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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第四章 『序列』
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第三十二話 『日常の会話』

「君たち、結局部活はどうするの?」


 そう尋ねてきたのは牧田だった。

 今は昼休み、一通りのおかず交換が終わって、俺・哉・牧田の弁当(牧田は食堂で買ったカツカレー)が空になったところだ。

 そんな時に、ちょうど会話が終わった。


 俺は沈黙が訪れるのだろうと思ったのだが、それを牧田はチャンスと言わんばかりに会話を始めた。

 これが俺たちの、いつものやり取り。

 日常だ。


 真っ先に答えたのはやはり哉である。

 俺は、基本的には後手である。

 いつものことだ。


「それが、まだ決めてないんだよなぁ......

 おすすめとかないか?」


 どうやら、哉()決めていないらしい。

 どうしたものかな。


 哉が部活決めで悩んでいるのを今聞いている俺はと言うと、入部は諦めつつある。

 俺がやったことがなく、かつ早く終わるもしくは先に帰っても何も言われない部活。

 そんな部活、そう多くない。


 この学校には、かなり多くの部活がある。

 多くの部活があるのだが、俺の『やったことがないこと』に、ほとんどの運動部が引っかかってしまう。

 その時点で半分ほどの選択肢が無くなる。

 それに合わせて『早く終わるもしくは先に帰っても何も言われない』だ。

 そうなってしまえば、残された部活は片手で数えるほどしか無い。

 その部活も『オカルト研究部』や『怪奇現象調査部』といった、俺の興味がないものばかりだ。


 俺にオカルトの趣味はないし、怪奇現象なんてただの偶然が重なっただけ。

 興味なんてさらさら無い。


 とまぁ、俺が付けた条件に俺が苦しめられる形となり部活の選択肢は壊滅状態。

 部活動生活は始まる前に終わりを迎えた。


「おすすめねぇ......」


 牧田は、親指と人差し指で顎をつまむようにして考える。

 牧田は、俺から見て左上。

 すなわち、牧田からすると右上に目を動かしている。

 心理学的な話だが、これはあれだな......


 隠せてないぞ、牧田。

 お前あれだろ?

 俺はこいつがこの後に紹介する部活に想像がつく。

 おそらく、始めからその部活を勧めるつもりだったんだろう。

 わざと悩んでいるふりをしているのだ。


「じゃぁ、僕と同じ新聞部なんてどうかな?」

「ふっ......」


 牧田の提案を聞き、俺は苦笑気味に、吐き捨てるように笑う。

 想像通り過ぎたのだ。


 俺のその笑いに、哉は不思議そうに、牧田は残念そうに、それぞれ首を傾けた。

 どちらも同じ行動なのに、まったく違って見えるのが少し面白い。


 しかし哉は、すぐに不思議を忘れて新聞部について考え始めた。


「新聞部ねぇ......

 お前と同じ部活だと面白いかもなぁ

 カケはどう思う?」


 哉は、俺に振ってきた。

 俺の答えは当然決まっている。


「ごめんだな」


 俺はそう言う。


 あの部活は俺の条件ピッタリだ。

 しかし、部員がピッタリじゃない。


 毎日毎日、あの部長愛を語られたらどうにかなってしまいそうだ。

 あの部員たち、特に女子部員の熱意と言ったら半端なものではない。

 異常である。

 狂気的である。


 あの部活は嫌だな。

 とゆうか牧田(こいつ)は、あの狂った女子部員を知っているのだろうか。

 知らない気がする。


 牧田はどこかボケっとしていることから、鈍感系と似た雰囲気が感じ取れる。

 いや、似た雰囲気ではなく鈍感系なのかもしれない。

 どちらにしろ、そんな彼だ。

 自分への好意なんて、これっぽっちも気づいてなさそうだ。


 先日、こいつのファンクラブとやらも密かに存在していることを知った。

 こいつはきっと、そのことすら知らないのだろう。


 情報収集に長けたこいつが、どうして自分のことになるとこうもからっきしなんだろうか。

 不思議でならない。

 いやでも、自分のことについては意外と分からないもんな気がする。

 俺も、俺のことを好きな子がいるのかなんて分からない。

 いるにはいるが俺が気づいていないのか、誰一人としていないのか。


 どうか、前者であってほしい。

 俺だってモテたいよ。


 最近、いや、最近に限ったことじゃないが、彼女欲しい欲が強くなってきている。

 こう、俺の彼女と俺の妹が仲良く会話しているところを見てみたい。

 俺は想像する。

 いつも俺とイチャイチャしている彼女が、俺の妹とイチャイチャしている。

 当然まだいない彼女なので顔は不確かだが、それでもなんだか幸せだ。


 いつも、「リア充なんて爆発しろ」と思っているのに、自分がリア充になることへの抵抗はない。

 むしろウェルカム。

 どんと来いだ。


 おっと。

 話がずれた。

 部活の話をしているんだった。


 そう部活。

 俺の「ごめんだな」と言う言葉を聞いた哉は、「なんでだよ」と聞いてくる。


 うーん......

 こいつがいるところでは口にしにくいんだよなぁ


 俺は心中そう思いつつ、牧田を見る。

 この純粋無垢な彼に、あの狂気じみた部員のことを知らせるのは、なんだか気が引ける。


「なんとなくだ」


 嘘をついた。

 なんとなくなはずない。

 確固とした理由があってあの部活には入りたくないのだ。

 部室に近づきたくもない。


「なんとなくなら、別に入ってもいいんじゃない?」


 どうやら牧田は、俺たちに入部してほしいようだ。

 冗談じゃない。

 何とかして断らなければ。


「いやほら、俺ってお前みたいな新聞部に役立ちそうな能力じゃないしさ」

「ほらとか言われても、僕は君の能力を知らないよ?」


 えっ!?

 こいつでも、自分のこと以外で知らないことってあるのか。


「僕だって知らないことくらいあるよ」


 牧田は、俺の顔を見てそう言った。

 顔に出てただろうか......


「そうなのか」

「そうそう!」


 牧田は嬉しそうに何度も頷く。

 なんで嬉しそうにしているんだ?


「それに、うちの部活に必要なのは興味を引く記事を書くセンスだけ

 能力は必要ないよ

 撮影に使えそうな能力を持っているのは部の中でも僕だけだしね

 それが何よりの証拠さ」


 牧田は説明を付けたし、再度誘ってくる。

 申し訳ないが、何度誘われてもお断りだ。

 でも、気になることはある。


「前に新聞部の部室に行った時、カメラはなかったぞ?

 写真を取れるのは、あの部活でお前だけなのか?」


 そう、前にあの部室に行った時、カメラらしきものは見当たらなかった。

 だとすると、新聞部の写真は全部牧田が撮っているんだろうか。


「いや、カメラはあるよ

 多分奥の部屋にあったんだろうね」


 あぁ、あれか。


 俺は、あの日見た黒いカーテンを思い出した。

 おそらく、あの奥には真っ暗な部屋があるだろう。


 この世界では、科学は発展していないらしい。

 しかし、化学はあるのだ。


 きっとそこに置いてあるのはフィルムカメラだろう。

 それを、自分たちで現像しているのだ。

 すごいな。

 少し面白そうだ。


 いやまぁ、入部はしたくはないんだけどね。


「あると言っても、そう多くはないんだけどね

 カメラは高いからね」


 牧田は、苦笑しながら付け足した。


 まぁ、そうだろうな。

 この世界では、本などの印刷技術すらない。

 奢侈品の大量生産なんてできない。

 きっと、カメラは学生にとって超高級品だろう。


「そうだったのか」


 とりあえず、驚いた感じを出してみる。

 しかしでも棒読みだっただろう。

 あまり隠す気もなかったし。


「カケ、前に部室来たんだ~

 なになに

 実は興味あったりする?」


 牧田はにやにやと、俺の顔をのぞき込んでくる。

 うぜぇ......


「違う、あの時興味があったのはお前だ」


 俺は、新聞部()()興味がないということを伝える。

 伝えたのだが......


「えっ......

 僕にそういう趣味はないかな。

 ごめん」


 なんか、振られたんだけど。


 というか、牧田は盛大な勘違いをしている。

 興味があったと言っても、牧田の意味深な言葉が気になってただけだ。

 俺にもそうゆう趣味はない。


「そういう意味じゃねぇよ」


 とりあえず、誤解を解いておく。

 俺は、男に性的エキサイトメントは覚えない。

 やっぱり、そうゆうのは女性にこそ期待したい。

 こう、どこぞのハーレム王子みたいに、ラッキースケベとかにあってみたいものだ。


「あ、そう

 それはよかった

 いくら君がかっこよくても、君は男だからね

 そういう関係にはなれないよ」


 何こいつ。

 煽って来てんの?

 俺のこと馬鹿にしてんの?


 こいつにカッコイイと言われると、嫌味に聞こえてならない。

 この無自覚爽やかイケメンが。

 もう少し自分について知った方がいいぞ。

 おとぼけすっとこどっこいめ。


 いや、こいつのは『おとぼけ』じゃなく本気だ。

 マジモンの鈍関系だ。


 無自覚系すっとこどっこいめ。


 俺が、心中で文句を並べていると、哉が何やら同情心のようなものを向けてきた。

 やめて、同情しないで。


 きっと哉も、牧田にかっこいいなんて言われたら辛いだろう。

 無自覚って怖いね。


「でもそっかぁ

 新聞部はダメか......」

「悪いな」

「俺は悪くないと思うけどなぁ」


 牧田は諦め、俺は軽く謝り、哉は入部したかったようだ。


 哉よ、今度新聞部の部室に行って、「牧田っていい奴だよなぁ」とか言ってこい。

 きっと入部したくなくなることだろう。


「それじゃぁさ」


 牧田が、まだなにか提案するようだ。


「自分たちで作るなんてどうかな」

「自分たちで、かぁ......」


 哉は、そう言って考え始めた。


 俺も、口には出さなかったが、自分たちで作るのは悪くないと思った。

 自分で作った部活なら、終了時間から部活内ルール、はたまた活動内容さえ決められる。

 当たり前のことだ。

 しかし、それは魅力的だな。


 俺のバイトに合わせて部活ができる。

 俺は諦めかけていたとは言え、部活をやってみたい気持ちは健在なのだ。

 出来るものならやってみたい。


「部活って、どうやったら作れるんだ?」


 別段、自分で部活を作りたい訳では無い。

 確かに自分で部活を作るのは魅力的ではあるが、俺にそれを行動に移すほどの高い意欲は無い。

 が、作り方については少し気になる。

 それに、作り方について聞いたところで損は無いだろう。

 むしろ得だと思う。


 などと考えつつ、俺は牧田に質問をする。


「えっと......

 ちょっと待ってね」


 牧田は少し考えた後、胸ポケットから小さめの手帳を取り出した。

 あの手帳には、記事に出来そうなことがびっしりと書き留められているんだろう。

 大スクープから部活動の作り方まで。

 部活動の作り方をメモする人なんて、彼くらいじゃなかろうか。


 手帳をパラパラと、手馴れた手つきでページをめくる牧田はやっぱり新聞部なんだなと思わせられる。


「あった......」


 牧田が一人、ホッとしたように呟いた。

 人に聞こえないほどの音量で。

 まぁ、俺は聞こえてるんだけど。


「部活を作るのには、条件が4つあるよ」


 牧田は、順を追って説明する。


「まず一つ

 部活内容を決める事

 部活を作って何をしたいのか、ということを先生たちに話す

 そのうえで、先生たちがその活動に許可を出したらこの条件はクリア」


 牧田は一本の指を立てる。


「二つ

 部員を四人以上集める事

 これは、四人集まったらクリア」


 牧田は、二本目の指を立てる。


「三つ

 顧問になってくれる先生を見つける事

 これは多分、かどちゃん先生が適任なんじゃないかな」


 そう言って三本目の指を立てる。


 『かどちゃん先生』って誰だよ。

 後で聞いてみるか。


「そして最後

 部室を見つける事

 これは、部活棟にまだ空き部屋があるから簡単だと思うよ」


 牧田は四本目の指を立てた後、その指を崩す。


 俺と哉は、四つの条件を静かに聞いていた。


「この四つすべての条件がクリア出来たら、書類っぽいのを書いて部活完成って感じかな

 何か質問はあるかい?」


 質問か......

 『かどちゃん先生』について聞いてみるか。


「かどちゃん先生、って誰だ?」


 俺がそう言った瞬間、牧田は信じられないと言った表情をする。

 牧田だけではない。哉もだ。

 しかし哉の方は、どこか分かっていたような顔をしているように見える。


 その顔は、俺に忘れられていた哉だから出来る顔なのだろう。

 分かっていないのに信じられないような、微妙な顔だ。


「君たちの担任だよ」


 牧田は、呆れたように言った。

 哉は、やれやれとでも言いたそうに苦笑している。


「そうだったのか」


 話を聞いたところ、うちの担任は『角田(すみた)美花(みか)』というらしい。

 改めて聞くと、聞いたことあるような名前な気がしてくる。

 いや、「聞いたことあるような」ではなく「聞いたことある」はずなのだ。

 担任の名前なのだから、聞いたことあって当然だ。


 覚えるように努力しよう。

 覚えておいて損はないはずだ。

 というより、覚えていない方が損しそうだ。


「なぁ、カケ」


 俺が担任の名前を覚えようと決意した時、哉が口を開いた。

 なんというか、自信満々な顔をしている。

 どうしてだろう。

 こいつが自信を持っていることに、俺は不安を覚えてしまう。


「な、なんだ......?」


 俺は恐る恐る聞き返す。

 ああ、どうか。

 どうか、「俺たちで部活作ろうぜ」みたいな面倒なことは言ってくれるなよ。


「俺たちで部活作ろうぜ!」


 こ、こいつ......エスパータイプか。

 どうして俺の考えている『言ってほしくない言葉』を、一言一句そっくりそのまま言うんだ。

 俺の心を読んでいないとできない所業だろ。


「えぇ......」


 俺は、哉の提案にあまり賛成ではない。

 確かに自分の好きな部活が作れるのは魅力的だ。

 だが、さっきの話を聞いていただろ?

 手続きが面倒臭くてしょうがない。


「作ろうぜ~」


 哉がこっちに寄ってきた。

 どんどんどんどん、「作ろうぜ~」と言いながら近づいてくる。

 や、やめろ。寄るな。近寄るな。

 今のお前、めっちゃキモいからな。


 哉は俺をぺたぺたと触りながら、同じ言葉を繰り返している。

 め、めんどくせぇ~


 賛成しても面倒で、反対しても面倒だ。

 八方塞がりじゃないか。

 どうしたものか......


「はぁ......

 わかったよ。作ろう」


 仕方なく賛成した。

 仕方なくだ。


 どっちに転んでも面倒なら、その面倒事が終わったあとに俺のやりたいことがある前者にした。

 面倒だ。

 俺に「部員になってくれ」ではなく「作ろう」と言ってくるあたり、俺も部員集めや先生の説得に付き合わされるんだろう。

 まったく、面倒だ。

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