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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第三章 『異世界学校』
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第十五話 『能力』

 「お帰り。おにぃ」


 彼女は、俺の妹は微笑んだ。

 俺も微笑む。


「ただいま」


 久々の帰還。

 久しぶりの妹。

 安心する。

 もう一度彼女に会えたことをうれしく思う。


 確かにこれは、シェアハウスじゃないな......

 神様が言っていた意味が分かった。


 俺と妹の目が合う。

 すると彼女は、すぐに目をそらした。

 恥ずかしかったのだろうか。

 かわいいもんだな。


「おにぃ」


 呼ばれた。

 かわいい妹に呼ばれてしまった。

 照れるなぁ......


 うちの妹は、かわいい。

 ひいき目に見なくてもかわいい。


 さらさら黒髪のセミロングに、小さめの体。

 若干釣り目、小さな口、黒い瞳。

 白い肌に、小さな手、細い首。

 胸は小さいが、それでいい。

 そこがいい。そこがかわいいのだ。


 俺の妹は、総合的に見てかわいい。

 もし彼女が妹じゃなかったら、俺は惚れてしまっていたかもしれない。


 こんな俺の妹を見て、かわいいと思わない奴はいないだろう。

 かわいいと思わない奴は、俺が力ずくで考えを改めなおしてあげよう。

 かわいい以外何も言えない体にしてやる。


「なんだい?」


 そんな妹に呼ばれたので、溢れ出んばかりの喜びを抑えつつ、返事をする。


「おにぃ汚い

 早くお風呂入ってきて。その後に髪切ってあげる。それが終わったらもう一回お風呂入って」

「俺、そんなに汚いですか?」

「うん」


 そっかぁ......

 お兄ちゃん汚いかぁ......


 まぁ、いい。

 それは俺も分かっている。

 風呂に入ろう。


 俺は、家に入った。

 いや、家へ帰った。


「土落としてから入ってね」

「はい」


 感動の再開と感動の帰還に水を差されてしまった。

 犯人は誰だ。

 俺の妹だ。

 かわいいので許します。

 かわいいは正義であります。


「ん?」


 家に入ろうとしたとき、俺はある違和感に気づいた。

 


 俺は念入りに土を払った後、家に入り風呂に入った。


 俺が立っていた場所。

 妹を見つけて走り出した場所。

 そこに何故か水溜まりがあったのだ。


 今日、雨降ってなかったよな。

 じゃぁなんで水溜まりが?


 昨日振った雨でできた水溜まりが乾いてないとか。

 いや、だとするとおかしい。

 俺は今日遠坂と共にかなりの距離歩いたと思うが、昨日雨が降ったと思えるような場所は一か所もなかった。


 なんなんだ、あれ。

 俺、嬉しさのあまり漏らしたか?

 うれションか?


 いやいやまさか。

 俺の股はそんなに緩くない。


 それに見たところ、あの水には何の不純物も混ざっていない。

 完全に水。

 アンモニア臭もしない。


「......!」


 俺は片手を前に出して広げた。

 そしてこの世界に来たばかりに見つけた噴水を思い出す。


 すると手のひらに、何か冷たいものが触れた。

 その後、手のひらからポタポタと透明な水が滴り始めた。


 水だ。


 直後、俺の頭の中にある二文字と無数のイメージが入り混んできた。

 俺は水に打たれたような感覚を覚る。


 文字は『統水』

 イメージは綺麗な水。


 その水は球のようになっていたり噴水のように吹き出していたり。

 無数の水が見える。

 イメージなんだろうが、本当に見ているように感じる。

 目の裏に映像が流れるような感覚。


 透き通っていて爽やか、綺麗としか出てこないような水が見える。


「はっ!」


 しかしそれは一瞬の出来事。

 俺の意識はすぐに現実へと引き戻された。


 だがその時の衝撃とイメージは消えない。

 今後絶対に忘れないと思えるほど、脳裏に焼き付いた。


「統水......」


 俺は自分の濡れた手を見てそう呟いた。


 俺は再度片手を前に広げる。

 そしてイメージ。

 さっき見た、水の球をイメージする。


 すると今度は手のひらではなくその少し前方、空中に水が湧き出てきた。

 その水は落ちることなく浮かび続け、手の前で集まり球状になる。

 イメージ通りに。


「これが......」


 俺がイメージをやめた途端、水球は『パシャン』と地面に落ちた。


「......」


 自分手を見て、なんとも言えない感覚を覚える。

 不思議で嬉しいようななんとも言えない感覚。


「これが能力か......」

 


 ---



 コツは必要だが、慣れてまえば案外簡単に能力を使うことが出来た。

 おそらく、『自分の能力に気づく』というのが能力を使えるようになるトリガーなのだ。

 多分、気づかなくても能力を使うことはできる。

 が、それは無意識的なもので、意識的な使用はできない、といったところだろう。


 どうやら、俺の能力『統水』は水を操作できるというものらしい。

 かくして俺は、能力者になったのだ。

 嬉しいね。

 心躍るね。


 初めての能力には心が高ぶる。

 この能力の可能性に、ワクワクが止まらない。


 初めての能力使用に感動していたら、妹に早く風呂に入るよう急かされてしまった。



 という事で、俺は今風呂に入っている。

 暖かい水滴の集合を、頭から受けている。


 既に、一度目の風呂に入り、髪も切ってもらった。

 髪を切って貰っている最中、能力の練習をしていたら、動くなと怒られてしまった。

 当然だろう。


 しかし、少しだけ練習出来たお陰で、だいぶ使えるようになった。

 コツもだいぶ掴めた。

 今では水の人形だって操れる。

 名付けて『水人形(アクアドール)


 厨二病的な名前でかっこいいね。

 決して、人前では言いたくないが。



 そんな俺は、シャワーから出るお湯を浴びている。

 これは俺の能力じゃない。


 頭に着いた泡が流れ落とされる。

 この時の感覚は、嫌いじゃない。

 泡と共に、悩み事も洗い流されるような感覚が。


 既に体は洗っている。

 それはもう念入りに。

 体のあらゆるところを洗った。

 風呂に二回入った後まで、妹に汚いと言われるのは嫌だからな。


 俺は風呂を楽しみつつ、あることを思い出す。

 遠坂と神様と俺の三人で話していた時のことだ。


 俺はどうやら、ちょっとおかしいらしい。

 おかしいのはこの世界に来る前の、暗闇世界での滞在時間についてだ。


 俺は、あの世界にいた時間が他の人よりもかなり長かったらしい。


 俺が、暗闇世界にいた時のことを話すと、遠坂が驚いていた。

 「そんなに長いこともあるのね......」と。


 通常であれば、あの世界は数十秒から数分ほどで出られるらしい。

 俺のように、何時間も取り残されるのは異常なケースなのだという。


 遠坂の予想によると、俺のこの世界への適正レベルがギリギリだったのかもしれない、とのことだ。

 あんまり良い能力は期待しない方がいいと言われた。


 俺も、神様みたいなチート能力が欲しかったです。


 まぁでも、こうして水の能力を使えているだけで満足しよう。


 そんなことを考えていると、頭も洗い終わった。


 俺は顔に垂れてくる水を両手で払い除け、鏡を見る。

 そこいるのは、全裸の青年で、こっちを見て立っている。


 今の俺に、ボサボサの長髪はない。

 自慢の妹に切ってもらったのだ。


 俺の妹は、髪を切るのが上手だ。

 昔から上手だった。

 彼女のお陰で、鏡に映る俺は好青年といった感じだ。


 髪型一つで、人の印象はガラッと変わる。


 あの美少女妹と同じ血が流れているのだ。

 俺もきっと美少年だろう。


 思い上がりである。


 彼の顔は、ブサイクではないが特別イケメンという訳でもない。

 中の上といった感じだ。


 妹は上の上。

 敵わないな......


 体に付いている水滴をかるくタオルで拭く。

 それから風呂を出て、脱衣場でもう一度体を拭く。


 脱衣所には、俺の体に合わせたジャージと男用の下着が、綺麗に畳まれて置いてあった。

 俺がこの世界に来ることを知っていたという事だ。

 おそらく、神様にでも教えてもらったのだろう。


 教えてもらって、俺の服を買って来てくれるなんて......

 妹の優しさが見て取れる。


 俺はその、優しさの塊とも言える服を手に取り、身に纏う。

 汚い男から全裸の青年に、全裸の青年から服を着た青年にフォルムチェンジした俺は、脱衣場の扉を開け廊下に出る。


 二回もこの家の風呂に入っているというのに、俺はこの家の中を知らない。

 帰ってすぐの時に「汚いからあまりウロウロしないで」と言われてしまったからである。


 二回も風呂に入ったんだから、もうウロウロしていいだろう。


 風呂を出てすぐ、正面と右手に大きな窓が目に入る。

 その窓はリビングにあり、きれいな景色を見ることができる。


 そのリビングはというと、かなり広い。

 リビングは風呂から見ると、逆さまのL字型だ。


 そんなリビングには、テーブルと椅子、観葉植物。後はポータブルラジオと生活必需品くらいしかない。

 テレビはない。そもそもこの世界にテレビはない。


 前世にあったような、テレビやパソコンなどの電子機器は、この世界では作れないらしい。

 この世界にある魔力(マナ)が、電気の流れを邪魔するからと聞いた。


 だが、魔力を使って作った代用品はいくつかある。

 その例がポータブルラジオや照明だ。

 これらは、大気中の魔力で動いている。

 仕組み自体は簡単だそうだ。


 ラジオは音系の擬似能力、照明は光系の擬似能力で作っているらしい。

 疑似魔法というものは、主に魔法陣を使用する。

 詳しいことは分からない。

 後で調べておこう。


 このように、仕組みが簡単なものは作れるが、テレビやパソコンといった、難しいものは作れないらしい。


「おにぃ」

「ん?」


 妹に呼ばれて振り返る。


「ちょっと話がある......」


 彼女は、真面目な顔をしている。

 俺も、あまりふざけない方がいいだろう。


 リビングの真ん中にある大きなテーブルへと移動する。



 ---



「まあ、そんな感じだ」


 話は、俺についてのことだった。

 俺と妹が、前世の世界で別れてからのこと。

 それからの、俺と妹の話をした。


 俺が思っていたほど、真面目な話ではなかった。


(そら)はこの世界に来て、どれくらい経つんだ?」


 神園(かみぞの)(そら)、俺の妹だ。

 名字が違うのはいろいろと複雑な理由がある。

 その理由について、話せば長くなるので、いつか話す時があれば話そうと思う。

 まぁ、簡単に言ってしまえば、宙は従妹だ。


 前世でも一緒に暮らしていて、本当の妹として接していた。

 この世界でもそうするつもりだ。


 俺はそんな妹に、前世ではなく今のこの世界のことを聞いた。


「一ヶ月くらいかな」

「そうか

 この一ヶ月、何かあったか?」

「何もなかった。学校行ってただけ」

「そうか」


 危ないことはなかったようだ。

 なら、良かった。


 こうして、いちいち妹の安全を確認する俺は、少しだけシスコンなのかもしれないな......

 いや、シスコンの何が悪いってんだ。

 妹を大切にするのはいい事じゃないか。


「そう言えば2日前に神様が来て、おにぃが来るって教えてくれた

 だから昨日、お兄の服を買いに行った」

「そっかぁ、お兄ちゃんのために服を買いに行ってくれたのかぁ

 ありがとな、宙」

「別に、おにぃのためじゃないし......」


 お礼を言うと、宙は照れたように顔をそらした。


 この話を持ち出して、「ありがとう」と言われたかったのだろうが、実際に言われると恥ずかしくなってしまいツンデレ。

 うちの妹は、今日もかわいいです。


「......」

「......」


 話が途切れた。

 宙は、神様みたいにずっと笑っていてくれることは無い。

 しかし、不思議と苦ではない。

 むしろ、安心できる。落ち着く。

 これが、家族の良さというものだ。


「じゃぁ、俺は勉強してくるよ」


 俺には、編入試験が待っている。

 高校二年生で編入できるように頑張らなければならないのだ。


「友達、沢山できるといいね」

「編入できないと友達はできないよ」

「おにぃは頭いいから大丈夫」


 そんなこと言われたら、「じゃぁ、大丈夫か」とか言ってなまけちゃうよ。

 実際、そう言ってなまけようと思っちゃったよ。何とか思いとどまったが。


 というか、道具もないのにどうやって勉強すればいいんだ?

 道具をそろえなければ。


 道具をそろえるため、宙と一緒に本屋に行く。

 まだ話足りなそうな顔をしている宙を放って、一人で勉強するのはかわいそうだしな。


 こうして久しぶりに会った兄妹は、他愛のない話をしながら本屋へ向かうのであった。



 ちなみにその後、家に帰っても話し続けたため、勉強に取り掛かったころには日付が変わっていた。


 この調子では、冗談抜きでやばいかもしれない。

 頑張らなければ中一スタートだ。


 まさか、異世界転生当日から勉強をすることになるとはな。

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