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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第三章 『異世界学校』
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第二十四話 『日常+α』

 朝の五時。

 まだ太陽も上がりきっていない早朝。


 俺は庭で刀を振っていた。

 ずっしりとした木刀を、『ヒュン』と音を立てて振り回していた。


 最近では、かなり能力を使うのに慣れ、普通に能力を使うのでは物足りなくなってきた。

 なので、能力で作った水人形相手に木刀を振っている。

 能力と剣術を同時に使うので、かなりの集中力を消耗する。


 今は、水人形三体VS俺一人で模擬戦をしている。

 数体の水人形くらいなら、刀を振りながらでも操れるようになったのだ。

 今までの訓練の成果だ。


 俺の水人形は優秀。

 なんと、人形を通して、五感のうち視覚と聴覚を共有することができる。

 それは、自然にできるのだ。水人形を作ると、自動的にコネクトされる。

 それにより、現在俺の頭には水人形三体(プラス)俺、計四つの視界が見えている。


 聴覚については、四方向からまったく同じ音が聞こえるだけだからあまり気にならない。

 しかし、視覚となればそうはいかない。

 始めのうちは、気持ち悪くてしょうがなかった。

 一度に四つの視界が重なって見えるのだ。

 当然だろう。


 それも毎日の練習の成果もあって、だいぶ慣れてきた。

 こうして、三体同時に動かせるほどになった。

 とはいえ、慣れてきただけで気持ち悪いのには変わりないのだがな。


 三体の水人形は、どれもマネキンのような見た目をしている。

 形状にこだわらないことで、より良い性能を引き出せるようにしているのだ。

 より良い性能を引き出すことで、より良い訓練ができるのだ。



 水人形の一体が、俺に向かって物凄いスピードで迫ってくる。

 本気の上段突きが飛んでくる。

 それを、左膝前に木刀を構えつつ、体制を低くして回避する。

 そのまま、構えた木刀を、右斜め上に振り上げる。

 一瞬の一太刀。

 その一撃は水人形に直撃する。


 木刀が脇腹に直撃した水人形は、右横腹から左横腹へと、木刀が貫通してから若干のタイムラグを作ってはじけ飛ぶ。

 無数の水しぶきとなり、形を失う。


 次だ。

 雨のように降り注ぐ水しぶきの中で、地を蹴って走り出す。

 俺に向かってくる水人形は、水生棒(アクアスティック)を持っている。

 水生棒とは、文字通り、水で生成された剣サイズの棒。


 棒であるため、当たっても死にはしない。

 だが、かなり痛い。

 通常でも、『ペチン』と叩かれたような、後からヒリヒリしてくるような痛みが走るのだ。

 まして、その水生棒を使っているのは、俺の作った水人形だ。


 馬鹿力の水人形。

 どんな家具でも軽々と持ち上げてしまうほどだ。

 そんな水人形のフルスイング。

 素材が水だろうと、骨折は免れない。

 登校前に骨折なんて冗談じゃない。


 一応、治癒系の魔法陣もあるが、骨折を一瞬で治せるほど万能じゃない。

 せいぜい、深い傷を治せるくらい。

 骨折以上のケガも、まったく治癒できないわけではない。

 しかし、完全治癒は不可能なのだ。

 さらに残念なのが、同じ傷に、治癒魔法陣の重ね掛けはできない。

 魔法陣が消費されるだけで、効果はない。

 言わば、強化版絆創膏みたいなもんだ。

 病院に行けは治癒系の能力者もいるが、早朝からお世話になるのもな。

 とまぁそんな理由もあって、あの水生棒をまともに食らってはいけない。



 水人形は、走りながら腰あたりに水生棒を構える。


 俺は右足で急ブレーキを入れる。

 『ザザー』っと音を立てて、地を抉る。

 右足首を進行方向に対し、垂直向きに捻っている。

 足首を捻らせている右足で立つことで、自然に体が90度回転する。


 ぶつかりそうになる水生棒を、体を地面と平行にして避ける。

 水平にした体のまま、水人形の首元に左足で上段蹴りを入れる。


 水人形は頭を先頭に、バトミントンの羽のように放物線上に飛んでいく。

 飛んで行っている方向から、残りの水人形が走ってきている。


 俺は、蹴りを入れた左足を地に着け、少し右足を前にして、しっかりと両足で立っている。

 木刀を、左手で作った鞘(手を丸めただけ)に、納刀する。

 木刀を親指に擦らせながら遠ざけ、剣先が鞘の縁に達してから、鞘の中に『スゥー』っと。

 その刀を引き寄せる動作に合わせ、地面を撫でるようにして右足を左足に近づける。


 納刀しきった直後。

 俺は『ふわっ』っと、脱力したように若干前傾姿勢で、重心を落とす。

 両足は地に着いたままだ。

 地に足を着けたまま、低い姿勢に落下する。


 ある程度、体制を落としてから、両足に力を入れる。

 『ゴン』という音と共に地面が抉れる。

 赤茶色の土が、明るい色の土から現れた時には、その場所から俺の体は消えていた。


 『速撃迅斬(そくげきじんざん)

 この技の名前。

 俺が師匠と謳っている人に教えてもらった、いくつかの奥義の内一つ。

 玄名流(げんめいりゅう)奥義『速撃迅斬』。

 速度にすべてを注いだ技だ。


 この技に続く行動など、考えてもいない技。

 次に繋げにくい技だ。

 だが、後のことを捨てたこの技は、かなりのスピードが出る。

 普通に走るのとは、段違いのスピードだ。


 神様のように、音速を超えるスピードには遠く及ばないが、一瞬だけなら目で追えないほどの超スピードを出すことができる。

 故に、速撃斬撃。



 体が風を切り裂き、『ゴォー』という音が聞こえる。

 あっという間に、放物線を描く水人形を追い越し、一瞬にして最後の水人形を両断する。

 その水人形も、例に習って爆発する。


 元水人形の、四散した水しぶきを浴びつつ、背後から飛んでくる水人形も、振り返りざまに両断する。

 最後に切られた水人形は、二つになったまま飛んでいく。

 が、地面に落ちる前に爆発。

 これで、全部片づけた。


 とりあえず、訓練はこれで終わり。

 風呂に入って、朝食を作って、宙を起こして。

 一緒にご飯を食べて、準備をして、学校へ行く。


 学校二日目。

 昨日ほどの緊張はない。

 今日も平和な学校生活が送れますように......



 ---



 

『キーンコーンカーンコーン』


 二限目終了の鐘が鳴る。

 二限目は数学の授業。

 だが、今年の数学教師が新任だとゆうこともあり、今日の授業はその先生の自己紹介で終わった。

 なぜ、たった一人の自己紹介で50分の授業を、まるまる使い切れるのか、分からない。

 クラスメイトの数人は伏せて睡眠をとる生徒もいた。

 どうしてそんな、明らかに聞いていない人がいる中で、あんなに話せるのだろう。

 聞かれていない分、気が楽になるのだろうか。

 俺はそうは思わない。


 ちなみに、俺は寝ていた側だ。

 おかげで数学男性教師の名前や好きな食べ物、最近あったことなど、何一つ聞いていない。

 なんだか授業のはじめの方、数学とはなんなのかとかめんどくさそうな話をしていた気がするけど、うる覚えだ。


 子守唄代わりに聞いていた彼の声は、優しい口調だった。

 優しい声と、関わりやすこうなフレンドリー感を掛け持ったイケメン教師。

 生徒の人気を集めそうな先生だ。

 主に女子生徒から。


 友達のような先生になりそうだ。

 うちの担任みたいに。


 ただ、この男教師はフレンドリーな感じで、うちの担任はおっちょこちょいで可愛らしいという感じで。

 先生に可愛らしいなんて言うのは失礼かもしれないが、本当なのだからしょうがない。

 あの先生はうっかり屋さんなのだ。

 しっかりしようと、心がけてはいるようだが、うまくいっていない。

 しかしそこが、生徒にとって親しみやすいポイントなのだろう。


 だから、数学教師は担任先生とは違う。



 そんな数学教師は、もうどこかへ行ってしまった。

 教室は、少しづつ騒がしくなっていく。


 俺がこうして先生たちのことを、○○先生、みたいに言わないのは、当然名前を覚えてないからだ。

 この学校に来てから、人の名前はしっかり覚えようと思っていたのに、結局ほとんど覚えてない。

 この学校に来てから覚えた名前と言えば、哉だけだ。

 遠坂の名前は、もともと覚えていたからな。


 結局のところ、俺が人の自己紹介を聞かないのは、癖みたいなものなのだ。

 何年も人の名前など聞いていなかった。

 新しい知人を作るということもしてこなかった。

 そんなこともあり、俺からは『人の名前を覚える』という習慣が抜け落ちてしまっているのだろう。


 その習慣を、改め直さなければならない。

 頭ではそう思っているが、実際にはそううまくいかない。

 悪い習慣というのは恐ろしいものだ。

 なかなか、抜け落ちてくれない。

 いつまでも、残り続け、本人を蝕む。


 逆に、いい習慣というのは、気を抜くとすぐに向け落ちてしまう。

 こう、スルッとあっけなく......

 厄介なもんだ。



 っと、そんなことを考えていた時。

 一人の男が近づいてきた。

 うつ伏せで寝ている俺に。

 無論、今回も本当に寝ているわけじゃない。寝たふりだ。

 授業中に、熟睡したのだ。

 ただでさえ、休み時間には睡眠を取りにくい。

 寝れるわけがない。


 授業中には寝られるのに、休み時間には寝れない。

 不思議なもんだな。


 俺に近づいて来る男は、この学校に来てから唯一名前を覚えた人。

 哉だ。


 哉は、寝ている俺を、急に起こして驚かそうとしているのだろうか。

 ニコニコ笑顔で近づいて来る。

 別に忍び足とゆうわけではないが、ゆっくりと。


「わっ!!」


 予想通り、驚かされた。

 両肩を揺さぶられた。

 こう、ゆっさゆっさと......


 あらかじめ、驚かされるのが分かっていたせいで、まったく驚かなかった。

 残念だったな、哉よ。


 とまぁ、起こされたので、仕方なく起きようとする。


「起きろ~!!」


 哉は、俺がまだ寝ていると思っているのだろう。

 ずっと揺さぶって起こそうとしている。


 お、起きてるよ。

 そんなに揺さぶられたら、起きていても起き上がれないじゃないか。

 『あうあう』という間抜けな音が、俺の口からこぼれ出る。


「起きてる。起きてるから、揺さぶるな!」


 俺は、『あうあう』なりながらそう訴える。

 これをずっと続けられていたら、酔ってしまいそうだ。


「起きてたのか。いつからだ」

「最初からだ」

「俺が起こした時か。起きたなら起きたって言えよな」

「お前に起こされる前からだ」


 そう言うと、哉は驚きと疑問が混ざったような顔をする。


「えっ?寝てたじゃん!」

「お前は、もう少し休み時間に寝てるやつについて知った方がいいぞ」

「そうか......」


 納得したようなことを言っているが、あんまり分かってないのだろう。

 「いや、寝てたじゃん」とか思ってそうだ。


「で、何の用だ?」


 わざわざ、気持ちよく寝ていた(ふりをしている)奴を起こしたのだ。

 何か理由があるんだろ?

 そうだろ?


「いや、別に用はないけど?」


 俺の疑問を、疑問で返されてしまった。

 なんてこった。

 なんの理由もないのに、俺の睡眠を邪魔したというのか。

 まぁ、寝てないからいいんだけど。

 例え、寝てたとしてもいいんだけど。

 でも、『あうあう』させるのはやめてほしい。


「そうだ!」


 哉は、何か思いついたようだ。

 起こされた時より、この唐突な「そうだ!」のほうが驚いてしまう。

 それほど大きい声ではなかったはずだ。

 しかし、タイミングが悪かった。


 人にはそれぞれのリズムが存在する。

 そのリズムのせいで、小さなことに驚いてしまうことがある。

 きっと、そのせいだろう。


「今日の昼休み、食堂行こうぜ!!」


 物凄いことを思いついた、みたいな顔をしていた哉だったが、聞いてみると普通の提案だった。

 だが、俺は弁当を持ってきている。

 食堂に行く必要は無いのだ。


「悪い、俺、弁当持ってきてるんだ」

「そうか......じゃぁ、食堂で一緒に弁当食おうぜ」


 あれ?俺は食堂には行かないという意味で、ああ言ったんだがな。

 哉は、少し違う解釈をしたようだ。


「いや、食堂には行かないよ」

「なんでだよ

 あっ、もしかして先客がいたのか?

 それは悪かったな。また今度一緒に食べようぜ」

「先客?

 いるわけないじゃないか」


 そう、先客なんているはずない。

 一緒に昼食を食べるような友達なんているわけないじゃないか。

 悲しいことだ。

 俺はこの教室で一人。

 一番隅っこの席で一人。

 本望ではないが、結構浮いてしまっている。


「じゃぁ、なんでダメなんだ?

 嫌なのか?」

「別に、嫌なわけではないが......」

「じゃぁ、一緒に食べれるじゃんか

 昼休み、食堂で待ってるからな」


 哉は、手をヒラヒラと振りながら去ってゆく。

 まったく、勝手なやつだ。


 まぁ、一緒に食べるくらいいいか。

 どうせ、今日だけだろう。

 転校生は珍しがられるからな。


 あいつもその転校生だが、既にクラスに溶け込んでいる。

 「もう一人の転校生は、どんな奴なのかな」とでも思って、俺に近づいたのだろう。



 そう思って昼休み、俺は食堂へと向かった。




 ―――翌日―――




 3~4限間休み時間。


「翔琉

 今日の昼も、一緒に食おうぜ」

「今日もか?」

「おうよ!」


 どうしてこいつは、いつも自信満々なんだろう。

 その自信、どこから湧き出てくるのだろうか。

 俺にも分けてほしい。


 その、いつも元気な男。

 転校してすぐだというのに、クラス内に溶け込んだ男。

 クラス内ヒエラルキー上位に君臨する男。

 哉。

 こいつのコミュ力には、尊敬させられるよ。


「俺、今日は......」


 俺が、否定しようとしたとき、哉は「じゃぁ、食堂で待ってるからな!」と言って、どこかに行ってしまっていた。

 まぁ、拒否する理由もないからいいんだけどね。


 でも、上位ヒエラルキーの人と仲良くするのは避けたい。

 「お前ごときが」とか言って、のけ者にされるかもしれない。

 はぁ......

 思わずため息が出てしまう。




 ―――そのまた翌日―――




 昼休み


 俺は誰も通らない階段で、持ってきた弁当を食べていた。

 おかず、白米、と順番に。

 一人で黙々と。


「あー、ここにいたぁ!!」


 そう叫んだのは哉だった。

 彼は、誰も来ないような階段で大声を出す。

 それを、うるさいと感じた俺は耳を両手で塞ぐ。


 ここの階段は屋上に続いている。

 屋上に続く階段は各校舎に一か所づつ。

 だが、第二校舎――実技実習校舎である、ここの屋上は立ち入り禁止。

 この第二校舎の、屋上に続く階段なんて、誰も利用しないのだ。

 なのに、なぜこんなとこに来るんだよ。


 叫んだ哉は、コンビニかどこかで買ってきたであろうパンを持って、俺の隣に座る。


 ここまで来ても、追いかけて来られるんなら、どこに行っても無駄だろうな。

 こいつは、どうしてここまで俺と飯を食いたがるんだ?

 他の奴と食えばいいだろ......

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