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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第六章 『闘校祭』
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第五十七話 『闘校祭4』

 おはようございます。

 闘校祭二日目早朝。

 佐々木翔琉です。


 現在、今日も試合があるのにも関わらず俺は朝練をしている。

 しかし、それはいつもと違って一対一だ。


 操る水人形は一体で、そいつに意識を集中する。

 一体に集中すると言っても、見た目はいつも通りマネキン姿だ。

 やはり、こっちの方が強くなる。

 いやでも、見た目特化型を強くできれば身代わりとして使えるのでは?


 今からだと遅いかもしれないが、少し練習してみよう。

 今日の朝練は、見た目特化型戦闘水人形の強化だ。



 ---



「ヘーイ!」


 例のノリだ。

 哉は、いつぞやののノリでハイタッチを要求してくる。


 今回は乗ってやろう。

 今の俺は少しテンションが高いのだ。


「イェーイ」


 俺はそう言ってハイタッチする。


 俺が乗って来たのが珍しかったのか、哉は静かに驚いていた。

 自分から求めておいて、いざやられると驚く。

 ちょっと、俺に対して失礼じゃないですか?


「あっ、こなっちゃんとユキちゃんだ」


 哉は、俺の挨拶に対しての反応を置き去りにして、俺に続いてやって来た二人に目をやる。

 俺もそれにつられる。


「おはよう」

「おはようございます」


 姉は軽く、妹は礼儀正しく挨拶をする。

 それぞれ違った挨拶をした二人は軽装だ。


 それもそのはず。

 二人は闘校祭に出場しないのだ。

 持ってくるものと言ったら、試合表と弁当くらいだ。

 軽装にもなるだろう。


 それにしても、こなっちゃんか......

 俺も試しにそうやって呼んでみようかな。


「こなっちゃん......」


 俺は遠坂姉の様子を伺いつつ、恐る恐るそう呼びかける。

 特に話す内容なんてないが、名前だけ呼んでみた。

 まぁ、試しにってだけだし、特に問題はないだろう。


「その呼び方、あなたに許可した覚えなんてないわよ

 身の程を知りなさい」


 なんて塩対応。

 いや、これは塩対応なんてもんじゃない。

 デスソース対応だ。

 語呂が悪い。


 にしても、こなっちゃん呼びには許可が必要だったのか。

 哉は、申請済みってわけだ。

 許可なんて、いつ貰ったんだよ。


 きっと、俺は許可なんてもらえないだろう。

 話しかけた瞬間「話しかけないで」とか言われそうだ。

 許可以前の問題だ。


 なら、なんて呼べばいいのだろうか。

 小夏。

 小夏ちゃん

 小夏様

 お姉様


 どれがいいだろうか......

 ,,,,,,なんでもいいや。

 なんと呼んでも、どうせ強く当たられるんだろう。

 最近では、遠坂姉に突っぱねられる感覚にも慣れてきた。


「で、なに?」


 遠坂姉は、俺にそう言ってきた。

 俺が、彼女の名前を呼んだせいだろう。


 なに、と言われても、別に何か話したくて名前を呼んだわけじゃない。

 何と言われても困るのだ。


「いや、なんでもない」


 特に話すことが思いつかなかったので、正直に本当のことを話す。

 それに対して、遠坂姉は「そう」と特に反応を示さなかった。

 「用もないのに、気安く私の名前呼ばないでくれる?」みたいな感じで怒られるものだと思っていたが、結構軽く流された。

 慣れているとはいえ、強く当たられるのは好きではないので少しありがたい。


「ヘーイ!」


 哉と同じノリで挨拶してくるのは牧田だ。


「イェーイ!」

「おはよう」

「おはようございます」


 みんなそれぞれ違う挨拶を返す。


 牧田は遠坂姉妹と違い、かなり重装だ。

 彼は試合には出ないが、新聞のネタを探さなければならないのだ。

 太った肩掛けの鞄に手持ちの弁当、よくわからない装備品がちらほら。


 いろんなものを体にまとっている。

 カメラを持たなくてもいい牧田でこれだけの装備量なら、他の新聞部は大変そうだ。

 もしかすると、この大会で一番大変なのは新聞部かもしれない。


 牧田が来たことにより、残るはあと一人。

 別に、待ち合わせをしていた訳では無いのだが、ここまで集まったなら待つだろう。

 待たないと、なんだか除け者にしているみたいになって気が引ける。


 計五人の集団は、校門の前で最後の一人を待って雑談を始める。


 それにしても、よく分からない話をしている。

 今流行っている漫画の新刊がどうだったとか、そんな話だ。


 隠れオタクである俺は、前世ならついていけた話なんだろうが、今ではついていけない。

 漫画を買い揃えられるような余裕はないのだ。


 哉のやつ、漫画を買うようなお金がどこから出てくるんだ。

 俺と同じバイト生活のはずなんだがな。

 やばい事に手出してないよなぁ

 ちょっと不安になるんですけど。


 いや、そんなことはないだろう。

 哉は馬鹿だが、良いやつだ。

 やばい事に手を出してなんていない。

 そう断言出来る。


 きっと、俺よりバイトの収入がいいだけだ。

 そう考えると、なんだか負けた気がしてくる。

 ちょっと悔しいな。


 まぁ、いいや。

 生活は十分にできているし、それだけで満足だ。

 漫画は、今度貸してもらうことにしよう。


「おはようございます?」


 最後の一人が来るまで、そう時間はかからなかった。

 雑談を数分していたら全員が集まった。


 明蓮寺は、不思議そうな挨拶の後、首を傾げた。


「もしかして、集まる約束してましたか......?」


 明蓮寺は、そう言ってあわあわし始めた。

 自分が約束を忘れたのかもしれないと、小さく不安がっている。


「いや、自然に集まったからあと一人も待とうかって話になってね」


 と、牧田。

 イケメンが、イケメンっぽく説明する。

 それを見た明蓮寺は、怖がるのをやめてため込んだ息を吐く。

 自分のせいで全員を待たせたわけじゃないということが分かり、安心したのだろう。

 例え忘れていたとしても、そんなに気に病む必要はないのにな。


「翔琉せーんぱいっ!」


 安心した途端、明蓮寺は俺の隣に来る。

 そして、俺の腕にくっつく。

 最近では、俺の隣は明蓮寺で定着してしまっている。


 今日からは、明蓮寺も一緒に行動する。

 俺の試合も少ない。


 昨日も、コピーとはいえほとんど一緒にいたようなもんだが、今日は昨日以上にべったりされるだろう。

 今日の俺はあまり動き回れなさそうだ。


 明蓮寺は、どうしてここまでべったりなんだろうか。

 彼女に好かれているとはいえ、くっつき過ぎじゃないか。

 前に、他の皆の前では清楚系で通ってると言っていた気がするんだが。

 俺にこんなにくっついていていいのだろうか。

 他の皆に見られちゃうぞ。


「片腕に女の子侍らせて、やっぱり変態ね」


 と、遠坂姉。

 もうお決まりのやり取りだ。


 明蓮寺が俺にくっつくと遠坂姉がそうやって言う。

 このやり取りにも慣れたとはいえ、やはり変態呼ばわりは気に入らない。

 確かに俺は変態だが、人に言われるのは性に合わない。


「......」


 もう俺は何も言わないぞ。

 これまでも散々言い返したし、言い返しても無駄だろうさ。


「何も言わないってことは、認めたってことでいいのね」

「いいわけないだろ!」


 これはさすがに言わせてもらおう。

 俺は変態だが、変態と言われれば思わず否定してしまう。

 これがむっつりってやつだろうか。

 俺、むっつりだったのか。


 まぁ、朝一番からいろいろあって、今日という日が本格的に始まった。



 ---



 俺は少し、哉を軽視していたかもしれない。

 彼は強いが、戦ったら勝てるだろうと思っていた。


 が、今の試合を見て俺はその考えを改め直すことになった。

 今の試合は哉の試合だった。


 哉の相手は序列10位。

 さすがに手こずるだろうと思っていたのだが、その予想は大外れ。

 哉の瞬殺に終わった。


 哉は能力を使って、相手をボコボコにしていた。

 序列10位相手に、一歩も動かず圧勝。


 彼の能力は『統岩』。

 向かってくる相手の進路を岩で塞ぎ、相手が動けなくなったところに一撃くらわせて終了。


 なんとも精錬された動きで、相手を圧倒していた。

 一つ一つの動きに無駄がなく、相手は逃げる隙もなく敗北。

 哉の戦い方は見事なものだった。


 いつも、あっけらかんとアホ面晒している哉だが、戦いとなれば頭がキレるようだ。

 天性の才能というやつなのだろうか、それとも......


「す、凄いですね......」


 相変わらず隣を陣取っている明蓮寺は、哉の試合結果に驚きそんなことを呟いた。

 まるで、独り言みたいに。

 思わずこぼれ出してしまった言葉、と言ったところだろうか。

 かなり驚いているだろう様子だ。


 彼の試合に驚いているのは明蓮寺だけではない。

 この試合を見ていたほとんどの人が驚いているだろう。

 見渡す限り、口をあんぐりと開けた人で溢れかえっている。


 放送部の実況者なんて、予想外すぎてあたふたしている。

 著しく語彙力が低下しているのが、素人の俺にでもわかる。


 そんな騒然とする観客席を気にもせず、哉はスタスタと舞台を出ていった。

 それを見た牧田は、ハッとしてから駆け出した。

 新聞部魂に火がついたのだろう。

 きっと、これから哉は質問攻めに合う。

 頑張れよ。


「すごかったですね」


 俺の隣にいた明蓮寺は、再度哉の試合について呟いた。

 今度は俺に問いかけるように。


「そうだな」


 俺は、そう短く返した。

 一見クールに装っているが、内心かなり焦っている。

 俺もあいつに圧倒されるのではないかと、ひやひやしっぱなしだ。


 哉は今までの試合、能力で作った剣を片手に、攻めに特化した戦い方をしていた。

 岩の剣を巧みに操り、地道に相手のHPを削って勝利していたのだ。


 だが、それまでの戦い方とは一転。

 さっきの哉は、それとはまったく違う戦い方だ。

 彼には、戦闘スタイルがいくつかある。

 0と100を自在に使いこなし、その強弱で相手を揺さぶることもできるって訳だ。


 哉は、俺の思っていた以上の強敵なのかもしれない。

 能力がバレていない分俺の方が少しだけ有利ってところだろうか。

 もしそうだとしても、少しの差だ。

 哉と戦うことがあれば、一瞬たりとも気を抜けないな。


「翔琉先輩?」


 明蓮寺が俺を呼んだ。

 心配そうに。俺の顔を覗き込むように。


 もしかして俺、今難しそうな顔していたのか。

 哉について考えていたし、仕方がないといえば仕方がない。


「大丈夫だよ、ちょっと考え事してただけ」


 そう、考え事。

 力が五分五分の戦いは、戦略が勝敗を分ける。

 どうやらあいつ、普段は馬鹿なくせに戦いとなれば頭がキレるらしいからな。

 戦略は念入りに練る必要がある。


「哉先輩との試合のことですか?」

「そうだ」


 明蓮寺、察しがいいな。

 いや、さっきのは誰でもわかるか。


「哉先輩、想像以上に強かったですからね......」

「そうなんだよ......」


 これがもし牧田なら、「もう決勝のことを考えているなんて、随分な自信だね」とか言ってきそうだ。

 そうやって気を休ませてくれるのもありがたいが、明蓮寺みたいにただ話してくれるだけでもありがたい。


 こういう場面では、遠坂姉は鬱陶しそうだ。

 あいつが隣にいたら、ろくに考え事なんてできそうにない。


 俺はそんなことを思いながら、斜め後ろにいた遠坂姉を見る。


「何よ」

「......なんでもない」


 俺の視線に気づいた遠坂姉が反応を寄こすが、俺はそれを流した。


「今日のあなた、名前だけ呼んできたりじっと見てきたり......気持ち悪いわよ」

「悪い」


 ほらな、こういうのだよ。

 こんな調子では、考えるものも考えられないだろう。

 隣に座っているのが明蓮寺でよかった。

 彼女は暑苦しいが、邪魔ではないからな。


 俺は、顎に手をやって頭をフル回転させる。

 哉の倒し方を、頭の中で何度もシミュレーションする。


 おそらく、あいつはカウンターばかりでは倒せないだろう。

 攻めと守り、時々カウンターで戦っていかなければならない。

 どうしたものか......


 分からないな。


 もう少し哉の試合を見なければ。

 今はまだ、情報が少ない。

 あいつの試合、まだ2回しか見ていないしな。


 次の哉の試合、今まで以上に真剣に見るとしよう。

 今までの応援とは違い、情報収集として彼の試合を見るのだ。

 気合いを入れて観戦しなければ。


「私は、翔琉先輩を応援しますよ」


 俺が哉について考えていると、隣の明蓮寺が自分の両手をグッと握ってそう言った。

 俺がかなり思い悩んでいるように見えたのだろう。


 俺は、ポーカーフェイスをすることは出来るが意識していないと出来ないのだ。

 ポーカーフェイスを意識していなかったが故に、俺の顔が見える明蓮寺を心配させてしまったのかもしれない。


「あなたを応援するなんてごめんだわ

 私は伽月の方を応援するわ」


 そういうこと、言わなくて良くないですか。

 俺を応援しないとしても、わざわざ口に出して言わなくていいだろ。

 俺、心が沈んちゃうよ。


 俺に攻撃的な遠坂姉の隣で、妹は「えっと、えっと」とあたふたしている。

 自分はどっちに付いたらいいのか、俺と哉の間を行ったり来たりしているのだ。

 どっちに付いたらいいのかと、あわあわしている。


 そんなに悩まなくてもいいんだぞ。

 どっちかにつく必要なんてないんだから。


「真剣に考える必要はないぞ」


 遠坂妹向かって俺はそう言ったのだが、


「そんなことないわ

 私と一緒に伽月を応援するわよ」


 とは遠坂姉の言葉だ。


 こいつ、どうしてこう俺にだけ強く当たってくるのだろうか。

 勝手に強く当たるのんらいいが、妹を巻き込むなよ。

 妹さん、困っているぞ。


「わ、私は、先輩も応援しますよ」


 姉の俺嫌いに巻き込まれた妹は、慌てて弁明。

 俺も応援すると言った。


 そうそう。

 片方を応援する必要なんてないのだ。


「君たち、もう決勝の話だなんて気が早いんじゃないかな」


 そう言って現れたのは牧田だ。

 今や注目の的、哉も牧田の後ろを着いてきていた。


「それにしても......」


 牧田はまた話を付け足す。


「なんだかんだ言って、かけ君が決勝まで行くことは受け入れるんだね

 これも信頼の一種かな」


 牧田は、ニヤニヤしながらそう言った。

 遠坂姉ですらもからかうなんて。

 流石牧田。

 命知らずだな。


「私が、こいつを信頼?

 ハッ、笑わせてくれるわね」


 めっちゃ突っぱねるじゃん。

 こいつの俺に対する好感度は最底辺なのではないだろうか。


 まぁ、それも仕方ないか。

 まず出会いがそんなに良くなかった気がするしな。


 と、この話はもうこれくらいでいいや。

 で......


「哉へのインタビュー、もう終わったのか?」


 俺は牧田に向かって問いかける。


 哉を迎えに行って、インタビューをしてから戻ってきたのなら些か早すぎる。

 歩いきながらインタビューしたのならこの早さも頷けるが、生憎牧田はそんなに器用じゃない。

 インタビューだったり能力を使ったり、集中することは止まってじゃないと出来ない。


 そういったことを考慮すると、やはり早い。

 ということはやっぱり......


「まさか、これからだよ」


 牧田は悪い笑みを浮かべつつそう言って、手に持っていたペンを小さく左右に振った。


「でもその前に......」


 牧田は、哉へのインタビューの前に、俺に向かって言った。


 俺は、牧田が言ったその言葉で、自分の置かれている状況が悪化したことを知る。

 哉と戦うにおいて、俺の優位性が消えた。

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