表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第六章 『闘校祭』
52/158

第五十話 『新しい日常』

「ヘーイ!」


 騒がしい奴が来た。

 俺が靴箱に靴を入れている時、騒がしい声が背後から聞こえてきた。


 その声は聴いたことがある。

 聞いたことがあるなんてもんじゃない。

 平日は毎日聞いている、同じ部活のあいつだ。

 哉だ。


「おはよう」


 とりあえず俺も挨拶を返す。

 哉のよく分からないテンションの挨拶をするのは恥ずかしいので、普通の挨拶を。


「ヘーイ!」

「......おはよう」


 哉はハイタッチを要求してくる。


 なんだ。

 俺にもそのへんてこな挨拶をしろ、と。

 いやだね。

 俺は意地でもその挨拶をしないぞ。


「......ヘーイ」

「おはよう」


 さすがに三度目になると勢いがなくなって来た。

 何とか言わせようとしているのがよく伝わってくる挨拶だ。


「ヘーイ」

「おはよう」


 なんだこれ。

 変な挨拶をさせたい哉と、絶対にしたくない俺。

 朝から昇降口で何やってんだか。


「君たち、何やってんの」


 俺たちの終わりが見えない戦いに笑いながら横やりを指したのは牧田だ。


 牧田は学校の鞄を持っていない。

 おそらく、牧田は俺たちよりも早く着いていて、昇降口を通りかかったときに偶然俺たちがいて変なことをしていたから声をかけた、ってところだろう。


「ヘーイ!」


 哉は標的を変えた。

 次に狙われるのは牧田。

 頑張ってくれ牧田。健闘を祈る。


「イェーイ!」


 牧田はそう言って、『パチン』と音を鳴らして哉とハイタッチを交わす。

 なんてノリのいい少年なんだ。

 さすがイケメンだな。

 女子人気が高いだけある。


「ふんすっ!」

「......」


 で、どうして哉は俺をどや顔で見てくるんだ。

 こいつ、何がしたいんだ。

 今日のこいつ、未だにまともな言葉を発していないぞ。

 ちゃんと言葉を話せよ。


「で、何やってたの?」


 牧田は話を戻す。


「何って、それだよ」


 俺は返答するが、何と言っていいのか分からないので適当な返しになってしまう。


「それって?

 ヘーイ!のこと?」

「そうだ」


 よくあの適当な説明で理解できたな。

 俺なら確実にできない。断言しよう。

 それをいともたやすく理解する牧田は恐ろしいな。


「ヘーイ!」


 と、牧田も俺にその挨拶をしてくる。


 牧田がたやすく受け入れた挨拶を、俺だけが拒否するなんてできないじゃないか。

 卑怯だぞ。


「イ、イェーイ......」


 俺の挨拶は、渋々ハイタッチをしたせいか、『パチン』なんて気持ちのいい音は鳴らない。

 『ペチ』という音が小さく鳴る。

 はぁ、恥ずかしい。


「なんでリンのにはするんだよ」


 今日、ようやくまともに話した哉の第一声はそれだった。

 哉はむくれている。

 不機嫌そうだ。


 なんて説明すればいいんだろうな。

 別に哉が嫌いってわけじゃないんだ。

 うーん。


「牧田のが策士だったんだよ」


 こんな説明でいいだろうか。


「俺と何も変わんなかったじゃねぇかよ」


 まぁ、そうなるわな。

 どう言えばいいんだろうな。


「タイミングだよ」


 俺の代わりに、牧田がそう言った。

 そう、タイミング。

 哉はタイミングが悪かったんだよ。


 俺は牧田の言葉に同意を示そうと、コクコクと首を縦に振る。


「そうか......」


 と、哉は落ちこんだような顔をする。

 どうしてそんな顔するんだよ。

 申し訳なくなってくるだろ。


「ヘ、ヘーイ」


 罪悪感に負けた俺は、哉に向かって例の挨拶をする。


 哉は単純な奴だ。

 俺のその挨拶を受けて、哉の顔がパッと明るくなった。


「イェーイ!」


 哉は勢い良く俺の手を叩く。

 『バチン』と言う音が鳴る。


 痛いんですけど。

 なんでそんなに強く叩くんだよ。


「アハハハ!」


 何が面白いのやら。

 哉は笑い出した。

 子供みたいなやつだな。


 俺と牧田も、哉の笑いにつられて笑い始めてしまった。

 笑いと言うのは、不思議なもんだ。

 あくびと同様、伝染するのだ。


 ちなみに、あくびが伝染するのは相手を信頼している証拠なのだとか。

 俺はこの二人を信頼しているのだろうか。

 自覚はなかったんだがな。

 どうやら、自分で思っていたよりも俺はこいつらを信頼しているようだ。


 信頼、か......

 何故だろう、笑えるな。



 ---



 そんなどうでもいいような朝も終わり、ついでに昼も越えて放課後。

 俺は、相変わらず人より遅い片付けをしていた。


 鷲宮にも言われたので、できるだけ早く片付けようと頑張ってはいるのだが、やはりどうしても早くならない。

 俺は片付けが苦手な訳では無い。

 むしろ得意だと思っていたのに何故だろう。

 どうしても、人よりも時間がかかってしまうのだ。


 ほんと、不思議でしょうがない。


 俺は一度鞄に入れた教科書を再度取り出す。

 教科書の重ね方が気に入らなかったのだ。

 下から大きい教科書。

 上に行くにつれて小さい教科書に。


 まぁ、こんなもんだろう。

 次は筆箱だな。


「あなた、まだ片付けしてるの」


 そう言いながら俺に近づいてきたのは遠坂姉だ。

 もうとっくに片づけを終わらせた遠坂姉は、珍しいことに俺の方へとやって来た。

 いつもなら放課後真っ先に部室へと向かう遠坂姉が、俺の方に寄って来るなんて珍しくてしょうがない。


 思えば、最近は遠坂姉とあまり会っていなかったな。

 遠坂姉は部活、俺は三上と訓練。

 あまり教室では話さない遠坂姉と、こうして話すのは数日ぶりな訳だ。


「皆が早すぎるんだ」


 そう。

 俺が遅いんじゃない。

 周りが早すぎるんだ。


 てのは冗談で、俺もどうして自分の片付けが遅いのかが気になっているのだ。


「どうして俺は片付けが遅いんだろうな」


 切実な疑問である。


 俺はその理由を考えながら、一度しまった筆箱を再度取り出す。

 やっぱり筆箱は横入れじゃなくて縦入れだよな。


「それじゃない?」

「......どれだ?」


 それってなんだよ。

 それ、じゃ分かんないだろ。

 もっと原因を特定してくれよ。

 自分では分かりそうにないんだ。


「あんた、潔癖症なの?」


 潔癖症だと?

 そんなわけないじゃないか。

 潔癖ってのはあれだろ。

 人が触ったやつとか、人の食べかけとかを食べれないっていうあれだろ。

 俺はそんなことない。


 宙が触ったものも食べれるし、宙の食べかけなんてむしろ大歓迎だ。


「いや、全然潔癖じゃないぞ?」

「でも綺麗好きではあるわよね」


 きれい好き、か。


「別に普通じゃないか?」


 普通だと思う。

 というか、なんであの流れで俺が潔癖だったり綺麗好きだったりになるんだ。

 分からんな。


「......多分、あなたの片付けは一生早くならないわね」


 何を根拠にそんなことを。

 まだ希望はあるはずだろ。

 俺の可能性は無限大だぜ。


「で、お前は何しにここに来たんだ?」


 そう。

 こいつが部活前に俺のところに来るなんて、何かあるはずなんだ。

 俺の片付けの遅さを馬鹿にしに来ただけのはずがない。


「今日、あなたの方が終わったら一緒に帰るわよ」

「なんだなんだ

 下校デートのお誘いか」


 と、俺は適当に遠坂姉をからかってみる。


「そんな気持ち悪いこと言わないでもらえる?

 吐き気がするわ」


 遠坂姉は生ごみでも見るかのような目で俺のことを見てくる。


 そんなに嫌がらなくてもよくない?

 こいつ、なんでこんなにも俺へのあたりが強いんだ。


 いやまぁ、確かにさっきの俺の言葉は気持ち悪かったけどさ。

 そんなに拒絶しなくてもよくない。

 俺、こいつに嫌われてるのかな。


「俺、お前に嫌われてんの?」


 聞いてみるのが一番だろう。


「別に、嫌ってはないわ

 ただちょっと、強く当たりたくなっちゃうのよ」


 なんでだよ。

 強く当たりたくなるって。

 まぁ、嫌われてないのならいいや。


「話を戻すわ

 今日、一緒に帰りなさい」


 遠坂姉の言葉は命令形だ。

 強制なのね。

 まぁ、別にいいけど。


「一緒に帰るのは良いが、なんでだ?」


 いつもは別々で帰るのに。

 どうして今日は一緒になんだろう。


「それは、また帰るときに説明するわ

 本当はこれをあなたに言うべきなのか悩んだけど、相談できるのはあなたくらいしかいなかったから」


 俺くらいか。


「哉とかには相談できないのか?」


 俺は、ぱっと思い浮かんだ人物の名前を口に出す。

 牧田の名前も出てきたが、違う部活なので相談しにくそうだと思いやめた。


「あれに、まともな相談が出来るとでも?」


 確かに。

 哉には悪いが、あいつに相談事なんて向いていない。


「じゃぁ、明蓮寺とかは?」


 明蓮寺は普段あんなだが、意外と相談相手には向いてそうだ。

 少なくとも哉よりは。


「あの子に、このことは相談できないわ」


 遠坂姉は少しだけ暗い表情になって、そう言った。


 そうか。

 明蓮寺にも相談できないことか。

 そうなれば俺しか相談相手がいないな。


「分かった

 じゃぁ、今日の指導が終わったら部室に行く」

「ありがとう。じゃぁまた」


 遠坂姉はそう言って教室を出て行った。

 部室にでも向かったのだろう。


 俺の片付けも、ちょうど終わった。

 三上の所に向かうとしよう。

 今日の訓練は、少し早めに終わるとしよう。


 俺はそう思い、席を立って教室を出る。

 俺が教室を出るのは、当然のように一番最後なので教室の施錠も忘れずにする。

 施錠を忘れた場合、後日先生にいろいろ言われて面倒そうなので毎日欠かさず確実に施錠。


『ガラガラ』


 この扉は、『ガラガラ』と音を立てる割には簡単に動く。

 この世界の扉のほとんどは軽い。


 カラガタの木と言って、軽いくせに強度のある木材が使われているからだ。

 この木材は、周りの魔力(マナ)を自ら吸収し続け、強度を保ち続けるのだ。

 いや、強度を保ち続けると言うよりは、元の形を維持し続けると言った方が正しいのだろうか。

 カラガタの木ってのは、腐ることもないらしいしな。


 そんな木をどうやって加工しているのだろうか。

 想像もつかない。

 これもまた能力なんだろうか。

 能力なんだろうな。


 まったく、異世界には便利な木材があるもんだ。


 だが、ただ便利なだけという訳では無い。

 どんなに便利な物にも欠点はある。

 この木材もそうだ。


 一つは、さっき言った通り加工のしにくさ。

 そしてもう一つ。

 この木材、ほとんどの魔法具には使えないのだ。

 木材が勝手に魔力を吸収するせいで、魔法陣がフル稼働してしまう。


 しかしそこも知恵。

 この学校の生徒証にはカラガタの木が使われている。

 魔法陣を内蔵しているのにも関わらずだ。


 考えたものだ。

 常に魔力を供給したいから、カラガタを使用する。

 欠点も、使い方によっては利点になる。

 その逆もまた然りだ。


 軽くて薄いと、風に飛ばされやすくなる。

 今度は軽さが裏目に出るのだ。


 いや、ちょっと待て。

 これはむしろ利点なのではないか。


 飛ばされた生徒証を、異性が拾って新しい恋が始まる、的な。

 「これ、あなたのですか?」「えっ、拾ってくれたの?ありがとう」的な。


 そこまで考えてこの生徒証を作ったのなら、製作者は天才だな。


 と、俺はそんなどうでもいい事を考えながら、職員室に鍵を返す。


 今日は早く帰らなければならない。

 なので、その分早く始めなければならない。

 早く闘技場に向かわなければ。

 三上が待っている。



 ---



「おせぇぞ師匠」


 自称弟子が、俺に向かってそんなことを言ってくる。


 遅いことくらい分かってるよ。

 でも遅いのはいつものことだろ。

 そろそろ慣れておくれよ。


 だってしょうがないじゃないか。

 俺の片付けは遅いんだ。

 だから教室を出るのが一番最後になって、鍵の施錠も任されてしまうのだ。

 必然にして絶対。

 逃れることの出来ない宿命なのだ。


「悪い

 でも、いつもより急いだんだぞ」


 そう。

 今日はいつもより急いだのだ。

 今日は早く帰らなければなので、急いだのだ。

 その辺は褒めてほしい。


「急いでこれかよ......」


 ですよねぇ

 同じようなことを、鷲宮にも言われた気がする。

 自分がホントに遅いことを実感させられるな。


「俺に、速さが足りねぇとか言ってた師匠がこんなに遅いんじゃぁ、笑いもんだぜ」

「......悪い」


 ホント、それを言われると弱い。

 偉そうに「お前にはスピードが足りない」とか言っているくせに、これじゃあな。

 説得力なんてあったもんじゃない。

 走力ならあるんだがな。

 片付けがどうも。


「まぁ、人には向き不向きってのがあっかんな

 師匠は、、片付けが向いてねぇんだよ」

「......励ましてくれてありがとな」


 と、俺は一応の感謝を述べはしたが、釈然としない。

 なんだよ、片付け向いてないって。

 馬鹿にしてんの。

 俺の家が汚いと思ってんの。


 残念。俺の家はきれいなんだなぁ

 俺がどんなに散らかしても、宙がきれいにしてくれるからな。

 甘えるな。


「じゃぁ、特訓開始だ」

「おうよ!」


 相変わらず、勢いだけは良いんだよな、こいつ。


「じゃぁ、今日は実戦訓練をする」

「どんと来いだ!」


 少し前までは、能力を使って走ると尻餅をついていた三上だが、最近では練習の甲斐あってかなりのスピードを出せている。

 50メートル走なら俺と張るくらい。

 後は瞬発力なんだが、それは実戦訓練で身に着けられるだろう。

 今の時点で、人よりは瞬発力のある三上なら、俺との実戦訓練も少しは続くだろう。


「行くぜ!」

「ああ」


 そう言った三上は、物凄いスピードで飛び掛かってくる。

 が、朝練のおかげで俺はそのスピードに慣れている。


 俺は飛んでくる拳を横から触って軌道を逸らす。

 そのまま三上の腹に一撃入れようとしたのだが、三上は能力を駆使した無理矢理な回避術を見せる。


 俺は、自分の能力で飛んで行っている三上を追う。

 空中を飛んでいるただの人間は、大した回避行動をとれないせいでかなり無防備になる。


 飛んでいる三上に追いついた俺は、低い打点から三上の腹にアッパーを打ち込む。

 かなりの力を込めたはずだが、三上へのダメージは低そうだ。

 きっと、能力で威力を抑えたのだろう。


 殴られてもなお余裕のある三上は、俺の頭上から拳を振り下ろす。

 俺のこの体制では、それを回避することができない。


 俺は三上の腹に入れたままの拳で彼の服を掴み、振り下ろされる拳が俺に当たる前に投げ飛ばす。

 俺に投げ飛ばされた三上は地面に落ちてゴロゴロと転がる。

 それを追った俺は、三上が止まったとこれで顔面目掛けて蹴りを入れる。

 サッカーボールのように蹴り飛ばす寸前、俺は三上の眼前で足を止める。


「勝負ありだな」


 そう言ったのは三上。

 それ、お前のセリフじゃないだろ。


「また負けかよ......」


 そうだな。

 確かにお前は負けた、

 だが、数日前からの成長は著しいものだ。

 俺の指導でここまで成長してくれたのなら、俺も嬉しいもんだ。


「もう一戦いけるか?」


 俺は三上にそう尋ねる。

 これからは、実践を重ねることが成長に繋がると思う。

 あと正直な話、三上が走っているのを見ていたってまったく面白くない。

 俺も動きたい。


「いけるに決まってんだろ!」


 決まってるのか。

 良い意気込みだ。

 その調子で頑張ってくれ。


 てなわけで、第二ラウンドの始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ