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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第六章 『闘校祭』
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第六十三話 『闘校祭10』

「やぁやぁ、試合お疲れ様」


 俺が舞台から退場すると、目を輝かせた牧田が待ち構えていた。


 これは、インタビューコースだろうな。

 どんな質問がされるのだろうか。

 構えておこう。


 と、俺は構えて見せる。


「えっ

 僕殺されるの?」


 俺の反応を見た牧田は、そんなことを言った。

 俺、怖い?

 そんなに怖いの。


 そんな、急に殺したりしないだろ。

 俺の事、猟奇的殺人鬼だと思ってる?

 そんなわけないだろ。


「殺さないよ」


 俺は慌てて、牧田の発言を訂正する。


「弱肉強食

 この世界では力のある人はすぐに人を殺すからね」

「......そうなのか」


 どうなってるんだこの世界。

 力があれば人を殺すのか。

 狂ってる。

 壊れてる。


 俺は生前、世界なんて壊れてしまえばいいと思っていたが、こういう壊れ方は嫌だな。


「で、なんの用だ?」


 どうせインタビューだろうとは思っていたが、一応聞いておくとしよう。

 もしかするとまた別な、大事な報告とかかもしれない。

 遠坂姉の悪態が辛いとか、明蓮寺の変態が手に負えないとか。


「別に、特に用はないよ

 たまたま通りかかったから会いに来ただけ」

「そうなのか」


 まさかの、なんの用もないパターンだった。

 まぁ、用がなくても話はしていいし、こういうことがあってもおかしくないだろう。


 ......ん?

 たまたま通りかかった?


「遠坂姉妹と明蓮寺は一緒じゃないのか?」


 てっきり、あいつらとこいつは同一行動しているものだと思っっていたのだが。


 もしかして、迷子か?

 牧田が迷子になるとはとても思えないのであいつらが。


「今日は一緒じゃないね

 なんせ今日の僕は、カメラマンだから」


 と牧田は言い、意味もなく肩にぶら下げているカメラを強調して見せた。

 ほんと、こいつなんでカメラ持ち歩いてんだ。

 邪魔だろ。


 そんな、俺には理解のできないことをしている牧田は、なぜか誇らしげだ。

 なぜか誇らしげに、フンスカと鼻を鳴らして仁王立ちする。

 どうやら、こいつは写真を撮ることに異常な喜びを感じているようだ。


 なんだんだよこいつ。

 写真と結婚でもするのか?

 ほんと、写真のことになるとすぐにテンション上がるよな、こいつ。

 そこまで熱中できるものがあるというのは、少し羨ましいな。


「君の写真、沢山撮ったからね」


 と、牧田は自分の片目をチカチカと点滅させて見せた。

 随分と器用なもんだな。


「......そうか」


 俺は、そう軽く返した。


 それにしても、最近では慣れていたと思っていた『撮られる』ということも、いざこうして「撮っている」と言われると恥ずかしい。

 ちゃんとかっこよく撮ってくれてるんだろうな。


 まぁ、そんなことはどうでもいいんだがな。

 結局のところ、写真なんて気にしていたら勝てるものも勝てなくなってしまう。


「あっ......」


 突然、牧田が何かを思い出したような声を出した。

 そんな声を聞かされれば気になってしまうのが人間の性言うもので。


「なんだ?」


 俺は、若干食い入るようにして牧田の声に反応した。


「そういえば、決勝の相手はカヅ君になったらしいね」

「そうなのか」


 「らしいね」と言われても、今しがた準決勝を終えたばかりの俺はそんなこと知らない。

 しかし、そんなに驚きはしなかった。


 牧田インタビューの時にも言ったが、決勝に上がってくるのは哉だと思っていた。

 そうした、予想と言うよりも確信に近い何かがあったために、哉の決勝進出にはさほど驚かなかった。


 だが、少し怖くもある。

 俺がさっき戦った相手は序列2位だ。

 それでもかなりの接戦、それどころか試合のほとんどが押されていた。


 それに対し哉の相手は序列1位だった。

 さらに俺の試合よりも早く終わっている。


 俺が序列2位相手に接戦を繰り広げていた間、哉は1位相手に俺より早く試合を終わらせたのだ。

 最初から危惧していたとはいえ、あいつの強さは並大抵のものじゃない。


 正直、かなり厳しい試合だ。

 彼の能力は『統岩』と、それほど強い能力ではない。

 俺と同じ第二級能力だ。


 能力をふんだんに使っている哉と違い、俺は体術を基とした戦術である。

 個人的には、体術よりも剣術の方が得意なんだが、殺してしまうかもしれないという、もしもが起こった時のために極力刀は使わないようにしていた。

 殺してはいけないというルールもあるしな。


 だが、決勝に限ってはそうはいかないだろう。

 不本意だが、初めから刀を使わないと勝てないと思う。

 剣術と能力を組み合わせて、やっと哉と互角といったところだろうか。


 どうしたものかな。

 まぁ、俺が持っている哉の戦術に関する情報が少ないため、現時点では作戦と立てにくい。

 おそらくだが、今回、牧田は情報を教えてくれないだろう。


 きっと、こいつのことだから「僕は二人とも応援しているからね」とか言って、何も教えてくれないのだ。

 フェアプレイってやつだ。

 ただ、俺の情報収集能力を考慮すればフェアではない。


 まぁ、その辺は牧田のせいではない。

 俺が頑張るしかないのだ。


 幸い、決勝戦までは時間がある。

 何とかしよう。

 ......どうしたものかな。


「じゃぁ、僕は行くよ」


 そう言って、牧田はどこかへ行ってしまった。

 撮影場所にでも行ったのだろうか。

 でも、少し早いよな。

 まぁ、あいつにもいろいろあるのだろう。


「やぁ!」


 と、牧田と入れ違いになるようにいてある男がやって来た。

 神様だ。


 ていうことは、牧田は神様から逃げて行ったのかもしれない。

 彼は、この世界には珍しく神様に苦手意識を持っているらしいしな。


「まずは、決勝進出おめでとう」

「お、おう」


 うーん......


 おめでとうと言われるのは悪い気はしないんだが、こんな面倒な試合に出なければならなくなったのはこいつのせいだ。

 なんだかなぁ......


 そんな心中のため、俺はなんとも間抜けな返答しかできなかった。


「いやぁ、凄かったね

 まさか、あいつに勝つとはね」

「ギリギリだったけどな」


 そう、ギリギリだった。

 俺が篠田を押していたのは最後くらいだ。

 それ以外は押されていた。


「こういう時は、相手の言葉を否定しないもんなんだよ

 素直に受け入れるべきだ」

「そうか」


 そういうもんなのか?

 でも、謙遜も大事だと思うんだけどなぁ......

 こういうところか。


「決勝戦が終わったら、勝敗に関係なく僕たちが初めて出会った場所に来てくれ」


 初めて出会った場所ってのは、あの自然いっぱいで真ん中に大きな岩があるあそこだろう。

 試合が終わったらすぐに向かうとしよう。


 勝っても負けても、何か言うことはあるってことか。

 勝ったら最強、負けたら家を没収。

 勝たないとな。


「分かった」


 神様は用件だけ言うと、とっとと帰ってしまった。

 やはり、気まぐれなやつだな。

 俺は、どこかへと歩いていく神様を見ながらそう思った。



 ---



 さて、決勝戦までは結構な時間がある。


 準決勝は午前8時から始めるのに、決勝戦は午後2時からだ。

 いくら準決勝での疲れを癒す時間が必要だからといって、6時間の休憩は間が開きすぎてはないだろうか。

 体が固まってしまうだろ。

 まったくだ。


 てなわけで、俺はその6時間を無駄にはしない。

 疲れない程度に体を動かす。


 疲れは取れるが体が固まって動けない、なんてことになっては元も子も無い。

 逆もまた然りだ。

 要はバランスってわけだ。


 次の相手、哉はかなり強いはずだ。

 コンディションは万全な状態で挑みたい。

 少しでも、勝率をあげるのだ。


 優勝景品なんてどうでもいい。

 俺は、家がなくなるのは嫌な訳だ。


 誰だって、「お前、負けたから明日から家無しね」なんてことにはなりたくないだろう。

 妹も住んでいるのだから尚更だ。


 とはいえ、哉に手を抜いてまで負けてもらうのはなんだか違う気がする。

 家が無くなるのは嫌なのだが、意図的に負けてもらうのはもっと嫌だ。

 これだけは譲れない。

 男のプライドってやつだろうか。


 ......。

 こんな俺のプライドという、他人にとってはどうでもいい理由で妹の家を無くしてしまってもいいのだろうか。


 否だ。断じて否だ。

 いい訳がない。

 いざとなったら事情を話そう。

 あいつは馬鹿だが分かってくれるやつだ。

 事情を話せば、協力してくれるはずだ。


 もっとも、そんな事しなくても勝ってみせるがね。

 哉に協力を仰がなくとも、家は守って見せるともさ。



 てなわけで、俺は校内を適当にぶらつきつつ、体を捻ったり腕を伸ばしたり。

 ストレッチをしつつ歩き回る。

 校内をあっちらこっちらと、行ったことのある場所から、行ったことのない場所まで。

 のらりくらりといろんな場所まで行く。


 ストレッチをしながら、学校探検をする。

 これで俺も学校マスターさ。

 なんてね。


 むしろ、一か月も学校に居て本校の半分以上を知らないなんて、俺の行動範囲は狭いものだな。

 思えば、俺は高等部と部活棟、たまに体育館。

 それくらいしか、行ったことがない気がする。一か月もいて。


 某ラノベ風に言うと、「怠惰ですねぇ」って感じだ。



 ちなみに、俺も6時間ずっとストレッチするって訳ではない。

 ある程度ストレッチが終われば、軽く運動するのだ。

 学校をグルっと一周、ジョギングする。


 そうやって、体が冷えないようにするのだ。

 そうやって、体が固まらないようにする。

 学校を知ろうとしない怠惰な俺でも、これだけは怠惰になれない。

 何度も言うが、負けられないからな。


 そして、ある程度ジョギングが終わったらもう一度ストレッチってわけだ。


 でだ。

 問題はお昼ご飯。

 ランチタイムだ。

 試合前に食べるか、それとも試合後に食べるか。


 食べ物の消化には、だいたい2~3時間ほどかかる。

 試合の開始時間は2時なので、少し早めに朝食を取れば別に食べても問題ない。


 よし、食べよう。

 11時......いや、念の為10時に食べれば問題ないだろう。



 ---



 ジョギングもストレッチも、ついでに昼食まで終え、いよいよ決勝戦だ。

 俺は今、控え室にいる。

 おそらく、反対側の控え室には哉がいるのだろう。


 なんだか緊張してきた。

 決勝戦だからなのか、相手が哉だからなのか。はたまた負けられに試合だからなのか。

 原因分からないが、とにかく緊張してきた。

 もしかすると、全てが原因何かもしれない。


 もっとも、負けられない試合なのは決勝戦に限らず今までの試合全てだが。

 しかしそれでも、最後の負けられない試合となると感じ方は変わってくるというものだ。


 ここまでの緊張、今まであっただろうか。

 社会経験おろか、学校生活さえしてこなかった俺だ。

 部屋に引きこもりっきりだった俺に、なんの緊張があるって言うんだか。


 強いて言うなら、オンラインゲームの試合くらいかな。

 その試合も、さほど良い結果を残せていないので大した緊張はなかったがな。


 あっ、そういえば、抜刀術の大会で優勝したことがあったな。

 でもあれは、本気というかやけというか正気ではなかったというか、まぁそんな感じで、緊張とは程遠い感情で挑んでいた。


 てなわけで、緊張なんてほとんどしてこなかった俺に、この感覚は新鮮だ。

 新鮮だが、好きではない。


 だって苦しいだけじゃないか。

 こんなに脈が速くなり、体が爆発しそうなこの感覚は、どうやっても好きにはなれなさそうだ。

 この感覚が好きな人の気が知れない。

 

「すー......はー......」


 俺は一度、大きく深呼吸をする。

 まだ脈がうるさいのでもう一度。


 よし、だいぶ落ち着いてきたな。

 もちろん緊張はするが、落ち着くことはできた。


 さてと、そろそろだな。

 そろそろ、試合の時間だ。


 舞台の方から聞こえてくるアナウンスも、『そろそろですねぇ』とか聞こえてくる。

 俺たちが入場するまでも間も、アナウンサーが場を盛り上げているのだ。

 これは、あれだな。

 入場したら、今までとは比にならないような歓声が飛び交うんだろうな。


 大きな歓声は好きではない。

 単純にうるさいって言うのもあるが、期待されている気がする。


 実際は、期待ではなく周りの雰囲気に合わせて盛り上がっているだけ。

 俺だってそんなことくらい分かっている。

 しかし、それでも期待されていると思ってしまう。

 『分かっている』と『思っている』は違うのだ。


『選手入場です!』


 と、喋り方が普通な方が声高らかにアナウンスをした。


 そのアナウンスを聞いた俺は、入場ゲートをくぐる。

 反対側からも人が出てくる。

 哉だ。

 彼は、真っすぐ俺の方を見ている。


 入場後、案の定歓声が飛び交う。

 やはりうるさい。

 俺は思わず顔をしかめそうになる。

 が、表情を変えない。


 俺も哉も、互いに歩き続けて、ある程度の距離まで近づくと自然と止まった。

 打ち合わせもしていないのに、ちょうど同じタイミングで。

 さてと。


 見たところ、哉は武器を持っていない。

 今までのように、能力で作った石剣で戦うのだろうか。

 いや、もしかすると他に武器を持っているのかもしれない。

 俺の刀みたいな感じで、形を変えて。

 もしくは服の下に隠せるような小さな武器を。


 とりあえず、いろいろ警戒しておこう。


「やっぱり、お前が上がって来たな」


 哉が話しかけてきた。

 俺も決勝には哉が上がってくるだろうと思っていたが、哉も同じようなことを考えていたようだ。


 ある程度の強さを持てば、相手の強さも大まかに分かるようになってくる。

 哉も相手の強さを分かっているので、やはり強いのだろう。


 いつだったか、哉が「俺は強いからな」とか言っていたのは本当だったんだな。

 いまさらだが、俺は哉の強さを改めて知った。


「俺も、決勝に来るのはお前だと思ってたよ」


 とりあえず、俺もそう返答しておく。

 俺のその言葉を聞いて、哉が柔らかく笑った。


「本気で行くぜ」

「ああ」


 哉は本気で来るそうだ。

 無論、俺もそのつもり。

 本気と本気のぶつかり合いって訳だ。


『それでは......』


 アナウンサーが、大きく息を吸った。

 意図的だろうか、アナウンサーは間を作り出す。

 歓声を呷る。


『試合開始です!!』


 俺は腕に巻き付けた紐を解き、刀にフォルムチェンジ。

 左手で作った即席の鞘に納刀。

 それに合わせて右足を左足に近づけ、全身の力を抜く。


 重力に従うようにして体制を下げ......

 全力で踏み切る。

 地が凹み、そこにいた俺は走り出す。


 初っ端からの速撃迅斬。

 最初から本気。

 何としてでも勝ってやる。


 試合開始だ。


 俺は笑って、刀を振った。

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