第三十七話 『序列5位』
不自然なほどに丈夫な生徒証。
そこには、『序列5位』という今まではなかった文字が追加されていた。
この際だから、生徒証に書かれていることを簡単に話そう。
上から、
名前
性別
学年
生年月日
住所
所属校名
発行日
そして、その下に序列が書かれていた。
俺は、生徒証を誰かに渡したことはない。
こっそり書き換えるなんて不可能なのだ。
そもそもこの生徒証の文字は、木に彫り込まれるようにして書かれている。
書き換える事すら不可能。
まぁ、今回は書き直したのではなく書き加えただけだが。
「俺、生徒証を誰かに渡した記憶はないぞ?」
疑問を牧田にぶつける。
彼は博識だからな。
「そうなんだ」
うん、そうなんだよ。
じゃない。
なぜ文字が変わったのかを知りたい。
でもまぁ、さっきのは俺の言葉が足りなかったな。
「なんで勝手に文字が増えてるんだ?」
「それが、魔道具だからだよ」
あ、魔道具か。
それなら納得だな。
と、そこである疑問が浮かんだ。
「こんな魔道具があるなら、もう少し印刷技術が発展しててもいいんじゃないか?」
そう、印刷技術だ。
この世界の印刷技術は、ほとんど発展していない。
前世と比べて本の値段がグンと跳ね上がるほどに。
それに、この学校にある新聞もいくつかの踊り場に一枚づつしかない。
全生徒に配ることなんて、到底不可能なのだ。
しかし、こんな魔道具があるのなら話が変わってくる。
勝手に文字が浮かび上がってくるものがあるんだ。
もう少し印刷技術が発展しててもいいと思うんだが。
「そのカードは、指定した範囲での順位を表示する魔道具なんだ
この学校は、それを生徒証として利用しているだけ」
なるほどな。
「そういうことだったのか」
「そゆことそゆこと。
数字を書き換えるくらいのことなら簡単な魔法陣ならできるけど、全ての文字を入力できるような魔法陣は難しすぎるんだよ」
牧田は、追加で説明をした。
しかしこのカード、魔法陣が書かれていない。
表を見ても裏を見ても、それらしきものは見当たらない。
さすがにカードの側面に魔法陣は書けないだろうし......
そう思い、薄いカードの側面を見てみると、かなり見えにくいが接着面が見えた。
そういうことか。
つまり、魔法陣をわざわざ隠しているのか。
いや、隠すと言うよりは守っているの方が近いかもしれない。
魔法陣が何かの拍子に消えてしまったら大変だからな。
こうして、生徒証の謎は解けた。
しかし、俺にはまだ気になることが残っている。
序列についてだ。
今まであまり気にしていなかった序列制度だが、どうやら『序列5位』なんてものになってしまったので、多少は知っておいた方がいい気がしてきた。
確か入学したときに一度聞いた気もする。
だが、まったく覚えていない。
思い出せそうもない。
仮に思い出せるとしても、こうして目の前にいる牧田に聞いた方が手っ取り早いだろう。
「序列について詳しく教えてくれ」
「いいよ」
牧田は、快く了承してくれた。
「入学して時に聞いただろ」なんて冷たいことは言わない。
やはりこいつは、イケメンで、優しくて博識だ。
博識スーパーイケメンだ。
モテるのも納得だな。
俺も女子ならこいつに惚れるだろう。
美形はロクな奴がいないもんだと思っていたが、彼を見ているとそんな歪んだ心が浄化される。
人間に、悪い人なんていないのではないかと思ってしまう。
こいつは、関わった人を性善説主義者にさせる能力を持っているのでは?
俺も、今はまだ大丈夫だが、気付いた時には性善説主義者になってそうだ。
そんなの、洗脳とそう変わりないじゃないか。
おぉ、怖い怖い。
と、そんなことを考えていると牧田は説明を始めた。
「校内序列が100位までしかないのは知ってる?」
「ああ、知ってる」
俺は牧田の質問に、頷きながら返答する。
「その序列持ちの100人なんだけど、その100人は闘校祭に出場することができるんだ」
「そのトウコウサイってのはなんだ?」
いきなり知らない単語が、当然のように飛び出てきた。
もしかして、これもこの学校では常識なのか。
これもまた俺の知識がなさすぎるのか。
「闘校祭っていうのはね、校内の上位100人が戦って順位を決める大会
優勝者は、世界を脅かす以外の願いならかなえてもらえる
この大会は北方紳様主催の大会なんだ
だから、大抵の願いなら何でも叶えてもらえるんだ」
なんてこった。
優勝さえすれば、何でも叶えられる。
「本当になんでも、か」
「本当になんでも、だ」
何でも叶えられるのか。
興奮しちゃうね。
とはいえ、別に今の俺に願いなんてない。
強いて言うなら、このまま幸せに暮らしたいってことくらいかな。
「でもね、この大会は何千人といる生徒の中から100人しか出場できない大会
出場できるだけでも名誉なことなんだよ
大会が近づくと、たくさんの人で序列争いが勃発するんだ
気をつけてね」
いろいろ教えてくれた後に心配してくれるこいつは、やっぱり優しいんだな。
男の中の男。
イケメンスーパー優男だ。
男の俺でも惚れちゃいそうだぜ。
「そうか
忠告ありがとう」
気をつけるとしよう。
「序列の話に戻すね」
おぉ、そうだったな。
そう言えば序列の話をしているのだったな。
「でもまぁ、そんなに話すことないんだよね」
「そうなのか?」
「そうなんだよ」
へー、そうなのか。
「『校内序列』って、言葉のままなんだよね
生徒間で、戦う
戦って勝ったら序列が繰り上がる
序列無しが序列持ちに勝った場合は、序列持ち全体の順位が一つづつズレるんだよ」
なるほど。
そのままだな。
でもあれだな。
序列100位近辺の人たちは、常に序列無しになる可能性がある訳だな。
大変そうだ。
蹴落とされる恐怖と共に日々を過ごしているということだ。
ストレスがヤバそうだ。
「あと説明するとしたら、中庭に序列を記す石碑があるくらいかな
これも魔法具で、生徒証と連動して記されている序列が変動するんだ」
「そんなものもあるんだな」
てことは、俺が序列5位になったことを知っている人は既に山ほどいるということか。
道理で、で恐れられるわけだ。
どこかで聞いた話だが、序列TOP10は十強と呼ばれているらしい。
十強は憧れの存在だ。
だが、それと同時に恐れられている存在でもある。
序列無しと比べて、圧倒的に強いのだから当然だ。
しかし、これは前にも話した。
十強が恐れられている理由はもう一つある。
それは、十強のほとんどがどこか狂っているということだ。
ダントツで強い奴らのほとんどが狂っている。
そんなの、怖くない訳がない。
俺だって怖い。
その狂った十強は、裏で十狂なんて言われているらしい。
読みも発音も同じだから厄介だ。
十強の奴らからすれば、十強なのか十狂なのか分からないのだ。
バカにされているのかどうか、聞き分けが付かないのだからタチが悪い。
俺はその十強になったのだ。
俺も裏で、十狂なんて呼ばれるのかなぁ
「その序列碑なんだけど......」
牧田は話の続きを始めた。
「それは北方神様が作られたものなんだよ
その辺にあるような魔法具と違って、複雑な魔法陣をしている
この学校が建てられた当時からある石碑なんだけど、未だに魔法陣の仕組みは解明されていないんだ」
そうなのか。
まだ、解明されていない、と。
そんなことを言われたら気になっちゃうじゃないか。
今度、こっそり中を見てみようか。
どうせ魔法陣は隠されているだろうからちょっとだけ壊して。
「くれぐれも、壊さないようにね
中が気になるからって壊して見たらいけないよ
その石碑は、この学校で最も大切なものなんだから、壊したりしたら退学じゃ済まないからね」
牧田は、俺の考えを読んだかのような的確な注意をしてくる。
退学じゃ済まない、か。
壊さないようにしよう。
中を見ようなんてもってのほかだ。
気にはなるが、絶対に見ないようにしよう。
「分かった。気を付けるよ」
俺は牧田に向けて決意表明をする。
自分の決意を口にすることは大事だ。
何か理由があった気がするが、忘れた。
でも大事なのだ。
と、俺が決意表明をしたところで、会話が終わった。
しかしながら、静かになることはない。
牧田がまた別の話を始める。
「闘校祭は中間テストの一週間後にあるんだけど、君は出場するのかい?」
「うーん......
どうしようか......」
この質問からすると、序列持ちだからと言って絶対に出場しなければいけない訳ではなさそうだ。
序列持ちは、出場資格を得る、と言ったところだろうか。
チケットみたいな感じかな。
で、出場するかだけど。
正直なところ、面倒なのであまり出たくない。
だがしかし、優勝したら何でも願いが叶えられるというのは魅力的だ。
それにいざその時になったら、願いなんてホイホイ出てくるだろう。
面倒事を避けるか優勝賞品を取るか。
俺にとってはどちらも同じほど魅力的だ。
両天秤ってやつだな。
どうしたものか......
「うーん......
うーん......」
俺は唸る。
頭を抱えて唸る。
こうして俺が唸る度に、牧田の顔が少しづつ苦笑いになっていく。
ちょっと、面白いな。
もう少し唸ってみようか。
いや、リズムに合わせて唸ってみるのもいいかもな。
俺がリズムに合わせて唸ると、牧田もリズムに合わせて苦笑いになるのだろうか。
いや、やめておこう。
「そんなに悩むんだね
だいたいは即決で出場するんだけど......
何が不満なんだい?」
「ちょっと面倒だからな」
俺がそう言うと、牧田は再度苦笑いをした。
「ハハハ......
君らしいね」
こいつは、苦笑いもまた美しい。
何をしてもイケメンだな。
男の俺も惚れました。
あっ、もちろん友達としてだぞ。
俺にそういう趣味はない。
「それにしても伽月君、話長いね」
と、牧田の方をは哉を見ながらそう言った。
俺も哉を見る。
今は昼休み。
俺と牧田はもう昼食を食べ終えたが、哉はまだ食べていない。
手を付けてすらない。
最初の方は昼食を食べてない奴らが、哉の元に来ていた。
そいつらとしばらく話した後、ようやく飯にありつこうとしているところでまた新しい奴らが来た。
すでに昼食を食べ終わった人たちだ。
そいつらの質問攻めを振り切れなかった哉は、未だ野次馬に囲まれている。
もともと冷めていた弁当がより冷めていく。
野次馬のせいで、愛しのお隣さん弁当が食べられない。
可哀想だな。
同情するよ。
そんなことを哉を見ながら考えていると、彼はいきなり俺の方を指さした。
そのせいで俺は、野次馬の視線を一斉に浴びる。
その全員と、同時に目が合った気がした。
当然、そんなことあるはずないのだがそう思えてしまい恐怖を感じる。
一瞬、俺ではない誰かを指しているのかと思ったが、あの指は確実に俺を指している。
哉は、俺を指さしながら何やら野次馬に向かって話している。
そして最後にニヤリと笑った。
嫌な予感がする。
妙な胸騒ぎを覚えた刹那、予感は的中する。
野次馬の興味が......
いや、野次馬の標的が俺に変わった。
哉の奴。
俺に野次馬押し付けやがった。
哉への不満を心の中でぼやきつつ、俺は逃げ出す。
走り出す。
確か、食堂で走るのは禁止だった気がする。
そんなこと知ったことか。
あんなのに囲まれて、無事でいられる気がしない。
正気でいられる気がしない。
頭がおかしくなってしまう。
正真正銘の十狂になってしまう。
それだけは嫌だ。
周りからどう言われようと、俺は普通の十強でいたい。
別に、走りたくてここを走っている訳ではない。
走らされているのだ。
実際、俺だけじゃなく野次馬共も走っている。
俺は被害者だ。
不可抗力だ。
俺は悪くない。
悪いのはあいつらだ。
こうして、校内全域昼休み追いかけっこ大会が勃発した。
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「はぁ、はぁ......」
俺は、誰も寄り付かない実技実習校舎の屋上へと続く階段へと逃げ込んだ。
いつぞや、哉から逃げるために来たあの場所だ。
俺はその場所に逃げ、肩で息をする。
なんなんだよあいつら。
めっちゃしつこいんですけど。
哉の奴、面倒な奴ら押し付けやがって。
と、あることに気づいた。
ここはめったに誰も来ない場所だが、仮にここまで追いかけられた時、逃げ道がない。
追い詰められれば、即バッドエンド。
絶体絶命の窮地に追いやられる。
ここに長居するのはまずい。
早急に逃げなければ。
その為にも、まずは呼吸を整える。
「すぅー、はぁー
すぅー、はぁー」
と、大きく深呼吸を数回。
だいぶ呼吸が落ち着いてきた。
これなら、追いかけっこを再開してもしばらく持ちそうだ。
さぁ、出発だ。
まずは準備運動。
運動の前には準備運動だよね。
あとそれと、ストレッチ。
確か、運動前のマジストレッチはよろしくなかった気がする。
なので軽めに、短めのストレッチだ。
いっちにーさんし、ごーろっくしちはっち!!
元気に短くストレッチ。
腕を伸ばして肩を回して。
手と足をぐるぐるプラプラ。
数回の屈伸の後にぴょんぴょん。
こんなもんで十分だろう。
そろそろ出発。
と、俺はこうして準備運動をしていたが、観客が数人。
数人のオーディエンスが俺の準備運動をまじまじと見つめていた。
オーディエンスたちは、客席に座ってくつろいでいる。
実は、このオーディエンスたちは、俺が息を整えてるあたりからここに居た。
俺は、それを見て見ぬふりして準備運動を始めたのだ。
男の準備運動など見て楽しいだろうか。
女の子の準備体操なら、揺れるモノがあって興味があるが、男にはその揺れるモンなんて付いてない。
正確には付いているが、揺れるほどはないのだ。
それを見ていて何がいいんだか。
それとも、『十強の準備運動』は貴重なんだろうか。
だとしても、そんなに見られたくはないんだが......
「見せもんじゃねぇんだよ!」ってやつだ。
で、そのオーディエンスだが。
お察しの通り、例の野次馬さん達だ。
逃げるための準備運動を、逃げる対象に見られていた。
何をやっているんだか俺は......
この後のことは言うまでもない。
大変でした。




