表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第四章 『序列』
37/158

第三十六話 『校舎裏』

 ―――哉伽月視点―――



 「それはそれは

 大変失礼いたしました」


 翔琉は、馬鹿にしてくる男どもにそう言った。


 どうしてここまで平然としていられるんだ。

 こんな奴らに馬鹿にされて、腹が立たないのだろうか。

 こんな人の力で踏ん反り帰返っている奴に。


 そういう奴のことをなんと言うんだったっけな。

 虎のなんちゃら狐、とかだった気がする。

 まぁ、これ以上考えても分からなさそうだ。

 単語が出てこなかったところで、怒りは変わらない。


 翔琉は、優しそうな笑顔をしている。

 倫太郎ほどではないにしろ、美形の彼が微笑んでいると俺の器が小さい気がしてくる。

 少し落ち着いた。


 俺にも、その精神の保ち方を教えてほしい。


「なんでこんな奴らにヘコヘコしてんだよ」


 俺自身は落ち着いているつもりだったが、実際にはあまり落ち着けてないようだ。

 口調が強くなってしまった。


 しかし、翔琉はあまり気にしていないようで、相変わらず微笑んでいるままだ。


「こういう面倒な奴らは、話を合わせておく方が楽だ

 馬鹿は騙しやすいからな」


 俺の質問に、翔琉はそう答えた。

 変わらず優しい口調だが、彼らの態度が癪に触っているいるようだ。


 俺と同じで、日ごろから口の悪い翔琉だが、いつものとは少し違う。

 どう違うのかはうまく言い表せないが、なんとなく違うのだ。


 強いて言うなら、

 いつものは親しい感じだが、今回は明らかに相手を馬鹿にしている。

 という感じかな。

 まぁ、そんな感じだ。


「......っ!」


 翔琉の言葉に、目を見開いて怒ったのは、俺たちを囲む奴らではなくボスっぽい奴だ。

 きっと、あいつが校内序列5位なのだろう。

 見た目はそんなに強そうではないが、戦闘に役立つ能力でも持っているのだろうか。


 ボスは、ゆっくりと俺たちに向かって歩いてくる。

 いや、俺たちではなく翔琉に向かってなのだろう。


 俺のことは眼中にないですかそうですか。

 くそっ、馬鹿にされているみたいで腹が立つ。


 俺は、怒りのこもった目線をボスに向けるが、彼は気にもしていない。

 まっすぐ翔琉を睨み付けながら歩いている。


 睨み付けられている翔琉はというと、何も変わらない。

 平然としている。

 まるで、睨まれていることに気づいていないかのようだ。


 彼の強さがどれくらいのものなのか分からないが、校内序列5位相手に平然としているところを見るとかなり強いのだろうか。

 それともはったりなのか。


 思えば、俺は翔琉のことをあまり知らない。

 どういう戦い方をするのかも、どんな能力なのかも。

 これだけいつも一緒にいる彼だが、自分のことは何も語らない。

 俺は彼について、倫太郎から聞いたことしか知らないのだ。


 彼は、序列5位以上の強さを持っているのだろうか。


 そう思っていると、ボスが大きく振りかぶった。

 見たところ、あまり強そうな振りかぶり方ではない。

 無駄が多いのだ。

 まんま不良のような振りかぶり方だ。

 多少威力は上がるだろうが、戦いには向いていない。

 翔琉もそれが分かっているのだろうか。

 未だ平然としている。


 ボスの拳が放たれた。


 それでも翔琉は動かない。

 これは俺の予想だが、彼はカウンターを狙っているのかもしれない。


 あれだけ分かりやすいモーションだと、簡単に受け流せる。

 攻撃された直後というのは、一番の攻撃チャンスなのだ。

 だからカウンターが存在する。


 なぜ一番のチャンスなのかは分からない。

 一度カウンターを受けると分かるのかもしれないが、生憎俺はカウンターをくらったことがない。

 そもそも、負けることが少ないのだ。

 今まででも数回しか負けていないが、その負け方も圧倒的な力を前に為す術もなく打ちのめされたものばかりだ。


 だが、カウンターの強さは知っている。

 いくら校内序列5位とはいえ、完璧なカウンターをくらえば対処出来ない......


「ぐっ......!」


 瞬間、俺は翔琉の小さな呻き声を聞いた。

 それは声にならないほどに小さく、悔しさ混じりの声だった。


 俺には見えた。

 囲んでいる男連中にはわからなかっただろう。


 翔琉は受身を取っていた。

 完璧と言ってもいいほどの受身だった。

 この見た目のボスに対してだと、十分過ぎるほどの受身。

 だが、それでも足りなかった。


 翔琉は、いとも容易く飛ばされてしまった。

 野球ボールのように一直線で。



 『衝撃』―――威力を操る。

 きっと、ボスはそんな感じの能力者なのだろう。

 翔琉の悔しそうな顔は、それを予想出来なかったことからきた顔なのだろうか。

 痛みではない何かに顔を歪めている。

 

 がしかし、すぐに身を翻してブレーキをかけた。

 『ザザー』と音を立て、地を削りながら止まった。

 そして、翔琉はよそ見をした。


 後ろの生徒を気にかけているようだ。


 しかし、それは油断だった。

 刹那、殴り飛ばした翔琉を追うようにして走っていたボスが翔琉に追いついた。


「危ない!」


 俺はそう言ったが、翔琉には届いていなさそうだ。

 何の反応もない。


 俺はボスを止めるために走り出す。

 のだが、俺を取り囲んでいた男どもに邪魔されてしまう。

 それを押しのけて進もうとするが、その時にはもう遅かった。


 翔琉は、ボスの膝蹴りをきれいにくらって吹っ飛ばされていた。

 今度は受け身を取れていない。

 正真正銘、まともにくらっていた。


 翔琉は再度一直線に飛ばされる。

 しかし、スピードは段違いだ。

 さっきのを野球ボールと例えるなら、今度のはレーザービームくらいだ。


 翔琉は、そのスピードを維持したまま森へと消えて行った。

 ボスも逃がすまいとそれを追い、森へと入った。


「あいつ、死んだな」

「少なくとも半殺しだろうな」

「俺たちを甘く見るからだ」


 男どもはパラパラと、そんな翔琉をあざ笑うようなことを言っている。

 それを聞き、またイライラが湧いてきた。


 とはいえ、俺もあれはやばいと思う。

 いくら受け身の上手い翔琉でも、あの威力の攻撃を受け続ければ時間の問題だ。

 いつか負ける。


 翔琉も攻撃をし返すだろうが、威力が違い過ぎる。

 それに、ボスのあの能力。

 自分が受ける威力さえ打ち消してしまうかもしれない。

 何度攻撃してもダメージが与えられない翔琉と、一発で数十倍の威力を叩きつけることができるボス。

 勝敗は目に見えている。


 森から、『ガドン!』という殴り合いなら普通聞こえない音が聞こえてくる。

 早く助けなければ。

 俺が行けばまだ助けられるかもしれない。


 と、俺が駆け付けようとするのを、またも連中は邪魔をする。

 クソッ!邪魔すんなよ!


 連中の内一人が俺に向かって飛び掛かって来た。

 俺はそれを、最小限の動きで躱す。

 目の前を通り過ぎていくバランスを崩したそいつを取っ捕まえて、床に叩きつける。

 そいつは、「カハッ」と唾を吐いてくたばる。


 この程度の雑魚、何人集まろうが俺の敵じゃない。

 次々と他の奴らも襲い掛かってくるが、大したことない。

 避けては捕まえて、避けては投げて。

 ただそれの繰り返し。


 強い奴も数人はいた。

 だがそれでも、俺の方が強い。

 強い奴も含め、男連中を軽々と散らす。


 そんな、一方的な攻防が少しの間続いた。

 気を失っている奴も入れば、完全に戦意を喪失している者もいる。

 立っているのは俺一人。

 俺は、数の暴力に容易く打ち勝った。


 だが、全体的に見れば負けだ。

 相手が雑魚ばかりとはいえ、それなりに時間が掛かってしまった。

 俺が戦っている最中にも聞こえていた森からの不自然な音は、今では止まってしまっている。

 向こうも決着が着いたみたいだ。

 決着が着いてしまった。

 間に合わなかったのだ。



 森の方を見る。

 カサカサと、葉を動かしながら勝者が出てくる。

 暗い森の奥から、ゆっくり人影が浮かび上がる。


 そいつのシルエットはヒョロい。言い方を変えれば華奢だ。

 そいつは俺と同じくらいの身長。厳密に言うなら、俺よりほんの少しだけ小さい。

 そいつを、俺はそれほど強いと思っていなかった。


 森から、ゆっくりと出てきたのは翔琉だった。



 ―――佐々木翔琉視点―――



 戦いを終えた俺は、ぐったりと気を失っているリーダーさんを引きずりながら森を出た。

 引きずるのはどうかと思ったが、担ぐのは大変だった。

 華奢な見た目とは言え、やはり男子高校生。

 重たい。


 持てなくはない。

 担げなくはない。


 だが、無理に運ぶのも面相臭い。

 男をお姫様抱っこというのも、なんか嫌だしな。

 やはり、男は引きずるに限る。


 ズルズルと引きずられているリーダーは、これでもかと言うほどボロボロだ。

 そりゃぁ、この世界に来たばかりの俺が着ていた服くらいにはボロボロだ。

 校内序列5位の威厳など、見る影もない。



 こうして、リーダーを倒したが、こいつも別に悪い訳ではない。

 むしろ、いい奴だった。


 俺に仲間を馬鹿にされて激怒したのだ。

 悪い奴ではない。

 まぁ、始めに喧嘩を吹っ掛けてきたのはこいつだが、それでもそんなに大したことではなかった。


 ただの喧嘩が、ここまでになるとは。

 リーダーの顔は、大きく腫れ上がっている。

 これでは俺が悪いみたいじゃないか。

 俺はただ、襲いかかられたから反撃しただけだ。

 正当防衛だ。

 まぁ、少しやり過ぎた気もするが......


 ふと正面を見ると、哉が嬉しそうに手を振っていた。

 その周りには複数人が転がっている。

 哉は、取り巻きをすべて倒したようだ。

 あいつの笑顔は、その達成感から来たものだろうか。


 彼の笑顔が、何から来たものなのかは分からない。

 しかし、勝敗は決まった。

 俺たちの勝利だ。

 完全勝利だ。


 なのだが、あまりスッキリしない。

 哉は満足そうだ。

 彼は勝ったという事実が嬉しいのだろう。

 だが、俺は違う。

 スッキリしない。


 それはきっと、俺が倒したのがリーダーだからだろう。

 俺が倒したのが取り巻きなら、こうはならなかったと思う。


 こいつは少し良い奴だった。

 仲間思いの良い奴だった。

 もしこいつが、完全なワルだったなら俺も満足だったはずだ。

 だが違った。


 だから、俺はこの勝利を素直に喜べない。

 不完全な勝利である。



 ---



 翌日、『転校生二人序列5位に完全勝利』という題名の新聞が出回った。


 これは当然、新聞部の仕業だ。

 ただの小さな喧嘩が、大きなニュースになってしまった。


 初めから、若干の有名人だった俺たちは、一躍超有名人だ。

 哉なんて、色んなやつに絡まれてて大変そうだ。

 俺はと言うと、そんなに大変じゃない。


 俺は哉や牧田、遠坂以外とはほとんど話さない。

 最近では話しかけられることすらない。

 絡んでくる奴ら全員を、適当にあしらっていたらそうなってしまった。


 そんな謎なやつが、実は強かった。

 俺なら、そんな奴には近ずきたくない。

 怖くて近寄れない。


 万が一機嫌を損ねさせた時には、鋭い牙を向けられそう。

 そう思うだろう。

 俺も思う。


「君のキャラって、こういう時に便利だよね」


 そう言うのは牧田だ。

 こいつこそが、元凶の新聞部。

 こいつらのせいで、今も哉は大変そうだ。


 とはいえ、今回の記事に牧田はあまり関与していないらしい。

 気づいたらこの新聞が出回っていたそうだ。

 哉の多忙さは分かるが、なぜか新聞部まで忙しくなっているらしい。

 お気の毒に。


「そうだな」


 俺はそんな牧田に同情しつつ、彼の言葉に相槌を打つ。


 牧田の言う通り、今この時はこのキャラでよかった。

 哉を見ていると、あそこまで群がられたくはないと思う。

 チヤホヤされて気を悪くする人は少ないだろうが、度が過ぎると誰でもうんざりしてくる。

 あれは度が過ぎている。


 哉を中心にして、昼休みの購買みたいになっている。

 あんなのに囲まれたくはない。

 あんなのに囲まれた時には、委縮してしまうことだろう。

 せっかく人見知りを克服してのに、また人見知りに戻ってしまうかもしれない。

 そんなのは嫌だ。


「いやー

 まさか君が序列5位になるとはねぇ」


 牧田は、思い出に耽るような口調でそう言った。


「序列5位?」


 俺が序列5位だと?


 実はこの学校には、序列制度が存在する。

 『序列』という言葉自体の説明は必要ないだろう。

 言葉のままだ。


 俺は、序列について詳しいことはよく知らないが、少しなら知っていることもある。

 今まで、序列について詳しく知ろうとしていなかったが、それでもどこからだったか小耳に挟んだのだ。


 それでその序列なんだが、序列番号は100までしかない。

 それより弱い人は、序列無しだ。

 中等部と高等部、両方合わせるとかなりの人数になるこの学校で、序列100位以内に入っているのはすごいらしい。

 その中でもTOP10に入るものは、かなり注目を浴びるらしい。

 しかしそれと同時に、恐れられもする。

 やはり強い者は、力のない者からすれば怖いのだ。


 そんな序列制度の第5位に俺はなったのか。

 とても信じられない。


 そもそも、あんな戦いで序列を決めてもいいのか。

 あんな、校舎裏の戦いで。

 序列って正式な場所で決めるんじゃないのか?


 それに、あの場には数人の生徒はいたが、あのグループの奴らと俺・哉、それと女生徒二人だけだ。

 たったそれだけしか、あの戦いを見届けていないのだ。

 新聞しか見ていない人の中には、俺と哉の二人がかりでようやく『序列5位』を倒したと思っている人も少なくはないはずだ。

 そんな状況で、『序列5位』なんて自称していいのだろうか。


「そう、君が校内序列5位」

「まぁ、実力上はそうなんだろうけど、公式に発表はされていないんだろ?」


 牧田は、キョトンとしている。

 きっと、俺がまた変なことを言ったのだろう。


 これは最近知ったのだが、俺は突発的に変なことを言うことがあるらしい。

 常識とはズレたような変なことを。

 俺の常識人への道のりは長い。

 長い間家に閉じこもっていたのだから、常識が欠落しても仕方ないよね。


「生徒証に書いてあるだろう?」


 牧田は、当たり前のことを言うようにそう言ってきた。

 これもまた、俺が変なことを言ったのだろう。


 とゆうか、生徒証?

 ああ、あったなそんなやつ。


 俺は薄い記憶を絞り出しつつ、上着のポケットから生徒証を取り出す。

 それは木の板だ。木製のカードと言ってもいい。


 しかし、木の板にしてはかなり硬い。

 この生徒証を貰った日、少しこのカードの耐久力テストをしてみた。


 生徒証がこんな木の板でいいのか、と思ってからの行動だ。

 決して、壊してやろうと思い痛めつけた訳では無い。


 その結果、叩いても・蹴っても・殴っても・踏んづけても・叩きつけても・水につけても。

 折れない、朽ちない、重くない。

 最高の木材だ。


 最高であり、不思議な木材だ。

 異世界にはいろいろあるもんだ。


 そんな木材で作られた生徒証には、今までは無かった『序列5位』という文字が追加されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ