう見えるだけ。

 残像が重なって、曲がったように見せているのだ。


 俺はその攻撃を間一髪で躱した。

 苦し紛れの回避。

 カウンターなんて、とてもじゃないが仕掛けられない。


 俺はできる限りの力で地を蹴り、水圧を使ってより遠くまで飛ぶ。

 俺は自分でとった行動に、受け身も取れず転がる。


 口に大量の土が入り込んでくる。

 そうやって俺が土を食っている頃、さっきまで俺が凭れ掛かっていた木が蹴り倒されていた。

 折られた樹木は、伐採のようにゆっくりとは倒れない。

 蹴折られた部分、すなわち下部だけが飛んで行こうとして、上部の慣性の法則によって大きく飛ぶことを阻止される。


 よく見ると、その奥の木も2・3本倒れている。

 しかし、ネオはそれらに触れていない。

 どういう原理なんだ。

 まさか、衝撃波とは言わないだろうな。


 一蹴りだ。

 たった一蹴りで、ネオはそれらをやってのけたのだ。

 衝撃を通り越して呆気に取られてしまう。


「避けるのか......」


 「まぁ、予想してたけどね」とでも付け足すような言い方だ。

 余裕を見せる反応。


 ネオはそう言って、ゆっくりと俺を見た。

 特に表情を作っている訳ではないのだが、それから感じ取れる恐怖というのは普通のものではない。

 俺は身を震わせる。

 だが、殺したいという気持ちは変わらない。


 ネオが重心を落とした。

 来る。


 遠くにいたネオは、文字通り一瞬で距離を詰めてくる。

 轟音を立てて。


 その後は強烈な右ストレート。

 またしても俺は、それをギリギリで回避する。

 ネオの拳が、俺の眼前をかすめた。


 ただの拳が、ほんの少しかすっただけで頬の皮がベロンとはがれた。

 普通の人間が出せる威力では......


「......っ!」


 少し()()()()

 ほんの少しだが、彼が俺に触れたと言うことだ。

 彼にとっては、それだけで十分だ。


 ヤバいっ!!


 そう思った時にはもう遅かった。

 俺の体は、何かに引っ張られるようにして軽々と飛ばされる。


 地面やら木やらに、激しくぶつかる。

 感覚的には『落ちる』に近い。

 何とか木に着地しても、重たい磁力に押しつぶされる。


 俺は何とか衝撃を和らげようと、身体を水で覆っているが、差程効果は無い。

 休みなく打ち付けられ、身体中が痛む。


 水砲弾やら氷砲弾など、飛ばされながらもあらゆるものを試しているが、ことごとく避けられる。


 でも不思議なのが、それらのうち幾つかを跳ね返さずに避けているということだ。

 しかし今の俺に、それについて深く考える余裕はない。

 全身の苦痛に顔を歪めて、あっちへこっちへと飛ぶ。



 何十回だろう。

 俺は、数え切れないほど打ち付けられてボロボロになった。


 最後に一発、今までで一番強く木に打ち付けられ、数本の樹木を薙ぎ倒して止まった。

 ドサッと重力に落とされる。

 木に凭れ掛かる形になった。


 身体に力が入らない。

 もうまともに動けない。

 拳や蹴りが飛んできても、今の俺ではそれらを回避できない。


 俺は、こんなところで死ぬのだろうか。

 今まであまり考えなかったが、この世界で死んだらどこに行くのだろうか。


 次の世界に行くのか。

 それともこれで終わりなのか。


 死んだあと、異世界に行かないとすると何処に行くのだろうか。

 前に死んだときは、こんなこと考えなかったな。

 なのに、今はどうして......


 あぁそうか。

 宙が居て、友達もできたからだ。

 友達なんて、できないと思っていた。

 学校に行っても、どうせクラスで浮いている奴になるんだろうと、そう思っていた。


 浮いているのには変わりないが、それでも友達ができた。

 一カ月くらいだっただろうか。いい時間だった。


 神園 宙

 鷲宮 明香

 遠坂 小夏

 遠坂 雪音

 明蓮寺 穂香

 哉 伽月

 牧田 倫太郎


 数は少ないが、みんないい奴だった。

 狭く深い付き合いくらいの方が、俺にとっては過ごしやすい。


 倫太郎......

 死んだんだな。

 こいつに、殺されたんだな。


 そう思いつつ、近づいて来るネオを睨む。

 彼は何食わぬ顔でゆっくりと歩いてくる。

 そんなネオの態度を見ていると、一度消火された怒りが再び燃え上がる。


 そうだ、こいつは倫太郎を殺した。

 俺がこいつを殺さなければ。

 倫太郎の仇だ。


 俺もこんなところで死ぬわけにはいかない。

 絶対に殺してやる。

 絶対に生き抜いてやる。


「あ゛あ゛あぁぁぁぁあ゛!!」


 俺は大声と同時に殺気を投げつけ、言うことを聞かない自分の体を無理矢理動かす。

 尻を着いた体を起こし、ネオへと飛び掛かる。

 水で作った刀で、横振りの一撃を放つ。


 正直、その攻撃は見ていられないほどに酷いものだ。

 師匠に教えられた形なんて一切使っていない、腰すらも入っていない斬撃。

 スピードも無い。


 無様。哀れ。

 そういった言葉が似合うような攻撃。

 素人もいい所だ。


 そんな攻撃、ネオ相手に当たるはずがない。

 能力を使うことなく俺の手首を掴んで持ち上げ、強烈な一撃を俺の胸へと叩きこむ。


 衝撃が、俺の体を横断するのが分かった。

 心臓が潰された。

 そう思える一撃。


 事実、内臓はいくつか潰れる威力だろう。

 俺は血を吐く間もなくその場に倒れる。


「軽い......

 こんなのが最強だと?

 あの神は何を考えてんだか......」


 ネオはイラついた表情でそう呟いた。


 そんな声が聞こえる頃、俺は大量に吐血していた。

 彼はそれを見下ろしている。


「興ざめだ

 お前に期待して損したぞ......

 じゃぁな」


 ネオは、つまらなさそうにそう言って、暗い林の奥へと消えて行った。

 この場で死んでいないのは俺とネオのみ。

 他の奴らは皆死んで、血だまりの中で倒れている。

 一瞬にして静まり返った林に、落ち葉を踏む音だけが響く。


 俺を殺すことすらせず、面白くなさそうな顔をしてどこかに行ってしまう仇。

 なんなんだよ、その顔は。


 この場には俺と、ボロボロになった木々、誰のものか分からない血液だけが残った。


 生き残ったのか......

 俺の前からネオがいなくなった途端、俺の殺意は消えた。

 その代わり、とてつもない喪失感と絶望が込み上げてくる。


 そこにあるものは無くなるものだ。

 大切なものほど無くなりやすい。


 存在と同時に、消失も存在する。

 本来矛盾する2つの可能性が混在している。

 大切なものとは、そういうものだ。


 失いたくないものを失った。

 助けたい人を、助けられなかった。


 素の強さと能力を駆使して勝ち上がり、最後は負けたけど最強になった。


 自分の強さを過信して、最強という名に浮かれて。

 その名を纏ったせいで、勘違いをする。

 アホか、と。


 思い上がりもいい加減にしろ。

 師匠も言っていた。


「1番なんて物は存在しない

 全ては名目上のお飾りだ」


 と。

 それに、こうとも言った。


「自惚れた奴は、いつか致命的なミスをする」


 と。


 その通りじゃないか。

 自分は強いと過信して、最強になった途端このザマだ。

 その前だって、本気を出せばと高を括った結果序列2位。


 2番手の最強は、舞台を広げれば2番手ですら無くなった。

 守りたいものに、手すら届かない弱者。

 それが俺だ。


 結局、


「何も変わってないな......」


 おそらく、俺は彼を追うことができるだろう。

 しかしもう、俺にそんな気力はない。

 殺気は未だ健在だが、どうしてか追う気になれない。

 今はただ、こみ上げる喪失感と底知れぬ絶望に支配されている。


 すべて俺の失敗だ。

 倫太郎の死は、俺のせいでもあるのだ。



 暗い暗いボロボロ林で、俺は動かない体を休める。

 本当に、暗い林で。



 ―――明蓮寺穂香視点―――



 翔琉先輩が林へと入った後、哉さんは牧田さんを背負って学校に戻って行きました。

 牧田さんについては、彼に任せることにしましょう。


 翔琉先輩が林へと入って行く時、私も哉さん同様呼び止めようとしました。

 しかし、開いた口から声が出なかったのです。


 それは、翔琉先輩が怒っていたからです。

 それも表情が歪むほど。


 鬼面を付けているのではないかと思えるほどの眼光は、私の声を消したのです。


 いつも冷静な彼が、あれほど怒っているのは初めて見ました。

 いえ、むしろ彼が怒っている所を初めて見たかもしれません。


 しかしそれも仕方の無いこと。


 翔琉先輩のご友人である牧田さんが、あんなにも酷い殺され方をされていたのですから。


 牧田さんとの関わりが薄い私でも、怒りが湧いてきます。

 いつも一緒にいた翔琉先輩と哉さんの怒りは計り知れないものでしょう。


 しかし、怒り狂う翔琉先輩とは対照的に、哉さんは以外にも冷静でした。


 薄情な人だとは思いません。

 むしろ、この世界ではそれが普通なくらいです。

 ですが、転生者である彼がああもまで冷静でいられるのは、この世界に順応しているからでしょうか。

 それとも......


 いえ、それはないでしょう。

 おそらく前者、順応しているのでしょう。



 哉さんが牧田を連れて行くと、人混みが霧散していきました。

 ここには、私たちだけが残されました。

 私たちは皆、ここに残っていた方が良いでしょう。

 翔琉先輩が森から出てきた時、誰も居ないのは辛いでしょうから。


 と、私の手に何かが当たりました。

 見てみると、それは一滴の雫です。

 雨が降り始めました。


 雨に打たれても、私たちの中に動く者はいませんでした。

 皆、傘もささずに翔琉先輩を待ち続けています。


 強くはないが大きな雨粒が打ち付けられ、服が重たくなっていきます。

 服が肌にピタッとくっつき、同様に髪の毛も額に引っ付きます。

 それでも私たちは、彼を待っています。


 一人にしてあげた方が良いと言う意見もあるのでしょうが、私はそうは思いません。

 私は一人、大切な人を失い周囲との接触を完全に断ってしまった人を知っています。

 その人は最後、誰もいない部屋で死んでいたそうです。

 首を吊って。


 翔琉先輩には、そうなってほしくありません。

 今多少迷惑がられても、その後先輩が元気になってくれるのなら、私は喜んで迷惑がられましょう。


 まずは手を握って、それから優しく抱きしめて。

 これは私の欲望ではありません。

 私にしかできない事なのです。


 雪音さんはそうゆう人ではありませんし、心配しているとはいえ小夏さんもそういうことはしないでしょう。

 ですので、私がその仕事をするのです。


 落ち込んでいるときは、人肌が落ち着きます。

 私も落ち込んでいるときは、人肌が恋しくなります。

 彼だって、きっとそうでしょう。


 と、私がそんなことを考えていると、林の奥から一人の人影が歩いてくるのが見えました。

 そのシルエットは、翔琉先輩のものです。

 しかし、いつものように静かに笑っている彼は何処にもいませんでした。


 ぐったりと肩を落とし、目の中の光は死んでいました。

 顔なんて、翔琉先輩だとは思えないほどです。


 血が染みついた彼のボロボロの制服に対し、彼自身は打撲や擦り傷はあるものの、大きな外相は見られません。

 勝ったのでしょうか。

 それとも、負けてしまったのでしょうか。


 どちらにしても、無事に帰ってきてくれた彼を見て、私は少しホッとしました。


 私は翔琉先輩の方へと駆け寄ります。


「翔琉先輩......」


 私はそう言って、彼に手を伸ばしたのですが、その手は空を切りました。

 私の手が届かなかった訳ではありません。

 彼が、私の手を避けたのです。


 彼が攻撃を避ける時みたいに、最小限の動きであっさりと、です。


 たったそれだけの動きが、私を止めました。

 手を握って、抱きしめて。

 そう思っていました。


 しかし、私にはそれができませんでした。

 私の手を避けるときの彼の目が、あまりにも冷たかったからです。


 一瞬だけ私を見て、一度瞬きをした後は私を見ていませんでした。

 それを受け、私は動けなくなってしまったのです。


 友人が亡くなってしまった翔琉先輩の反応は、良いものではないだろうと思っていました。

 そう思っていたのですが、想像以上だったのです。


「......」


 声も出なくなってしまいました。


「先輩......」


 気付けば、私の隣まで来ていた雪音さんが心配そうに、寂しそうに呟きました。


 大粒の雨の中、私たちを無視するように歩いて行った彼の背中が、私の目に焼き付いて、しばらくの間消えませんでした。

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