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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第三章 『異世界学校』
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第十九話 『初代四神』

 朝。

 俺は校門の隣で、三角座りで待っていた。体操座りとも言う。

 まぁ、言い方なんてどうでもいいよな。

 とにかく、その座り方で門が開くまで待っていた。


 それほど長くはかからなかった。

 数分だ。


 第一校舎の中央。

 校舎一階の真ん中から一人の先生が眠たそうに出てきた。

 栗色くせっ毛ヘアの女性教師。

 身長はというと平均よりも少し低いくらいで小柄な女性だ。


 眠気のせいなのか、軽い酔っぱらいのようにふらふらとした足取りで校門に向かって歩いてくる。

 目も擦って大きな口を開けてあくびをしている。

 それを手で覆って隠す。


 その先生は、校門の前までやってきた。


 先生は校門に手をかけ、眠そうなまま力を入れて門を開ける。

 先生がけだるそうな顔のまま、重たそうな門を押す。

 門を開けている最中、その先生はふと俺の方に目を向けた。

 目が合う。


「きゃぁぁぁあ!」


 先生が悲鳴をあげた。


 俺はその悲鳴を浴びながら立ち上がる。

 綺麗なコンクリートに腰掛けていたとは言えども、おNEW(ニュー)の制服が汚れているかもしれない。

 俺はおしりの汚れを両手で叩く。


「おはようございます」

「お、おはようございます」


 先生は恐る恐る、こんな生徒うちにいたっけ?みたいな顔で挨拶を返してくる。


 大正解だ。

 こんな生徒、前までいなかった。

 俺は、任意教育初日のピカピカ高校二年生だ。


 いや、違うか。

 幼稚園は元気に通っていた。

 友達がいたかどうかは覚えていないが。



 先生はキョトン顔のまましばらく俺を見た後、「あー」と思い出したように納得のいった顔になる。

 今年は編入生がいたということを思い出したのだろう。


「おはようございます」


 なぜか、先生はもう一度挨拶をする。

 今度はぺこりとお辞儀をしながら。


 それにつられた俺も、もう一度おはようございますと言いつつお辞儀をする。


 変な空気になった。

 気まずいことは無い。

 だが、何とも言えない変な空気が漂う。


 誰が悪い訳でもない。

 互いに二回挨拶をしただけ。

 計四回の挨拶で、こんなに変な空気になるとは思ってもいなかった。

 不思議な現象である。

 言葉には力があると言うが、それはきっと本当なのだろう。


 これは、俺から何か喋った方がいいのだろうか。

 生徒と教師の距離はこんなものなのだろうか。

 俺には分からない。


 でも、アニメとかでよく見る先生は結構生徒との距離が近い気がする。

 なら何か話しかけた方がいいのかな。

 こう、ちょっと気軽な感じで。


 俺は、先生と話したことなどほとんど無い。

 誰か、先生とのお喋り方法を教えて。

 俺、わかんないよ。


「えっとぉ、佐々木翔琉君......ですよね......?」


 先生は自信なさそうに訪ねてくる。

 恐る恐る、探りを入れるように。

 そんなに怖がらなくてもよくない?


「そうです」

「ですよね......よかったです」


 何かが「よかった」ようだ。

 俺が佐々木翔琉じゃなかったら悪かったのかな。

 人の名前なんて、誰しも一回は間違えると思いますよ。

 俺なんて人の名前覚えられないですし。


 まぁ、遠坂だけは例外だけどな。

 ばっちり覚えている。

 だってあんな失礼......印象的な奴、忘れられるはずがない。


「ついてきてください」

「はい」


 先生は振り返った後、顔だけをこっちに向けてそう言った。

 どこに行くんだろう。

 学校探検かな。


 出来るなら一人でゆっくりとしたかったが、しょうがない。

 案内されるのも悪くないだろう。


 俺は名前も知らない先生についていく。

 俺は昇降口、先生は教員用出入り口から。

 それぞれ上履きに履き替えて校舎内に入る。


 俺専用の下駄箱があるなんてな。

 公共の施設に、俺専用の場所があるってことだ。

 なんだか感動しちゃうね。


 この第一校舎には試験の時にも入ったが、やはり綺麗だ。

 よくよく見れば汚れているところもあるが、新築のような綺麗さを残している。


 まだ早いせいか、廊下を歩く人は俺ら二人以外誰もいない。

 早朝の学校はなぜか少しだけ澄んで見える。


 これだけ広くてきれいな廊下で何の音も聞こえない。

 聞こえるのは俺と先生の足音のみ。

 それも、『コンコン』なんて気持ちのいい音ではない。

 シューズ特有の『ボスッボスッ』という音と、『キュッキュッ』という音が小さく鳴っている。



 第一校舎一階。

 そのうちの一か所。

 そこには、職員室と書かれた看板の付いた部屋がある。

 外から見てもそれなりに大きく見える。

 職員室から紹介されるのか?


 しかし先生は右手で部屋を指す。


「ここでゆっくりしていてください」


 先生が刺した部屋は職員室......ではなく隣の小さめな部屋。

 扉上の看板には小会議室と書かれている。

 小会議室から案内するとは変わってるな。


 いや違う。

 ゆっくりしていろ、と言われた。

 待ってろ、ということだ。


 どうやら学校案内はお預けらしい。

 ここで待てっていつまでだろう。

 聞いてみるか。


「いつまで待っていればいいですか」

「また呼びに来るのでその時までですね」

「分かりました」


 次に呼びに来るまでここで待ってろと。

 この長机とパイプ椅子しかないこの部屋でずっと。

 結構しんどそうです。


 そんなことお構い無しに先生が「では」と部屋を出ていく。


 鞄の中から本を取り出す。

 一人になった時のために持って来ていたのだ。

 これは一人になりがちだからな。

 前世もそうだった。


 いやぁ、本持って来ておいてよかった。

 もっとも、こういう状況を想定してではなかったが。



 ---



 俺が本を読むのが早いのか、かなり時間が経ったのか。

 集中して本を読んでいたら、もう少しで読み終わってしまいそうだ。


 今にも読み終わりそうなこの本。

 それは、俺にしては珍しくラノベでは無い。

 本当はラノベが読みたかったが、もやし生活の今週、ラノベを買い揃えれば怒られるだろう。


 この世界の本は、高いのだ。

 コピー機という名のハイパー便利マシーンが無いせいで、必然的に高くなる。

 ただでさえ値の張る本を、お金に余裕のない今全巻そろえようものなら当然怒られる。

 怒った時の宙は怖い。静かに怒るのだ。

 いつもは明るく楽しそうに話す彼女だが、本気で怒った時は一段と低い声になり、言葉に強弱をつけずに怒るのだ。

 しかも、なんの表情も読み取れない真顔で。

 いや、あれは真顔なんてもんじゃない。無だ。


 あの顔で、あのトーンで怒られた時には「同じことは二度としない」と本能的に誓うことになる。

 お金の使い過ぎなんかで怒らせるわけにはいかない。



 なら、俺は今何を読んでいるか。

 それはこの世界についての本だ。

 なぜこれを選んだのかは分からないが、この本が目に入ったので手に取って来てしまった。


 まぁこの世界については沢山知っておいた方がいいだろうし、問題は無い。

 むしろ良い。


 この本は教科書と一緒に買った物ではない。

 もともと家にあったのだ。

 宙に貰った本。


 この本を簡単に言うと、この世界の始まりについての本だ。

 内容はこう。



 もともとこの世界は魔獣で溢れかえっていた。

 そこに転生したのが今の北方神様。

 あのイケメンが、結界を張った。


 その結界は、魔が付く生物が外部から侵入するのを防ぐ結界。

 つまり、内側の魔物は排除しきれていなかったのだ。


 それからも、多数の転生者が魔獣の餌食になった。

 強力な能力を持たない者は、すぐに捕食される。


 この世界に来た者のほとんどはすぐに死んでしまう。

 すぐに死ななかったものも、時期に死ぬ。


 そうして、結界内は死体に溢れかえった。

 食い荒らされた、原形のない死体で。


 そこに現れたのが、後の初代四紳だ。


 その四人は担当区分を決め、次から次へと魔物を倒し少しづつ住める地域を広げていった。

 神国内の壁はその時にできたものだという。


 壁は土系の能力で作られている。

 能力で作られた壁が今もなお残っているのは、設置系の能力は魔力が固体化したものであるため術者が死んでも残り続けるからだ。


 結界内の魔獣を駆逐するのは、3年で終わった。

 初代四神は、たった3年という短い期間で魔獣を一匹残らず退治したのだ。


 こうして、居住可能地域は完全に完成し今の四神国がある。


 現在、この居住可能地域にいる魔物は突然変異とかダンジョンから出てくるとかそんなのらしい。

 そのため初期とは比べ物にならないくらい少ない。



 ということだ。


 今読んでいるところは、最後のまとめみたいな部分。

 この本の内容はすでに理解しているから、本来なら俺は読まないだろうが、暇なので読んでいる。


 すると『ガラガラ』と、扉が開いた。

 ようやく呼びに来たか。


「やあ、久しぶり」


 そこにはさっきの先生ではなく、現在唯一の初代四神がいた。


 何しに来たんだ。

 まぁ、この学校は彼のものだからここに彼がいてもおかしくはないのだが。

 でも、俺のところに顔を出す必要はないだろうに。


「何しに来たんだ」

「いや、ちゃんと編入してるかなと思ってね

 確認だよ、確認」


 神様の表情は、相変わらず忙しく動いている。

 全て笑顔の部類に入る表情だが、微妙に違う。

 少し不気味な笑顔から、明るい笑顔まで。

 誰も話していないときでさえコロコロと表情を変えている。



 確認か......

 俺はまだ信用されていないのかな。

 まぁ俺も、彼はいい奴だとは思っているが信用しているわけではないしな。

 信用していない奴から信用されるわけがない。


 魚心あれば水心というやつだ。

 少し違うな。いや、すこしどころじゃない。だいぶ違う。

 あの言葉は「相手が好意を示せば、自分も相手に好意を示す気になる」という意味だ。

 相手を信用しないということに、好意のかけらも感じない。


 今の状況とは、まったく逆の意味だ。

 なら何になるんだ?

 水心なければ魚心?

 これも違う気がする。

 まったく全然違う気がする。


 どういった言葉が適切なんだろう。

 どうでもいいか、そんなこと。



 俺は神様の言葉に苦笑いしか返せない。


 そんな俺のことは気にもせず、神様は「なんの本読んでるの?」と俺の手元をのぞき込んでくる。


 別に隠すようなことではない。

 本を畳み、神様に表紙を見せる。


「あーそれね

 そういう本、あまり信じない方がいいよ

 真実とズレていることが多い

 例えばここ」


 そう言って、神様は俺から本を取り上げてパラパラとめくり、あるページを指さす。


「魔獣を全て駆除した四人は人々を救ったから初代四神となったってあるけど、四人が生き残ったから四神になっただけ

 みんなから認められて四神になったみたいに書かれているけど、本当のところは勝手に名乗っただけなんだよね」


 神様は本当の歴史を俺に教えた。

 ありがたくはあるんだが、知りたくない歴史だった。

 神様は勝手に名乗ったことから始まったなんて知りたくなかった。

 もっと夢のある綺麗な歴史を信じていたかった。


 なんか生き残った四人が、自分から神様と名乗ってたらいつの間にかこの世界に定着して継承までされちゃったなんて、夢が無さすぎる。

 嘘でもいいから、人類を守った英雄が後に神様と呼ばれるようになったみたいな設定を貫いて欲しかった。



 それからも、神様は本当の過去を話始めた。

 聞きたくもない本当の過去を。

 その本当の過去というものはどれも夢がなかった。

 はじめは魔獣討伐にすら参加していなかっただの、初代四紳の中には、戦闘能力が無く他の人に任せっきりの人もいただの、そういうものだ。


 こういう過去は、小さい子供には言わないでほしい。

 こんな過去を知った子供の夢は、粉々に打ち砕かれるだろう。

 まだ、言ってないよね......


 そう思って神様を見る。

 能力で、人の心が読めるのだろう。

 彼は苦笑いをして目を逸らす。


 言ってないよね。ねっ!


 神様は目を逸らしたまま、小会議室を出て行った。


 あぁ、その子が気の毒だ。

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