間話 the other
一時十分前。
日曜日。
今日は、お楽しみの男三人仲良しデートだ。
こう言うと少し気持ち悪いが、要は遊びに行くと言うことだ。
例の、面白い話とやらを求めて。
俺にとって、友達と遊びに行くという行為は初めてと言っても過言ではない。
楽しみで仕方がない。
そのせいで俺は、集合時間十分前にはとっくに集合場所に到着していた。
まぁ集合場所と言っても、そこは丘上崖だ。
要するに、俺の家だ。
俺たち三人が分かる、そこそこ目立つ場所ということでここになったのだ。
俺の家が目立って、集合場所に持ってこいと言うとこには納得だ。
だが、これからここがみんなの集合場所になりそうで怖い。
みんなと言うのは、哉や牧田だけではなく、知らない人も含めて大勢だ。
そんな奴らに、目立つからと言って集合場所にされるなんて冗談じゃない。
知らない奴らが家に集まって来るなんて、考えるだけでも恐ろしい。
何とかしなければ。
まぁ、何とかすると言ってもなんともできないのだが。
「おにぃ、ちょっと早すぎたんじゃない?」
俺の隣に立つのは宙だ。
宙は、今日一緒に遊びに行くわけではない。
しかし、俺の友達が見たいからと外に出てきた。
なのだが、俺がちょっと早く家を出てしまったせいで待ちぼうけだ。
「家に戻ってていいんだぞ」
「おにぃなんかの友達になってくれる人たちだもん
お礼くらいはしておかないとだし......」
そう言った宙だが、やはりしんどそうだ。
ずっと立っているからな。
俺だってしんどいもん。
というか、「おにぃなんか」ってなんだ「なんか」って。
お兄ちゃん悲しいよ。
泣いちゃうよ。
打ち砕かれちゃうよ。
それと、友達に挨拶する妹ってなんか恥ずかしい。
妹がじゃなくて俺が恥ずかしい。
妹が友達に向かって、「これからもおにぃをよろしくお願いします」なんて。
妹に何言わせてるんだって話だ。
「別にお礼とかしなくていいんだぞ」
「そう?
でも、見ておくくらいはしたいもん」
そうか。
「なら、あいつらが来たら呼びに行くから、家の中にいていいぞ?」
「おにぃ、こうゆう時呼びに来ないじゃん
だからここに居る」
俺、まるで信用されてないじゃん。
いやでも、確かに宙の言う通りだ。
きっと俺は、あいつらが来ても宙を呼びに行くことはないと思う。
面倒くさいというよりは恥ずかしい。
だから呼びにはいかない。
完全に読まれている。
お兄ちゃんのこと、よく分かってるじゃないか。
お兄ちゃん嬉しいよ。
「あっ、おーい!」
俺を見た瞬間、元気に手を振ってきたのは哉だ。
哉の隣には牧田もいる。
ここに来る途中で、偶然出会ったのだろう。
だから一緒にきた、と。
二人は坂道を登ってくる。
二人が頭から順番に姿を表す。
あいつらにも俺たちが頭から出てきているように見えているだろう。
「......!」
と、そこで哉の手が止まった。
少し驚いた顔をしている。
俺と宙を交互に見つめて状況把握に勤しむ哉。
牧田派と言うと、特に驚いた様子はない。
まぁ、妹と二人暮らしをしていることは知られてたしな。
あらかじめ知っていたはずなのに驚いている、哉のほうがおかしいと思う。
二人とも、俺の近くまでやって来た。
が、哉は俺を通り過ぎて宙のところまで行く。
おいおい。
宙に気安く触るなよ。
おさわり厳禁だからな。
「宙ちゃん、翔琉の妹だったの!?」
宙ちゃんってなんだ。
気安いノリだな。
うちの妹をなめてんのか?
......ん?
こいつ、なんで宙の名前を知ってんだ?
俺、今までに宙の名前言ったっけ?
言っていないはずだ。
いや、牧田がどこかで伝えたという可能性もある。
俺はそう思って牧田を見る。
俺の視線に気づいた牧田は、フルフルと顔を振る。
俺の視線の意図が分かってなのかわからずなのか、首を振る。
「いやぁ、まさか宙ちゃんが大好きなお兄ちゃんが翔琉だったとはな」
ん?
俺の耳がピクりと動いた。
何やら嬉しい言葉が聞こえてきたぞ。
俺の妹が俺のことをどうだって?
いやぁ、照れちゃうね。
「ちょっと哉さん!
おにぃ、違うからね
うち、おにぃのことなんか全然好きじゃないからね」
宙は哉を注意した後、慌てて俺にそう言ってきた。
宙、もういいんだぞ。
お前の気持ちはよく分かった。
いつもキモイとか言っている手前、実は好きなんて知られたら恥ずかしいよな。
でもその「全然好きじゃないからね」は言い過ぎだと思うぞ。
宙の大好きなお兄ちゃんが泣いちゃいそうだよ。
今日のお兄ちゃん、ずっと泣きそうじゃね?
妹さんや。
ちょっとこっちへ来て頭をよしよししてくれんかのう。
そうすればお兄ちゃんも元気出ると思うんだがどうじゃろうか。
人前で よしよしされる お兄ちゃん 妹の手は 最高の癒し
五七五七七、字余り。
こんなお兄ちゃんでいいのだろうか。
と、俺が心中そんなことを考えている間、宙と哉は何やら言い合いをしていた。
おいちょっと待て。
知り合っていたことはいいが、イチャイチャするのは許さないよ。
哉、お前には彼女が居るだろ。
うちの妹までたぶらかすのか?
「お前、俺の妹をたぶらかすなよ
彼女いんだろ」
「いや、たぶらかしてはないよ
ただ話しているだけだ」
「はっ?
何?
うちの妹が、かわいくないっての?
ふざけてんのか?
たぶらかせよ」
ん?
なんだかこのやり取りに、デジャブを感じるな。
「お前、こなっちゃんみたいになってるぞ」
「......仕方ないだろ」
「......」
俺も遠坂姉も、どちらもシスコン。
こうなるのは必然なのだ。
運命なのだ。
「とゆうかお前、なんで宙のこと知ってるんだ?」
素朴な疑問をぶつけてみる。
「ああ、それな
俺と宙ちゃんはバイト先が同じなんだよ」
「そういうことか」
それなら納得だ。
偶然とは恐ろしいものだな。
俺の知り合い同士が、俺の知らないところで知り合いになっている。
世界は意外と狭いのかもしれない。
「帰りはいつも、この辺まで送ってたんだよ」
哉は、俺の納得をよそに話を続ける。
ん?
いつも送ってた?
「お前、暗い夜道を宙と二人で歩いてたのか」
「まぁ、バイト帰りだし暗いよな
それがどうした?」
哉は、何もわかっていないという顔をする。
「どうした?じゃねぇよ」
俺は哉にそう言ってから宙の肩に両手を乗せる。
「大丈夫か宙
こいつに変なことされてないか?」
肩に手をやったまま、俺は宙を揺する。
「だ、大丈夫
本当に送ってもらっただけ」
「そうか、本当か」
「う、うん
ホント」
宙は困っているような顔をしている。
そうだよな。
何かされてても、お前からは言えないよな。
「本当に何もしていないのか」
と、俺は哉を尋問する。
「してねぇよ!」
この顔は本当のことを言っている顔だ。
おそらく嘘は言っていないだろう。
だが、それは今のところの話だ。
「もし今後、宙に手を出したら彼女さんに言いつけるからな」
「手は出さないから、やめてくれ
あることないこと言いふらすなよ」
「ないことは言わない
俺は事実しか話さないから安心しろ」
「......そうか
というか、お前俺の彼女が誰か知ってるのか?」
確かにそうだな。
それは盲点だった。
俺は哉の彼女を知らない。
と、俺はそこでナイスアイデアがひらめいた。
『ピコん』と言う効果音と共に電球が飛び出てきそうなほど、そのアイデアが突発的に飛び出した。
「俺には牧田がいるからな」
と、俺は牧田を見る。
そんな俺の言葉に、牧田は目を丸くする。
のだが、牧田はすぐに面倒くさそうな顔をした。
「勝手に巻き込まないでくれよ......」
心底面倒臭そうな顔だ。
まぁ、面倒だわな。
「哉」
俺は、これまでとは一転。
優しい口調で名前を呼ぶ。
呼ばれた哉は、俺の口調の変化に戸惑っている。
「な、なんだ」
俺は心構えをする。
「宙を送ってくれてありがとな
散々言ったが、これからもよろしく頼む」
まぁ、いろいろ言ったが、今まで宙を守ってくれていたのは事実だ。
それに、これからもバイト帰りに護衛を頼めるのも哉だけだ。
俺が行きたい気持ちはやまやまだが、残念ながらその時間にはバイトが入っている。
俺は宙をまもれないのだ。
それに、なんだかんだ言っても、宙のバイト先で一番信用できるのは哉だ。
他の、どこの誰かも分からないような奴に任せるより、よっぽどましだ。
哉も、強いらしいしな。自称だが。
「哉さん!!」
とそこで、宙が口を開いた。
「おにぃの友達になってくれて、ありがとうごさいます」
哉は一度に二人の感謝を受けた。
兄妹の感謝を受けた哉は、照れくさそうにしている。
「お、おう!
これからも任せとけ!」
哉は、照れくささを吹き飛ばすように自分の胸をドンと叩いた。
しかしそれも、頼りになりそうな行動だ。
こいつはやっぱり、頼りになりそうだ。
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宙と別れて数十分。
駅で瞬間移動をして、隣の隣町まで来ていた。
宙と別れる前、牧田の紹介をした。
牧田の爽やかイケメンさに、宙が心奪われてしまうのではないかと不安に思ったが、それも杞憂に終わった。
宙は牧田を見ようともしなかった。
人見知りが発動したのだ。
宙は俺と同じく、人見知りだったのだ。
兄弟そろって人見知り。
今では、接客をこなして話そうと思えばまともに話せるくらいにはなった俺だが、宙のバイトはTUNAYAの裏方。
人見知り解消には向かない仕事だ。
いや、そもそもバイトは人見知り克服の場所ではないか......
とまぁそんなわけで、宙は牧田と話しているときも俺の後ろに隠れていた。
俺の服を掴みながら頑張って会話をしていた。
かわいかったです。
とまぁ、そんなことがあって集合場所出発した俺たちは、何やら人が大勢いる通りに来ていた。
壁端区だ。
この区は中心区と接していて、中心区の次に発展している。
いわば、都心に次ぐ都心だ。
俺たちは、そんな地区で一番の大通りにいる。
たくさんの建物が並んでいて、数階建ての建物にいくつかの店が入っている。
店の壁には、ここにどんな店があるのかを知らせる看板が、でかでかと貼られている。
縦にも横にも、たくさんの店が並ぶ。
日本で例えるなら、秋葉原のような感じだ。
メイドカフェなるものまである。
俺たちが住んでいる住紳地区はこんなに発展していない。
ここと比べればド田舎だ。
普通、神様が住んでいるような場所が一番発展しそうだが、北方神国に限ってはそうではない。
もともと中心区にいた神様が、都会には住みたくないと言って逃げてきたのだ。
そのせいで、住神地区は発展をしない。
神様が来てからと言うもの、最低限の発展しか遂げていないのだ。
と、そんなこと今はどうでもいい。
牧田に言われて付いてきたが、ほぼ秋葉なこの場所で何をするって言うんだ。
ここのどこに面白いことがあるっていうんだ。
俺たちは今、どこに連れて行かれているんだ。
「なぁリン
どこに向かってるんだ?」
ナイス質問だ哉。
が、牧田の返答は俺と哉が期待したものではなかった。
「着いてからのお楽しみだよ」
お楽しみかぁ
そっかぁ
「あとどれくらいで着くんだ?」
どうやら哉も目的地が気になって仕方ないらしい。
と、その質問を聞いた牧田はいきなり立ち止まってある店に指をさした。
「着いたよ
あそこだ」
メイドカフェだった。
しかも猫耳。
店名は『猫カフェ~ご主人様を待ってるニャン~』
俺たちはここに入るのか。
ちょっと緊張するな。
実は俺、メイドカフェって初めてなんだよね。
前前から興味はあったのだが、どうも店内に踏み込む勇気が出ずに引き返していた。
なぜ勇気が出ないかって?
気恥ずかしいからに決まっているだろう。
かわいいメイドさんに「ご主人様」なんて言われたら、俺はもうギンギンだろう。
あっ、念のため言っておくがギンギンになるのは目だ。ムスコじゃない。
でだ。
俺たちは今、そんなメイドカフェに入ろうとしている。
緊張するな。
ドキドキが止まらないよ。
建物に入った。
カフェは二階。
エレベーターに乗る。
エレベーターは『ガタン』と揺れて、上へと移動する。
前世のエレベーターよりは少し不安定だが、気になるほどの揺れではない。
気になると言えば、壁とドアがないことだ。
そこだけがちょっと怖い。
そんな恐怖の上移動を終えると、一人のメイドさんが出迎えてくれた。
そのメイドさんは、俺たちを見てハッとした。
クルっと体を動かす。
かわいいメイドさんだ。
可愛らしいメイドさん、なのだが......
このメイドさんを、俺たちはもう知っている。
遠坂姉だ。
なるほど。
これが前に牧田が言っていた、面白い話か。
こんなまるわかり営業スマイル、初めて見た。
「お帰りくださいませ。ご主人様」
「お帰りなさいませだろ。追い返してどうする」
「ちっ!」
こいつ舌打ちしやがったよ。
いくら『お客様は神様』と言う言葉がまったくのでたらめとはいえ、舌打ちはないだろ。
俺ら何もしてないし。
来店しただけなんだが。
まぁ、遠坂姉らしくはあるけどな。
ちなみに、さっきまでの営業スマイルはかけらも残ってない。
遠坂姉の表情は、不機嫌そのものだ。
にしてもあれだな。
遠坂姉の猫耳メイド姿。
かわいいな。
遠坂姉は性格こそあれだが、容姿は良い。
ロリ系美少女だ。
それに猫耳とメイド服が付いて、かわいくないはずないだろう。
不機嫌そうな顔をやめて、笑顔になってほしいものだ。
「ご主人様。顔が気持ち悪いですニャン
お帰りくださいニャン」
話の内容は酷いもんだが、語尾のせいで内容なんて気にならない。
あの遠坂姉がこんな風になるなんてな。
面白いしかわいい。
---
その日の夕方。
遠坂姉が、仕返しのように俺のバイト先へとやって来た。
大きめの肩掛けバッグを持ってだ。
それには、猫耳メイド服が入っているのか?
俺はあの時の遠坂姉を思い出して鼻で笑ってしまう。
それを見た遠坂姉は、俺が何を思って笑ったのか完全に分かったかのように不機嫌な顔をした。
そして舌打ちを一つ。
いやだって、この遠坂姉が「萌え萌えキュン」とかやってんだぜ。
笑わない方がおかしいってもんだろ。
「猫耳メイト姿、似合ってたぞ」
「......死ね」
半笑いで言った俺の言葉を聞いて、遠坂姉は恥ずかしそうにした。
恥ずかしそうというよりも、屈辱的なかおだ。
「何あなた
女の子を辱めて喜ぶ趣味でもあるの?
変態、一度死んできなさい
そしてもう一回死になさい」
「そんな趣味ねぇよ!」
ちょっとからかってやろうと思っただけなんだ。
ほんの出来心なんだ。
「何?言い逃れするつもり
早く死になさい
あなたが自分で死なないのなら、私が殺してあげるわ
表に出なさい」
「すいませんお客様
当店では表に出るというサービスは取り扱っておりません」
殺されてたまるかよ。
これの会話テクで、死を乗り越えてやるぜ。
「なら、今ここで殺してあげるわ」
なんてこった。
店内で暴れないでくれ。
「店内で騒がないでください
仕事が終わり次第、お相手いたしますので」
「いつ終わるの?」
「九時頃ですね」
「......早く終わりなさいよ」
それは無理だな。
終わる時間は決まってるんだ。
「善処しますニャン」
おっと、口が滑った。
「......ゼッタイ殺す」
おうおう。
物凄い殺気ですこと。
ちなみにバイト終わり。殺されずにすみました。
まぁ、俺は序列5位だからな。
しかし、遠坂姉の去り際。
「明日から、後ろに気を付けなさい」には、背筋が凍った。




