第三十三話 『部活作りとバイト』
放課後、俺と哉は話していた。
部活についてだ。
「まずは、先生の説得と部員集めだな」
「そうだな......」
哉は、生き生きしている。
それに対し俺は、面倒臭いオーラをもくもくと立ち込めさせている。
哉は、そんなことお構い無しだ。
いつもと変わらぬ様子で話を続ける。
「どういう部活がいいだろうな」
「そうだな......」
「人助け的なのはどうだ」
「そうだな......」
「......お前、ちゃんと考えてるのか?」
何を言っても同じことしか言わない俺に、哉はそう聞いてきた。
当然、何も考えていない。
今のこの状況。
生前ならスマホ片手に、適当にあしらっていただろう。
しかしながら、この世界には何も無い。
呼んでいた本も、不運なことについさっき読み終えてしまった。
何もすることが無い俺は、何もせずに哉の言葉を聞き流す。
あれだ。
小学校の先生がよく言う、右耳から入って左耳に抜けていくってやつだ。
いや、俺の聞き方だと左耳からか。
そんなことどうでもいい。
「考えてるよ」
とりあえず、嘘をついておく。
例の、びっくり超人並の観察力を持つ遠坂姉以外になら、俺の嘘は見破られないだろう。
俺のポーカーフェイスは、ほぼ完璧なのだ。
自信がある。
もっとも、最近いとも容易く俺のポーカーフェイスを見破ってくる奴のせいで、その自信は薄くなっているが......
「そうか......
じゃぁ、どういう部活がいい?」
どういう部活がいいか?
それ、俺が決めていいのか?
「俺がやったことがなく、かつ早く終わるもしくは先に帰っても何も言われない部活、だな」
俺は、正直に考えてることを口に出す。
「なんだそれ」
自分だけは本気で、相手から見ればふざけた答えに、哉は苦笑した。
まぁ、俺に「どういう部活がいいのか」なんて聞いたらこうなるわな。
俺には部活に入りたい気持ちや条件はあっても、どんな部活に入りたいかは考えていないのだ。
何をする部活なのかは、俺にとってはどうでもいい。
やっていれば、出来るようになるし楽しくもなるだろう。
この流れだと、哉とは同じ部活になるだろうしな。
「うーん......
人助けの部活なんてどうだ?」
哉のこの提案は二回目だが、まともに聞いていなかった俺は気づかない。
人助け、か......
俺には、向かないな。
「人助けと言うとあれか?
奉仕する部活とか、S◯S団みたいな感じか?」
あっ、でも、あの団は人助けとは違った気がするな。
名前だけだった気がする。
しかもその名前も確か何かの略称で、人助けとは無関係だったような。
と、ふと哉を見てみる。
哉は、よく分からないといった顔をしている。
こいつ、マジか......
あの、超有名作を知らないのか?
こいつ、本当に転生者か?
前の世界に生きていて、この名前を聞かないのは難しいんじゃないか。
あれだけ、有名な作品だ。
作品名くらいは聞いたことあってもおかしくはないと思うんだが......
いや、題名を聞いただけでは、作品内に出てくる部活までは分からないか。
少し残念だ......
この世界では、オタクのような会話をしてみたかったな。
でも、こいつが分からないんじゃ、もう話すことは叶わないだろう。
オタクみたいな話が出来るのは転生者とだけだろうが、転生者はこいつと妹しか知らない。
妹は、アニメに理解はあるが興味はないのだ。
その話はできない。
哉が知らないなら、きっとそういう話はできないだろうな。
「まぁ、お前の言っていることはよくわからんが、人助けの部活でいいのか?」
「ダメだ
俺に人助けは向いていない」
「なんだそれ
人助けに、向き不向きなんてないだろ
お前は、人助けができる」
そういうものなのか。
いや、きっと違う。
哉の言うことは間違っている。
確かに、「向き不向き」はないのかもしれない。
しかし、俺に人助けの資格はない。
俺に人助けはできないのだ。
「だとしても、人助けは嫌だ
......能力を研究する部活なんてどうだ?」
俺は別段、研究がしたいわけではない。
人助けはしたくないから、それっぽい部活を提案してみただけだ。
おそらく、これに哉は食いつくだろう。
俺も、研究はしたくないが、興味がないわけではない。
『研究』と言うのは、単語を聞いただけでワクワクしちゃうものだ。
男の子だから仕方ないだろう。
研究者とか、マッドサイエンティストとか、一度は子供のころに興味を持ったことがあるはずだ。
こいつは、ダントツで子供っぽいしな。
あっ、馬鹿にしている訳ではないからな。
「能力の研究か......
面白そうだな!」
案の定、哉は食らいついてきた。
それはもう、目をキラキラと輝かせて。
ま、眩しすぎるぜ。
「それでいこう」
哉は、研究に決めたようだ。
俺も、異論はない。
部活内容が、俺の適当な案で決まってしまった。
しかし、不安な点がある。
俺とこいつ、それと数人で、本当に研究なんてするのだろうか。
いや、今はそれを考えないでおこう。
「なら次は部員だな」
「そうだな......」
哉の発言に、俺がそう肯定すると少しムッとされた。
聞いてないと思われたのだろうか。
失礼だな。ちゃんと聞いてるよ。
「誰を誘う?」
「俺は顔が広くない
誘えるとしても、遠坂姉妹だけだ」
俺の知り合いは多くない。
この学校で、残っている知り合いは遠坂姉妹だけだ。
牧田は新聞部なので、まっさきに除外。
宙は、家での話によると部活はしたくないらしい。
バイトが出来なくなるからと。
頼りになる妹だ。
部活を作ろうとしているどこかのお兄ちゃんとは違う。
あと、残っているこの学校の関係者かつ俺の知り合いと言えば神様だが、彼は論外だ。
どこに理事長を勧誘する部活があるだろうか。
「こなっちゃんの妹か......」
『こなっちゃん』とは遠坂姉のことだろう。
こいつ、遠坂姉のこと『こなっちゃん』って呼んでるのか。
恐れ知らずだな。
それにしても、なにか含みのある言い方だな。
きっと、例の噂を知っているのだろう。
「どんな子なんだ?」
「かわいくていい子だよ」
「了解だ
その二人はお前に任せた
絶対に入部させろよ
俺はかどちゃん先生を説得してくる」
任されてしまった。
この二人が入ってくれないと、部活が作れないということか。
責任重大だな。
胃が痛くなるぜ。
にしても......
「お前、遠坂の妹は怖くないのか?」
一般的に、あの噂を信じているやつはあいつの事を怖がるんだがな。
「別に怖くねぇよ
俺はあの噂を信じていない
それに、俺は強いからな」
哉はそう言って、笑顔で力こぶを作った。
大した自信だ。
「そうか」
なんだかいい気分だ。
勿論、哉の筋肉を見ていい気分なのではない。
彼が例の噂を信じていないと、そう言ったことがいい気分なのだ。
普段、馬鹿を振り撒いている哉だが、考えるべきことはしっかりと考えているのだろう。
噂を鵜呑みにしない程度には。
俺は、哉がそんな奴で嬉しく思う。
てなわけで、俺は部員集め、哉は先生の説得へと向かうこととなった。
哉のことだ。
巧みな会話術でかどちゃん先生を説得することなど、容易いだろう。
彼は頭こそ良くないが、会話術は人一倍上手いのだ。
元人見知りの俺が言っているから、そのハードルは低いのだろうが......
問題は俺だ。
勧誘なんてしたこともされたこともない。
どうやったらいいのか全く分からない。
いや、待てよ。
確か、なにかの本で交渉術についての本を読んだことがあった気がする。
思い出せ。
思い出せ......
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「部活に入るなら、ルールだらけのところと自由にできるところ、どっちがいいですか?」
あれから俺と哉は、今日のところは交渉を終えてそれぞれで帰宅。
報告はまた明日ということになった。
理由は簡単。
俺も哉も、バイトがあるからだ。
勿論、部活をしている身の二人、まだ余裕はあるのだが、万が一話が延びてしまうといけないのでこのような形になった。
という訳で現在。
俺は、遠坂姉妹との帰路途中に二人を口説き落とそうと奮闘している。
無論、奮闘しているつもりなのは俺だけだが。
この話を始める際、俺は遠坂姉妹に「放課後って時間あるか?」とサラッと聞いてみた。
それを聞いた遠坂姉は、貞操を守ろうとするように自分の体を抱き、「誘ってるの?」とか聞いてきた。
いやまぁ、誘ってはいるんだけど、そういう意味ではない。
と、そんなことがあった。
しかしそれも終わった話。
今は交渉中だ。
「そりゃあ、自由にできるところでしょうけど......
なんで急に敬語なの?」
それはあれだろ。
勧誘と言ったらへりくだるのが相場と決まっている。
上から目線で勧誘なんて、何様のつもりだ。
こういう時は、下手にでなければ。
「気にするな」
とりあえず、そう言っておく。
いちいち説明するのも面倒だしな。
「そこで!」
俺は、遠坂姉妹に向かって指を突き出す。
特に意味はない。
雰囲気作りだな。
しかしそんな雰囲気作りも虚しく、遠坂姉は鬱陶しそうにしている。
「今、俺と哉で作ろうとしている部活がおすすめなんですよ
この部活、一応の部活内容は決まっているが、自由にしてもいい方針なんですよ
魅力的ではありませんか」
「つまり?」
俺の長い勧誘が面倒臭くなったのか、遠坂姉は結論を急かす。
「入部していただけないかと」
「いいわよ」
「ですよね。無理ですよね......えっ?いいの?」
予想外だ。
妹はともかく、姉の方は俺の提案など一瞬で突っぱねるものだと思っていた。
それなのに、一瞬でOK を貰えた。
かなり驚いてしまった。
驚いを隠しきれない。
ともあれ、入部してくれるのなら問題ない。
「ユキちゃんも大丈夫?」
俺は、黙って俺たちの会話を聞いていた遠坂妹にも聞いてみる。
彼女が入部してくれるなら、俺も苦労しないで済むんだが。
「大丈夫です。けど......」
けど何だろうか。
遠坂妹は、不安そうな顔をしている。
「部活を作るんでしたら、4人必要ですよね
最低でもあと一人必要です
その方は、その......」
遠坂妹は、言葉を詰まらせる。
言いにくそうに悲しそうに......
「私のことは......大丈夫なんですか?」
あぁ、そのことか。
「大丈夫だ
あいつは馬鹿だが、いい奴だからな」
俺は遠坂妹に、哉のことを簡潔に説明する。
それを聞いた姉は、俺が誰のことを言っているのか予想がついたみたいだ。
そんな顔をしている。
簡潔な説明とはいえ、あんな説明で分かられてしまうなんて。
遠坂姉の中で、俺がよく一緒にいるメンバーの内、哉が一番馬鹿なことにとなっているのかもしれない。
哀れ、哉伽月。
だが、事実だから仕方がない。
「じゃぁ、私も入部します」
「そうか、ありがとう」
というわけで、俺は姉妹の勧誘に成功した。
哉の交渉が上手くいったのであれば、後は部室だけ。
部室は余っている部屋を適当に選べばいいだけだから楽だ。
新しい部活ができるのも、もうすぐだな。
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あれから、時間が開いて今。
学校が終わって俺がすることと言えばなにか。
そう、バイトだ。
今はバイト中である。
それも、暇になり始めたくらいの時間だ。
ここで働き始めて結構経った。
毎日働いていれば、同じ時間の仲間がどういう人たちなのか、だいたいわかってきた。
例えば、よんちゃん。
よんちゃんはこの時間になると、真面目に働いているように見せかけて、たまに寝てしまっている。
立ったままだ。
器用なことだ。
相当眠たいのだろう。
真面目に働こうという意志は感じるが、やはり眠たいものは眠たい。
誰だって、三大欲求には抗えないのだ。
俺の隣で立っているよんちゃんが、眠たそうに頭をコクコクさせているのを見た時、俺はちょっかいを出したくなってくる。
耳とかに、ティッシュをサワってしてみたくなる。
やったら確実に怒られるのでやらないが。
とまぁこんな感じで、色々とわかってきたのだ。
当然、鷲宮の他にも、
暇になると椅子に腰掛けて寝る料理長や、
気がつくと消えている店長、
超が付くほどの真顔で次の接客を待つウェイトレスなどなど。
俺が働いている時間帯の職員のことは、だいたいわかってきたつもりだ。
ちなみに、気がつくと消えている店長の謎は、つい先日、俺がちょっと休憩と思って控え室に向かった際に解き明かされた。
店長は、控え室にいたのだ。
ビールを持って、ピーナッツを食べながら控え室でふんぞり返っていた。
丁寧に皿やグラスまで用意して。
「こいつマジか
仕事中だぞ」
初めて見た時は、そう思ったものだ。
今でもそう思っている。
なぜこの人が店長に選ばれたのだろう。
この人、昔は真面目だったのだろうか。
想像もつかない。
今この時間も、アルコールを摂取していることだろう。
ピーナッツをお供にして......
もう、ピーナッツはいいから、仕事中に飲酒だけはやめてほしい。
客にバレたらどうするんだよ。
とはいえ、店長以外は真面目に働いている。
寝ている人もいるが、重要な時には起きてるし、問題ないだろう。
みんな真面目だ。
そんなことを考えているとあっという間に勤務終了。
眠そうにしていた鷲宮とそろって帰宅だ。
俺はいつものように鷲宮を家まで送ってから家に帰る。
今日も今日とて、鷲宮は俺の後ろをついてきている。
ポニーテールをぴょこぴょこと左右に揺らしながら歩いている。
あの踊るポニーテール。
いつか後ろから見てみたいな。
くだらない会話を楽しみつつ、二人で帰る。
俺にとって、この時間は癒しの時間なのだ。
バイトが終わってからは、癒し尽くしだ。
最高の日々です。
そんな今日の帰り道、いつも通る大きな公園に猫がいた。
猫と言っても、正確に言えば猫似の魔獣。
確か名前は......キャルニア、だったっけか?
しかし、大人しく猫に似ているため、基本的には猫と呼ばれて一般に飼われている。
その猫に気づいたのは鷲宮だった。
「あっ、猫ちゃんだ!」
鷲宮はそう言って猫に近づいていった。
俺はその後に続く。
念願の、ぴょこぴょこ揺れるポニーテールを拝めました。
猫に駆け足で近づいていく鷲宮。
普通の野良猫なら、一目散に逃げるのだろうが、その猫は人間に慣れているようで逃げなかった。
その逃げようとしない猫を、鷲宮は何やら猫語(のつもり)で語りかけながらなでなでしていた。
猫も気持ちよさそうにしていた。
目を瞑り、鷲宮の手に顔を押し付けていた。
鷲宮、撫でるの上手いのかな。
俺もしてもらいたいな。
女の子になでなでしてもらうとか、全男子の夢なのではないか?
と、鷲宮を遠目に見ながらそんなことを考えていると、猫は満足そうにどこかへ行ってしまった。
鷲宮も満足そうに俺の方へ戻ってきた。
そのまま、俺にもなでなでして欲しい。
ついでに膝枕も。
そうは思うが、当然口には出さない。
きっと口にすると鷲宮に引かれるから。
「猫、可愛かったね」
「そうだな」
お前も可愛いぞ。
そんなこと言ったら、気持ち悪がられるだろうか。
気持ち悪がられるだろうな。




