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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第六章 『闘校祭』
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第五十二話 『開会式』

 なんというか、今日という日が憂鬱である。


 遠坂妹と明蓮寺を守ることが憂鬱なのではない。

 強制参加である闘校祭が、今日であるという事実が憂鬱で仕方がないのだ。


 今は闘校祭の開会式真っ只中。

 校長のありがたい(笑)お話中だ。

 たいそう聞くのが面倒な話だ。


 何が、「皆さんお楽しみの闘校祭の始まりです」だ。

 俺は楽しみなんてこれっぽっちも思わない。

 皆さんでまとめないで欲しいな。

 それともなんだ。俺は皆さんの中には入っていないってか。


 除外ですかそうですか。

 まぁ、いいけどね。

 全然気にしないけどね。


 むしろ俺が気にしてるのは、この開会式そのものだ。

 まず、並び順が気に入らない。


 いくら仕方ないとはいえ、どうして俺が真ん中なんだ。


 今の並び順は序列順だ。

 1位から10位までが前列に並んで、その後ろに11位から20位。

 その後も例にならって100位まで。


 俺の出場が決まったことで、序列圏内者全員がこの大会に出場することが決まり、10×10で綺麗に整列している。

 俺は、こんな面倒な大会に出場する奴なんて少ないだろう、と思っていたが実際はそうではなく、序列圏内者は出場することが常識みたいな感じらしい。

 随分と面倒な常識である。


 で、上位10人が最前列に横並びとなれば、序列5位である俺は必然的にど真ん中になる。

 観客全員の視線を浴びていると考えると、胃が痛くなってくる。


 そして、もう一つ気に入らないのが選手宣誓だ。

 このことを話題に出したということは、もうおわかりだろう。

 今大会の選手宣誓は、俺である。


 二日前、かどちゃん先生に言われたのだ。


「序列5位の子は選手宣誓をしないといけないので考えておいてください」


 と。


 いや普通、選手宣誓とかって序列1位の奴がするんじゃないの。

 なんで5位とか言う中途半端な奴が選手宣誓なんだ。


 そう思い、その場でかどちゃん先生に尋ねたのだが、


「5位の人は並び順的に真ん中になるから......」


 と、申し訳なさそうに言っていた。

 まぁ、これについてかどちゃん先生は何一つ悪くないので仕方ないだろう。


 でもさでもさ。

 真ん中が選手宣誓をするんなら、序列1位を真ん中にすればいいじゃないか。

 というか、別に端から選手が出てきても良くない?

 問題ないよね。

 どうして真ん中にこだわるんだ。


 だが、そこを嘆いても仕方がない。

 俺は、自分の序列を変える作戦に出た。

 5位以外ならなんでもいい。

 とにかく、序列を変えたかった。


 が、ところがどっこい、序列を変えるどころか戦ってすらくれない。

 みんな、選手宣誓は嫌なのだろう。

 この事実を知らなかったのは俺だけってわけだ。

 哉ですらも断ってきたのでそのはずだ。


 どうしても変わりたかった俺は、ジャンケンやら腕相撲やらで負けてみたのだが、生徒証に変化はなかった。

 ちゃんとした戦いでないと序列は変動しないらしい。

 融通の利かない魔道具だ。


 とまぁそういう訳で、俺は選手宣誓をすることになった。

 憂鬱である。


『続きまして、選手宣誓

 選手代表、佐々木翔琉!』


 嫌な言葉だ。

 今大会最悪の言葉かもしれない。

 ため息が出てしまう。


「はい......」


 どうしてこんなのに返事しなければならないんだ。

 出たくもない大会に出場させられて、したくもない宣誓をさせられて、面倒なことが俺に集まってきているようだ。


 俺は、形式に従って前に出る。

 出来る限り、だるさを隠しつつ歩く。


 舞台の上まで来た。

 俺の前には校長がいて、穏やかな表情を向けている。


 あの時、俺が校長室に呼び出された時の校長と同一人物とは、とても思えない。

 人前ではいい格好をする。

 気持ちは分かるが、腹立たしい。

 どうして俺は、こんな奴の前で宣誓しなければならないんだよ。


「宣誓!

 私たち選手一同は、念願の今大会で―――」


 何が「念願の今大会」だ。

 それを俺に言わせるなんて、酷な話だ。


 選手宣誓を考えろとは言われたが、俺の案を提出したら全修正をくらって返って来た。

 原型など、残っていなかった。

 俺の意思とは真反対の、言いたくもない内容に書き換えられていた。


 まぁ、それも当然だろうな。

 俺の不満たらたらである選手宣誓など、修正されて当然だろう。


 で今、俺はこんなことを言わされている訳だが、俺を嫌っている校長は仏の顔だ。

 よくもまぁ、そんな顔が出来るもんだな。

 笑わせてくれるぜ。


 内心そんなことをぼやいていると、いつの間にか選手宣誓も終わっていた。

 てな訳で、笑える校長に一礼して、クルっと回って壇上から降りる。

 その時に見えた。


 並んでいる選手たちの中には宙もいた。

 まぁ、前に出場すると言っていたのでいるとは思っていた。

 この集団の中に、宙がいる事には驚いていない。


 だが、俺は驚いている。

 なら何に驚いているか。

 それは宙が立っている場所である。


 俺の妹が立っているのは、想像もしていなかったまさかの3列目。

 23位だった。

 びっくりだ。

 俺が思っていたより、宙は戦闘面でも強かった。

 今の序列だけだと、哉より上。

 まぁ、戦ってみれば哉の方が強いだろうが、それでも意外だった。


 俺は、宙は戦えないか弱い妹で、俺が守ってあげなければと勝手に思っていた。

 少し考えを改め直さなければならないな。

 俺が宙を守ることに変わりはないが、もう少し宙を信頼するとしよう。



 と、憂鬱な開会式も終わり、闘校祭が本格的に始まった。


 俺は初戦ではないので観戦することにしよう。

 と、俺はそう思い遠坂姉妹のもとに行ったのだが......


 明蓮寺がいない。

 一緒にいるものだろうと思っていた。

 だが、いないのだ。


 ちなみに哉もいないが、あいつは初戦なので仕方ない。

 俺は哉の輝かしい初戦を見るために、遠坂姉妹と軽く雑談を交わしながら席に着く。


 俺はあたりを見渡す。

 きょろきょろと、明蓮寺を探して。


 すると、少し離れた場所に彼女はいた。

 俺の知らない奴らと一緒に。


 ここから見たところ、明蓮寺が何かを話していた。

 それを聞いている奴らは、いい顔はしていない。

 きっと、さっそく行動してくれているのだろう。

 ありがたい。


 と、哉の試合が始まるまではまだ時間があるので、遠目に明蓮寺を見ていたのだが......

 俺は見てしまったのだ。

 明蓮寺の友達が、まとめて数人減るところを。


 連中は、明蓮寺を軽く突き飛ばしてどこかへと去って行った。

 その光景を、俺は見てしまったのだ。


 俺の隣にいる遠坂姉妹は気づいていない。

 気づかれなくてよかった。

 気づいていたら、俺だけでなく二人も責任を感じるところだっただろう。

 特に妹の方なんかは、ダメージが大きそうだ。


「ちょっと、トイレ」


 俺はそう言って立ち上がった。


「先に行っておきなさいよ」


 と、遠坂姉。

 俺はその言葉に「悪い悪い」と、適当に返して席を立つ。


 席を離れて俺が向かったのはトイレ、ではなく明蓮寺の元。


 こういう時はそっとしておいた方がいいのだろうかと迷ったが、彼女のもとに駆けよることにした。

 あまり大きな騒動ではないが、明蓮寺の周囲は多少ざわついている。

 あの空気の中を一人で過ごすのは辛い。

 俺には、身にしみてわかる。


「大丈夫か?」


 俺は「ごめん」とは言わない。

 また、「翔琉先輩のせいじゃないですよ」といわれるのが怖いからだ。

 明蓮寺からそんなこと言われれば、本当にそんな気がしてきてしまう。


「見てたんですね」


 落ち着いた口調で、明蓮寺が俺にそう言ってきた。


「ああ、たまたま目に入ってな」

「たまたま......ふーん」


 俺が言った言葉に、なぜか明蓮寺はニヤついた。

 いやな予感がする。

 さっきまでの落ち着いた様子は、今の明蓮寺にはない。


「つまり翔琉先輩は、私のことが心配で心配で仕方なかったんですね

 だから私のことを見ていたと

 いやぁ、どおりで暑い視線を感じていたわけですね

 翔琉先輩は優しいですね。好きですよ」


 反応に困る。

 褒められているのか、遊ばれているのか。

 きっと遊ばれてるんだろうなぁ


「そういうのはいい

 さっき突き飛ばされてたけど大丈夫なのか?」


 と、もう一度大丈夫なのかと尋ねる。


「えっ、翔琉先輩そこまで見てたんですか

 覗きですか。エッチですね」


 俺は一応本気で心配しているんだがな。

 いいだろう。

 そっちがその気なら、俺も相手してやろうじゃないか。


「そう言うお前だって、俺のこといつも能力で覗いているだろう?」


 さぁ、明蓮寺。

 お前はこれにどう反応する。


「えっ、なんで知っ......」


 明蓮寺は、途中まで言いかけて言葉を止めた。

 だがもう遅い。


「マジか、お前......」


 もしかしてとは思っていたが、本当に見ていたなんて。


「だって仕方ないじゃないですか

 先輩がカッコイイのが悪いんです!」


 どうして俺は逆切れされているのだろう。

 理不尽だ。


「どこまで見たんだ」


 今の俺は、それだけが気になって仕方がない。

 夜も寝れなくなりそうなくらいに。


「それはもう、ありのままの姿を」


 どうしてそれを、恥ずかしげもなく口にできるんだか。

 しかも嬉しそうなのがもう......

 なんでこいつの能力『天眼』なんだよ。


「他には......?」


 まだ隠しているのではないかと、俺は恐る恐る聞いてみる。

 トイレとか見られてたらどうしよう。

 恥かしい。

 いや、今の時点でもう十分恥ずかしいのだが。


「ね、寝顔とかですかね」

「......そうか」


 あぁ、そういうことね。

 ふーん。



「話を戻そう

 大丈夫なんだな?」


 俺は真面目な顔をして、明蓮寺に問いかける。


「......大丈夫です。

 あんな人たち、友達じゃなくなって清々しました。」


 さすがの明蓮寺も、俺の真面目そうな顔の前ではふざけられなかった。

 最初からそう答えてほしいものだ。


 でも多分、明蓮寺のこの言葉も強がりなんだろうな。

 友達だったやつが遠ざかっていくのは辛かろう。

 本当に、彼女には悪いことをしている。


 でも、彼女にしかできないことだ。

 いくら哉でも、明蓮寺ほどの人望はない。

 精々、愉快で面白いやつくらいだ。

 だから、頼む。


「明蓮寺」


 俺が彼女の名前を呼ぶと、明蓮寺は「はい」と少し不思議そうに返事をした。

 話はもう終わったと思ったのだろうか。

 終わりにした方がいいだろうか。

 一人にしてあげた方がいいのだろうか。

 俺が今から言おうとしていることは、迷惑だろうか。


 でも一人にすると、さっきみたいに突き飛ばされるかもしれない。

 もしかすると、さらに酷いことも。


 やはり、これは言うべきだ。


「ちょっとついてきてくれ」


 別に、ついてこさせる意味はさほどないのだが、もう一度明蓮寺を探すのも面倒だしな。

 悪いが、少しついてきてもらおう。


 俺は明蓮寺に、護衛を付けるつもりでいる。

 護衛はもちろん水人形(アクア・ドール)

 俺の精密なコピーだ。

 精密といっても見た目だけだが。


 まぁ、俺はそれを明蓮寺に付ける気でいるのだが。

 出来るだけ、今大会前半では俺の能力をばらしたくはない。


 こんな人込みで水人形を作ってしまえば、バレてしまうこと間違え無しだ。

 どんなに精密な水人形でも、生成途中は水そのものなのだ。

 水が集まって俺になってくところなんて見られたら、絶対バレる。


 だが、それならどこか遠くの、人目がない所に水人形を作ればいいじゃないかと思うかもしれない。

 しかし、そうはいかない。

 これは水人形、というより俺の能力の仕様なのだが、視界外に能力を発動することができないのだ。

 だが、視界内で生成した水人形を視界外に持って行くことはできる。

 要は、生成だけは視界内でしなければならないと言うことだ。


 ちなみに、この視界内というのは水人形の視界内でも問題ない。

 俺に見えてさえいればどこでもいい。


 とまぁ、それらの理由でここからは移動しなければならない。


「何処に行くんですか」

「人目のない場所ならどこでもいい

 トイレとかか?」


 会場外にも人はいるし、やはりトイレとかが無難だろう。


「人目のないトイレで、ナニするつもりなんですか?」


 明蓮寺は身をよじらせながらそう言った。

 顔を赤らめている。


「ついに私は、翔琉先輩と......

 きゃ~!」


 明蓮寺は顔を赤らめたまま、両手で顔を隠してぴょんぴょんと跳ねる。


「でも翔琉先輩、試合の前に体力使っちゃってもいいんですか?」

「お前の思っているような事はしないから大丈夫だ」


 俺の訂正を受けて、明蓮寺のテンションが少し下がった。

 どうせそんなことだと思ってましたよ、とでも言うように。

 がっかりするなよ。

 いつものことだろ。


「ついてきてくれ」

「分かりました」



 ―――明蓮寺穂香視点―――



 翔琉先輩に付いて行くと、彼の言っていた通りトイレに着きました。


「ちょっとここで待ってろ

 すぐに戻って来る」


 そういって、彼はトイレへと入ってしまいました。

 女子を連れてきて、一人でトイレに入ってしまう。

 よくわからない人です。

 でも、そんなところも好きです。

 ミステリーな男の人って、かっこいいですもん。


 でも、そんなことは今はどうでもいいのです。

 問題なのは、翔琉先輩がどうして私をここに連れてきたのかです。

 彼は、私に手を出す気はないと言いました。

 なので、そういったコトではないのでしょう。


 だとすると、なんなのでしょうか。

 きっと、私があの人たちに突き飛ばされたのを見ての行動なのでしょうが、彼にも試合があります。

 そして哉先輩にも。

 ですので、私に護衛を付けることはできないと思うのですが。


 と、翔琉先輩が戻って来た。


「お待たせ」


 なんだかそのセリフ、恋人のそれみたいですね。

 ちょっとだけ照れてしまいます。


「いえいえ」


 翔琉先輩は私を待たせたと思っているのでしょうが、彼にしては早く戻って来た方で、私の予想よりも早いご帰還でした。


 それは良いとして、彼が戻って来た今でもなお、彼が何をしたかったのかが分かりません。

 一体、彼は何を企んでいるのでしょうか。


「翔琉先輩は、私をここに連れて来て何をするつもりだったんですか?」


 気になることは、聞いてみましょう。

 本人に聞くのが一番です。


「だから、お前が思っているようなことはしない」


 ......。

 最近では、私の言葉のほとんどをそういう意味で捕らえられてしまうようになってしまいました。

 もう、私はそう言うキャラで定着してしまったのでしょうか。

 まぁ、仕方がないです。

 むしろ、こちらの方が近い距離に居られるのでいいかもしれません。


「始めに言っておくが、俺は佐々木翔琉のコピーだ」


 翔琉先輩は、突然そんなことを言いました。

 どういうことなのでしょうか。

 そういうことなのでしょう。

 しかしコピーとは......

 翔琉先輩の能力は、そういったものなのでしょうか。


「翔琉先輩の能力は、『複製』なのですか?」


 これも、本人に聞いてみることにしましょう。


「俺の能力は『複製』ではない。

 俺の能力は......」


 と、翔琉先輩はそこで言葉を止めて、私に顔を近づけます。

 私の耳元へと。


 えっ、な、なんですか。

 は、恥ずかしいです。


 思わず縮こまって目を閉じてしまいました。

 私の顔は、今どうなっているのでしょう。

 きっと、物凄く赤くなっていると思います。

 そう思うとまた恥ずかしい。


「||........《『統水』水を操る能力だ》」


 翔琉先輩は、私の耳元でそう囁いた。

 私は顔を真っ赤にして、彼の吐息を受けます。


 耳にかかる彼の吐息は、私になんとも言い難いくすぐったさを覚えさせます。

 そのくすぐったさのせいで変な声が出そうになるのを我慢しますが、小さく「んっ!」という声が出てしまいました。

 これもまた恥ずかしいです。

 さらに顔が熱くなるのを感じます。


 私の耳元から顔を遠ざけた翔琉先輩(コピー)は、彼の出てきたトイレの方を指さします。

 その指の先を見てみると、男子トイレからひょっこりと顔だけ覗かせた翔琉先輩がいました。

 可愛いです。

 ギャップ萌えというやつでしょうか。


 それにしてもよくできていますね。

 どっちがコピーなのか分からないほどの出来です。

 さすが翔琉先輩ですね。


「コピーと、本体の意識は別だから試合には影響しない

 だから安心して守られてくれ」


 なんと頼もしいお方なのでしょう。

 惚れ直してしまいます。


「ありがとうございます」


 雪音ちゃんのイメージアップ、とびきり頑張らないとですね。

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