第三十四話 『能力研究部、結成!!』
「おにぃ。ご飯できたよ」
朝、いつも通り模擬戦を終えた俺に、宙は朝食の時間だと告げる。
どうやら、これから最高の朝食らしい。
朝から、ウルトラ美味しい朝食が食べられる。
楽しみだ。最高だね。
妹の味を堪能しようではないか。
おっと、妹の味ってエロい意味じゃないからな。
俺は妹に発情はしない。
いくら自他ともに認める変態の俺でも、だ。
これだけ妹大好きお兄ちゃんだが、それも家族としてだ。
少ししか血が繋がっていないとはいえ、妹を異性としてなんて見れない。
恋愛対象かなんて、言うまでもない。
俺にとって、妹は妹なのだ。
妹であるからかわいく、好きなのだ。
この関係に、終止符を打ちたくはない。
俺はこれからもずっと、宙のお兄ちゃんでいたい。
だから俺は、妹ではなく朝食を召し上がるのだ。
妹の味を求めて、縁側から家に入る。
手に持っていた木刀は、普通なら縁側には置かないであろう傘立てに差し込む。
木刀が、『カランカラン』と音を立てて傘立てに立てかかる。
この木刀、そろそろ変えないとな。
いつも、この木刀で相手をしているのは水人形だ。
所詮は水。
木と水を組み合わせたらどうなるか。
当然腐る。
水を木に染み込ませたら金がかかるのだ。
腐った木刀を捨てて、新しい木刀を買わなければいけない。
もういっその事、真剣で訓練しようか。
俺の左腕。
上腕二頭筋のあたりに、何結びなのか分からない簡単な方法で結びつけてある黒い紐を見る。
片端を引っ張れば、すぐに解けてしまうような簡単な結び方だ。
その、敢えて解けやすい結び方をしている黒い紐は、神様から貰った日本刀になるという魔道具だ。
これを貰った日以来、護身用にと思って毎日腕に巻き付けているが、使ったことがない。
この紐は、日本刀になったことがないのだ。
刀になるべくして生まれた紐なのに、可哀想だな。
しかし、別に使えない訳ではない。
おそらくだが、簡単に使うことができるだろう。
きっと、紐に能力を使うみたいな感覚で使えると思う。
神様の言っていた、魔力を道具に流すというのはそんな感じであっているはずだ。
明日から、これで模擬線してみようか。
いや、でもなぁ
錆びてしまいそうだ。
水と木の愛称も悪いが、水と鉄の愛称もまた悪いのだ。
正確に言えば、日本刀の材料は玉鋼だが。
まぁ、鉄だろうと玉鋼だろうと、錆びることは錆びるのだ。
水人形との戦闘には向いていないかもしれない。
弧の刀での練習は、素振りだけにしておこう。
だとすれば、結局模擬線は木刀ですることになるのか。
新しい木刀を、定期的に買わなければならないのか......
いや、ちょっと待てよ。
俺の能力で、木刀に含まれている水分を取り除くことはできないだろうか。
やってみるか......
俺は傘立てにある木刀に片手を向ける。
木刀から水分を取り除くイメージで。
魔力を手から放出させるイメージで。
能力が発動される。
木刀から、少しづつ水が出てくる。
スポンジから水が絞り出されるように水が出てきて、すぐに蒸発する。
そして......
枯れた。
木刀が枯れた。
一切の水を、残さず取り除いてしまった。
枯れた木刀なんて初めて見たぞ。
しわしわになってしまっている。
これで攻撃すれば『フニャン』という効果音を放ち曲がってしまいそうだ。
スポンジのように水を吸い取られた木刀は、スポンジのようになってしまった。
百均で売ってるような、スポンジの剣みたいになった。
はぁ......
結局、ダメになった木刀が出来上がってしまった。
でも、取り除く水分量をうまく調節すれば、木刀が腐るのを阻止できるかもしれない。
今度試してみよう。
よし、とりあえず今は飯だ。
宙の飯だ。
宙の作ってくれた朝食をたらふく食べ、妹パワーを満タンにして学校へ行こう。
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同じ日の放課後。
俺・哉・遠坂姉妹、ついでにかどちゃん先生。
その五人で、旧校舎二階にて部室を選んでいる。
哉の説得は成功したらしい。
部室を選ぶと言っても、正直な話俺としてはどれでもいい。
どれでもいいどころか、どうでもいい。
だって、どの部屋もほぼ同じなんだもん。
せいぜい、置かれている段ボール箱の数が違うくらい。
本当にどうでもいい。
実際、哉を除いた四人はどこでもよさそうな顔をしている。
そんな除かれた哉はと言うと。
一部屋一部屋しっかりと見て、頭を抱えて悩んでいる。
何の違いもないただの部屋を、だ。
どこの何で悩んでいるのか、俺にはさっぱり分からない。
もうどれでもいいじゃん。
この時間が、無駄に思えてしょうがない。
「ここにしよう」
何の違いもない部屋を見比べること十数分。
ようやく部室が決まった。
決めたのは哉、
ではなく俺だ。
違いが分からない部屋決めに待ちきれなくなった俺は、適当に廊下の真ん中にある部屋に決めた。
廊下の真ん中にある部屋だが、空き部屋の中では一番端っこだ。
その部屋に入ってみると、中心に長机が二つ。
その机を囲むようにパイプ椅子が六脚。
小物が置けそうな棚が三台。
そして、複数個の段ボールが置かれている。
その段ボールは、ガムテープでしっかりと閉じられている。
持ってみてもそれほど重たくない。
きっと中身も大したことないのだろう。
隣の空き部屋に移すとしよう。
ちなみに、隣の使われている部屋。
お隣さんは、囲碁将棋部だ。
名前は囲碁将棋部となっているが、オセロやチェスなど、テーブルゲームならなんでもやっているそうだ。
これって、お隣に挨拶しに行った方がいいのだろうか。
「どうも、隣に来ました能力研究部です
ご迷惑をおかけするかもしれませんが、以後お見知りおきを」
みたいな感じで。
隣に越してきた感じで、菓子折りなんか持って行って挨拶を。
いや、まぁいいや。
そういうのは部長の仕事だ。
副部長になるであろう俺には関係ない。
頑張れよ、哉。
きっとお前が部長になる。
部屋を決めたことで、部活作りは最終ステップへと移る。
書類っぽいものを書いて『能力研究部』は完成する。
「じゃぁ、これを書いて」
そう言ってかどちゃん先生は、一枚の紙を長机に置いた。
部活動申請書だ。
「俺が書く」
そう言ったのは哉だ。
哉は、その申請書をボールペンでスラスラと書いていく。
「書けました」
一瞬で書き終えてしまった。
早業だ。
こんなに早く書いて、字は読めるのか。
そう思い、申請書の前にある椅子に座り、ハンコを取り出しているかどちゃん先生の上から覗き込んでみる。
意外にも綺麗な字だ。
その申請書には部員の名前を書く欄や活動内容について書く欄、部長・副部長の名前を書く欄など、いくつかの記入欄があった。
こいつ、全員の漢字を覚えてるんだな。
これまた意外だ。
部長・副部長の欄には丁寧な字で、
副部長『遠坂小夏』
部長『佐々木翔琉』
と書かれてあった。
「ちょっと待ってください!」
俺は、今にもハンコを押そうとしているかどちゃん先生を、慌てて止める。
「はい、なんですか?」
そう言って、顔だけで振り向くかどちゃん先生は、ノールックでハンコを押していた。
「......いえ、もういいです」
俺は部長になりました。
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あの後、先生以外は部室に残った。
かどちゃん先生だけは、申請書を持って職員室へと行ってしまった。
ちなみにかどちゃん先生は、能力研究部の顧問になってくれたが、あまり顔は出さないらしい。
クラス担任の仕事は忙しいんだとか。
今は、段ボールを隣の空き部屋へと運んでいる。
俺と遠坂姉を勝手に部長・副部長にした哉は、あの後遠坂姉に怒られて小さくなっている。
俺も怒りたかったが、遠坂姉の怒り方が怖すぎて怒りが冷めてしまった。
ハイライトのない目で。
抑揚のない声で。
低い音程で。
妹である遠坂妹でさえも怖がって俺の後ろに隠れていた。
同じことで怒っている俺でさえ怖いと思った。
こいつは怒らせないようにしようと心に決めた。
しかしまぁ、あれほどではないにしろ怒られるのは当然だろう。
部活を作りたいって言ったのは哉なんだし、普通なら部長は哉だろ?
俺が部長なのはまだ分かるが、どうして遠坂姉が副部長なんだよ。
こっぴどく怒られた哉は、怯えた子犬みたいになっている。
遠坂姉と目が合うだけでビビっと電撃が流れたように震え、動きが早くなる。
彼はもう既に、俺たちの倍は段ボールを運んでいるだろう。
哀れ哉伽月。
自業自得だ。
まぁ、俺としてはもう吹っ切れている。
半分は許してもいる。
部長になったからにはやってやろうじゃないか。
部長として、部員から尊敬の眼差しを向けられるように頑張ろうではないか。
俺はそう思いながら、せかせかと動く哉に段ボールを押し付ける。
俺が部長になった。
ということは、俺が囲碁将棋部に菓子折りを持っていかなければ行けないのか。
何を用意したものか......
クッキーとかかな。
そういう菓子折のお金って、部費から下りるのかな。
クッキーとか饅頭とか、箱で買うと1000円は超える。
中には2000円をも超えるものだってある。
生前、道の駅とかに売ってるやつはだいたいそれくらいしていた。
きっと、他の店でもそれくらいするんだろう。
できるだけ、バイトのお金は生活費に回したいんだが。
部費から下りることを願って、今日は菓子折りを買いに行こう。
そして、明日囲碁将棋部へ挨拶に行こう。
そのためには、早めに帰らなければならない。
バイトが終わるのは九時頃なのだ。
バイト前に買わなければ。
「ちょっと早いけど、俺は帰るよ」
俺はそう告げて荷物をまとめる。
「「また明日」」
部員から、また明日と言われた。
『また明日』、か......
いい言葉だな。
俺はそう思いつつ、部室を後にした。
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翌日、放課後。
俺は昨日買った菓子折りを持って部活へと訪れていた。
俺の持っている菓子折りは、20枚入りのクッキー袋だ。
箱に詰められてはいない。
これは、俺が適当に買ってきたクッキーを袋に詰めた訳ではない。
始めからこのようにして売られていたのだ。
他の菓子折りも似たような売られ方をされていた。
さらに言うと、クッキーも手作り感がある。
よく見ると微妙に形が違う。
これもまた、どの商品もこんな感じだった。
しかし、これらのことはしょうがないのだ。
この世界は、前世と違って商品の機械的大量生産は難しい。
よって、どうしても商品の安定性は落ちてしまう。
必然的だ。
電気系の機械が作れないのは不便だな。
「何それ」
遠坂姉は俺に、そう尋ねてきた。
もうすでに、この部室には部員全員が集まっている。
この部活の部員は、全員暇なのだろうか。
俺が来た時には全員集まっているのだ。
哉と遠坂姉は、俺と同じクラスであるのにも関わらず俺より先にいる。
ちょっとは待ってくれたって良くない?
いやまぁ、別に一緒に行きたい訳ではないけどさ。
「クッキーだ
隣の部活に挨拶しに行かないとだからな」
と、部員が暇人なのではないかと疑いつつ、遠坂姉の質問に答えた。
答えたのだが......
俺以外の三人は「何言ってんだこいつ」みたいな顔をして、俺を見てくる。
いや、挨拶は大事だろ?
「おまえ、何言ってんの?」
とは、哉の言葉だ。
えっ、いや。
普通のことではないのか?
アパートへの引越しの時とかもそうだ。
これからよろしくという意味も込めて、菓子折りとかを持って挨拶に行くものだろう。
「こちら、つまらないものですが」とか言って、それを差し出すのだ。
俺はアパートに引越しとかしたことがないから、実際にそういう挨拶をしたことはない。
だが、そんな俺でも常識くらいはある。
俺は、常識知らずにはなりたくないからな。
挨拶に行くのは当然だろう。
もしかして哉、常識知らずなのか?
俺が教育し直してやろう。
「お前、今住んでいるアパートに引越した時、お隣さんに挨拶していないのか?」
とりあえず、哉に常識があるのか、最終確認をしてみる。
「いや、挨拶はしたぞ
でも、それとこれとは別だろう?」
いや、別じゃないだろ。
どんな時でも挨拶は大事だぞ。
「隣の部活に挨拶は言っても、菓子折りは持って行かないだろ」
哉はそう言った。
言われてみればそうかもしれない。
思い返せば、これまで見てきたアニメでは部活を作っても菓子折りどころか挨拶すらしていなかった気がする。
それどころか、コンピュータ研究部からパソコンを強奪していた部活まであった気がする。
いや、あれは部活じゃなくて団だったか。
しかしまぁ、そう考えると哉の言うことも理解出来る。
「確かにそうかもな」
どうやら、俺が考えていた常識は、ちょっと違う常識だったみたいだ。
友達宣言といい部活の菓子折りといい、俺の常識は普通とズレているのかもしれない。
これからは気を付けよう。
と言っても、どう気を付けるべきか......
哉や遠坂姉に、常識について教えてもらおうか。
いや、でもなぁ......
こいつらに教えられるのは癪だな。
どうせこいつらのことだ。
必要以上に上から目線で教えてくることだろう。
そんなのに教わるなんて、ごめんだね。
宙に教えてもらうことにしよう。
妹に常識を教わるのは嫌だが、こいつらよりは全然ましだ。
と、常識とやらのせいで、俺が買ってきた菓子折りは無駄になった。
俺と宙の生活費が......
いやでもしかし、挨拶くらいはしておくべきだろう。
それくらいは、まだ常識内だろう。
何度も言うが、挨拶は大事なのだ。
そんな訳で、俺は囲碁将棋部へと挨拶に行く。
哉は「別にいいだろ」と言っているが、俺としてはそうはいかない。
挨拶くらいはしておかないと、俺が落ち着かないのだ。
てなわけで、能力研究部活動初日はこんな感じだった。
挨拶をした後は特に何も無く、四人で雑談をして過ごした。
俺の無知を晒したものの、やはり部活はいいな。
放課後に集まって何かをするというのはよいものだ。
何がいいかははっきりと言えないが、なんかいいのだ。
きっと、それが部活というものなのだろう。
バイトがあるせいで、早く帰らなければならないのが惜しい。
こんな気持ちになる俺は、学校生活をそれなりに楽しんでいるんだな。
ちなみに、クッキーは部員がおいしくいただきました。




