第二十六話 『部活』
俺に、友達ができた。
それを宙に話したら、俺以上に喜んでくれた。
今日の家事当番は宙。
俺が外での戦闘訓練が終わったのを見計らって、「ご飯そろそろ出来るよ」と、声をかけてくれる。
訓練をやめて、風呂から出てみると、ちょうど朝食の準備が出来たところだった。
宙の作るご飯は、相変わらず美味しかった。
絶品料理でお腹を満たした俺は、満足顔で学校へと向かった。
とまぁ、これは今朝の話。
今はそれから一日過ごし、放課後だ。
俺は例のごとく帰宅準備が遅く、クラスで準備を終えていないのは俺だけになっている。
「ヘイヘ~イ
かっけるーん!」
異常なほどにハイテンションだ。
一方、俺は黙々と帰宅準備をしている。
机の中から教科書を取り出し、きれいに並べて鞄に詰め込む。
最後に筆箱を入れて終了。
その間、一言も喋らず、ただひたすらに作業を続けていた。
それに比べると、俺と彼のテンションは180度違う。
あべこべだ。
そんな、俺と真逆のテンションであるそいつは、哉伽月だ。
名字も名前も、どちらも名前のようなフルネームをしている男だ。
哉は片手を挙げて、ゆっくり俺に近づいて来る。
まるで、俺にアピールするように。
早く気づいて、とでも言うように。
気づいてますよ?
でも俺は、あそこまで自分をアピールする人間ではない。
あれに、あれ相応のテンションを返すことはできないのだ。
それにしても、昨日の今日で、どうしてここまで距離を詰められるんだろう。
昨日までは「お前」とか「佐々木」とかって呼んできてたのに、急に「かっけるーん」だ。
「アッカ○ーン」みたいな感じで。
距離の詰め方が、尋常じゃない。
急にあだ名でなんて、どこかの店長みたいだな。
まぁ、その店長はこいつよりも異常だが。
哉は、俺の前まで来て止まる。
「よっ!」
挙げた手をさらに挙げて、哉はそう言ってくる。
「よう」
俺もそう答えた。
答えたものの、それにどんな言葉を続ければいいのか分からない。
おそらく、今から始まるのはただの雑談。
他愛ない雑談だろう。
......雑談ってどう始めるの?
「お前さ、部活何入るか決めたか?」
先に口を開いたのは哉だった。
当然だろう。
その話というのは、俺が昨日、一瞬だけ気にしたこと。
中等部の一年が話していた内容。
もしかすると、哉にも聞こえていたのかもしれない。
あの一年、結構大きな声で話していたからな。
食堂で出す声ではなかった。
食堂初心者の俺でもわかる。
あいつらも初心者だ。
食堂に慣れていないのだろう。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
部活か......
興味はあるのだが「何に入りたいか」と聞かれたら困る。
何も考えていない。
「文化部かなぁ」
おそらく、俺が入るとすれば文化系。
理由は、あまりやってこなかったからだ。
運動系は、前世で師匠と散々やった。
この学校でやったことがない運動部といえば、能戦部、通称キルバト部だけだ。
その部活は、名前から想像出来る通り、能力を使って戦うという部活だ。
能力の種類によって、対戦形式が変わる。
第一級能力の部
第二級能力の部
第三級能力の部
みたいな感じで。
この第何能力というのは、能力を種類別にしたものだ。
実体の無い物に作用し、戦闘に活かせる能力が第一級。
実体のある物に作用するのが第二級。
実体の無い物に作用し、戦闘に活かせない能力が第三級。
そんな感じだ。
第一級から1群2群3群と、能力の強さが分けられるらしい。
でだ。
俺が興味を持った運動部と言ったらその1つくらい。
俺は、やったことのないことをやってみたいのだ。
一から始めて、仲間と一緒に新しいことに挑戦したいのだ。
仲間と一緒に新しいことに挑戦したい。
それだけなら、キルバトをしてもいいのだが、生憎俺にはバイトがある。
遅くまで部活、ということができない。
いつでも部活を抜けられる、もしくは終了時間が早い部活でなければいけないのだ。
そんな都合のいい部活は、果たしてあるのだろうか。
でも、部活には入りたい。
いっそ、部活を作ってみてもいいかもな。
というか、哉はどの部活に入るつもりなんだろう。
「お前は、何部に入るつもりなんだ?」
俺は帰宅準備を続けながら、そう聞いてみる。
「決めてない!」
哉は、自信満々な顔でそう言った。
物凄い決め顔だ。
これが漫画なら、顔の隣に『キリッ』という文字が出そうだ。
彼のどこに自信があってあんな顔をするのだろう。
でもそうか......
哉も決めてないのか。
早く、いい部活を見つけてほしいものだな。
そして、楽しんでくれ。
俺は心の中でそう思う。
彼の部活について、俺がどうこう言うもんじゃない。
入りたい部活は自分で決めるべきだ。
誰かが入るからという理由で始めた部活は長続きしない。
部活に、一度も入ったことの無い俺はそう思う。
多分、当たっていると思う。
「ん?」
俺はそこで、あることに気づいた。
ふと哉を見ると、どうやら彼も気づいたらしい。
何に気づいたのか。
それは、俺の机のすぐ隣にいる男。
テーブルに両手をかけて、中腰で俺たちを見ている男にだ。
その男は、目を輝かせて、俺たちを見ている。
「あっ、どもども
気にせずに、会話を続けてください」
そうか、じゃぁ。
とはならないだろう。
こんなに見られているのに、気にしないなんて不可能だろう。
いや、もしかすると無理じゃないのかもしれない。
哉を見ろ。
平然としている。
こんなに怪しい奴を隣にしてもだ。
普通なら、ギンギラな目で自分を見てくる奴を気にしないなんて、できないと思うんだけどな。
俺たちを見てくる彼の目は、ビームでも出るんじゃないかと思えるほどに見開かれている。
その目は、オッドアイのように左右で色が違う。
赤黒い、透き通った左目。
黄色を通り越して、金色手前の右目。
その右目は、少し気持ち悪い。
確かに綺麗な目なのだが、黒い瞳孔が、カメラレンズのように動いている。
瞳孔は、明るさなどによって大きさが変わったりするが、そんなもんじゃない。
効果音を付けるなら『ウィーン、カシャ』みたいな感じだ。
「お前、誰だ?」
俺は耐えられなくなり、そんなことを聞いてしまう。
気にしないなんて、不可能だった。
気になってしょうがない。
「牧田倫太郎
みんなにはリンと呼ばれているよ」
そう答える彼の目は、俺の方を向いていない。
哉の方も向いていない。
ちょうど、俺と哉の中点あたりを見ている。
俺たち二人を同時に見るように、牧田は空間を見ている。
「「「......」」」
三人とも黙ってしまった。
俺が、教科書を鞄に入れる音がよく聞こえる。
俺の片付けも、もう終わる。
これが終われば、遠くから聞こえる生徒の喋り声しか聞こえないのだろうか。
「あれ、話さないの?」
牧田がそう言った。
おいおい、誰のせいでこうなってると思うんだ。
君のせいだぞ。
心中そう思いながら牧田を見ると、彼の金色の右目があっとゆう間に左目と同じ色になってしまった。
金色の瞳が、外側からすーっと赤黒くなっていく。
金から黒混じりの赤色になっても、綺麗という感想は変わらない。
両目とも、透き通っている。
今まで、彼の目についてだけ触れてきたが、綺麗なのは目だけではない。
見た目も、一言でいえば爽やかイケメンだ。
白いばってんのヘヤピンで横髪を抑えていて、人によればどこか気障っぽいとすら思えるような髪型ですらしっくりくる。
その髪型を、我がものにしている。
そのヘアピン、何を留めているんだ。
特に何も留めてないのだろう。
要はオシャレってやつだな。
似合っているから何とも言えない。
神様といい、こいつといい......
どうして俺の周りにはイケメンばかり集まってくるんだ。
哉だって、彼らほどではないがイケメンだ。
宙がドが付くほどの美少女だから、俺もそれほど悪くないのでは?と思っていたが、自信が無くなってくる。
こんなイケメンに囲まれたフツメン元ボッチは、どうすればいいんだ?
この面々と仲良さげに話していると、彼らの熱烈なファンから「何あいつ、フツメンのくせに生意気」とか言われそうな気がしてくる。
言われなくても、思われそうな気がする。
不安になってくる。
あーあー。
俺は、心の中で耳を塞ぐ。
このことは、あまり考えないようにしよう。
こんなこと考えていても、何の役にも立たない。何の進展も期待できない。
それに何より、俺の精神が持たない。
出来るだけ、考えないようにしよう。
とまぁ、話を戻そう。
どうして話さないのか、だって?
「お前が気になってそれどころじゃない」
当然だろう。
だがしかし、牧田は不思議そうな顔をしている。
よく分かってないと言った顔だ。
「名前は言ったよ?」
ほらな。
やっぱり分かっていなかった。
「いや、そういうことじゃなくて......」
そう言おうと思ったのだが、俺より先に哉が言ってしまった。
俺が言おうと思っていた言葉を、哉がそっくりそのまま言ってしまった。
でもまぁ、当然そうなるだろう。
俺たちは急に現れたこいつが気になって話せないのだ。
別に、名前が気になっているからではない。
こいつ、爽やかイケメンに加え天然要素まで持っているのか。
なんて羨ましい。
そのイケメン面、半分分けてほしい。
「じゃぁ、何?」
牧田は相変わらず何も分かっていないような、きょとんとした顔をしている。
「なんでここにいるんだ?」
次に口を開いたのは俺だ。
いくつかある牧田に関する疑問の一つを彼にぶつけた。
どうして目の色が変わるのかとか、いつからここにいたのかとか、他にも聞きたいことはあるが一番はこれだ。
なぜ、一切関わりのなかった牧田が、俺たちの隣に平然と座っているのかが気になって仕方がない。
確かに目の色が変わるのも気になるが、どうせ能力なのだろう。
能力、か。
何の能力なのだろう。
これも気になってきたな。
まぁ、能力については教えてもらえない時がある。
俺は未だに、遠坂の能力を知らない。
「仲良くなったら」と言っていたことから、教えてもらうにはもっと仲良くならなければいけないのだろう。
別に、特別知りたいというわけではない。
知れるなら知りたい、というくらいだ。
おっと、少し話がずれたな。
まぁ、あれだ。
このことから、俺が言いたいことは、能力を聞いたところで教えてくれるとは限らない。
ということだ。
「僕は新聞部なんだ
期待の新人転校生二人は、少し記事になりそうだったからね
近づかせてもらったんだよ」
俺がそんなことを考えていると、牧田が質問の答えを口にした。
なんて部活熱心なんだろう。
尊敬しちゃう!
早くかつ軽く終われる部活がいいなんて思ってた、どこかの誰かさんとは大違いだ。
俺も見習わないとな。
でもバイトがあるからどうしようもない。
こんな中途半端な気持ちで部活に入るのなら、入らない方がいいのかな......
それにしても、記事になりそうだから近づいた、か。
正直でよろしい。
変に言い訳されても、モヤモヤするだけだ。
こうして、ストレートに本性を明かしてくれた方がいい。
そっちの方が好印象を持てるというものだ。
そうか、記事になりそうだから近づいたのか。
俺と哉の、何部に入るか雑談なんて、記事になるのだろうか。
いや、そこは新聞部の腕の見せ所。
何とかするのだろう。
いやいや、よく良く考えれば彼は「あれ、話さないの?」と言っていた。
ということは、まだネタが足りないのだろうか。
俺がそんなことを考えている視界の隅で、牧田もまた、何かを考えるように顎に手を当てていた。
そして数秒後、何かに納得したように一度こくりと頷き、俺たちを見た。
「ありがとう
もう、これでネタは十分だよ」
えっ?
こんだけのネタで新聞が作れるの?
所詮学校の新聞。
小さくてもいいとはいえ、これだけで記事が作れるのだろうか。
でも彼は、これで十分、と言った。
たったこれだけの情報で新聞が作れるなんて、俺にはまったくビジョンが見えない。
さすが新聞部だな。
「そうか......
俺は哉かづk......」
「知ってるよ」
少しでも、新聞のネタが多いほうが良いと思ったのだろうか。
哉は名前を言おうとした。
が、それを牧田はたった一言で遮る。
その後哉を指さしながら、付け足すように、証明するように、彼は続けた。
「君は哉伽月君
住紳地区南西部
かみの壮という小さなアパートに住んでいる
TUNAYAという漫画レンタルショップでバイトをしていて、そこそこ良い生活をしている
今現在、お隣さんの同年代女性と少しいい感じになりそうで浮かれている
今日なんて、お弁当を作ってもらえて「もしかして俺のこと好きなんじゃ」とか思っている
あと......」
「ちょ、ちょっと待て
それ以上言うな」
牧田が得意げに話し始めたところで、それを哉が止めた。
とても慌てていた。
なんていうか......
あわあわしている。
きっと、牧田が言ってたことのほとんどが当たっているのだろう。
そう言えば、哉の昼食は弁当だった。
いつもは食堂のとんかつ定食なのに。
恐ろしいな、新聞部。
「そうか......
じゃぁ......」
そう言って牧田は俺に指を向ける。
嫌な予感がする。
「君は佐々木翔琉君
住紳地区南東部
丘上崖の上、噂の新築に、妹と二人で住んでいる
兄妹で転生とは強運だね
今はジェイフリーでバイトしていて、いつも鷲宮明香さんと二人で帰っている
彼女の胸が気になりつつも見てはいけないと、日々葛藤している
それと、数日前に噂になった汚い......」
「おい、それ以上話すな」
俺は牧田の言葉を止めつつ、もう少し早く止めるべきだったと後悔する。
というかこいつどこからその情報を手に入れたんだ。
恐ろしい。
本当に恐ろしい。
俺についての話しを聞いた哉は、なぜか鷲宮に興味を持ったようだ。
「お前が気になるほどのすごいものを持っているのか!」とか、興奮気味に聞いてくる。
ちょっと気持ち悪いな。
ということで、哉は無視。
俺も、鷲宮にそう思われてるんだろうか。
なんだか悲しいな。
でも自業自得だ。
呪うなら、自分を呪え。
二人に話を遮られた牧田は、どこか不満げだ。
しかしその不満そうな顔も、少しすれば元に戻り、牧田は「じゃぁ」と言って立ち上がった。
そして俺たちに手を振りながら遠ざかっていく。
「じゃあね
いい写真が撮れたよ
僕のクラスは2-3
隣のクラスだから、困ったことがあったらいつでも聞きに来てね
バイバーイ」
そう言って教室から出て行った。
写真?
あいつカメラなんて持ってたか?
それらしきものすら持ってなかった気がする。
撮影なんて出来ているのだろうか。
そこで俺は、牧田の瞳を思い出す。
あっ、能力か。
きっと、あの特殊な目で見た風景を写真化できる的な『現像』みたいな名前の能力だろう。
と、俺がそう考えていると、牧田が扉から顔をのぞかせるようにして帰って来た。
「明日、たくさんの人が君たちの元に来ると思うから覚悟しておいてね」
それだけ言い残して再度どこかへ行ってしまった。
明日?
覚悟?
よくわからないな。




