第六十二話 『闘校祭9』
『噂のルーキー、なんと準決勝まで上がって来ましたね』
『そうですねぇ
ですが今回の相手は、今まで序列1位と肩を並べて圧倒的な強さを誇っていた序列2位、篠田龍輝ですからねぇ
かなりしんどい試合になるのではないのでしょうか』
『はい
しかし、佐々木翔琉が波に乗っているのも事実
彼が篠田龍輝とどう戦うのかと期待の声も多くあります』
『これはどっちが勝っても、面白い試合になるかもしれませんねぇ
私も、前のめりで見入ってしまいますよぉ!』
『では間もなく、試合開始です』
と、誰もいない舞台に向かってアナウンスする2人は、いつもと違う2人組だ。
今までは女生徒がアナウンサーをしていたが、今日は男2人。
むさ苦しそうなアナウンスだが、意外とそうでも無い。
「ねぇ」とか「よぉ」とか言ってる片方は多少気になるが、意外とアナウンサーアナウンサーしている。
声が通っていて聞き取りやすい。
ベテランなんだろうか。
やたら上の方にある競技場備え付けの放送室を、入場口から見上げてみると、やはり見たことの無いお兄さん2人が顔を覗かせていた。
お兄さんと言っても、どう見ても高校生には見えない。
プロを呼んだのか。
神様も足を運ぶような大きな大会の最終日となれば、外部からプロのアナウンサーも呼ぶのか......
すごいな。
でもなんだろう。
神様が来る最終日だけプロを呼ぶあたり、あの校長のセコさが微妙に垣間見えている気がする。
てか神様、昨日とかもちょこっと来てたけど。
まぁ、いいや。
俺には関係の無いことだ。
『選手入場です!!』
俺は石に台座に生徒証を置き、舞台へと出る。
反対側の入場ゲートからも誰か出てくる。
誰かって言ったら篠田龍輝だ。
俺は、実際にそいつを見たことはないが、話に聞くところ高三で、運動神経抜群、おまけに狂っているらしい。
どう狂っているのか。
簡単に言えば戦闘狂だ。
戦いを好み、戦いに好まれているんだとか。
実際、彼が戦いに好まれているかどうかは知らないが、強そうな風貌はしている。
それに、彼の表情からも戦闘狂が伝わってくる。
俺より少しだけ小柄。
そんなに筋肉も着いていなさそうに見えるが、なぜか運動神経は良さそうに見える。
50メートル走とかさせたら、すごく速そう。
そんなイメージだ。
で、その篠田龍輝は、俺の方を見てニコニコ。
とても楽しそうにしている。
いや、「楽しそう」ではなく「楽しみ」なんだろう。
これからどんな戦いができるのか、と待ちきれない様子。
早く戦いたいのか、入場してきてからうずうずしっぱなしだ。
試合開始の合図があればすぐにでも攻撃してきそうな、そんな様子である。
『試合開始!!』
俺が篠田龍輝を観察している間、「今回の試合はああなるだろう、こうなるだろう」と話していたアナウンサーが、試合の開始を声高らかに宣言した。
そして、ブザーが鳴る。
俺はブザーがなった途端、前方に大きめの水球を作り、大きく横に飛んだ。
刹那、俺がさっきまでいた場所は大きく抉れた。
『雷鳴』
確実に先に動いた。
完全に相手の攻撃の方が遅かった。
それにも関わらず、ギリギリだった。
少しでも避けるのが遅ければ当たっていただろう。
これは、厳しいな。
相手の攻撃を完全に予測し、だいぶ先回りして回避しなければならない。
光より早く避けるなんて不可能だ。
文字通り光速で、あれほどまでの攻撃力を持つ。
控えめに言って無理ゲー。
正直に言って、勝てる気がしない。
実際、今の俺は逃げ回っているだけだ。
そして、適度に水粒を超高速で飛ばす。
その全てが地面を抉るほどの威力とスピードだ。
しかし、見事にすべて躱される。
俺が走りながら攻撃しているため命中率が多少落ちるのもあるが、それでもだ。
それでも躱されすぎ。
だが、考えてみれば当然の事。
俺が出せる最高速度の攻撃は水粒だが、それなんかよりも何十倍も速い攻撃を軽々と繰り出すのが篠田龍輝だ。
光の速度に慣れているあいつにとっては、俺の攻撃なんて遅すぎてつまらないと言ったところだろう。
どうすればいいんだよ。
と、逃げ回っていたその時、足元が爆ぜた。
「しまっ......!」
どうやって篠田に勝つかということだけを考えていたため、今この時のことを考えていなかった。
一定の速度で走り続けていれば、それを先回りされても仕方ないだろう。
本当にしまった。
俺は大きく飛ばされた。
横にというより上に。
上7横3くらいで飛ばされる。
やばい。
本当にやばい。
飛ばされている最中、ふと見えた篠田は俺に手を向けていた。
これはあれだよね。
とどめを刺される感じだよね。
俺、絶体絶命じゃん?
俺は、目の前に直径俺の身長くらいの水球を作り出す。
刹那、篠田の手が光った。
否、手が光ったのではなく雷が生成されたのだ。
その雷は、俺の水球に吸収される。
この場はどうにかなった。
だが、もう一発来る。
俺も、篠田に向かって手を広げる。
そして、篠田の目の前に水を生成して......
消す。
まぁ、正確には消したのではないがな。
篠田の手が再度光った。
刹那、大きな爆発が起こった。
俺は爆風で後方へと飛ばされ、地面に落ちてゴロゴロと転がる。
が、雷を受けるよりも断然マシ。
かすり傷で済んだんだ。
あの雷の連撃を、避けきったと言っても過言ではないだろう。
過言ではないのだが......
一難去ってまた一難。
篠田はどうなったか顔を上げて見てみると、煙から出てくる人影があった。
その人影は、爆発による重症を負った様子はなく、俺同様かすり傷であった。
むしろ俺よりも軽傷。
ビリビリと雷を帯電させた体で、俺に歩み寄ってきている。
それに対し、俺は転がっている。
早急に立たなければ。
と俺が上半身を起こした。
が、それを見た篠田は俺を起こすまいと走り出す。
異常、人間離れしたスピードだ。
我ながら、俺の速撃迅斬も人間離れしたスピードだと思う。
だが、彼のスピードはそれ以上だ。
おそらくは『雷鳴』の能力でその超速を作り出しているんだろうが、全く原理が分からない。
あの帯電状態が何かしらの効果をもたらしているのだろうか。
いや、今はそれどころじゃない。
原理なんて後回しだ。
今にも蹴られそうなこの状況をどうにかしなければ。
篠田龍輝は、俺の目の前まで一瞬で駆け寄り、俺を蹴り飛ばす。
俺はそれを、後方に片手を着き、座った状態からバク転するようにして回避する。
俺はそれと同時に立つことに成功するが、まだ次がある。
ここで油断してはいけないのだ。
俺は地に両足を着いた直後、横に大きく飛ぶ。
刹那、三度地面が爆ぜた。
次は失敗しないよう。
スピードとリズムを不規則に。
前後左右、様々な所が次々と爆ぜる。
少しのミスが命取り。
そんな回避劇を繰り広げながら距離を詰める。
そうやって詰めた結果の近接攻撃も、篠田にとっては遅い。
俺の攻撃は易々と回避される。
俺の攻撃速度は今大会でもトップクラスだと思うんだがな。
俺は、異常なスピードで放つ彼の打撃を体を捻って避ける。
そして、そのまま再度攻撃。
カウンターだ。
出来る限り最速で、出来る限り最大火力で。
全力の蹴りをお見舞い......
「......っ!」
俺の蹴りは、片手で受け止められた。
がっしりと掴まれる。
そして、俺の足を掴んだまま......
篠田の俺を掴む腕のビリビリが、より一層激しくなる。
これはヤバい。
本当にヤバい。
この至近距離で、あの威力の電撃をくらわされれば、警鐘でも片足が爆ぜる。
俺は腕に着けた紐を解く。
見た目を紐から日本刀に変え、素早く振りかざす。
篠田の電撃にはある程度の準備時間が必要なのだろうか。
彼は、俺に電撃を浴びせることなく俺の足を離して後方へと飛んだ。
これは彼の弱点だな。
攻撃の間に、若干のタイムラグがある。
まぁ、あんな威力の攻撃をノータイムでバンバンうち籠めれていたらたまったもんじゃない。
てなわけで、今後の方針が決まった。
篠田のタイムラグを利用しつつ距離を詰め、攻撃。
そう簡単にはいかないだろうが、それが今現在での最善策だろう。
俺はそれを実行に移した。
篠田が繰り出す攻撃のインターバルに合わせて攻撃を繰り返す。
当然、そのほとんどが躱されるのだが、数発は当たる。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、だ。
無論、俺の攻撃は下手ではないがな。
......下手じゃないと思いたい。
まぁ、師匠のお墨付きだし大丈夫だろう。
数発に一度は俺の攻撃が当たる。
がしかし、篠田の攻撃も、数発に一度俺にダメージを与える。
接戦。
いや、何なら篠田の方が若干押している。
攻撃力が違うのだ。
俺の攻撃は蹴り。
刀は当たらない。
それに対し、篠田の威力は落ちる気配がない。
どう考えても、俺の方が不利である。
この状況、続けていればいずれ俺が負ける。
何とか、形勢逆転のチャンスを掴まなくては。
と、そんなことを考えていると、また俺は飛ばされる。
そして、壁にぶつかった。
いつの間にか、壁の近くまで来ていたんだな。
「!?」
いいこと思いついた。
俺は壁に手を当てた後、手で作った鞘に刀を納める。
そして......
踏み出した足で地面を抉る。
『速撃迅斬』
俺の出せる最高速度で、篠田へと一直線に走る。
それに対し、篠田は電撃を放つ。
が、そうしてくるのは丸分かり。
俺は篠田の電撃を水球を駆使して軽く避ける。
そして、
篠田の右スレスレを通り過ぎた。
そのまま攻撃もできた。
しかし、それでは避けられると思ったのだ。
急がば回れ、ってやつだ。
俺が篠田を通り越し、少し走った後、再度電撃が来た。
俺は刀を地面に強く差し込み、右手で水泡を発射して左へと大きく飛ぶ。
そうすることで篠田の電撃を回避した。
が、その後。
俺は奇妙な軌道で飛んで行く。
水も何も出していないのにも関わらず、横向きに弧を描くようにして飛ぶ。
そしてその最中に左腕に取り付けていた短剣を抜き、何かに引っ張られるようにして体を反転させる。
俺の体は、篠田に吸い寄せられるように奇妙な弧を描きながら落下する。
これには異常なスピードがあっても困惑する。
篠田は一歩、後ろへと後ずさった。
否、後ずされなかった。
後ろに引くはずの足は何かに引っかかり、後ろに向かった重心だけがそのまま。
篠田は後方へと倒れた。
篠田は倒れている最中、壁の方を見た。
そこには壁から生えた、否、壁に取り付けられたワイヤーがあった。
そのワイヤーは振動していないため、切れることはないのだが......
ピンと張ったそのワイヤーは、見事に篠田の足を絡め取っていた。
宙に浮いていれば、踏み切ることもできないので篠田のスピードなんて関係ない。
電撃もついさっき使ったばかりだ。
本当に、危ない試合で、ひやひやして......
楽しかった。
俺は着地と同時に、転んだ篠田の真横に短剣を突き刺した。
『試合終了!
勝者は、佐々木翔琉!!』
ブザーが鳴り、試合が終わった。
俺は歓声の中、退場の準備をする。
地面に強く突き刺さった長さの違う刀を回収し、短いほうは納刀、長いほうは紐に戻す。
そして最後に、壁まで歩いて行ってそこに突き刺したワイヤーの先端を抜く。
このワイヤーは魔道具で、魔力を注いでさえいれば軽い力でも強力に固定できるというものだ。
逆に、魔力の供給をやめれば自動で巻取られる。
残念なことに振動させたり自由に操ったりすることはできないものの、使い方によってはかなり便利な魔道具だ。
今回のように。
俺は未だ倒れたままの篠田龍輝を、ワイヤーを巻き取りながら見ていた。
彼はただただ、真顔で競技場の天井を見上げていた。
係員に運び出されるまで、ずっと。
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「そういう感じか......」
と、彼はボソッと呟いた。
それはいつもの笑顔でではなく、何も見ていないような、そんな何もない顔で。
「僕はこれで帰らせてもらうよ」
彼はそう言った。
柔らかいが、どこか冷たさの残る。
そんな口調で。
「お、お待ちください
まだ決勝が残っております」
と、彼と一緒にいた校長は、彼が帰るのを止めた。
「いつもでしたら、最後まで残られるではありませんか
それに、閉会式もございます
閉会式には例年同様、あなた様にも出ていただこうかと思っておりましたので......」
校長はそこで話を切った。
校長は、必死で彼が帰ろうとするのを止める。
それはもうしがみつく勢いで。
無論、しがみついたりはしない。
が、そうしたい気持ちは十分にあった。
しがみついてでも彼を止めたい。
閉会式には来ていただきたい。
と。
「いつもなら、ね
でも、今回は違う
今回は、決勝なんでどうてもいい
どちらが勝つか分かりきっている試合なんて、見ていても面白くないじゃないか」
違う。
帰る理由はそれじゃない。
彼はいつだって、どの試合で誰が勝つのか分かっている。
彼は未来が見えるのだから。
校長も、それは重々理解していた。
だから、そんな理由では食い下がらない。
「ですが、だとしても
閉会式にはご出席いただきたいのです」
校長は、彼の言葉を否定はしない。
校長には決勝戦がどうなるのかなんて知る由もない。
第一、校長は彼について回っていたため、Bブロックの試合しか見ていない。
Aブロックからどちらの選手が上がって来るのかすら知らないのだ。
決勝戦の行方など、分かるはずもない。
だが、それでも彼の言葉は否定しない。
どんな言葉も否定してはいけないほど、彼が高貴な存在であるためだ。
そんな彼と親しげに話すあいつは狂っている。
と、校長はある生徒の顔を思い浮かべ、顔を歪める。
「僕が閉会式に出なければいけない理由なんてあるの?」
いや、彼が閉会式に出席する理由はあるのだ。
「ございます
あなた様がいなければ、優勝者の希望をかなえることができません」
と、校長はそう言ったのだが、彼の顔が幾分か歪むのを見て自分の失態に気づく。
「僕を学校の行事に巻き込まないでくれ
君に学校長を任せた時、僕はそう言ったよね
それなのにこんな大会を開き、優勝景品に僕を必要としたのは他でもない君だよね」
それを言われ、校長は顔を俯かせて小さくなる。
「いや、こうして学校を大きくしてくれるのは僕としてもありがたいことなんだよ
おかげで、僕の目標にも近づいたしね
だから景品の準備もする」
そう言われ、校長は少しだけ心を休める。
が、それもつかの間、彼はまだ言葉を続けた。
「でもさ、それを閉会式にする必要なんてないよね
それなのに、君は僕をここに留めようとするの?
つまらない時間を過ごせって言うの?」
校長は息が止まる思いで彼の言葉を聞く。
冷や汗が止まらない。
殺されるのではないかと、固まってしまう。
もっとも、彼は人を殺さない。
ただ、極稀にだがいつ誰かを殺してもおかしくないような、そんな雰囲気を発する。
笑顔から発せられるこの雰囲気が、この世で最も恐ろしい。
「僕をこれ以上、学校行事に巻き込まないでくれ
僕は忙しいんだ
時間がない」
とても、不老不死である彼の言葉とは思えない。
時間なんていくらでもあるはず。
それなのに、何をそこまで急ぐのだろうか。
校長には理解ができない。
やはり、雲一つ上の存在の考えることは分からない。
「優勝者への景品はまた後日用意する
だから、今日は帰らせてもらうよ」
もうこれ以上、校長は何も言えなかった。
彼の後ろ姿を見る事しかできなかった。
神様は、競技場を後にした。




