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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第六章 『闘校祭』
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第五十八話 『闘校祭5』

「でもその前に......」


 牧田は、哉へのインタビューの前に、俺に向かって言った。


「君の能力が『水を操るもの』だってこと、噂になってたよ」


 俺は、牧田が言ったその言葉で、自分の置かれている状況が悪化したことを知る。

 哉と戦うにおいて、俺の優位性が消えた。


 俺は、牧田の言っていることが初め理解出来なかった。

 出元はどこだ。


「私は言ってませんよ」


 牧田と話していたことで、俺の背後側になっていた明蓮寺が、あわあわと手を振りながらそう言った。


 明蓮寺を信頼していない訳では無いが、彼女の可能性も無くはないと思っていた。

 が、彼女ではなかった。


 ならば......


 宙も俺の能力を知っているが、今まで言わなかったものを今になって言う理由がない。

 だから宙でもないだろう。


 とすると......

 俺のバイトを、誰かに見られた。


 思い返せば昨日、あの常連客によって『佐々木のお冷』とか言う意味不明メニューを注文された気がする。


 俺が水を作り出しているところを、誰かに見られたということか。

 クソっ!!

 今まで隠していたのに台無しだ。


 面倒なことになったな。

 いざと言う時に使おうと思っていた切り札が、先に防がれてしまったような感覚だ。

 実際、防がれているようなものだ。


 俺の能力は『統水』という強いとは言えない能力だが、知られていなければ能力で奇襲くらいは出来る。

 奇襲は卑怯だという意見もあるが、そんなの俺から言わせてもらえば気づかない方が悪い。

 仕掛ける側が卑怯なのではなく、仕掛けられる側が怠惰なのだ。


 その奇襲というやつは、なんだかんだで結構使える。

 トドメを刺すだけではなく、あえて奇襲に気づかせて逃げ道を絞るという使い方もできる。


 その奇襲というものが、この噂が広まったことで出来なくなった訳だ。


「次の試合、大丈夫か?」


 俺にそう問いかけたのは哉だ。

 それもそのはず。

 俺の次の相手は序列12位。


 序列的には、俺に倒される前の三上より下だが、話によると次の相手は三上より断然スピードがあるらしい。

 あまり当たらない強い攻撃と、そこそこ当たるそれなりの攻撃では、後者の方が俺にとっては厄介だ。


 下手な鉄砲も数打ちゃ当たると言うが、当たらない丸だってあるのだ。

 それに、数打てなきゃ当たらない。


 そんな感じで、三上より断然厄。

 次の試合、俺はそんな奴と当たるのだ。


 どうしたものかな......


「まぁ、お前なら大丈夫だろ」


 俺が頭をフル回転させているのを他所に、哉は気安くそう言った。

 俺の悩みなんて知る由もない哉は、けらけらと笑っている。


 こうゆう、あっけらかんとした哉を見ていると、気が休まってくる。

 哉の雰囲気に流されてしまう。


 でも、確かに哉の言う通りかもしれない。


 俺なら大丈夫。

 能力がばれて奇襲が効かないのなら、それを利用してやればいい。

 相手が、俺の能力に気を取られているうちに......


 次の試合は、スピードと技術対決になるだろう。



 ---



 遠坂姉を含めたあいつらに、「ガンバレ」とエールを貰って出てきたんだ。

 これくらいの敵、早急に蹴散らしてやる。


 俺は今、フィールドに立っている。


『試合、開始です!』


 試合開始のアナウンスの後、今までの俺とは一転。

 低姿勢になり走り出す。


 この試合、俺から攻めに行く。


 俺は全速力で近寄りつつ、相手の真横に水球を出現させる。

 この学校では、俺の能力初お披露目って訳だ。

 しかと目に焼き付けろ。


 そして、俺を視界から外せ。


 俺は出現させた水球を高速で相手へと叩きつける。

 が、相手は流石序列上位勢。


 かなり速いはずの水球を難なく避ける。

 相手は水球を避けるため、後ろに2・3歩ステップを踏んだ。

 俺はその隙に相手の背後をとる。


 そのまま急ブレーキをかけ、全力の回し蹴り。

 これも避けられる。


 俺の蹴りを避けた相手は、俺のバランスが戻る前に攻撃を仕掛けてくる。

 所謂、俺がよくやっていたカウンターと言うやつだ。


 俺はバランスが崩れているため、普通には避けられない。

 俺の足元に水砲を生み出し、水圧で後ろに飛ぶ。

 フライボードみたいな感じだ。


 互いにある程度離れ、向かい合った状態で両者の動きが止まった。

 何故かアナウンスまでもが止まって、静寂が訪れる。


 第1ウェーブが終わった。

 やはり瞬殺は難しい。

 なら......


 その少しの間、闘技場全体に謎の緊張が行き渡った刹那、打ち合わせでもしていたかのようにお互いが走り出した。


 俺はただ走る。

 相手は能力『爆発』を使い、その煙で目くらましをする。

 相手の行動を利用させてもらうとしよう。

 水人形(アクア・ドール)を生成し、俺自身は煙の中に姿を隠す。


 (水人形)は、煙の中に姿をくらまして移動する相手の位置を、耳を澄まし足音で捕捉する。


 俺は生まれつき耳が人一倍いい。

 足音を聞き取るくらい、俺にかかれば御茶の子さいさいだ。

 その聴力は水人形になっても健在。

 (水人形)は、相手へ一直線に走る。


 相手は煙に姿を隠せる一方、俺の場所を把握しにくい。

 俺が近づいていることにも気づいていないのだろう。


 煙をかき分け、相手の正面まで来て踏ん張る。

 腰の位置に構えた拳を強く握り、放つ。


 流石に、俺にここまで近づかれれば相手も俺に気づく。

 俺と目が合った。

 が、もう遅い。

 今さら気づいたところで、もう遅いのだ。


 拳を放つ。

 決まった。


 そう思った。

 そう思ったのだが、


「......っ!」


 俺の拳が相手に当たる寸前、拳が進まなくなった。

 確実に一本取ったと思っていた一撃が、止められたのだ。

 それも片手で。

 このひょろい体の相手は、想像をはるかに超える力を持っているのだろう。


 こうして止められたのならば、一度距離を取るまでだ。

 俺は拳を引いて......


「......っ!」


 俺は再度、相手の想定外の力に負ける。

 拳が抜けない。

 相手に掴まれて微動だにしない。


 押してダメなら引いてみろと言うが、引いてもだめならどうすればいいのだろうか。

 そんなの、振り払うに決まっている。


 が、振り払おうとした時、俺の体がふわりと浮いた。

 外的衝撃が走ったでもなく、なんの力の加わらずにふわりと。


 俺は、浮かびながらあることを思い出した。

 この世界に来た日、空を飛んでいる集団がいた。

 その中の一人。

 今の対戦相手らしき奴がいた気がする。

 あれ、こいつの能力だったのか。


 おおよそ、『飛行』とかその辺の能力だろう。

 二つ持ちだったか。


 こいつは、今までの試合で『爆発』の能力しか使っていなかったので勘違いしていた。

 こいつは、能力を二つ持っているのだ。

 失念していた。


 俺は浮遊させられつつ、この状況から脱する方法を考える。

 が、答えが出る前に相手の膝が俺の腹部にめり込んだ。

 受け身も取れずに、まともに食らった相手の膝が、無遠慮に入り込んでくる。


 俺は、後方へと蹴り飛ばされた。


 このまま、飛ばされるだけなんて冗談じゃない。

 俺は、飛ばされながらも相手に一発、蹴りを入れた。

 その蹴りは相手も予想外だったのか、しっかりと入った。


 俺は後ろに、相手は横に。

 互いが互いの蹴りで飛ばされる。


 そろそろかな。


 蹴り飛ばされ、煙の中に消えていく水人形を消す。

 それと同時に、煙の中に隠れていた俺は飛び出した。

 周りからすれば、煙の中で不自然なほど一瞬で体制を整え出てきたように見えただろう。

 しかし、実際はそんなことできないし、やはり不自然なこと極まりない。


 その奇妙さに、一番近くで俺を見ていた対戦相手でさえも度肝を抜かれていた。

 相手が動揺をした。


 最高のタイミングだ。

 俺は横っ飛びする相手に先回りをし、拳を構える。


 相手は空中。

 俺は地上。

 貰った。

 これは避けられないだろう。


「あ゛あああああああぁぁぁあ゛!」


 相手は大きく声を出し、間一髪で回避する。

 『飛行』か、厄介な能力だ。


 だが甘い。

 どうせ飛行で避けるなら、俺から遠ざかればよかったのだ。

 俺は、能力で起動を変えて俺の横を飛んでいくだけの相手に、拳を放った流れのまま体を倒して後ろ回し蹴りを入れる。

 これは流石に避けられない。


 綺麗に入った。

 さっきの苦し紛れの蹴りとは違う。

 クリーンヒットだ。


 人を蹴る感覚が、足に伝わる。

 蹴った足から人の重みが消え、相手は弧を描いて飛んで行く。


 とどめだ。


「玄名流奥義......」


 腕に結んだ日本刀の魔道具に魔力を注ぎ、紐から日本刀に素早く変形させる。

 それから流れるように、左手を丸めて作っただけの鞘に納刀。

 木刀を親指に擦らせながら遠ざけ、剣先が鞘の縁に達してから、鞘の中に『スゥー』っと。


 峰に人差し指から小指までの4本、鍔に親指を掛けて左手だげで刀を持つ。


 その刀を納刀する動作に合わせ、地面を撫でるようにして少し前に出た右足を左足に近づける。


 納刀しきった直後。

 俺は『ふわっ』っと、脱力したように若干前傾姿勢で、重心を落とす。

 両足は地に着いたままだ。

 地に足を着けたまま、低い姿勢に落下する。


 ある程度、体制を落としてから、両足に力を入れた。

 『ゴン』という音と共に地面が抉れる。

 赤茶色の土が、明るい色の土から現れた時には、その場所から俺の体は消えていた。


「『速撃迅斬』」


 放物線上に飛んでいく相手を、超速度で追いかける。

 その超速度に、『飛行』能力でさえも回避しきれない。


 相手に追いついたとほぼ同時、抜刀。

 相手が着地する前に、俺は刀を振り抜いた。


 抜刀後に相手を追い抜いた俺は、地を削って止まる。


 会場全体が、「本当に切ったのではないか?」「殺したのではないか?」と騒然となっている。


 否、切ってなどいない。

 勿論、殺してもいない。

 そもそも、ルールで殺してはいけないことになっている。


 俺は、相手を切らないため遅めに抜刀したのだ。

 相手の体には、かすり傷しかない。


 そんな健康体を保っている相手は、俺の殺気にやられて気絶している。


『試合終了!!』


 放送部のアナウンスと試合終了を告げるブザーにより、勝負に決着が着いた。

 まぁ、そんな合図が無くとも勝負の決着は目に見えている訳だが。


 俺は振り抜いたままの刀を、紐へと戻す。

 刀だったそれは、優しく弾けて紐になり、柔らかくだらんと手からぶら下がる。


 俺が相手を殺していないと分かった瞬間、先程までの沈黙とはどこへ行ったのか、一斉に大きな歓声が起こった。


 無論、こういった歓声は俺の時だけではなく他の試合でも起こっている。

 だが、気のせいかもしれないが少しだけ、他の試合よりも大きな歓声な気がした。


 あの、俺に歓声を投げている観客の中には、俺のファンとかがいちゃったりするんだろうか。

 ちょっと探してみちゃったり......


 なんてね。

 俺にファンはいないだろう。

 俺は哉みたいな内的イケメンでもなければ、牧田みたいな外的イケメンでもない。

 戦闘が強いだけで、他はどこにでもいるような高校生。


 そんなのにもし、仮にファンがいたとしても、「恥ずかしくて人には言えない」みたいな感じの、隠れファンなんだろう。

 ファンというものには少し憧れるが、俺には縁遠いものなんだ。

 諦めようじゃないか。


 とは言いつつも、舞台から出ていくときに少しだけ期待していた。

 なのだが、やはり俺の帰路に待ち人はいなかった。

 俺が哉らの所に着くまで、話しかけられることすらなかった。


 ファンがいるかもとか思って歩いていると、すれ違っていく人々がみんな俺のファンなのではないかと思えてしまう。

 しかし、彼らはファンなんかではなくただの通行人。

 俺には一瞥もくれずに通り過ぎる。


 ここまで何もないと、通り行く人に期待しているのが恥ずかしくなってきた。

 もういいや。

 諦めるつもりだったのが、完全に諦めへと変わった。


 淡い希望を切り捨てた俺は、もう何も考えずに哉らの場所へ向かう。

 それはもう無心で。

 邪念なんて欠けらも無い、ただただ真っ直ぐな歩みで。


「ねーねー」


 無心で歩いていると、肩をトントンと優しく叩かれた。


 ファンか。俺のファンなのか。

 俺は勢いよく振り向いた。

 希望に胸を膨らませて振り向いた。


「試合、お疲れ様」


 そいつはドSイケメン、牧田倫太郎だった。

 満面の笑みで俺の肩を叩いていた。


 俺が内心複雑な状態で歩いているうちに、哉らの結構近くまで来ていたのだ。

 牧田は、彼らが座っている観客席の後ろにある通路で俺を待ち構えてたって訳だ。


「なんだお前か......」


 俺は思わずそう言ってしまった。

 思っていたことが、口からぽろっとこぼれ出てしまったわけだ。


「なんだとはなんだよ」

「......悪い」


 いや、本当に悪いと思っているよ。

 失言だった。

 すまないね。


「まぁ、いいや

 インタビューしてもいい?」


 イケメンは、俺の失言をサラリと受け流して仕事に取り掛かった。


「いいよ」


 どうせこうなることはわかっていたので、俺は抵抗することなくインタビューを受ける。

 本心を言うとインタビューなんて受けたくないのだが、牧田にはよくお世話になっているので仕方がない。


「じゃぁ───」


 牧田編集長のインタビューが始まった。



 ---



 インタビューは、そんなに長く続かなかった。

 さっきの試合で、わかりにくかった所がどうなっていたのかを聞かれただけ。

 主に煙の中での出来事だ。


 たったそれだけ。

 俺の二試合目が終わった時にされたインタビューと比べると、どうってことない質問量だった。


 と、そんなインタビューを受け終わったので俺は観客席へと向かう。


 次の試合には宙が出る。

 皆の衆、刮目せよ。


 宙が入場ゲートから出てきた。

 男若干多めの歓声が沸く。


「確かあの子、神園宙とか言ったかしら

 あの容姿で戦えるなんて、男どもは迂闊に手を出せないわね」


 遠坂姉はそう言って、俺と哉を見た。


 えっ、何?

 俺たちが宙に手を出すとでも思っているのか?

 そんなわけないだろ。


 宙は俺の妹だし、哉には彼女がいる。

 手なんて出すわけが無い。


 あ、でもそういえば、遠坂姉は宙が俺の妹だって知らないのか。

 では教えてやろう。

 あの美少女は俺の妹なのだと。


「ほんと、可愛いよね......」


 俺が宙について話そうとした時、遠坂妹が誰に言うでもなく小さく呟いた。

 それを聞いたのは、隣にいた姉と耳がいい俺くらいだろう。

 その遠坂妹の一言に「大丈夫、ユキも充分可愛いわよ」などと遠坂姉が言っているが、それは俺には聞こえない。


 俺は今、身近な人間にも宙の可愛さが伝わっていたという事実に感動している。

 泣いちゃいそうだよ。


 うんうん、そうだよな、そうだよな。

 宙はかわいいよな。


「ん?」


 視線を感じた俺は当たりを見渡す。

 すると牧田と目が合った。


 牧田は、俺を心配そうに見ていた。

 なんだ?

 俺になにか付いてるか?


「妹自慢はよしてくれよ」


 牧田はそう釘を刺した。


 もしかして、俺が妹の自慢ばかりすると思ってるの。

 心外だなぁ

 最近、そういう話は聞かされても面白くないということを学んだからな。

 俺は成長するのだ。

 いつまでも前のままだと思われては困る。


「翔琉先輩、私もかわいいですよね!」


 と、明蓮寺が自分を指さして目をキラキラさせている。

 自分もかわいいと言われたいのだろうか。

 それとも、俺の言葉が欲しいだけなのだろうか。


 そう思うのは、思い上がりってもんだろうか。

 うーん。


 別に、明蓮寺はかわいいくない訳では無いんだが、素直に言うのはなんだか言わされているみたいで癪だ。

 何より、面と向かってかわいいなんて言うのは恥ずかしい。


「お前は、かわいい系より清楚系だろ?」


 てなわけで、俺は少しズラして答えた。

 いい感じに話をズラせたと思う。

 我ながらあっぱれだ。


「そうですけど、こういう時は『かわいい』って言って欲しいんです」


 そう小さく言って、明蓮寺は可愛らしくむくれた。

 しかし、不満げなのは確かだ。


 結構いい感じに返答できたと思ったんだが、違ったようだ。


 うーん。

 分からないな、女心って。

 親族以外の女の人とほとんど関わってこなかった俺には、難しい問題だよ。

 これも、今後の改善点の一つだろうか......


 学園1と呼び声の高いイケメン帝王牧田。

 どうか俺に、女心についてご教授を。

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