表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第七章 『最強』
69/158

第六十七話 『ニチジョウ』

『ヒュッ!......ヒュッ!』


 早朝の庭に、空気を切る音が響く。

 1から100までピッタリ100回。


 空気を切り裂くその音は、早朝の沈黙さえも切り裂いている。

 失わずに済んだ家の庭で、俺は素振りの練習をしているのだ。


 素振りというのは良いものだ。

 研ぎ澄ませても研ぎ澄ましきれない。

 どこまでも極めることができる。

 素振りに限界は無いのだ。


 どこまでも速く、どこまでも精密に。

 振れば振るだけ、俺は強くなる。

 ......気がする。

 師匠もそう言っていた。


 で、いつもはここから実戦訓練兼能力訓練なのだが、今日は良いだろう。

 ここで朝の練習を終わろう。

 先日までの闘校祭で、だいぶ疲れた。

 今日くらい、少しさぼっても問題ないだろう。


 それに、今週の家事当番は俺なのだ。

 今日は早めに取り掛かろうではないか。


 てなわけで、今日の朝練は終わり。 

 家に戻って朝食を作る。


「おにぃ、おはよう」


 料理がラストスパートになったところで、眠たそうな宙が出てきた。

 目を擦って、大きなあくびをしている。

 眠たそうな宙は、一層かわいい。


「おはよう、宙

 そろそろできるから座って待ってていいぞ」

「うちも手伝う......」


 眠たそうなので座っててもらおうと思ったのだが、手伝ってくれるらしい。

 まだ寝ぼけてそうなので、危ないことはさせないでおこう。


「じゃぁ、これを運んでくれ」

「うん......」


 味噌汁の入った木製の器を二つ、宙へ手渡す。

 それに対して気のない宙の返事。

 大丈夫だろうか。


 俺は主菜や主食、飲み物をお盆に乗せて運ぶ。

 バイトで培った配膳テクを見せつけてやるよ。


 と、お盆の上に大量の器を詰め込みリビングへと運んだ。


 見ると、宙は運んだ味噌汁を寝ながら飲んでいた。

 よくもまあ、寝ながらあそこまで正確に飲めるものだな。

 流石は俺の妹といったところか。

 なんてね。


 成長したんだな。

 こうして寝ながら何かをしている姿を見て、宙の成長を感じるなんて思っていなかった。


 空間把握能力の成長が芳しい。

 感動しちゃうぜ。

 でも、戦闘面での成長なんだよなぁ


 まぁ、いいや。

 なんであれ、成長ってのは大切なのだ。

 それに、この世界での戦闘技術は大切だ。

 強くなると言うことは、死期が遠ざかるのと同位と言ってもいいからな。


 宙は、人間としての成長もいいものだ。

 何の問題もない。


 とまぁそんな感じで、いつもの朝が始まった。



 ---



 現在、授業中。3時間目。

 体育の授業中である。


 体育と言っても、生前の日本のように「みんなで楽しくスポーツしようぜ」みたいな感じではない。

 体育というよりも、戦闘訓練といった方が近いだろうか。


 藁でできた案山子のような敵に、木刀を振るうという授業内容だ。

 力の多くないコツンコツンという音と、「やー」という迫力のない掛け声が聞こえてくる。

 俺も、その練習には参加しているものの、本気ではない。


 仮に俺が本気を出せば、案山子が根元からへし折れる。

 それもあるのだが、何よりやる気がないのだ。


 別に訓練は嫌いじゃないのだが、授業となるとどうもやる気が出ないのだ。

 よって、俺も案山子に向かってコツンという音を鳴らす。


 ちなみに、哉は訓練をしていない。

 しかし彼は俺と違い、しないんじゃなくて出来ないのだ。


 なぜか?

 それはとても羨ましいことに、女子に人気であるからだ。


 序列1位の人気者。

 会話のしやすいお調子者。


 「あれどうやってやるの~」とか「すごぉ~い」とか、明らかに媚びを売っている鳥肌の立つような声が聞こえてくる。

 羨ましい。


 あいつにはもう彼女がいて、アタックしても無駄であるのにあれだけ媚びを売られている。

 フリーの俺には誰一人として寄ってこないのに。

 本当に、羨ましい。


 哉の周りには男も寄っているんだが、俺の目にそれは映らない。

 あいつ、女の子にモテモテだな。


 俺も、序列2位なんだから、数人くらいこっちに来てもいいんじゃないかなぁ。


「今日はここまで

 素早く着替えを済ませ、次の授業に遅れないようにすること」


 俺が、そんなどうでもいいことを思っていると、授業が終わった。

 次の授業は数学だ。

 面倒である。



 とまぁそんなことを嘆いても、無情なことに数学はやって来る。

 隣で着替えている哉も、「次は数学かー......」と言ってうなだれている。

 分かる、分かるぞその気持ち。


 でもな哉。

 お前は体育の時間、天国にいたのだから文句はいけないぞ。

 人気者は大変だな。


「お前、『じゅっきょう』に入れられてるらしいな」


 哉は突然、俺に向かってそんなことを言った。

 何言ってんだこいつ。


「俺は前から『十強』だぞ?」

「違う、そっちじゃない」


 そっちじゃないってどっちなんだよ。

 十強......じゅっきょう......十狂......


「えっ、もしかして狂ってる方か?」

「ああ」


 なんてことだ。

 困ったものだ。

 心当たりなんて無いんだがな。


「どうして俺が十狂に?」

「お前試合中に笑ってただろ

 多分それが原因だろうな」

「......そうか」


 なんてこった。

 心当たりが無いとは言ったが、よくよく思い返せば笑っていたかもしれない。

 まぁ、試合中に笑っていたなら、狂っていると思われても仕方ないな。


 個人的には、久しぶりに動けて楽しい、みたいな感覚だったのだが、どうも周りから見れば狂気的だったらしい。


 純粋に楽しめば狂気的だと思われる。

 そしてもともと寄り付かなかった生徒が、より俺から遠ざかる。

 これじゃあ彼女なんてできるはずもない。

 不幸だ。


 キャッキャウフフのリア充生活とか送ってみたいものだよ。


 俺がそんな衝撃的な報告に心を痛めていても、残酷なことに数学はやってくる。

 仕方がない。

 そういうスケジュールだからな。


 俺は潔の良い男だ。

 大人しく数学を受けようではないか。



 ---



 4時間目の数学は、チョークが数発飛んできただけでそれ以外は特に何も無く終わった。

 てなわけで今は昼休み。


 そして昨日から分かりきっていた報告。

 今日の牧田はお休みだそうだ。


 牧田のクラスに一応昼食のお誘いに行くと、彼のクラスメイトからそう聞かされた。

 俺も哉も、そんなこと当然だろうという顔でその報告を聞いた。


 ちなみに、俺はその報告をしに来た奴の名前は知らない。

 哉は知っているようだが、別段興味もないので聞こうとも思わない。


 とまぁそんな感じで、今日はお2人様でのランチタイムである。

 この状況でもし、哉が「2人っきりだね」とか言って来たらぶん殴ろうと思う。

 考えるだけで寒気がする。


 で、俺の今日の昼食はお手製である。

 宙が作ったものならば、満足すること間違えなしなんだがな。


 自分で作った弁当を、モテモテ男と一緒に食べる。

 何が悲しくてこんなことを。


 俺たちは食堂で昼食をとる。


 俺は家から持ってきた弁当。

 哉は食堂のカレーである。


「今日は彼女の弁当ではないんだな」


 俺はなんとなく、話のネタにしようと思っていったのだが。

 哉の顔に、少し影が差した。

 少し、ダメな部分まで踏み込んでしまったかもしれない。


 男女関係はイザコザが多いと聞くからな。

 別れた、とか、そんな話が来るのではないか。

 ちょっと失敗したな。

 覚悟して聞いて、謝ろう。


「最近、少し喧嘩してな......」


 俺が思っていたよりも内容は、軽かった。

 だが、哉にとっては重い話だ。

 俺には良く分からないが、彼女との喧嘩というのは辛いものなのだろう。


 恋は病って言うしな。

 その病が悪化すれば辛いはずだ。


「すまん

 変なことを聞いた」

「いや、大丈夫だ

 そんなに大きな喧嘩じゃないからな」


 弁当を作って貰えないとは、かなりの喧嘩なんじゃないのか?

 宙が俺に弁当を作ってくれないことなんて喧嘩してもなかった。

 それが作って貰えないなんて......

 さぞ辛いことだろう。


「......」

「......」


 言葉が無くなってしまった。

 俺たちが、こんなに静かになることがあっただろうか。

 何となく、気まずい雰囲気が流れる。


 と、そこでいきなり、哉が俺の弁当をつついてきた。

 そして、中から卵焼きを持っていった。


 こいつ、いつも卵焼きだな。


「宙ちゃん、料理上手いなぁ」


 そうだ。

 俺の妹は料理が上手いのだ。

 だがな、哉。


「今日のは俺が作ったやつだぞ」

「え......」


 哉の、もぐもぐが止まった。

 俺と弁当を交互に見ている。


「お前、飯作れたんだな

 それに、どうして急に弁当なんて作ろうと......」

「急じゃないぞ

 今までも作っていた」


 俺がそういうと哉は目をパチパチと、音がなりそうな勢いで瞬きをした。


「じゃぁ、俺が今まで食べてきた弁当にはお前が作ったやつもあったのか?」

「ああ」


 哉は、再度面食らった表情を作る。


 そういえば、哉がつついた弁当が、俺の作ったものだったことは今まででも何度かあるが、こうして言ったのは初めてかもしれない。


「そうか......」


 何こいつ。

 そんなに俺の作った弁当が嫌なの?

 それ、失礼ってやつじゃない?


 俺も宙ほどではないけど料理はできるはずだ。

 味はそう変わらないだろうに、作った人の違いで反応がここまで大きく変わるとは。


 それにしてもなんだろう。

 ちょっとムカつく。


「俺のか宙のか分からない弁当を食べるのは怖いだろう

 これからは、つまませない方がいいな」


 からかうようにそう言って、俺は弁当を哉から遠ざけた。


「ごめんって」


 哉は切実そうに、しかし軽々しく。

 哉はそう一言謝り、テーブルに乗り出して俺の卵焼きをもう1つ持っていった。


 俺の言葉は冗談混じりで、咎めているものではなかった。

 けど、もう一個取ってもいいとは言っていないぞ。


 まぁ、いいんだけどさ。



 久しぶりに牧田の居ない昼休みは、こんな感じで終わった。



 ---



「お前ら、仲がいいのか悪いのか分からないよな」


 放課後、部活も終わって、今から帰ろうとしている時、哉が俺と小夏に向かってそう言った。

 まぁ確かに、俺自身も仲がいいのか悪いのか分からない。


 悪態をつきつつも仲がいい友達という存在も聞いたことはある。

 それに多分だが、俺も小夏もそんなに互いを嫌ってはいない。


「良くないわ

 こんなのと仲がいいなんて冗談じゃない」


 そう言ったのは小夏だ。

 そう言うのは予想していた。

 これがツンデレってやつか。


 でも、デレがまったく来ないんだよな。

 ツンツンって感じだ。


「お姉ちゃん

 そういうことは嘘でも言っちゃだめだよ」


 とはユキちゃんの言葉だ。


「お姉ちゃん、どうしてそんなに先輩に強く当たるの?」


 あっ、それは俺も気になる。

 小夏に嫌われている嫌われていないはもうどうでもいい。


 どうして俺へのあたりが強いのか、ずっと気になっていた。

 これは絶好の機会だ。

 心して聞くとしよう。


「......言いたくないわ」


 妹からの質問を受け、小夏は何故か恥ずかしそうにそう言った。


 何その恥ずかしそうな表情。

 もしかして、本当にツンデレなのか。

 デレの部分なのか。


 いやぁ、やっぱり小夏はツンデレキャラだったんだな。

 ロリっ子ツンデレ。

 いいと思うよ。

 属性としては最高じゃないか。


 圧倒的支持を得るあのツンデレではないか。

 最高だね。

 まぁ、こいつがロリなのは外見だけだが......


 おっと、この辺でやめておこうか。

 もしこんなこと口になんてした時には小夏の鋭い目つきで殺されるだろう。


「......」


 既に少し睨まれている。

 やめて。

 そんなに見つめないで。

 照れちゃうじゃない。


 そんな様子を、珍しいことに穂香は黙って聞いていた。


 それもそうか。

 今の会話に、穂香が入り込めるような隙間は無かったしな。


 とは言っても、穂香は話していないだけで俺の隣にピッタリくっついている。

 腕に巻き付くまではしていないが、それでも距離が近いので少々歩きづらい。


 こういった構図で歩くようになってから大分経つのだが、やはり慣れない。

 俺も男の子だし、清楚系女の子にベッタリくっつかれて歩くとなると緊張するのだ。


 まぁ、表情や行動にその緊張は出していないのだが、内心は緊張しっぱなしだ。

 これが男の子の性ってやつだな。


 もう少しだけ、離れて歩いて欲しいものだ。

 緊張もそうだが、物理的にも歩きにくい。

 定期的に体がぶつかるのだ。


 ほらまたぶつかった。

 あ、今いい匂いしたな。

 女の子の匂いだ。



「なんだあれ」


 と、俺の緊張など気にもせず、突然指を差しつつそう言ったのは哉だ。

 彼の指が差すのは人溜まり。

 校門を出てすぐの、林に出来ている野次馬のような人溜まりだ。


 なんだあれ。

 何か変なのでも落ちていたのだろうか。

 それとも珍しいものか。


「ちょっと見てくる」


 哉は興味津々と言った感じで走り出した。

 他の面々もそれを歩いて追いかける。


 哉は人混みにたどり着き、どうやって入り込もうか様子を伺っている。

 そして、少ししてから隙間を見つけて入り込んで行った。


 哉に追いついた俺も、それに続く。

 ちなみに、女性陣は人混みから少し離れて様子を見ている。


 哉は、上手く人混みを割って進む。

 俺もそれに遅れて続く。


 人混みはなんだかガヤガヤ言っているが、声が重なりすぎて聞こえない。


 ていうか、なぜ俺は人混みを進んでいるんだ?

 戻ってきた哉に、なんだったのか聞けば良かったな。

 そうすればこんな暑苦しい所を進まなくて済んだんだ。

 失敗したな。


 そんなことを思っていると、人混みを抜けた。

 そこには、いつしか人混みの先頭になった哉が立っていた。


 哉は、力無くたっている。

 どうしたんだ。


 俺のその疑問は、直後解決される。

 最悪の方法で。


 人混みを抜けた先。

 哉の視線の先。


 そこには......



 片腕を無くした、牧田倫太郎の死体が座っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ