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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第四章 『序列』
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第三十八話 『日常と哉』

「つかれたぁ~」


 風呂上がり。

 俺はソファーに飛び込んだ。


 野次馬に絡まれたその日、バイトも終わって家に帰った俺はいつにも増してクタクタだ。

 理由は当然あの野次馬共だ。


 男子も女子も、多くの生徒が俺を取り囲んで昼休みが終わるまで質問攻めにあった。

 四方八方から質問やらなんやらを押し付けられて大変だった。

 同じ質問も山ほどあった。

 耳どころか体中にタコが出来そうなほど大量の質問を聞き、それに答えた。


 もう途中からは何を聞いて何を答えたのか覚えていない。

 今はそれが怖くて仕方ない。

 俺、やばいこと言っていないよね。

 変なこと口走ってないよね。

 それだけが不安だ。


 多くの観衆がいる前で、変態的なことを言っていないですよね。

 翌日から、変◯王子なんて呼ばれていたら俺は泣くかもしれない。

 その場合の猫は誰なんだろう。

 俺の近くの笑わない人。


 強いて言うなら遠坂姉だが、別にあいつだって笑うことはある。

 俺の周りに、笑わない奴なんていないのだ。


 いや、そんな事どうでもいい。

 そもそも、俺は変態と呼ばれたくはない。

 呼ばれた時のことなんて、考えたくもないはずなんだ。

 考えないようにしよう。


「おにぃ、おつかれ?」


 俺の独り言を聞いた宙は、そう言ってくる。

 宙も俺と同じで、風呂上がり。

 顔が火照っている。


 当然、一緒に入った訳ではない。

 宙は俺より先に入浴したのだが、後に入った俺はシャワー派なため、すぐに上がってしまう。

 なので俺が風呂から上がった今でも、宙の火照りは収まっていない。

 俺も宙も、そろって火っ照火照だ。


「おつかれだよ

 もう、くったくた」

「そっか、マッサージでもしようか?」

「いやいい

 お兄ちゃん、体じゃなくて心がおつかれなの」


 宙のマッサージは魅力的だが、俺の疲れは精神的なものだ。

 マッサージではどうにもならない代物なのだ。


 あっ、でもマッサージはしてもらっても良かったかもしれない。

 宙が俺にマッサージしてくれるなんて滅多にない。

 俺は貴重な妹マッサージのチャンスを自ら手放してしまったのだ。

 あー、惜しいことしたぁー!


 俺は心の中で嘆きつつ、宙を見る。

 どこか不満そうな顔だ。

 せっかく提案したマッサージを拒否されて、つまらないといった顔だ。

 それならそうと言っておくれよ。

 俺もお前にマッサージされたいんだぜ。


「やっぱりしてもらおうかな」


 俺の言葉を聞いた宙は、一瞬嬉しそうな顔をした後『ハッ』としたように俺から目を逸らす。


「おにぃがどうしてもって言うんなら......」


 宙は、どこか不貞腐れたようにそう言う。

 やっぱりうちの妹は可愛いな。

 最高にツンデレしている。


 ツン過ぎずデレ過ぎず。

 ツンとデレの調和が取れたパーフェクトツンデレだ。


 ツンデレというのはこうじゃなければな。

 まず第一条件として、ツンデレしてるのが宙であること。

 宙以外のツンデレはパチモンだ。

 完全体とはほど遠いな。

 と、これ以上言うと双方からクレームが来そうなのでここまでにしておこう。


「おうふっ......!」


 マッサージをしてくれている宙の華奢な手が、腰の辺りでグイッとされる。

 あまりの気持ちよさに声が出てしまった。

 宙、マッサージも上手なんだな。


「変な声出さないで

 キモイ」


 宙のマッサージは気持ちいいが、俺の声はキモイらしい。

 お兄ちゃん泣いちゃいそうだよ。


「宙のマッサージが上手すぎるんだよ」


 言い訳かつ本当のことを述べる。


「......」


 宙は黙ってしまった。

 俺はうつ伏せになっているため見えないが、きっと恥ずかしがっているのだろう。

 褒めてはほしいが、褒められたら照れて黙ってしまう。

 うちの妹はかわいいです。


 年中無休でかわいい妹。

 バイトもしている。

 過重労働だ。

 一日中寝ててもいいんだよ。

 寝顔もかわいいからな。


 んっ?

 それだと、かわいさが休めていないじゃないか。

 なんてことだ。

 せめてマッサージでも。


「終わったらお前にもマッサージしてあげるよ」


 マッサージの手が止まった。

 が、それも一瞬。

 また手が動き始めた。

 のだが、さっきまでよりぎこちない。

 それでも、気持ちいいんだから宙はすごい。


「うちは......大丈夫......」


 言葉に迷いがあるぞ、妹よ。

 後でマッサージしてやろう。


 きっとその時は、彼女の性格上拒否するだろうから、多少強引にでも。

 マッサージされたくない訳ではなさそうだし。

 宙は、ツンデレさんだからな。

 口ではああ言ってるが、本当はしてほしいのだ。


 と、そんなことを思っているとマッサージが終わった。

 終わってしまった。

 少し名残惜しいな。


 でもまぁ、いいや。

 次は宙の番だ。


「宙、寝転がって

 お前にもしてやるよ」

「えっ、いやでも......」


 宙は口ごもっている。

 しかし、こうして拒否されるのは分かっていた。

 拒否はするけど、してほしいのも俺は知っている。


「早く横になれよ」


 俺は明るい口調でそう言って、宙を俺がさっきまで寝転がっていたソファーに押し倒す。


 俺は宙に覆い被さる形になる。

 こうして押し倒して見ると、案外顔が近づくもんだな。


 風呂上がりの髪が、ソファーに広がっている。

 無造作に広がったセミロングの髪の毛と、つり目を丸くして横たわる妹。


 目が合う。


 かわいい。

 風呂から上がってすぐのせいで顔が赤くなっている妹はかわいい。

 誰に聞いてもかわいいと言うだろう。

 完全無欠、全人類が認めるベッピンさんだ。


 しかしまぁ、流石はお兄ちゃん。

 妹相手に、ときめきはしない。


「おにぃ、だめ

 うちら、兄妹じゃん......」


 何言ってんだ、こいつ。


「早くうつ伏せになれ」

「う、うん......」


 宙は少し恥ずかしそうに、言われるがままうつ伏せになる。


 俺は宙の腰に手を当てる。

 小さくて、柔らかい体だ。

 強く押したら折れてしまいそうな。


「おにぃ」


 宙はうつ伏せのまま、そう言った。


「なんだ」

「学校、楽しい?」


 学校が楽しい、か。

 実際、今日はその学校のせいで疲れてたんだが。


「ああ

 楽しいよ。友達もできたしな」


 疲れることはあっても、哉や牧田、遠坂姉妹といて楽しい。

 それもまた事実だ。


「おにぃに友達、か

 良かったね」


 宙は、嬉しそうに、静かにそう言った。


「お前はどうだ

 学校、楽しいか?」


 俺も同じことを聞いてみる。


「うん」

「そうか」



 ---



 翌日。昼休み。

 俺・哉・牧田の三人はいつも通り雑談をしている。

 それぞれ、昼食を食べ終わって満腹だ。


 ちなみに、

 俺、妹弁当

 哉、お隣さん弁当

 牧田、天ぷらうどん

 だ。


 三人とも、米一粒も余さずにたいらげた。

 米?

 まぁ、米でいいや。

 米もうどんもタンパク質。

 そんなに変わらないだろう。


 こんなふうに、楽しくおしゃべりをしている俺たちだが、食前に一悶着があった。

 昨日の野次馬に着いてだ。

 「押し付けられた」だの「仕方なかった」だの、争っても仕方の無いようなことで軽い口喧嘩をし合った。


 あの件に関しては、どっちが悪いなんてない。


 野次馬を放っておいた俺も悪いし、野次馬を無断で押し付けた哉も悪い。

 そういうものだ。

 言い争っても仕方ないのだ。


 それを食前に、ああだこうだと言いあって、無駄な時間を過ごした。

 俺たちの不毛な戦いを、観戦していた牧田はなぜか笑顔だった。

 いくら俺たちの口げんかが不毛だったとはいえ、仮にも喧嘩。

 笑い事ではないだろ。


 でもまぁ今はこうして解決......というよりはまとまらずに終わった感じだが、それでも喧嘩は終わったのだ。

 二人とも、いつも通り。

 結果良ければすべてよし。

 すべてはよい方向へと収束するのだ。

 これがシュタイ○ズゲートの選択なのだ。


「なんか、面白い話ないか?」


 喧嘩が終わり、昼食も食べ終わった俺たちは、和気藹々と雑談を楽しんでいる。


 その雑談の中で、『面白い話』という無理難題を提案してきたのは哉だった。

 哉は何食わぬ顔で俺・牧田に先制してきた。

 お前たちは面白い話出来るのか、と。

 地獄のような質問だ。


 俺が出来る面白い話か......

 昨日の宙がかわいかったことだろうか。

 でも、面白いことではないんだよなぁ


 そもそも、俺が外で宙の話をすると気持ち悪くなるらしいのだ。

 あまり気軽に話せない。


 俺、こうして考えるとあまり面白いことがないのかもしれない。

 平和な日常を過ごせていて俺は満足だが、やはり面白いことがないというのも考え物だな。

 いや待て。まだだ。

 よく思い出せば、まだ見つかるかもしれない。

 タンスの奥にしまい込まれている、忘れられた記憶を絞り出せ。

 何かあるはずだ。何か.....


 無いな。

 話せるような、面白い話はない。

 でも、だからと言って生活が楽しくないかと言ったらそうではない。


 これが、何気ない生活が楽しいんだなぁ

 いいことだろ。


「じゃぁ、1つ」


 そう言ったのは牧田だ。

 あの無理難題に、爽やかさ満載で反応したのは牧田だった。


 その応答に、興味深々なのは哉。

 俺も興味はあるが、哉ほどではない。


 牧田は、「こほん」と咳ばらいを一つして話始めた。


「前に言ったけど、伽月君はお隣さんと仲がいいんだよ」


 ああ、あれだろ。

 いつも、哉の弁当を作ってくれてるお隣さんだろ。

 同年代女性とか言ってたっけ。

 で、それがどうしたんだろうか。


 何か思い当たることがあるのかと思って哉に視線を送ってみたが、どうやら彼もわかっていないようだ。

 面白い話とやらに、自分の名前が出てきた哉は不思議そうな顔をしている。


「実はね」


 そう一言置いて、牧田はニヤリと笑う。


「伽月君、お隣さんと付き合い始めたらしいんだよ」


 俺は思わず哉を見る。

 その哉はと言うと、かなり焦っているようだった。


「お、お前、なんで知ってるんだよ!」


 かなり早口だ。

 哉の焦りが伺える。


「あっ、やっぱりそうだったんだ」


 牧田は、またもニヤリと笑う。

 悪い笑顔だ。

 こいつ、鎌をかけたのか。


「そうなんじゃないかなとは思ってたんだけど、確実な証拠はなかったんだよね」


 牧田はニコニコ。嬉しそうだ。


 喧嘩を見て笑ったり、焦る哉を見て嬉しそうにしたり。

 こいつ、ドSなんじゃないか。

 爽やか系ドSイケメンか。


 こいつ、大人しい顔してドSなのか。

 質が悪いな。


 油断してかかると痛い目見るぞ。

 哉のようにな。

 気を付けよう。


「お前......」


 さっきまで焦っていた哉は、絶望に近い顔をして言葉を失っている。

 目は見開かれていて、口は力無く半開きだ。


 おいおい。

 何、この世の終わりみたいな顔してんだよ。

 絶望してんじゃぁねえぞ。

 お前、彼女いんだろ?

 こちとら独り身だぞ。


 とゆうかお隣さんも、こいつのどこに惚れたって言うんだ?

 優しそうなところか?

 明るいところか?

 頼りになりそうなところか?

 かっちょいいところか?

 クソッ、こいついい奴じゃねぇか。


 お前、あれだろ?

 どうせあれだろ?

 今日も帰ったら、彼女さんとイチャイチャなんだろ。

 俺ら二人を置き去りにして、先に彼女持ちになったお前は、幸せなんだろ。


 いいさいいさ。

 別に羨ましくなんてないさ。

 俺には可能性が残っているんだ。

 哉が失ってしまった可能性が俺にはあるのだ。

 ふんっ。


 同年代

 お隣さん

 一人暮らし

 彼女

 これだけ揃えば、普段何をしているかなんて容易に想像できる。

 どうせ、嬉し恥ずかし夜のお遊びだろ。

 あんなことやこんなことを、本能のままにやってるんだろ。

 哉が喜望峰を見つけて喜んでいるのが目に見える。

 どうせ二つの山の頂で、キャッキャウフフしているんだ。


 こいつ、高校二年生にして18禁展開か。

 大人の階段を登ったというのか。

 やめとけやめとけ。

 哉、お前にはまだ早い。

 まったく、たるんどるな。

 別に羨ましくなんてないぞ。


 だいたい、彼女持ちと彼女待ち。

 文字にすればほとんど同じじゃないか。


 要は、部首一つ分の違いしかないわけだ。

 ぱっと見では分からないのだ。

 所詮はそれだけの違い。

 彼女待ちとそう変わらないのだ。


 そんなのが羨ましい訳がないだろう。

 羨ましくなんてない。

 羨ましいはずがない。

 ない......


 クソッ、哉め。

 俺をこんな気持ちにさせやがって。

 末永く幸せになりやがれ。


 ただし、俺の目の前でイチャイチャするのは許さない。

 見せつけてきた瞬間に、速撃迅斬をお見舞いしてやる。

 俺からのプレゼントだ。



 と、俺がこんなことを考えている間、哉と牧田は何やら言い合っていた。

 「伽月君、デレデレだよね〜」とか「どうして知っているんだ」とか。

 そんな言い合いをしていた。


 いや、言い合いと言えるようなものではない。

 牧田は哉をからかい、哉は牧田に質問する。

 その質問のほとんどが、「どうして知っているんだ」というものだが、牧田はそれに答えない。

 ただひたすらに哉をからかっている。


 哉は、からかわれる度にアワアワしている。

 哉の、赤裸々な恋愛事情が次から次へと明らかに。

 恥ずかしそうな哉。

 ちょっと、面白いな。


 しかしもう、十分だろう。

 哉の顔が、赤くなりすぎて燃え上がりそうだ。


「まぁなんだ、おめでとう」


 散々、心の中で文句を言っていたが、とりあえず祝っておこう。

 少し恥ずかしいが、これも大事なことだろう。


「あ、ありがとう」


 哉は、また顔を赤くする。

 からかわれれば恥ずかしく、祝われれば照れる。

 こいつ、面白いな。

 そういうおもちゃみたいだ。


「あっ、それともう一つ面白い話があるよ」


 話を変えたのは、牧田だ。

 牧田は再び、面白い話とやらを提供してきた。


「なんだそれは!!」


 哉は、異常な食いつきを見せる。

 話を変えるなら今だと思ったのだろう。

 誰でも、隠していた恋愛事情を暴かれるのは恥ずかしいのだ。


 きっと、俺でも恥ずかしいだろう。

 まぁ、暴かれるような恋愛事情を、俺は持ち合わせていないが。


「それはね......」


 と、牧田は何かを考えるようにしてそこで言葉を止める。


「ねぇ、今週の休みって空いてる」


 牧田は突然、そんな質問をしてきた。

 質問の意図が読めない。

 面白い話が、どうして週末の予定につながるのだろう。


「まぁ、空いているけど」


 バイトはあるが、空いていることは空いている。

 確か日曜日のバイトは夕方からだったからな。


「俺も空いてるぞ」


 どうやら、哉の予定も大丈夫らしい。

 こいつもバイトしているみたいだが、その日は休みか俺と同じように夕方からとかなんだろう。


「じゃぁ日曜日、遊びに行こう

 詳しいことはまた明日決めよう」


 牧田がそう言った直後、ちょうど昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

 まるで、タイミングを見計らっていたようにちょうど。


 こうして、今日の昼休みが終わった。

 そして、よくわからないまま俺に週末の予定ができた。

 でも、楽しみだな。


 俺は密かに心を躍らせながら、二人と自クラスへと向かう。



 ---



「この部活に、入部したいです!!」


 その日の放課後、部室に新しい奴が現れた。

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