第五十九話 『闘校祭6』
あれから、少しだけ牧田に女心についてご教授頂いたが、結局よく分からなかった。
相手のお願いに正直に答えればいいとか、時には嘘も必要だとか。
正直に言ってくることもあれば、逆のことを言ってくることもある。
行動もまた然りだ。
意味がわからない。
嘘を言ったり本当のことを言ったり......
どっちなんだよ。
嘘と本当を使い分けて上手くやれとか、よくわからん。
タイミングがさっぱり掴めない。
『今は本当のことを言う時です』みたいなカンペをがして欲しいものだ。
まぁ、文句ばかり言っていても仕方がない。
タイミングについては今度、もう少し詳しく教えてもらおう。
この際、牧田じゃなくて哉でもいいや。
少々気に入らないが、恋愛に至っては哉の方が俺より先輩だ。
俺より知識は多いだろう。
てなわけで、この話は終わり。
宙の試合に集中することとしよう。
そう思って舞台を見たその時、丁度試合が始まった。
『今回の試合、どう思いますか?』
『かなり接戦になると思いますね』
『それはどうしてでしょう』
『神園さんの攻撃は多く当たるのですが、一撃一撃が弱いですからね
川中君の『防御』の能力の前では少し時間がかかるかと
それに対し、川中君の攻撃は多くは素早い神園さんにはあまり当たらなさそうですからね
どっちが勝つのか、分かりません』
随分と茶番じみたアナウンスが聞こえてくる。
ちなみに、川中君とは今回の宙の対戦相手。
アナウンスでも言っていた通り、『防御』という名前そのままの能力であるため宙の攻撃は効きにくい。
もともと、少しづつ蓄積させていく宙の攻撃が、さらに微量になっていくわけだ。
それは、しんどいと言うか、長いと言うか、大変というか、困難というか......
不憫だ。
何発の攻撃を当てれば相手が倒れるのか、まったく想像がつかない。
相手の能力次第だ。
能力が続く限り、防御力を無限に上げることができるみたいな能力なら、残念ながら宙に勝ち目はない。
見ると、戦況的には宙が押していた。
が、押されている川中とかいうやつはケロッとしている。
宙にポカポカ殴られてるんだから、もっとデレデレしろよ。
ポケ○ンでいうメ□メロ的な技に掛かってノックダウンしろよ。
宙のメ□メロは効果抜群だぞ。
ナメてんな、あいつ。
後で思い知らせてやろう。
宙のいい所3時間コースだ。
ファンクラブの奴らと一緒に、あの不届き者に叩き込んでやろうじゃないか。
いやいや、そんなことを考えるのは後でいい。
今は宙の試合だ。
俺は宙の試合に目をやる。
見ると、宙が押しているはずなのに宙が不利になっている。
宙も多少戦えるとはいえ極々普通の女の子。
体力の限界が見え隠れしていた。
時折、肩で息をしている姿がちらほら。
俺のように毎朝訓練している訳では無いんだし、言ってしまえば当然だ。
体力の限界は、戦闘では致命的。
だが、宙はこんな簡単にへたばるような子じゃない。
次の手。
隠していた手。
最後の、取っておきの手。
それを見せる。
それは能力。
宙の能力。
宙は相手と距離を取り、短剣を構える。
その後、能力を使用する。
宙が増えた。
文字通り、一人二人と増えていく。
二人が四人に、四人が八人に。
倍、倍と増えていく。
それはやがて数えるのも面倒な数になる。
そして、そのすべてがシャッフルしながら川中へと迫る。
宙の能力、『攪乱』。
幻影だったり目くらましだったり、少々目立たない能力。
宙には似合わないと思うが、使いようによってはかなり強い能力だ。
『攪乱』と言えば、相手にしか作用しないとうに思えるがそうではない。
宙の能力は、彼女を見る者すべてに作用する。
簡単に言えば強い。
要は第一能力だ。
その第一郡に属する能力を使用した宙は、さっきよりも一層押している。
流石の川中とやらも、あれだけの宙に攻撃されれば防御力など関係なしに、体力がゴリゴリ削られているようだ。
ついでに精神も削られているのだろう。
宙の能力は撹乱だからな。
波に乗ってしまえば、宙の勝ちは間違えないだろう。
そんなことを考えているのもつかの間、川中は倒れた。
単純な体力不足なのか宙によるメ□メロなのかは分からない。
しかし、戦闘不能には違いない。
宙の勝ちだ。
そんな宙も、肩での息が隠せていない。
宙も限界が近かっったという訳だ。
体力作りは大切ですぞ。
今度、お兄ちゃんと一緒に早朝ランニングしようか。
まぁ、宙が望むのならだが。
ちなみに、宙があと一勝すれば、俺と当たることになる。
頑張れよ。
俺はこの後の四回戦目に試合はない。
四回戦目を休んで五回戦だ。
と、今日の試合は宙の試合で終わり。
これからは帰宅なのだが......
俺たち一同は未だ観客席に座っている。
なぜか。
それは後ろの通路を見ればわかる。
帰ろうとする観客が、前へ前へ進もうとひしめき合っている。
帰宅ラッシュだ。
あんな中を歩くなんてごめんだな。
それなら多少遅れてでも、後からゆったり帰りたい。
てなわけで、俺たちはこうして大人しく席に座っている訳だ。
ちなみに、俺たちと言っても牧田はいない。
例のごとくインタビューだ。
あまり宙をいじめないでやってくれよ。
「あっ、かけくーん!」
人混みが通り過ぎているのを待っていると、人混みから俺を呼ぶ声がした。
見ると、声の主は鷲宮。
バイト仲間だった。
そういえば、闘校祭には友達と来ていると言っていたな。
ということは、鷲宮の左隣にいる2人は友達なのか。
これは俺の偏見だが、その2人はいかにもおしゃべり大好きみたいな雰囲気を放っている。
「先に行ってて」
と、鷲宮が2人の友達に告げた。
随分と仲が良いのだろう。
何かしらの面白いことが無い時ですら、3人揃ってニコニコだ。
いつでも笑顔って言うのは、きっと仲が良い証拠なんだろう。
と、俺は思っている。
で、その仲の良さげな2人は、鷲宮の言葉を聞いて俺の方を見た。
俺を見た後、2人はニヤッと笑った。
何その笑顔。
ちょっと怖いんですけど。
そんな俺の警戒なんて余所に、その2人は鷲宮の背中を叩き、全てを悟ったような笑顔で親指を立てた。
「ちょっと、そんなのじゃないって!」
とは鷲宮の言葉だ。
あのお友達2人の行動から、鷲宮は何を読み取ったのだろうか。
俺にはさっぱり分からない。
あれは会話なのか?
話していないじゃないか。
なんなんだよあれは。
この世界ではあれが一般的なのか?
今度俺も誰かにやってみようか。
俺の言いたいことが、伝わる気がしない。
それにしても、楽しそうだな、あいつら。
鷲宮、楽しそうにしていて何よりだよ。
と、友達と軽くコミュニケーションを交わした鷲宮は、こちらへとやって来る。
「何あの女」
そう鷲宮に聞こえないように言ってきたのは遠坂姉だ。
メンヘラみたいなセリフだな。
俺はそう言いつつも口には出さない。
どうせ口に出したらボロクソ言われるんだから。
「バイト仲間の鷲宮明香だ」
てなわけで余計なことは言わず、俺は他己紹介をする。
出来るだけ簡潔に短く。
簡単に鷲宮を紹介する。
「また女を連れてくるのね
変態
恥を知りなさい」
散々な言われようだな。
「また」って、俺がお前に女の子を紹介するのは今回で初めてだろうが。
記憶の改竄が過ぎるぞ。
というか、その不確かな記憶をもとに、俺は「変態」だの「恥を知れ」だの言われてたのか。
遠坂姉の俺へのあたりが、若干雑に感じる。
面倒ならそういうことはしないでほしい。
お前のためにも俺のためにも。
そんないい加減な姉の隣で、妹は縮こまっている。
俺達とは普通に話してくれるので忘れていたが、彼女は人見知りなのだ。
鷲宮をチラチラと見てびくびくしている。
「すげぇー」
そう小声で言うのは哉だ。
哉はそう言って、鷲宮を見ている。
鷲宮というより、彼女の胸を見ている。
控えめに言うと凝視。
誇張して言うと目で舐っている。
そんなに見てやるなよ。
もう少し自分を抑えろ。
彼女持ちだろ。
そういう欲は、自分の彼女に何とかしてもらえよ。
まぁ、こいつらの反応はこんな感じ。
鷲宮は観客席に降りて、俺の方に向かってくる。
そこで、明蓮寺が俺と鷲宮の間に割って入った。
「この子誰?」
明蓮寺がに進路を塞がれた鷲宮は、明蓮寺越しに俺の方をのぞき込んできてそう言った。
「翔琉先輩の彼女です」
明蓮寺はそう言った。
明蓮寺のその言葉に、鷲宮は笑顔のまま固まった。
笑顔なのに、表情が硬い。
「おい、嘘つくなよ」
ひとまず訂正しておこう。
俺と明蓮寺は付き合っていない。
「あっ、そうなんだ」
「そうだ
こいつは明蓮寺穂香
俺の後輩だ」
俺は鷲宮に、明蓮寺ことを説明する。
恋仲だと思われたままではいけない。
そう思われていたところで、別段困ることは無いのだがなんか嫌だ。
あと、嘘を言うのもどうかと思う。
「あなたは、翔琉先輩のなんなんですか」
今日の明蓮寺は少し攻撃的だ。
まぁ、攻撃的と言っても、手を上げる訳じゃないからいいけどね。
鷲宮への突っかかりが激しいってだけだ。
でもまぁ、その気持ち分からんでもない。
自分で言うのもなんだが、俺は明蓮寺に惚れられている。
惚れた男の前に、知らない女が来て仲良さげに話しているのだ。
こうもなるだろう。
「私はかけ君のバイト仲間だよ」
対する鷲宮はいつも通り。
なのだが、何故か2人の間にはバチバチと火花がたっているように見える。
警戒心むき出しの明蓮寺に、圧を与える笑顔の鷲宮。
初対面で、ここまで仲悪くなることなんてあるのか。
いや、喧嘩するほど仲が良いって言うし、これはこれで仲が良いのか。
難しいな。
「胸が大きいからって調子に乗らないことですね
いや、調子じゃなくて、油が乗ってるんですっけ?
聞くところによると、胸はただの油だって聞きますし」
「自分が小さいからって、八つ当たりはやめて欲しいなぁ
それに調子になんて乗ってないよ」
鷲宮、笑顔だが結構お怒りなのだろうか。
明蓮寺からの口喧嘩を真っ向から受け、それに対抗している。
おいおい、あいつらの前で胸の話はしてやるなよ。
不憫だろ。
と、俺は内心そう呟きつつ、遠坂姉妹の方を見る。
すると、姉に睨まれた。
おー怖い怖い。
いやほんと、かなり怖い。
今遠坂姉に背中を見せたら、躊躇なく刺されそうだ。
そんな目をしている。
俺が何を考えたかなんて分からないはずなのに。
怖いというより恐ろしいな。
「胸は大きさじゃないんですよ
質です。形です
翔琉先輩だって大きさより質派ですよ」
そう明蓮寺は断言した。
勝手に決めつけないで欲しいんだけど。
「そうなの?」
鷲宮も、明蓮寺の言葉を真に受けないでくれ。
いろいろと、ややこしくなっちゃうだろ。
「いや、俺は胸にこだわりはないぞ」
俺は、どっちの意見に乗るでもなく、両者を認めるような返答をした。
あっ、そういえばこういう両方ともに取れるような返答はいけないんだっけ。
あの時、牧田がそんなことも言っていた気がする。
失敗したかもな。
正直になった方がいいんだったっけか。
「「ウソ(です)!!」」
俺は胸にこだわらない。
小さくても大きくても、さほど気にしないのだ。
それぞれの大きさに、それぞれの良さがある。そういうものだ。
と、俺はそういう結構良さげなことを言おうと思った。もとより、常日頃から思っている。
のだが、俺がそれを言う前に、鷲宮と明蓮寺は声を揃えて俺の意見を否定した。
意見を否定するのなら、最後まで聞いてから否定して欲しいものだな。
ていうか、こいつら仲良いのか?
息ぴったりだったぞ。
「翔琉先輩は変態さんなので、胸には興味津々です!」
お前もう黙れよ。
勝手に断言するなって......
明蓮寺のやつ、虚言壁でも持っているのか?
......いや、俺が変態なのは確かか。
「ホントに?
興味津々なの?」
鷲宮にそう聞かれたので、俺は全力で首を振る。
俺は変態ではあるが、興味津々ではない。
ちょっと興味あるかなぁくらい......
そこそこ興味あるかなぁくらい。
まぁ、あると言っても人並みだ。
津々という程ではない。
はずだ。
「そうだよね」
鷲宮はそう言って、何故か少しだけほっとしたように息をはいた。
本当に、何故だろうか。
「ねぇ」
と、彼女らが言い争いを行っている最中、俺に声をかけてきた奴がいた。
黒髪ロングのぺたんこ女の子。
何がとは言わないがぺたんこで、見た目は中学生くらいの姉妹のお姉さま。
遠坂小夏だ。
「私、これからバイトあるから先に帰ってもいいかしら」
とのこと。
姉が帰るのなら、妹もそれに着いて帰るだろう。
一気に二人減るって訳だ。
まぁ、別に問題ないんだがな。
それにしても、バイトか......
「あぁ、あの『おかえりニャン』のやつか」
そう言えば、こいつのバイトはメイド喫茶だったっけか。
頑張ってくれよ。
「殺すわよ?」
「これからバイトなんだろ
急いで帰れよ」
殺されるのは嫌なので、追い返すとしよう。
少し強引だが、仕方ない。
「次は無いわよ」
前にもそんなこと言われた気がするなぁ
何だかんだ言いつつ、毎回殺すのは次回に引き伸ばしてくれる。
表情こそ本物だが、心から殺すつもりではないんだろうな。
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その後も、火の元が分からない喧嘩がしばらく続いた。
顔やら性格やら、お互いに初対面ながら一歩も引かず、言い合っていた。
取っ組み合いになるようなら止めようと思っていたが、そうなりそうな雰囲気はなく、平和な喧嘩だった。
たまに俺が巻き込まれるので、喧嘩の内容は最後まで聞いていたのだが、やはり最後まで何を競っているのかは分からなかった。
闘校祭といい校内序列といい、この世界の住人は何かしら優劣をつけたがるのだろうか。
それはもう挨拶みたいに。
でもなぁ
そんな感じの喧嘩には見えなかったんだよなぁ
うん、これ以上は考えても無駄だろう。
埒が明かない。
ちなみに、今は2人の喧嘩は終わっている。
言い合い疲れたのか、彼女らの中で何かに決着が着いたのか。
その辺は分からない。
分からないが、今の2人は仲良く並んで歩いているので問題はないだろう。
会話はしていないが。
とはいえ、喧嘩が終わってよかった。
喧嘩は良くない。
何より、巻き込まれるのは好きじゃない。
今現在、俺・明蓮寺・鷲宮の3人で帰っっている。
哉も学校までは一緒だったが、家の方向が違うため解散した。
俺と鷲宮はこれからバイトだ。
頑張りましょう。




