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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第七章 『最強』
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第六十八話 『零れ落ちる音』

 倫太郎は夏緑樹の林で、木に凭れ掛かるようにぐったりしていた。

 彼の目には光がない。

 生気が感じられない。


 倫太郎の体には、銃痕が複数、刃物での刺傷も複数。

 切り傷なんて、数え切れない。

 よく見ると、舌も抜かれていた。

 酷い有様だ。


 見ていられない。

 見ていたくない。

 しかし、目が自然と倫太郎を見てしまう。


 倫太郎が死んだ?

 そんな訳ないじゃないか。

 昨日まであんなに元気だったのに。

 深手を負っているが、何とかなるはずだ。


 そんなことを考えていると、倫太郎の目が動いて、目が合った。


 ほら、生きてるじゃないか。

 大丈夫。

 今からでも保健室に連れていけば何とかなるはずだ。


 この学校の治癒能力者は優秀だ。


 『再生』という能力で、死んでさえいなければ何とかなるなんて話も聞いたことがある。

 きっと大丈夫。

 大丈夫なはずだ。


 おい、なんでこいつら、動かないんだよ。

 何ぼさっと突っ立ってんだよ。

 倫太郎を保健室に運ぶの手伝えよ。


 俺の後ろに立っている奴らに視線を送ると、彼らは気まずそうに顔を逸らす。

 何なんだよこいつら。


 俺は倫太郎を運ぶため、再度彼の方を見た。


 すると倫太郎は、光の宿っていない目のまま、ゆっくりと笑った。

 木に、力なくもたれかかったまま。


 そして、木にもたれる力さえも無くなっていく。

 ただでさえ光のなかった目から、ますます光が無くなっていく。


「リン!」


 そう叫んだのは誰だろう。

 俺かもしれない。

 もう分からない。


 ただただ、必死だったから。


 俺は倫太郎の肩を手で持った。

 倫太郎から、力は感じなかった。

 倫太郎の体は、軽かった。


 開かれたままの目からは、光が完全に失われている。

 しかし、光を失った彼の右目は金色に輝いていた。


「......っ!」


 声にならない声が出た。


 『カラン』と軽い音を立て、倫太郎のヘアピンが落下した。


「......っ!」


 俺はあることを悟った。

 牧田倫太郎は、死んだのだ。


 今回は、そう見えるだけではない。

 確実に、死んだ。


 かすかにあった息ですらも、今はない。

 微笑んだ顔のまま、死んだ。


 倫太郎の周り。

 彼の左手側には、弱弱しく『ネ』と書いてあった。

 ダイイングメッセージだろうか。

 倫太郎の左手の爪には、土が詰まっている。

 やはり自分で書いたのだろう。


 『ネ』から始まる人なんて俺は知らない。

 俺の知らない奴が、倫太郎のことを殺したのだ。

 腸が煮えくり返りそうだ。


 倫太郎の右手側。

 そこには右手があった。


 肘のあたりから切り落とされた右腕は、一枚の写真の上にあった。

 その腕は何かを指すように、指が一本だけ伸ばされていた。

 そしてその下の写真。


 そこには、カメラ目線で(ヴイ)サインをしている、腹立たしい顔があった。

 数人映っている。

 そしてその写真には「待っている」と書いてあった。

 血液で、だ。


 おそらく、この写真も倫太郎の能力によって撮られたものだろう。

 犯人の居場所を示すためのツールが、全て倫太郎のもので出来ている。


 ふざけている。

 悪趣味だ。

 正気の沙汰とは思えない。


 言葉に表せないほどの憤怒が、体の底から滲み出る。

 頭が、顔が、熱くなるのを感じる。


 哉を見る。

 彼は未だ、この状況が受け入れられていないのか、さっきと変わらず、呆然と立ち尽くしている。


 なら、俺1人でいいや。


 倫太郎が落としたヘアピンを拾って立ち上がる。

 俺はポケットに彼のヘアピンを入れ、校舎裏へと歩き始めた。


「カケ......」


 名前を呼ばれた。

 呼ばれたので、俺は振り返った。


 俺を呼んだのは哉。

 彼は真剣な顔で、俺を止めた。

 俺の腕が掴まれる。


「ダメだ」


 哉の必死な静かな呼びかけ。

 しかし、俺はそれに応じない。


 俺は哉の手を振り払った。

 哉の手が俺から飛ばされる。


 その後俺は熱した水蒸気で一線を引いた。

 

 思ったよりも熱くしてしまったかもしれない。

 俺の作り出した水蒸気が、地面の草を発火させた。

 その火は、すぐに広範囲を燃やした。


 もう誰も、俺を追っては来れないだろう。


「行くな、翔琉!」


 俺は哉の言葉に振り返ることは無い。

 なぜならその声は、俺に届いていないから。


 声は聞こえる。

 だが、なんと言っているかは聞こえない。

 いや、聞こえないのではない。

 聞こうとしていないのだ。


 本来ならはっきりと聞こえるはず。

 だが、俺はそれを受け付けない。


 なぜなら俺の頭は、

 犯人を殺すことでいっぱいだから。


 俺は学校の裏、暗い林へと姿を消した。



 ---



 いつもならこれくらいの時間には柑子色に光る空も、分厚い雲に覆われて光を通さない。

 世界が暗くなる。


 それに加えて、林の中。

 尚更光を受け付けず、一層暗くなっているこの場所。


 不自然な程に音がない。


『待っている』


 そう写真には書いてあった。

 にもかかわらず、人の気配を感じない。

 気配を消しているのか、本当に誰もいないのか。


 おそらく前者だろう。


 このタイミングでの襲撃。

 トリガーは、俺が最強になった以外に考えられない。

 だとすれば、これは俺をおびき寄せる為の作戦だろう。

 だから、どこかに人がいるはずだ。


 1人か2人か、少数か大勢か。

 相手の人数がどれくらいなのかは分からない。

 が、全部殺せば終わる話だ。


 途端、林の中一角が音を立てて動いた。

 そこから、1人の男が飛び出してきた。

 そいつの武器は日本刀。


 黒い手ぬぐいで顔を半分隠したその男は、刀を振り上げて俺に飛びかかってくる。


「遅せぇよ......」


 気づけば、そんな言葉がこぼれ出していた。


 俺は飛びかかるそいつを横に1歩だけ動いて躱す。

 そいつが地面に着地する頃、彼の体と首は繋がっていなかった。


 俺が回避しつつ、氷で作った片手剣を使い切り飛ばしたのだ。

 死体は『ドサッ』と低い音を立てて落ちた。


 それが、開始の合図になった。


 今まで音もしなかった林から、次から次へとさっきの奴と同じ格好をした連中が飛び出していた。


 初め数人は剣で相手をした。

 相手と言っても、一太刀で死ぬ者ばかりだが。


 切っては捨て、切っては捨て。

 何度か死体も利用して戦った。

 死体で銃撃を防いだり、投げつけたり。


「はぁ......」


 だが、そんな戦い方も面倒だ。

 疲れるだけ。

 どう見ても下っ端連中のこいつらと、相手なんてしていられない。


 俺は剣を消す。

 下っ端共は、ここぞとばかりに俺に飛びかかる。


 刹那、そいつらは地面から飛び出した氷柱に貫かれる。

 地から足は離れ、四肢をだらんとぶら下げている。


「滑稽だな......」


 そんな一言の後も、草の向こうから音が聞こえる。

 まだまだ途切れず、次から次へと連中が飛び出す。


 その悉くに、氷柱が突き刺さる。

 一つ二つと、手足をぶら下げる死体が増えていく。

 数人に一人、俺の元までやって来る奴もいるが、やはりそいつも殺される。

 水粒によって脳天を貫かれ、一本の血液が垂れ下がって死ぬ。


 中に一人、強い奴がいた。

 まぁ、強いと言っても宙よりは弱いのだが、それでもこの集団の中では強い。

 そいつの手にはメリケンサックが握られており、その拳で俺を殴ろうとする。


 それを俺は寸前で、氷剣を使って切り落とす。


 そう思ったのだが、拳はそこまで届かなかった。

 力を籠めて曲げられた腕は、伸ばしきられないまま止まっている。

 よく見ると、少し震えているようにも見える。


 最初、俺はどうして相手が拳を止めたのか分からなかった。

 だがその疑問も、メリケンサックの男を見ればすぐに分かった。


 彼の胸から、腕が生えていたのだ。

 腕の付け根からは血が大量に滲み出している。


「あのさぁ、俺の相手を殺そうとしないでくれない?

 俺の楽しみがなくなるじゃんか」


 彼から、そんな声が聞こえる。


 いや、彼じゃない。

 彼の口からではない。


 彼の口は、パクパクと震えていて「あ......あ......」と、絞り出したような苦痛の声音が聞こえてくる。


 ならあの声は誰のものなのか。

 答えは簡単。

 彼の後ろにいる男。

 今、彼の心臓を手刀で貫いている男だ。


「勝手に動かないでって言ったよねぇ

 何のつもり?」


 男は手を突き刺したまま、苦痛に顔を歪める彼の顔を覗き込む。


「ねお......さ、ん......」


 彼は、痛みを含んだ声で、そう吐き出した。

 その後、必死に理由を語ろうとしているが、それは言葉になっていない。


 言葉になっていないその声を、男は冷めた顔で聞いている。

 理由を何とか理解しようと。


 しかし、俺にとってはそんなことどうでもよかった。


「ネオ...... 」


 俺はその名前に聞き覚えがあった。

 神様から聞いた名前だ。

 気を付けろ、と。


 会うことになっても、もう少し後だと考えていた。

 その楽観的な考えは、今この瞬間打ち破られた。


「ん?」


 俺のつぶやきを聞いて、ネオは俺の方を見た。


「ああそうだった

 待たせてるんだった」


 彼はそう言い、胸に穴の開いた男から手を抜いて吹き飛ばした。

 触ることもなく、何かで引っ張るようにしてそいつは飛んで行った。

 木にぶつかって止まる。

 もうすでに、死んでいた。


「お前、自分の仲間をどうして簡単に殺せるんだ」


 そう。

 彼は、自分の仲間をあっさりと殺したのだ。

 まるで小石でも蹴るように、何ともない顔をして部下を殺したのだ。


「仲間?」

「あいつはお前の仲間だろ?」


 俺は木にくっついたまま死んでいる死体を見ながらそう言った。


「あれは仲間じゃない

 勝手についてきているだけ

 俺はその組織ごっこに付き合わされているだけだ」


 それでも、彼らに尊敬されているのには変わりない。

 敵ではないそいつを、殺す必要なんてないだろ。


「俺は自分より弱い奴に興味はない

 弱い部下なんて、多くいたところで邪魔なだけだ」


 それは理由になっていない。

 殺すための理由としては不十分だ。


 最低でも敵でなければ殺してはいけない。

 俺の感覚では、の話だが、正しいと思う。


 勿論、前世では正しくない。

 だがこの世界では、合っているだろう。

 ここは、そういう世界だ。


 この世界の常識をまだ理解しきれていない俺が言うのもなんだが、これは常識なのだ。


 彼は常軌を逸している。

 いくら人が簡単に死ぬこの世界だからといって、これほどまでに仲間をあっさり殺す奴がいるだろうか。

 いや、居ない。

 こいつは、狂っている。


「でも、使いっ走りとして使うのなら都合がいい

 弱くても雑用くらいはできるからな」

「......」


 俺は、何も言うことが出来なかった。


 使うだけ使って、気に入らなければすぐに殺す。

 こいつは、人をなんだと思っているんだろうか。


「と言っても、余計なことまでしてこうなってるんだけどな

 俺が命令したのは、『最強の友達を1人殺して最強をおびき出せ』ってことだけ

 そこから先は命令してない

 それを勝手に―――」


 彼はまだ何か言っていたが、それは俺には届かなかった。


 こいつ今、なんて言った。

 最強の友達を1人殺して、だと。


「お前が主犯か......」


 俺は、ネオに聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう言った。

 怒気の籠った声色で。

 それも静かな土器を。


「主犯?

 まぁ、そう言うことになるのか」


 なんだその含みのある言い方は。

 まるで自分は関係ないとでも言うような。

 ふざけるなよ。


 仲間だと思ってないとしても、あいつらに命令したのはこいつだ。

 無関係どころか主犯そのものだろうが。


「そうだな

 俺が、彼を殺せと命令を出した」


 俺はそれを聞いた瞬間、戦闘態勢に入った。

 こいつには触れてはいけないとの事だったので、遠距離から鋭く尖らせた氷柱を数発、あらゆる方向から発射する。

 その後、氷で片手剣を作り高速で襲いかかる。


 俺の剣を避ければ氷柱に殺られ、氷柱を避ければ俺の剣に殺られるように。


 ネオは動くことなく、俺がさっきまでいた場所を見ている。


 弱いやつには興味が無いとか、大層なことを言っていたくせに、俺の攻撃に反応ができていない。

 所詮口だけか。

 強キャラを気取っている、勘違い野郎か。


 俺は氷柱の軌道を修正。

 全てをネオに向かわせる。

 それらの着弾と同時に、俺はネオを斬る。


 その寸前、ネオと目が合った気がした。

 否、気がしたのではなく、事実目が合ったのだ。


 顔も動かさず、目だけで俺を追って。

 これは顔で追えなかったのでは無く、わざと目だけで追ったのだろう。

 それはまるで、顔を動かすことすら面倒そうに。


 その目は、俺を見下しているようだった。

 実際、俺は攻撃のために体勢を低くしているのでネオに見下されるような形になっているが、そう言うことではない。

 人を見下す感じで、冷酷さを感じる目をしていた。


 しかし、そんなことで俺は止まらない。

 むしろ、止まらない方が最適解と言えるだろう。


 この距離で、今からこれらの攻撃を回避するのは不可能だろう。

 俺でも難しい。


 これまた、怒気の籠った一撃と数発を、ネオに向けてぶちかます。

 入った。

 俺はそう確信した。


 いくら磁力を操るこいつでも、体を一刀両断されれば死ぬ。

 ネオに触れているのは氷で作った物だけ。

 俺は彼に触れていないので、最後の力でどうにかすることだって出来ない。


 俺の勝ちだ。

 口ほどにも無い奴だった。


 刹那、俺は自分の楽観的思想を呪うことになる。


 こうした、勝ちを確信した状況ってのは基本的にはフラグであり、本当に勝つ場合なんて数少ない。

 「勝ったか?」と同様とも言える死亡フラグを感じる。


 事実俺も、こういった状況でさえいなければこの考えが死亡フラグだと感じたことだろう。


 しかし俺は、そんなことを感じられないほど怒っていた。

 怒り狂っていた。

 ただただ、目の前の敵を殺してやる、と。


 気付けば、俺が固く握っていた剣が弾かれ、遠くの樹木に突き刺さった。

 氷柱も剣と同様、ネオに着弾した瞬間に方向を変えた。


 無数の氷柱がそこらの木に突き刺さった直後。

 ネオがニヤリと不気味な笑みを作り、俺に膝蹴りを入れた。


 なんて速さなんだ。

 目で追いきれなかった。


 俺は後方へと大きく飛ばされ、木に吸い寄せられるようにして激しく叩きつけられた。

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