第十四話 『安心』
この世界では、学校での教育が義務化されていないらしい。
そりゃあそうだろう。
いつ死ぬか分からない。
どこでどんな魔物が出るかも分からない。
こんな世界に、「子供をほったらかしにしたくない」「容易に外出などしたくない」
そういう意見が合っても不思議ではない。
そんな中義務教育化なんてされてたまるもんか。
てか、当人の学力に合わせた学年で転入ってことは、最悪中学生で転入になる訳か。
中学校に上がりたて、心きらきら少年少女に囲まれた学校生活は、正直なところかなり辛い。
別に、中学一年生が嫌いというわけではない。
まぁ、得意ではないのだが......
12歳の集団に、16歳の男が一人。
考えるだけで、しんどくなってくる......
周りを見渡せばロリ、ショタだらけ。
そんな生活は......
ロリだらけか......
悪くないのでは......
おいおい、勘違いするなよ?
俺はロリコンじゃない。
若くて元気な女の子はかわいい。(ただし、二次元に限る)
ただそれだけだ。
そうだ。
よく考えればこの世界のロリは、二次元ではない。
次元を一つ越えているのだ。
おっと、話がだいぶズレてしまった。
俺の学力について考えているのだった。
この世界のロリが二次元ではないことが分かった以上、俺は高二で転入しなければならない。
そうしないと、精神的に辛い。
また不登校になってしまうかもしれない。
いや、それについては、高二で転入してもなってしまうかもしれないが......
まぁ、編入のための勉強は頑張らないとな。
早く不登校になるか、遅く不登校になるかだけの違いかもしれない。
俺も、不登校になりたいわけではない。
だから、俺は今日から勉強して、少しでも不登校になる可能性が少ない高校二年生に転入するんだ!
頑張ろう。
俺は、できる男だ。
心の底からできると信じていることは、大体できる。
できる!
できる!
俺ならできる!
危ない危ない。
熱血男になってしまうとこだった。
俺はテニスをしたことはない。
勉強をする決心をした俺は今、神様が貸してくれるという家まで神様と俺の男二人だけで歩いている。
遠坂はあの戦いの後少し話したが、春休み課題が終わっていないからと帰ってしまった。
その時に聞いたが、俺は編入試験まで四日しか残されていないらしい。
衝撃の事実です。
急ピッチで勉強しなければなりません。
大変です。
「学校、友達出来るといいね」
「傷口抉ってきますね......」
俺は前世で友達がいなかった。
神様は、多分そのことを知っている。
それでも、そこに触れてくる。
古傷を抉られる。
抉った本人はニコニコ笑顔だ。
なんて嫌な奴だ。
「別に抉ったつもりはないんだけど......」
神様は落ち込んだ顔になる。
彼は無意識に抉ってきたのだ。
悪気はない。
そう思うとなぜか俺が申し訳なくなってしまう。
「すいません」
「いやいや、全然大丈夫だよ
僕こそごめんね」
俺が謝ると、神様の表情がコロッと変わる。
また笑顔になっている。
それから、沈黙が続く。
しかし遠坂の時と違い、神様の表情がころころと変わるせいか、気まずさはあまりない。
「あの......」
「ねぇ......」
被ってしまった。
そう言えば、遠坂ともこんなことあったな。
「敬語、やめてくれない?
君の敬語、気持ち悪いんだよね
君に敬語は似合わないよ」
神様は、俺に話しを譲らずに会話を続ける。
こういうことも、遠坂との会話であったな。
「分かった
なら、ため口で話させてもらう」
「うんうん」
神様は、満足げに頷く。
「ところで、君がさっき言おうとしていたことは何だい?」
おっ?
ここは遠坂と違うな......
俺の話もさせてくれる。
彼女も、話させてくれないわけではなかったが、話は振ってくれなかった。
まぁ、振ってもらうことを期待して離さない俺もどうかと思うが......
「お前は、なんて名前なんだ?」
そう聞くと神様は、なぜか嬉しそうな顔をした。
「『お前』なんて言われたの久しぶりだよ
なんだか、新鮮でいいね」
神様はご満悦の様子です。
「僕の名前だっけ?
悪いけど忘れちゃったんだよね......」
神様は苦笑いで、耳の後ろをポリポリとかいている。
なんだか申し訳ないな......
神様は数百年生きているらしい。
その長い年月の中で、いつしか名前を忘れてしまったそうだ。
やはり不老不死も大変そうだな。
いくら不老不死でも、記憶容量は無限じゃない。
古い記憶から、順々に忘れて行ってしまうのだろう。
話を変えよう。
「家を貸してくれるって話だが、家賃はいくらなんだ?」
「あー
家賃ね。それに関しては気にしなくていいよ」
「いらないのか?」
「まぁ、そうだね」
家賃は取らない、か......
さすが神様だな。
太っ腹だ。
だが家賃を取らないなら、これは「貰う」とどう違うのだろう。
同じ気がする......
「もう、貰っているからね」
は?
「貰っている」というのは家賃のことだろうか。
そういうことなら、どういうことだ?
俺の給料から、勝手に引かれているんだろうか。
俺の時給0円の給料から。
どうも、無職住所不定の転生者です。
ということで、俺から金を取ることは不可能だ。
何もないところからは、何も取れない。
ならば、俺以外から取っているということか?
俺と関係ない人から......
それはよくない。
まぁ、流石の神様でも、それはできないしやらないと思う。
あいつは、少し変だが常識はわきまえている。
関係ない人から、勝手に金を巻き取るようなことはしないだろう......
しないよね?
だが、だとしたらどこから金を取っているのだろう。
「誰から、取ってるんですか?」
「内緒だよ」
神様は、満面の作り笑顔で「内緒」と言った。
まるで、語尾にハートが付きそうなくらいの勢いで。
男の「(ハート付き)内緒だよ」はかわいくない。
神様がどんなにイケメンでも、だ。
男からすれば全然ときめかない。むしろ、辛い。
不安だ。
大丈夫だろうか......
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あれから、沈黙が続いた。
しかし、そんなに苦ではなかった。
神様が、ずっと笑っていたからだろうか。
何が面白くて笑っていたのかは、分からない。
度々、表情を変えながら笑っていた。
本当に、よくわからない人だ......
今は丘、というか崖を登っている。
半分丘で、半分崖という感じだ。
崖を登っていると言っても、緩やかな坂道を、だ。
断崖絶壁を登っているわけではない。
今は家に向かっているのだから、断崖絶壁なんて登りたくない。
帰宅でいちいち崖を登らされていたら大変だ。
もしそんな家があったら、立地が悪すぎる。
坂を登り終えた頃、一軒の家が見えてきた。
大きな家だ。
「着いたよ」
どうやら、この大きな家が俺の家になるらしい。
随分と大きな家だ。
まぁ、普通の家にしてはだが。
平屋だがいい家だ。
それに大きい。
その家は、壁が全体的に白い。茶色、というか木造の部分もある。
傾斜の少ない一枚の屋根は、黒に近い灰色だ。
玄関の隣にはバルコニーが付いていて、大きな窓がある。
俺からは見えないが、俺が登って来た道からちょうど反対の崖側、崖っぷちとも言えるその場所にはバルコニーの所よりももっと大きい窓が付いている。
かなり見晴らしがよさそうだ。
さらに、家の背面にはそびえ立つ崖がある。
そこにも、一番大きな窓に接するように大きな窓がある。
無論、それも俺からは見えない。
神様によると、この家の敷地はこの崖の上全てらしくかなり広い。
同じ家がもう一軒建ちそうなほど......
俺は、ここを自由に使っていいそうだ。
だだっ広い庭という訳だ。
能力の練習はここでしよう。
よしよし、生活プランが見えてきたぞ。
毎朝能力の訓練をして、風呂に入る。
それが終わったら朝食を取って学校に行く。
帰ってきたら自由タイムだ。
それにしても、いい家だ。
毎日坂を登り下りしなければいけないところ以外はいい家だ。
綺麗な家。
最高の眺め。
心地よい風。
広い庭。
バルコニー。
そこに干してある女性物の服と下着、一人分。
おいちょっと待て。
なんだ最後のは。
どこかで見たような服。
まぁ、服なんて同じものが沢山ある。
どこかで見たことがあっても、不思議ではないだろう。
そして俺はその服の近くに干してあるそれに目が移る。
白、か......
何が、なんて言葉は無粋だろう。白いそれが干してあるのだ。
中学生くらいのだろうか。
派手じゃなく、可愛らしい。
いや、違う。
そうじゃない。
なぜ、俺が貸してもらう家に洗濯物が干してあるんだ?
いや、シェアハウスということか。
それなら既に洗濯物が干してあるのも納得だ。
「もう、貰っているからね」という神様の言葉も納得だ。
だが、シェアハウスとなると大きな問題が生じてくる。
それは、俺が元引きこもりかつ現在進行形で人見知りということだ。
人見知りに、シェアハウスは難易度が高すぎる。
それに、見たところここに住んでいるのは女子中学生一人だけのようだ。
女子中学生とボロ男、一緒にシェアハウスはいろいろとやばくないか?
俺が干してある洗濯物を見ながらそんなことを考えていると神様が口を開いた。
「そんなに女性の下着を舐め回すように見て、君は変態なのかい?」
「違う。そうじゃない
少し考え事をしていたんだ」
「考え事っていうのは、君があの子にあんなことやこんなことをすることかい?」
「いや、違う
このシェアハウスについてだ」
見ていたことは本当だが、流石にそんな事は考えていない。
「あの子と一緒に暮らしてはもらうけど、シェアハウスとは、少し違うよ」
人と一緒に暮らすけど、シェアハウスではない。
どうゆうことだ?
俺が知らないだけで、こういうシェアハウスに似たものもあるのだろうか。
まぁ、これについては今考えても答えが出ない気がする。
考えるのは、やめにしよう。
「お前、さっきからあの子って言ってるけどあの子って誰なんだ?」
「それは、会ってからのお楽しみだ
君も知っている人だよ」
俺も知っている人。
それでいて、女性中学生。
一人しか思いつかない。
しかし、こんな奇跡があっていいのだろうか。
そんなに都合のいいことがあるだろうか。
二人とも転生しているなんて考えもしなかった。
確認してもいないのに。
確定している訳では無いのに。
違う人かもしれないのに。
それが分かっていても。
違った時の絶望感が、ものすごいものだろうと分かっていても。
喜ばずにはいられない。
心の底から喜びと安心が溢れ出してくる。
今の俺は、自分でも想像がつかないほど嬉しそうな顔をしているだろう。
その表情を見た神様は、「行ってこい」と、俺の背中を叩いてくる。
俺は走る。
玄関に向かって走る。
ただただ、一直線に。
戦闘の時ほどではないが、それでも速いスピードで。
俺が走り出したのを見た神様は、何か言ってから踵を返した。
おそらく「良かったな」とか、そういう感じのことを言ったのだと思う。
しかし、その言葉は俺には届かない。
意識が家の玄関に集中している俺に、その言葉はもう日本語にすら聞こえない。
玄関に着いた。
もうその頃には、神様の姿は消えていた。
テレポートでもしたのだろう。
玄関の前に立ち、インターホンを探す。
インターホンはどこにもない。
はじめ、扉の周りばかり探していて気付かなかった。
扉の真ん中にドアノッカーが付いている。
模様のある鉄製の輪だ。
どうやらこの家、この世界の家にインターホンはないようだ。
俺は、ドアノッカーを『コンコン』と二回叩く。
ドアノブが動いた。
その直後、扉が開く。
妙にゆっくり開いているように感じる。
俺は、ゆっくりと迫ってくる扉を、後ろに下がって避ける。
他に比べて少し重い扉を、開けたのは一人の少女。
見覚えのある一人の少女が立っていた。
俺の無意識の安心感が伝わってくる。
彼女は、勝手に閉じる扉を俺に託し一歩下がって後ろで手を組む。
「お帰り。おにぃ」
彼女は可愛らしく微笑んだ。




