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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第六章 『闘校祭』
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第四十九話 『登校前』

『ヒュッ! ヒュッ!』


 早朝。

 今日も今日とて庭からは風を切る音が聞こえている。


 手始めに100回素振り。

 一発一発を全身全霊で。

 次の一刀は前の一刀よりもいいものにしようと。

 そんな意気込みで100太刀。


 まぁ当然、そんなことをしていればかなり疲れる。

 毎日同じことをしていてこの感覚には慣れているとはいえ、本気の100太刀はいつだって疲れる。

 もうすでに汗だくだくである。


 そして、汗びっしょりになった後にすることと言えば、実践訓練だ。


 少しだけ休んだ後、俺は水人形(アクア・ドール)を出現させる。

 少し前までは三体くらいでやっていた。

 なぜなら五感が入り混じって気持ち悪くなるからだ

 三体でも、ギリギリ耐えられるくらいで、結構しんどかった。


 だが、そんなこともしばらくやっていると慣れてくる。

 最近では不快感こそ感じるが、気持ち悪さは無くなってきた。

 おかげで操作も精密になってきたのだ。

 訓練のクオリティーが上がる。


 俺は能力を使う。

 周りから吸収した魔力(マナ)を体全体に行き渡らせてから放出するような、そんな感じだ。

 それをしつつ、水人形をイメージする。


 空気中から水を集めるようにして、水人形が三体完成する。

 何故この感覚に慣れてきたのにも関わらず三体のままなのかと言うと、俺は少数VS少数の戦い方が苦手だからだ。

 苦手と言っても弱い訳では無いのだが、やはり多数VS少数の方がやりやすい。

 ちなみに少数側は俺だ。


 相手が大勢い居ればその分俺が不利になると思うだろうが、意外とそうでは無い。

 『みんなでやれば大丈夫』と言う言葉がある通り、人は集まれば集まるほど安心する。

 が、それこそが多数側の欠点。油断が生まれるのだ。

 油断の無い奴と油断がある奴、一人一人で考えると断然後者の方が倒しやすい。

 要は、多数側は倒しやすいやつが群れているだけなのだ。


 まぁ、これに限っては自分で水人形を動かしているから関係ないんだけどね。

 水人形が多かろうが少なかろうが、俺は気を抜かない。

 分かっているからこそ、そこを意識して訓練するのだ。


 と言っても、水人形はそんなに多く出せないんだけどね。

 俺が同時に出現させられる最大数では、油断するには到底物足りない。

 俺の予想だと、油断出来るのは10人を超えてからだ。



 俺の前に立っている水人形は三体。

 油断なんてできたもんじゃない。


 その三体とも、マネキンのような適当なつくりをしている。

 別に、三体とも忠実に再現することだってできる。

 だがこれは対人戦の訓練だ。

 あくまで訓練。

 見た目とかいうどうでもいいことに集中するくらいなら、クオリティーを下げて機動力を上げるのだ。



 水人形全体が、水生棒(アクア・スティック)を作り出す。

 まぁ、正確に言えば俺が捜査して水生棒を出現させたのだが。


 と、そんなツッコミを自分に入れていると、三体のうち真ん中の一体が動き出した。

 その後、それに続くようにして残り二体がばらけ始める。


 作戦は三方向からの一斉攻撃。

 かなりシンプルだが、これでいい。

 だが、それだけではいけない。

 連携も織り交ぜていく必要がある。


 一斉攻撃だけでも慣れるし、連携だけでも慣れる。

 大事なのはバランスなのだ。

 何事においても、バランスというものは重要視されるのだ。


 俺はそのバランス戦術のうち第一波。

 一斉攻撃を木刀を使って防ぐ。


 正面からの攻撃を受け流し、左右からの横ぶりの攻撃を体制を低くして回避する。

 回避後、足を突き上げるようにして一体の水人形に蹴りをお見舞する。


 俺の足が、ちょうど腹のあたりにめり込んで弧を描いて軽く飛んで行く。

 が、水人形それほど脆くはない。

 たとえ威力の高い攻撃だろうと、一発程度なら壊れはしない。

 水人形は形を保ったまま飛ぶ。


 と、それを目で追う暇など、俺にはない。

 次の攻撃が来る。

 身を低くしている俺に向かい、縦ぶりの一太刀を振るう。

 俺が毎日している素振り通り『ヒュッ』という音を出しながら、その水生棒は俺に向かって迫ってくる。


 が、問題ない。

 先手必勝。

 俺はブレイクダンスでもするようにくるくると回って立ち上がる。

 その過程で一体に足を掛け、立ち上がった直後に残り一体の首を木刀で跳ね飛ばす。


 木刀で首を断裂された水人形は、当然のように破裂して水しぶきをまき散らす。

 俺は降り注ぐ水しぶきを気にもせず、次の攻撃へと移る。


 俺が足を掛けたことでコケてしまった水人形に向かって蹴りを入れるが、やはり見た目は違えどそいつの中身は俺だ。

 軽く蹴り飛ばすくらいの攻撃では当たらない。

 その水人形は、横になっている体制から立ち上がりながら攻撃を避ける。

 まるで、立ち上がるついでに攻撃を避けているようだ。


 なんというか、余裕綽々としていて妙に腹が立つ。

 俺はいつもこんな感じなんだろうか。


 と、そんなことを深く考える暇もなく次の攻撃がくる。

 流れるように立ち上がった水人形は、その流れのまま止まることなく俺に一撃を放つ。


 それは無意識に出た攻撃だろう。

 言わば、それは俺の癖。体に深くシミつかせた行動だ。


 トドメを刺されるような攻撃を避けた直後は攻撃。

 カウンターに近い。

 人は、これだと思った攻撃の後は油断するものだ。

 そこに攻撃を入れる癖を、師匠に叩き込まれたのだ。

 そのため、俺は反射的にカウンターが出る。


 この水人形とて、中身は俺。

 反射的にカウンターが出る。


 が、これには欠点がある。

 相手がそのカウンターを予測していた場合、もう一度カウンターを返されるということだ。

 相手の隙を付いた攻撃である分、油断は相手のものとは段違い。

 まぁ、気持ちの問題ではあるのだが。


 ここも改善点だな。

 俺はそう思いつつ、水人形のカウンターをカウンターで返す。

 上から振り落とされる水生棒を木刀でするりと受け流し、そのまま木刀を斜めに振り下ろす。

 俺が振り下ろした木刀は、水人形の首元から入り脇の下へと抜けていく。

 体を木刀が通り抜けて行った水人形は、例に習ってはじけ飛ぶ。


 後一体。

 始めに蹴り飛ばした奴だけだ。

 俺は飛んで行った奴の方を見る。


「っ!?」


 いない。

 完全に姿がない。

 見失ってしまった。

 どこにいった。


 俺が周りを見渡し、三体目を探そうとしたその刹那。

 視界の端に水でできた透明の棒が映り込む。

 後ろに回り込まれていたのか。

 次からはこれも何とかしなくてはだな。


 誰がどこに行ってどこにいるのかを把握しながら戦わなければ。

 今回はそれができなくて負けた。

 次は改善しよう。


 自分で動かしてるんだから水人形がどこに行ったかくらい分かるだろ、とか言わないでほしい。

 ひとつの頭で四人分の動きを考えるのは、想像も出来ないくらい難しいんだぞ。

 そういうことは、あと三人を操作してから言って欲しいものだね。


 俺は指を鳴らして最後の一体を消す。

 消すと言っても、水人形が元の水に戻るだけなんだがな。

 水人形の輪郭が歪んでいき、すぐにただの水になり『ビシャ』っと音を立てて地面に水たまりを作る。


 俺はその水が弾ける音を聞きながら「そろそろ朝練を終わろうか」なんて思っていると、ちょうど宙が声をかけてきた。


「おにぃおはよう

 ご飯できたよ」


 てなわけで、宙の美味しいお食事タイムだ。

 朝から妹の手料理フルコースを堪能出来る。

 なんて幸せなお兄ちゃんだろう。

 ほんと、宙には感謝しないとな。


「今行く」


 俺はそう言って、手に乗っている木刀の水分を抜く。

 全部抜いてしまうと木刀が干上がってしまうので、少し水分を残して。

 前はこれも失敗していたが、今となればこんなこと御茶の子さいさいだ。


 俺は縁側から家へと入る。

 リビングにある二人で使うには少し大きめのテーブルには、既に配膳を終えた朝食達が並んでいた。

 今日は俺を呼ぶ前に配膳したのか。

 珍しいな。


 いつもなら俺を呼んで、俺がシャワーを浴びている間に配膳をしていたのだが。

 今日はそういう気分じゃないのだろう。

 まぁ、どういう気分なのかはお兄ちゃんながら全く分からない。


 とにかく、冷めてしまっては勿体ない。

 今日はシャワーを浴びる前に朝食といこうじゃないか。

 俺はそう思って椅子に腰掛ける。

 宙も俺に続き、向かいの席に座る。


 「「いただきます」」


 二人は、同時に食べ始める。

 こうして仲良く食べ始めるのはいつものこと。

 いつもはこの後、お互いに黙々と食べ進めるのだが、


「おにぃ......」


 今日はいつもとは違い、宙は口を開いた。


 まぁ、家に「食事中は話してはいけない」なんてルールはないので、別に話してもいい。

 だが、俺たちは朝食ではほとんど話さないのだ。

 そんな中急に話し出した宙が珍しく、俺は少し驚いてしまった。


「な、なんだ?」


 どうして俺は身構えているんだろう。

 かわいい妹が、ただ話し出しただけだと言うのに。


 いやでも、もしかすると何か重要な話かもしれないし。

 少し真面目に聞いた方がいいのだろうか。


「おにぃ、闘校祭出るんだってね」


 あぁ、そのことか。

 そう言えば、俺が闘校祭に出ることを宙には言っていなかったな。

 というか、その情報は何処から聞いたんだ?


 もしかすると俺は、俺が思っているよりも学校で有名人なのかもしれない。

 注目の的な訳だ。

 おそらくだが、俺が有名になっているのは転校生だからだろう。

 てことは哉の情報も、俺が知らないだけで出回っているのかもしれない。

 転校生が有名になるなんて、よくある話だ。

 ......多分、良くある話だ。

 学校をほとんど知らない俺にはよく分からないが、きっとよくあるのだ。


 でも、そうだとすれば宙の話を聞かないのはおかしなことではないのか。

 宙も俺と同様転校生のはずだし、最高の美少女だ。

 そんな宙の話を、聞かないなんてあり得るのか。


 あっ、でもでも。

 よくよく考えれば、俺がそういった話を聞かないのも分かる気がする。


 これは最近知った話だが、俺の情報収集能力は低いらしい。

 これは牧田情報だ。

 まぁ、あいつと比べて低いだけなので、俺が他の人より特別劣っていると言う訳ではないと思う。

 そう思いたい。


 とりあえず、宙の質問にお答えしよう。


「不本意ながらな......」


 そう、俺が闘校祭に出るのは不本意なのだ。

 いやいや出場させられるのだ。

 その上優勝しなければならない。

 モチベーションなんてあったもんじゃない。


「そっか

 不本意ってなんで?」


 やっぱりそう思うよな。


「神様に出ろって言われたんだよ

 俺はあんまり出場したくないんだが、断れなくてな」

「そっか......」


 なんか、変な雰囲気になってしまった。

 まぁ、お兄ちゃんが無理矢理出場させられるなんて聞いたら、いい気分にはならないわな。


「......うちも出場する」

「......は?」


 ちょっと待て。

 理解が追い付かない。

 どうして宙が出るんだ。

 またあの神様の仕業か?


「神様に何か言われたのか?」


 これは心配だ。俺は良いが、宙に出場を強制するなんてたとえ神様でも許さんぞ。

 俺はそう思って宙に問う。


 すると宙は少し考えた後、口を開いた。


「いや、神様には何も言われてないよ

 でも、理由は言えない」


 理由は言えないだって。

 怪しすぎる。


「誰かに何か言われたんだな

 大丈夫だ

 お兄ちゃんが何とかしてやる

 言ってみろ」


 俺はそう言い、朝食のことなどすっかり忘れて宙の肩を揺する。


「大丈夫だよ

 でも、理由は言えない。恥ずかしいし」


 これはなおさら怪しいぞ。

 事件の匂いがする。一大事だ。

 誰かに弱みを握られていて、闘校祭に出場しないと言いふらすとか、そんなことを言われているに違いない。


「やっぱり、誰かに何か言われたんだな

 誰に言われたんだ

 お兄ちゃんが殺してくる」


 妹の危機はお兄ちゃんの危機。

 俺が何とかしなければ。


「おにぃ、しつこい......」


 宙の機嫌が、突如悪くなった。

 もしかして俺、何か地雷でも踏んだのだろうか。


「本当に何も言われていないのか......?」

「だから、さっきからそう言ってるじゃん」


 宙は俺を睨みながらそう言ってくる。


 あっ、本当に何もなかったんですね。

 お兄ちゃんが深読みしすぎただけでした。

 すいません。



 ---



 後から聞いた話によると、闘校祭に出場することで俺に何かを伝えたかったらしい。

 が、何を伝えたかったまでは教えてくれなかった。

 それは大会当日まで絶対に言わない、と。


 なんか、お兄ちゃんが勝手に騒いでいただけでした。

 本当にすいません。


 今はもう食器も洗って、学校に行く前。

 ちょっと時間が余ったのでのんびりしている時間だ。



「ほんと、おにぃのシスコンぶりには困っちゃう」


 宙はどうしようもない奴を見るような目で見てくる。

 そんな目で見ないでおくれよ。

 悲しくなっちゃうだろ。

 ていうか、別にいいじゃないかシスコンでも。


「冷たく接するよりはいいだろ」


 俺が言った言葉は、まるで言い訳のように聞こえてしまう。

 いや、言い訳ですらない。

 ただ開き直っただけ。

 このシスコンは開き直ったのだ。


 だが、俺は知っている。

 俺がこうしてシスコンであるように、宙もまたブラコンであることを。

 俺たち兄妹は相思相愛なのだ。

 まぁ当然家族として。


 俺も宙も、()()()()()お互いが好きなのだ。

 LoveではなくてLikeの方。

 禁断の恋に落ちている訳では無い。


 いや、そもそも俺たち兄妹は血が繋がっていないので、法律上は禁断でもなんでもない。

 まず第一に、この世界に法律はない。


 まぁ、かと言って宙に恋をするかと言っったら不可能な話だ。

 やはり、どうしても妹としてしか見れない。

 きっと、宙も同じ感覚だろう。


「まぁ、冷たいよりはいいかも......」


 宙は俺の言葉に、静かに、何かを考えながら答えた。


「だろ、冷たくされるよりシスコンの方がいいんだよ」


 説得成功だな。

 これからも、俺はシスコンを全面的に出してもいいそうだ。

 宙もブラコンを全面的に出してもいいんだぞ。

 俺もそっちの方が嬉しかったり恥ずかしかったり。


「でも,,,,,,」


 宙は考えるのをやめ、何かを言い始めた。


「でも、いつも優しいおにぃに冷たくされるのは新鮮でいいかもしれない」


 おっとこれはびっくりだ。

 宙がこんなこと言うとは思っていなかった。

 宙ってこんなキャラだったっけ。


「お前、ちょっとM入ってんの?」


 冷たくされるのもいいかも、なんてMなのではないか。

 偏見かもしれないが、俺がそう思うのだから信憑性はある。


「違う

 新鮮でいいかもってだけ」


 ふーん。

 そうか。


「そうかよ

 じゃぁ冷たくしてやるよ」


 俺は出来るだけ冷たい口調で言う。


「ホント!?」


 喜ぶなよ。

 それこそMの所業だぞ。


「キモぃ......」


 俺はたまに見せる宙の真似をする。

 俺がされるのは別にいい。

 むしろご褒美なんだが。

 俺がするとなれば、罪悪感に見舞われる。

 宙の了承も得ているので悪いことではないのだが、不思議と申し訳ない気持ちになる。


「......いいかも」

「マジですか......」


 宙はよくても、俺はよくない。

 これを続けていると、俺の精神がおかしくなってしまうかもしれない。

 宙に冷たく接し続けるなんて、俺には無理だよ。


「これからも、たまに冷たくして」

「嫌だ」


 俺は史上最速で否定する。

 こんなに食い気味で、宙の申し出を拒否したのは初めてかもしれない。

 塩対応の俺を望んでいる宙には申し訳ないが、俺は二度と宙に塩対応はしない。

 あの罪悪感には抗えないのだ。

 悪いな宙。



 そんなくだらない会話をした後、俺たちは学校に行く。

 二人同時にではない。

 少し時間をずらしての登校だ。

 今日は宙の方が先に家を出た。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

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