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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第六章 『闘校祭』
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第六十話 『闘校祭7』

 てなわけで三日目。

 俺の今日の試合は最後。

 とは言っても、今日は5試合しかないのだが。


 この闘校祭、日が進むにつれて一日の試合数が少なくなっていく。

 明日なんて2試合だ。


 が、明日の2試合は決勝と準決勝。

 この大会で最も盛り上がる日だろう。


 その為にも、今日は勝ち抜けなければならない。

 俺は運がいいことに4試合目を休むことができるのだが、その分念入りに準備しなければならない。

 体が訛ってしまうかもだしな。


 てなわけで、俺は今、家の庭で水人形(アクア・ドール)と戯れている。


 ちなみに宙はもう家にいない。

 先に闘校祭へと行ってしまった。

 それもそのはず。宙には4試合目があるのだ。


 頑張れよ。

 お兄ちゃん、応援してるからな。



 闘校祭はもう始まっている。

 あの闘校祭に、集合時間なんてない。

 好きな時間に来て、好きな時間に帰ればいいのだ。


 それは選手とて例外ではない。

 試合の時間までに到着していればそれでいい。

 それまでに到着しなければ不戦勝扱いにされるだけだ。

 要は、万が一にも遅刻は許されないのだ。


 てなわけで、水人形との戯れはここまでとしておこう。

 会場には、早めに到着しておきたい。


 とは言っても、まだ余裕がある。

 ゆっくり、落ち着いて会場に向かうとしよう。



 ---



 遅れないように早く家を出たが、思ったよりも到着時間はギリギリになった。

 あれから風呂に入って準備をして、それからゆっくりと来たのだ。

 その間、時計を見なかった。

 時間を気にしていなかったのもあるが、この時間に着いたのはかなり予想外だった。


 危ない危ない。

 もう少しで棄権扱いにされるところだった。

 でもまぁ、結果的に間に合ったんだし万々歳だ。


 唯一問題があるとすれば、ギリギリに到着しすぎて、対戦相手が誰なのか分からないのは問題だ。

 まぁ、4試合目の試合表から、対戦相手は2人に1人なので情報は把握しているが。


 とりあえず、舞台に上がるとしよう。

 対戦相手とのご対面だ。


 俺は舞台へと上がった。

 反対側からも人が上がってくる。


 その対戦相手は黒髪セミロングの女の子。

 学校のアイドル的存在と聞く女子中学生。

 俺のよく知る、かわい子ちゃん。

 神園宙。俺の妹だ。


 どうやら、俺の対戦相手はかわいいかわいい妹らしい。

 これは、俺はかなり不利かもしれない。


 何故かって?

 当然だろ。

 俺は、あのかわいい妹に攻撃なんてできない。

 もっと丁寧に、割れ物のように接しているのだ。

 殴る蹴るの暴行なんて論外なのだ。


 そもそも俺のこの力は、宙を守るために身につけたものだ。

 その力を宙に振るうなんて、考えるだけでも恐ろしい。


 俺は俺の負けかなぁ......


『家、無くなるのは嫌だよね』


 と、俺がそう考えた時、悪魔の声が聞こえた。

 もとい、悪魔ではなく神様の声だ。

 もとい、聞こえた訳では無い。思い出されただけだ。


 その言葉を思い出した同時に、あの時の光景も思い出した。

 これがフラッシュバックと言うやつなのだろうか。


 まったく、嫌なフラッシュバックだよ。

 負けられなくなったじゃないか。


 家が無くなるなんて冗談じゃない。


 宙には悪いが、攻撃するしかないようだ。

 できるだけ優しくするからお兄ちゃんを許して欲しい。

 俺は渋々、宙に攻撃することを決意した。


『それでは、試合開始です!!』


 アナウンスの後ブザーがなり、例のごとく試合が始まった。

 途端、宙は能力を使った。


 『撹乱』


 俺を含め、宙以外の場内全員が盲目になる。

 目が見えない。

 真っ暗だ。


 目を開いているのにも関わらず、目を閉じている感覚。

 前世とこの世界の間にあった世界を思い出す。

 黒一色で、他は何も無い世界を。


 だが、この盲目はその世界とは違い音がある。

 困惑するアナウンス。

 盲目の巻き添いをくらい混乱する観客。

 そして、宙の足音。


 今の俺はただ立っているだけで、土を踏む音は宙が発するものだけ。

 右から聞こえていた足音は、次第に左へと動き、テンポが早まった。


 来る。


 宙の一撃が来る寸前、盲目が晴れる。

 いきなり目に光が飛び込んでくる。

 闇に慣れた目が、光を受けて瞳孔が縮む。

 これもまた何も見えない。


 だが、目を慣らしている暇などあるはずもない。

 左。

 僅かに見える宙の影であろうそれの攻撃を、俺は左腕に取り付けている短剣で防ぐ。


 そろそろ、目も慣れてきた。

 ぼんやりだが、見えるようになってきた。

 未だ見えるのはシルエットだけだが、それだけあれば攻撃を躱すことなんざ......


「......っ!」


 俺は見えない目を見開いた。


 宙がいない。

 宙どころか、視線の先にシルエットが見えない。

 さっきまで見ていた黒い影は......?


 面白い。


 視覚も聴覚も、疑ってかからなければならないわけだ。

 撹乱。

 随分と厄介な能力だ。


 で、さっきの影が幻覚なのだとしたら。

 おそらく本物は後ろ。


 俺はそう思って前方に飛び、そこにいるであろう宙の攻撃を躱そうとする。


 その後、後ろを確認しようと空中で体を反転させている時。

 ふと、嫌なよ感がした。


 宙は俺の戦いを真似ているところがある。

 相手の確信を利用して、その裏をかく戦い方。

 それは基本的にはカウンターだが、その他の攻撃にも応用できる。


 もし俺が『撹乱』を持っていた場合、どうするだろうか。

 幻覚を利用して後ろに回り込むか?

 わざわざそんな遠回りなこと......


 流石は宙。

 俺の妹なだけあるな。


 空中で体をひねらせて見たそこには、案の定誰もいなかった。

 それを確認した刹那、背中に衝撃が走る。

 それほど強くない衝撃。

 しかし、積み重なると辛い衝撃。


 間違いない。宙の攻撃だ。

 今までのあれは能力でもなんでもない。

 ただの現実。


 宙が能力を使ったのは最後だけ。

 彼女の姿が消えた時だけだ。


 確かな一撃を貰った。

 ちゃんとした一撃を。


 無論、妹だからと言って手を抜いているなんてことはない。

 本気ではないにしろ、大真面目に戦っている。

 決して油断はしていない。


 それでも一撃貰った。

 まぁいい。

 これからだ。


 てなわけで俺から攻撃......と行きたいところだが、目も耳も信用できないこの状況で、何を信用して戦えばいいのだろうか。

 幻と現実を正確に判断して、宙を見つけなければならないのだ。

 随分と、難しい戦いだな。


 目の前の宙がブレる。

 ブレてブレて、そして消える。

 今回は目は見える。

 が、宙だけが見えないのだ。


 右から足音が聞こえた。

 これは本物か幻聴か......


 本物!!

 俺はそう思い防御姿勢に入る。

 すると宙の姿が現れた。

 攻撃の寸前は攻撃に集中するからか、姿が現れる。


 上から振り下ろされる木剣を、短剣を使って防ぐ。

 否、防ぐ必要など元々なかった。


 宙の木剣は俺の短剣をするりとすり抜ける。

 幻像だ。


 刹那、背後からの強烈な敵意。

 後ろだったか。


 俺は後ろからの攻撃を、見ずに避ける。


 宙は俺の戦いを真似ているとはいえ、実戦経験はほぼ無い。この闘校祭が初めてと言ってもいいだろう。

 そのため、敵意は隠せない。


 敵意という不確かな感覚だけが、宙の場所を把握出来る唯一の糸口というわけか。

 言うなれば、勘だな。



 それから何度も、回避だけが続いた。

 俺の最初の予想は全て外れ、結局は攻撃の寸前に出る敵意だけを感じ取って回避する。

 そんなギリギリで取れる行動からのカウンターなど、できるはずもない。


 完全に押されている。

 が、それもそろそろ終わりだ。

 俺は心の中でフッと笑った。


 俺と宙、2人の動きが止まった。

 もっとも、あの止まっている宙が本物だという保証はないが。


「おにぃの考えることなんてお見通し

 本物か能力かなんて、考えるだけ無駄だよ」


 宙は誇らしげにそう言った。

 いつも可愛らしい妹が、今はたくましく見える。


「強くなったな」


 思わず、そんな言葉が出た。

 意図せず出た言葉だが、本心だ。


 本当に強くなった。

 前までの宙は、戦いとは縁のない、か弱くかわいい女の子だったのだ。

 それが今では、こんなに。

 俺を追い詰めるほどにまでなったのだ。


 能力のおかげというのもあるだろうがそれでもすごい。


「当然!」


 宙はそう言って、鼻を鳴らした。


「おにぃに強くなったのを知ってもらうためにこの大会に出たんだから

 今まで守ってくれてありがとう

 これからは、うちがおにぃを守る番

 おにぃは、ゆっくり休んで」


 宙はそう言って、俺の方へと走り出した。


 今のやり取り、観客席の奴らには聞こえたのだろうか。

 いや、聞こえていないんだろうな。

 別段大きな声で話していた訳でもないし。


 それにしても、「守ってくれてありがとう」か......

 俺が守れなかったから、宙はこの世界にいるんだけどな。


 そして、次は宙の番、か......

 違うな。

 確かに宙は強くなったが、1人では守らなくてもいい。


 俺が宙を、空が俺を。

 そうゆうのが、俺としては理想的だ。


 それに、次こそ俺の番。

 次こそ......絶対に守り抜いてみせる。


 俺はそう決心して、俺は目を閉じる。

 戦いの真っ只中であるにも関わらずだ。


 だが、目を閉じたからなんだって言うんだ。

 元々信用のできない視覚なのだ。

 今走ってきている宙だって、本物か幻像かすら分からない。

 大袈裟に言うと、今見ているこの景色さえ、宙の見せる幻像かもしれないわけだ。


 そんな視界、遮断したところで別段不利益はないだろう。

 むしろ、幻像に惑わされない分目を閉じた方がいいかもしれない。


 宙も、俺が目を閉じたことに気づいただろう。

 俺の耳に届く音がブレた。


 右から聞こえたり左から聞こえたり。

 前からだったり後ろからだったり。


 四方八方から足音が聞こえてくる。


 しかし、そんなのは関係ない。

 俺は宙の攻撃を、のらりくらりと躱す。


 さっきまでの、苦し紛れの回避行動とは違う。

 相手の動きを完全に把握しているような、そんな動き。

 幻聴を聞かされつつも、一切の迷いなく動いている。


 形勢逆転とまでは行かないが、さっきよりとは比べ物にならないほどの変わりよう。

 いきなりの変化に、宙も困惑を覚える。


 宙の読みは、ほぼ100パーセントと言ってもいいほど当たっている。

 俺のとりそうな行動全てを潰せるような、そんな行動を宙はとっている。

 読み合いだと宙の圧勝。


 だが、今の俺にはそんな読みなど通用しない。

 なぜなら、見えているから。

 宙がいる場所も、俺がいる場所も、全て。


 俺の頭上、闘技場の天井にある鉄骨。

 そこに立つ人影が一つ。

 水人形だ。


 目を閉じるところを敢えて宙に見せることで、幻覚を見せる必要が無いと思わせる。

 これだけが、宙との読み合いで俺が唯一勝ったところだ。

 たった一勝だが、重要な一勝。

 オセロで言うところの、四つ角を取ったようなものだ。


 視界ギリギリに入った天井に水人形を生成し、宙に見せつけるように目を閉じる。

 これで準備完了ってわけだ。


 あとはバレないように上から観察し、その視界を基に回避する。

 そして最後に急所を狙った攻撃。

 それだけだ。


 俺は右手に水生棒を作り出す。

 それは、宙もしっかりと見たはず。

 だが、宙はそれに動じない。


 『撹乱』の能力で、ハウリングのような幻聴を聞かせ、音での判断を鈍らせる。

 耳のいい俺にとって、ハウリングは嫌いとする音の一つだ。

 俺を知っているからこそできる戦術。

 だがしかし、今の俺には邪魔にはなるが決定的な悪影響はない。


 宙は俺の左に回り、木剣を構える。

 俺はそれに合わせ、水生棒を振るう。


 宙に当たる寸前に止める。

 そうするために、ほんの少しだけフルパワーよりも遅い剣速で水生棒を振るった。


 しかし、それを宙は左腕で受ける。

 少しだけゆっくりとは言っても、それでも速い速度の水生棒が、宙の腕へと直撃する。

 骨折はしないかもしれないが、かなり痛いはずだ。



 水生棒が爆ぜた。


「は?」



 宙の左腕に走るはずの衝撃は、無くなった。

 水生棒が宙に当たった瞬間、形を保てなくなった水生棒が弾け飛んだのだ。


 水が飛び散る中、俺は困惑の表情を浮かべる。


 なんだこれは。

 まさかこれも幻像か。

 いやでも、俺が何も見えていないと思っている宙が、そんなことで幻像を作る必要が無い。

 それに、確かに先程まで持っていた水生棒がない。

 俺の手の中は空っぽだ。

 なんなんだ、これは......


 しかし、そんな困惑の時間を、宙は待ってくれない。

 宙は、俺に向けて木剣を振るう。


 しかし、宙の攻撃はそれほど強くない。


 無論、痛くない訳ではない。

 ちゃんとした木剣が、ちゃんとした速さで横腹にめり込む。

 痛くて当然だ。


 致命的な一撃ではないにしろ、しっかりとダメージはある。

 だが、我慢できないほどではない。


 俺は痛みに顔を歪めつつ、宙の攻撃を横腹で受ける。

 そして反撃。

 これで終わりだ。


 俺は右手で宙の木剣を捕まえ、左手にバレーボールサイズの水玉を作り出す。

 そこから砂粒サイズの小さな、水滴とも呼べないほどの粒を数粒取り出し、超高速で宙の顔の隣へと飛ばす。


 宙のスレスレを飛んで行ったその水粒(すいりゅう)は、小さいながらも地面を抉った。

 たかが水の粒が、地面を抉ったのだ。

 もしあれが宙に当たればなんて考えると、たまったもんじゃない。


 まぁ、敢えて顔の横え狙ったので当たらないのは確かなんだが。


『試合終了!』


 アナウンスが流れた。

 どういった技術なのかは知らないが、俺が繰り出した極小の攻撃をどこからか観測し、ジャッジを下したのだ。


 俺の勝利だ。

 だが、この試合。

 俺が致命的な攻撃を最後にしか仕掛けなかったというのもあるが、宙の武器が木剣であったからこそ勝てたと言っても過言ではない。


 宙の持っている武器が真剣だったら、俺の最後の攻撃は出来なかっただろうな。

 言ってしまうと、運がよかった。


 まぁ、まだ技を隠しているからそれを使えば何とかなるだろうけどな。


 でも、あと二試合もあるんだし、温存しておきたいじゃん。


「おにぃ、どうやってうちの動きを予想してたの?」


 俺が目を閉じ、何も見えていなかったと未だに思っている。

 そのせいで、俺が宙の攻撃を躱し続けていたのは俺の予想が百発百中したと思われている。


「あれは、見てたんだよ」


 俺はそう言って、先程まで目として使っていた水人形を指さすように、人差し指を上に向けた。


 それに合わせて俺が視線を上にやると、宙もつられるように上を見た。

 そして、水人形と目が合う。


 宙はその後、俺の顔を見てつまらなさそうに俺から目を逸らした。

 まんまと俺の策略に乗せられていたということが少々気に入らないのだろう。


 宙になら、卑怯だと罵ってくれても構わない。

 宙になら、だ。


 他の奴は許さない。

 他の奴らは、有無を言わず俺の勝利を受け入れるのだ。

 我は本校のアイドル、神園宙のお兄様であるぞ。

 なんてね。


 血も繋がらない兄の影響力がどれほどのものかは分からない。

 兄だからなんだって言うんだって話だ。


「あーあ、負けちゃった

 まぁ、おにぃに勝てないのは分かってたし」


 宙は、つまらなさそうな表情のまま、俺にそう言った。

 その、俺に勝てないのは分かっていたという言葉が本当だとしても、それでも悔しいものは悔しい。


 宙は途中まで押していたわけだし、勝てるかもという期待を抱くのも当然だろう。

 実際、俺も途中までは負けそうと思っていたわけだし......


「でも......うち、強くなったでしょ?」

「そうだな

 すごく強くなってたよ」


 宙は強くなった。

 前までの守られてばかりの宙ではない。

 能力というのが、これほどまでの力を与えるのか、それとも宙が猛烈頑張ったのか。

 おそらく、両方だろうな。

 俺はあまり見えていないが、宙も俺同様、どこかで訓練していたのだろう。


 本当に、強くなったな。宙。

 お兄ちゃん感動だよ。


 俺はそんな感じのことを考えながら、俺は天井にいた水人形を消した。

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