表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第三章 『異世界学校』
22/158

第二十二話 『営業スマイル鷲宮ちゃん』

 全員の自己紹介が終わった。

 

 遠坂から先の自己紹介は全て聞いた。

 だが、そのほとんどを覚えていない。

 覚えているのは、哉の自己紹介くらいだ。

 彼の話を、初めてしっかりと聞いたが、やはりコミュ力がある。

 いや、あるなんでもんじゃない。

 コミュ力才能が爆発している。


 あの微妙にアホそうな話し方は、なぜか接しやすさ、近づきやすさを感じさせる。

 わざとそういう話し方をしているのか、普通に話してあれなのか。

 普通に話してあれなら、ちょっとかわいそうだ。



 まぁ、そんなことがあって地獄の自己紹介タイムが終わった。

 その後に先生の雑談を聞いた。

 今年こそは結婚したいとか、お金が欲しいとか、そういう個人的な雑談を。


 そんな雑談を聞いていると、チャイムが鳴った。終わりを告げるチャイムだ。

 今日はHRが終われば即帰宅。

 俺は荷物を鞄に詰め込み、すぐさま学校を出た。



 というわけで、今は放課後。


 放課後、俺が向かう場所と言ったら一つしかない。

 バイトだ。

 家で、ゆっくりしたいところだが、バイトが入っている。


 俺は家のため妹のため、金を稼がなければならない。

 俺はもう金食い虫にはならないと決めたのだ。

 硬く硬く、心の中で誓ったのだ。


 俺は足速に学校を出て、帰路につく。


 校門を一番乗りで抜け、坂を下り、いくつかの曲がり道を無視して、丘を登る。


 家に着いた。

 学校と俺の家は、然程離れていない。

 数分歩けば着く距離だ。


 家に帰り、一度風呂に入る。

 別に汗をかいている訳では無いが、何となくだ。

 風呂のお湯で、疲れを洗い落とす。


 風呂から上がり、服を着替えて荷物をまとめる。


 この世界には、電話とかいう便利ツールはない。


『バイトに行ってきます

 九時くらいまでかかります』


 家の壁に埋め込まれているホワイトボードの伝言板に、そう残して玄関を出る。


 右に行けばさっき登ってきた緩やかな坂道で、安全に降りることができる。

 だが、その坂道とバイト先は逆方向。

 かなり遠回りになってしまうのだ。


 遠回りは嫌なので、俺は左側に向かう。

 左側には崖がある。

 15メートルほどの崖が。


 俺はそこまで歩み寄って、ひょいッと飛び降りる。

 『彼は特別な訓練を受けています』とかいうテロップが左下に出そうな光景。

 正解だ。

 俺は特別な訓練を受けている。

 20メートルくらいなら飛び降りても衝撃を受け流すことができるのだ。

 こう、前転するように転がって。

 この技はパルクールの技だ。

 もしかすると、30メートルまでなら大丈夫かもしれない。

 試したことはないが、そんな気がする。


 ちなみにパルクールは独学だ。

 俺の師匠とも呼べる人は、多くのスポーツやほとんどの武道、はたまた、昔から伝わる抜刀術の各流派など、数多くのことに精通していた超人だったが、パルクールは専門外だった。

 一人で外に出て飛び回り、よくケガをしたものだ。

 師匠は、ケガだらけで帰ってきた俺を見て驚いていたこともあった。

 小学生のやんちゃボーイみたいなエピソードだが、この出来事は一昨年のものだ。


 泥だらけ、ケガだらけで帰ってくる男の子。

 とても元気そうで微笑ましいですね。

 どうも、元引きこもりクズニートです。


 とまぁ、一人で練習した甲斐もあって、俺はパルクールが出来るようになったのだ。

 そんなわけで、俺は今落ちている。


 スタッと着地して、前転で衝撃を逃がす。


 おっと、今からバイトだというのに服が汚れてしまった。

 まぁ、今着ているのは制服ではないから汚れてもいいんだが。

 汚れた服で街を出歩くのはちょっとな。

 今の俺は、一般的な高校生。

 最近の高校生はオシャレに敏感だからな。

 汚れたまま出歩くことはないのだ。


 軽く汚れを払って歩き出す。


 崖の下は少し開けた土地があり、それからすぐに森林になる。

 背の高い木々が点々と立っており、緑が多い森林だ。

 木々の間には、高くはないが低くもない草がビッシリと生えている。


 そんな草木を押しのけるように通っている、一本の土の道。

 この世界に車があれば、通れるだろうほどの横幅だ。

 だが、すれ違えるほどではない。

 一台ギリギリ通れるくらいだ。


 俺は、そこを道なりに歩く。


 この森林はそれほど大きくない。

 少しの間歩いていれば、すぐに出られるだろう大きさ。

 聞き心地の良い鳥のさえずりが、四方八方からまばらに聞こえてくる。


 そんな森林を抜ければ、大きな公園に出る。

 この公園は広いが、特に何もない。

 ただただ、緑の芝生が広がる公園だ。


 その広場は、人工的に植えられた照葉樹で囲まれている。

 緑いっぱいの公園。

 この公園の名前は「みどり公園」

 みどりがいっぱいで「みどり公園」

 安直だ。


 遊具なんてない、ただ広いだけの公園だが、子供から大人まで、幅広い年齢層が集まっている。。

 外周には小道があり、そこを走っている人もたくさんいる。

 実はたまに、俺も走ることがある。


 いや、そんなこと今はどうでもいい。

 この公園を抜ければ、整備された道に出る。


 いくつかの曲がり角を、曲がったり無視したりして、バイト先にたどり着く。

 家からバイト先までは、学校までの距離よりは遠い。

 だが、徒歩で辛い距離ではない。


 バイト先についた。

 裏口をためらいなく開ける。


「こんにちはー」


 入室ではなく、昼のあいさつをする。

 掃除道具などが、雑に置かれている廊下を抜けてロッカールームに入る。

 誰もいなかった。

 誰もいなかったが、いくつかのロッカーは使われている。

 誰もいないわけではないようだ。


 当然だろう。

 ここは店。さらに昼時。

 人がいないわけないだろう。


 人がいないのではなく、すでに働いているのだ。

 俺も、早く働かないとな。


 俺は、早着替えをして、ウェイター姿になる。

 急いでみんなのいる仕事場へと向かう。

 店長がいた。


「かけちゃん!

 いい所に来た

 よんちゃん、手伝ってあげて」

「はい、わかりました」


 もとより、そのつもりだ。

 俺はホールへと急ぐ。

 急ぐとは言っても、そんなに遠くはない。

 腰の高さまでしかないウェスタン扉を押し開ければすぐだ。


 ウェイトレス姿の鷲宮が、頑張っているのが見えた。

 俺より早く来て頑張っているみたいだ。


 手伝わないとな。

 俺は出来上がっている料理をトレンチ(お盆)に乗せて運ぶ。

 鷲宮も、俺が運びきれなかった料理を運んでいる。



 この世界の接客業は、なぜか能力を使わないように営業している。

 しかしこのジェイフリーは、その常識にとらわれず、能力を駆使して営業しているのだ。


 それが鷲宮を「よんちゃん」と呼ぶ原因となっている。

 よんちゃんこと鷲宮明香の能力は『念力』

 二つまでなら、なんでも自由に操れるという能力だ。

 この能力により、彼女は一度に四枚のトレンチを同時に、安定して運ぶことが出来る。

 だから「よん()ちゃん」だ。



 能力を使う飲食店。

 ここには変わったメニューがいくつかある。


 『料理長小森(こもり)の皿の上ステーキ』

 『佐々木のお冷』

 『鷲宮スマイル』


 『料理長小森の皿の上ステーキ』というのは、小森さんの能力『加熱』で、普通のお皿の上にある肉を目の前で焼き上げる、というものだ。

 値段は1000円。

 サラダと白米付きで、ドリンクバーも付いてくる。

 だが何よりも、目の前でステーキが焼き上がっていくのが売りらしい。


 『佐々木のお冷』は俺が能力でコップに水を注ぐだけ。

 水の温度は好みに調節できるが、水を入れるだけで100円取るのは如何なものか。

 このメニューを店長から聞かされた時、こんなもの売れるわけないと思ったが、俺がここで働き始めて数日。

 もう既に何度か注文されているのが不思議でならない。


 『鷲宮スマイル』

 これは言葉通り、鷲宮がスマイルを提供するというものだ。

 もちろん、ほかの店員も営業スマイルで接客する。

 だが、鷲宮の全力スマイルは特別らしい。

 これを注文すれば、店員のスマイルで100円取られる。

 だがしかし、人気だ。

 特に男性団体客から。


『鷲宮スマイル』を注文したお客様方は、一人残らず満足気な表情をしていた。

 まったく。

 ただの笑顔になんの価値があるんだか。

 いくらかわいい子だからと言って、営業スマイルを見て満足できる気がしない。

 例えば、そうだな。

 可愛いといえば宙。

 宙の営業スマイルを見たところで俺は満足でき......ないこともない。

 うん。

 悪くない商売だ。


 営業スマイルをするだけでお金がもらえる鷲宮と、営業スマイルを見るだけで満足するお客様。

 ウィンウィンだ。

 何の問題もないだろう。



 能力を使えるからこその独特メニューがこの店にはある。

 俺はあらかじめそう聞いていたから、俺のメニューがあることに、さほど驚きはしなかった。

 驚きはしなかったのだが......


 俺は「能力を使えるからこその独特メニューがある」と聞いた。

 そう聞いていたのだ。

 鷲宮に関するメニュー、能力関係ないじゃん......

 大きな問題ではないが、気になってしまう。


 まぁ、何でも適当にやってしまいそうな、あの店長が考えたメニューだ。

 そう思うと、納得はできる。

 ここの店長は、そういう人だ。

 こんな適当なことを考えてしまうような人なのだ。

 しょうがない。



 俺はそんなことを考えながら、トレンチで料理を運ぶ。

 作り終わった料理が少なくなってきた。


 配膳の仕事のほかに、ウェイターがする仕事。

 それは、注文をとることだ。


『チーン』


 店員を呼ぶための呼び出しベルの音がする。


 この世界では、テーブルに取り付けられている呼び出しベルを使って店員に知らせる。

 だがそれだけでは、どこから音が鳴ったか分からなくなる時がある。

 それを防ぐため、席の隣で横になっている小さな赤い板が、ベルと連動して起き上がるようになっているのだ。

 店員は、それを見てどこからベルが鳴ったのかを確認する。


 まぁ、俺は耳がいいから、どこから鳴ったのか聞いただけでわかるんだけどね。

 俺は「えっ、なんだって?」みたいな、都合のいい時に耳悪い系主人公にはなれないのだ。



 いやいや、そんなことはどうでもいい。

 俺は音が聞こえた方向へと向かう。


 ベルが鳴った席まで来て、赤い板を倒してから接客を始める。


「ご注文をお伺いします」


 お客様は、俺を見てクスクスと笑っている。

 失礼な奴だな。

 人の姿を見て笑うもんじゃないぞ。


 窓際の席で、俺の姿を見て静かに笑う少女の顔には見覚えがある。

 ()()と思っているのがバレれば、彼女の剣幕は悪くなる。

 きっと、「少女」の「少」の部分が気に食わないのだろう。

 その黒髪ロングの少女は、未だ俺をチラチラと見て、クスクスと笑っている。

 こいつ、あんまり笑わないイメージだったんだが、意外と笑うらしい。


「あなた、その格好似合って無さすぎ

 変な格好ね」


 黒髪少女こと遠坂は、俺のウェイター姿を笑っているようだ。

 これが制服なんだ。

 俺のこの姿についてどうこう言われても、俺にはどうする事もできない。

 あと、似合わないからと言ってこの店の制服を悪く言わないで欲しい。


「ご注文をお伺いします」


 もう一度、()()()のご注文を聞く。

 遠坂が知り合いだからとはいえ、ここに長居はできない。

 それが仕事なんだ。

 それに今は昼時で、人手が足りない。

 長居なんてできたもんじゃない。


「ランチ定食をお願い

 あなた、なんでこんなとこにいるのよ」


 俺は手元の紙に注文を記す。


 慣れてきたのか、遠坂の笑いが治まってきた。

 なんでここにいるか、か。

 それはこっちのセリフなんだよなぁ

 いや、今は昼時なんだからファミレスで昼食を食べようという気持ちは分かるよ。

 でもここはファミレス。

 ファミリーレストランだ。

 そこに、ソロで訪れる気持ちが分からない。


 そう、遠坂は一人でファミレスに来ているのだ。

 この店の近くにはファーストフード店もある。

 そっちに行けばいいのに、なぜ一人でこっちに来たんだ。

 『ファミリー』なんて言葉が付く種類の店であるこっちに。

 何を考えているのだろう。


 まぁ、金を払ってくれるお客様だからいいんだが。


「ご注文を確認させていただきます

 ランチ定食が一つ、でお間違いないでしょうか」

「そうよ。それで、なんであなたはこk......」

「それでは少々お待ち下さい」


 俺は踵を返して、足速に厨房へ向かう。

 遠坂の質問は、完全に無視だ。

 あんな質問に、しかも知り合いの個人的な質問に、いちいち反応してたら怒られてしまう。

 主に鷲宮から、「早く次のオーダーをとってよ」、と。


 ただでさえ、こんな時にまで遠坂の相手はしたくない。

 彼女との会話は、一段と疲れるのだ。

 それに加え怒られるとなれば、「なぜここにいるのか」なんてくだらない質問に、答えてなんていられない。


 厨房の壁に着いているクリップで、遠坂の注文が書かれた紙を挟む。

 他にもたくさんのクリップに、オーダー用紙が挟まれている。

 これだけの量のオーダーを、素早く作らなければならないとは、料理人は大変だな。

 なぜこんなにお客様が多いのに、料理人が二人しかいないんだ。


 二人で、この量の料理を作り続ける料理人技術、俺にも伝授してほしい。

 俺も、素早くおいしい料理が作れるようになりたい。

 バイトが終わったら聞いてみようかな。


 俺はオーダー用紙を挟んだ後、出来上がった料理が置かれる棚を見た。

 すると、ちょうどハンバーグ定食のセットが置かれるところだった。

 その完成した料理の隣には、クリップから外されたオーダー用紙が置かれている。

 この紙で、この料理を運ぶ場所を確認し、トレンチに料理を乗せる。


 出来上がったばかりのハンバーグ定食を、家族できているお客様のテーブルに、落とさないよう気を付けながら運ぶ。


 周りを見ると、それぞれの席に2〜3人の家族や仲良しグループが座っている。

 とても楽しそうに、話しながら食べている人もいれば、注文を待っている人もいる。


 そんな集団の中、たった一人で座っている遠坂は少し浮いていた。

 窓際の席にちょこんと。

 あそこだけは、別の空間のようだ。


 恥ずかしくないのだろうか......

 俺だったら恥ずかしくて店を飛び出してしまいそうだ。


 もしかすると、彼女はアダマンタイト級の「心」を持っているのかもしれないな......

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ