第十三話 『神様・後編』
「じゃぁ、行くよ」
神様は、優しい笑顔でそう言った。
それは戦闘開始の合図だ。
これから戦いが始まる。
転生者と神様の戦いが。
俺は身構えた。
この戦いで、俺は死なないだろうが、遠坂への被害は最小限にしなければならない。
彼女はこの戦いには無関係。
勝手に巻き込んではいけないのだ。
おそらくだが、神様も同じことを考えているだろう。
彼は、自分勝手な話をしてくるが、それくらいの配慮はできるはずだ。
でなければ、神様として国をまとめられないと思う。
俺はそんな国のトップと戦うのだ。
彼は、どれくらいの強さなのだろうか。
神様は、武力で選ばれる訳では無い。
遠坂はそう言っていた。
だが、あれだけ自信満々に勝負を提案した彼だ。
ある程度は強いのだろう。
それに、強者の余裕のようなものも感じる。
まぁ、それらがはったりの可能性もあるのだが。
神様が腰を少し下げ、足に力を込める。
目線は俺の方を向いている。
俺目掛けて突進してくるのだろう。
俺も腰を落とし、意識を彼に集中させる。
神様が地面を蹴る。消える。
「!?」
神様は地面を蹴った刹那、轟音とともに跡形もなく消えたのだ。
否、消えたわけではない。一瞬で近づかれすぎて見えなかったのだ。
目で追えないほどのスピードが出せているのは、きっと能力だろう。
高速移動か瞬間移動か、はたまた時間操作か......
彼が不老不死であることから、時間操作の可能性が高い。
そんなこと、今はどうでもいい。
後からゆっくり考えればいいのだ。
今はこの攻撃を回避しなければならない。
神様は今、腰を低く落とし力を込めた拳を俺目掛けて放っている。
おそらく、かなりの威力がある。
まともに当たれば一発KOだ。
俺はそれを、腰を捻りつつ体をそらせて回避する。
ただ、それだけでは回避しきれないので、左手を使い飛んでくる拳の軌道を変える。
その軌道は大きく変わることはないが、回避するには十分だ。
神様の右腕が、眼前をかすめる......
間一髪だ。
俺の体制は少し崩れてしまっているが、まだ立て直せる。
左足を引き体制を整えた後、その流れのまま腰の入った打撃をお見舞いする。
俺の仕掛けた右の拳が、神様の腹に直撃する直前......
俺は吹っ飛ばされていた。
訳が分からない。
理解ができない。
一瞬。
体中に衝撃が走った直後、気づけば吹っ飛ばされていた。
何が起こった?
何をされた?
彼の能力に、人を触らず攻撃するものはないはずだ。
結界系と不老不死(時間操作)、その二つのはず......
遠坂の話は間違いで、彼は三つ以上の能力が使えるのか?
「何をした......?」
「僕は何もしていないよ
ただ移動しただけ......
あれはソニックブームだよ」
「......」
ソニックブームだと?
なら、さっきの彼の動きは時間操作ではなく高速移動......
あの速度で移動することは、能力を持たない人間には不可能だ。
だが、そうなると不老不死の説明がつかない。
神様は時間操作を使って、自分自身の時間を止めている。
俺はそう思っていた。
だが、そうではなかった。
結界系の能力で不老不死を作り出している、もしくは三つ以上の能力を持っている。
遠坂が二つが最大と思っていただけで、三つ以上使えるやつもいるのか?
そう思い、遠坂の方を見るが、彼女に驚いた様子はない。
初めから知っていたのか?
あの時の遠坂は、嘘をついている感じではなかったのだが......
「いや~
驚いたね
まさかあれを避けられるとは......」
「......」
「何か喋ってほしいんだけど......
まあいいや、今度は君から来なよ」
俺はさっきからあまり喋っていない。
喋る余裕がないのだ。
不確定要素が多いこの状況で、俺から攻めに行くのは危険な気がする。
いや、この世界に来てからというもの、不確定要素だらけだ。
そもそも、相手が能力を使ってくる時点で不確定だ。
どのみち不確定なら、俺から行っても変わりないだろう。
俺は地を蹴り、低い体勢で走り出す。
スピードは神様に遠く及ばない。
が、それでも速い。
戦い慣れしていない人は、目で追い続けるのは不可能。
それくらいの速さだ。
そのスピードを活かし、神様までの距離を一瞬で詰める。
神様の目の前まで来た。
スピードを乗せた右の拳を、彼目掛けて放つ。
神様は、一歩だけ後ろに下がりそれを躱す。
だが、問題ない。それでいい。
囮の攻撃だから。
さっきの攻撃の反動を利用して、右足を軸に左足で後ろ回し蹴りをする。
だが、これも彼は一歩後ろに下がってかわす。
まだだ。
かわされた左足が地面についた直後、その左足で踏み切って右足で回転蹴りをする。
これも一歩で躱された。
やばい。
この回転蹴りで流れが途絶えてしまった。
いや、まだだ。
右足で着地した直後、その足でもう一度飛ぶ。
もう一度回転蹴りだ。
空中で体を半回転させる。
「!?」
目が合った。
神様は、余裕綽々としている。
俺の右足が、あとちょっとで神様に届きそうになった時、
彼の拳が俺の腹にめり込んでいた。
内臓がかき回されるような感覚......
「カハッッッ!」
俺は抵抗することも出来ず、いとも簡単に吹っ飛ばされる。
視界がチカチカする。
体に穴が空いたのではないかと錯覚するほどの衝撃。
軽く10メートルは飛ばされた。
俺は、弧を描きながら宙を舞った。
地面に叩きつけられ、勢いを殺せないまま転がる。
少し転がった後、『ザー』と音を立てながら地面を薄く削る。
地面を削った左肩から、血が滲み出る。
着ていたボロボロの服は当然のように破れ、穴が開いている。
こんなに飛ばされたのは生まれて初めてかもしれない。
これだけの距離を飛ばしたことはあるが、飛ばされるのはこういう感覚なんだな。
飛んでいる間、すべてが終わったのではと思う。死んだと錯覚する。
今まで感じたことのない浮遊感に苛まれ、頭の中が空っぽになる。
その後、地面に落ちたと同時に痛みを感じる。
それと共にまだ死んでないことを自覚するのだ。
だいたいそんな感じだが、言葉にできない感覚も多い。
それが殴り飛ばされる感覚なのだ。
土の味がする。
転がっているとき、口に入ってきたのだろう。
少し、血の味もする。
今、俺の視界は地面で埋め尽くされている。
まずい。
敵から目を離してしまった。
すぐさま、神様を目で捕らえるため前を向く。
だが、そこに神様はいなかった。
(どこだ。どこへ行った)
顔を左右に動かし、周囲を確認する。
どこにもいない。
右左と、一回ずつ首を動かし、もう一度右を見ようとしたその時、視界の端に先が鋭いそれが映る。
それは太陽の光を反射して、眩しく光っている。
反射する光は、太陽よりも光っているのではと思えるほどだ。
それは、どこから取り出したのか、いつの間に取り出したのか分からない。
だが、かなり切れ味の良いものだということはわかる。
それは、俺も使ったことがある。
今先ほど渡された。
玉鋼を叩いて作られた、薄い棒状の武器。
日本刀だ。
太陽光を反射する刀は、顔の隣で輝いている。
俺は顔をしかめる。
目の前の刀が眩しいのもあるが、それ以上に負けた悔しさからくる表情だ。
能力という存在を知っていながら、それに対応できず、完膚なきまでに打ちのめされた。
能力というものは厄介だが、予想できないものじゃない。
人が能力を使っているため、予想ができない訳では無い。
対応はできたはずなのに......
完敗だ。
それにしても、神様は三つ以上の能力が使えるんだろうか......
「遠坂に、能力は最大で二つしか使えないと聞いたのですが......」
「あー
僕は一つしか使えないよ」
「?」
確かに神様は今の戦いで一つの能力しか使っていなかった。
しかし、北方神国の神様が貼った結界は崩れていなかった。
おそらく不老不死もそのままだっただろう。
同時に、三つ以上の能力を使っていたはずだ。
だが、神様は一つしか使えないと言った。
使っていないではなく、使えない、だ。
高速移動の能力一つで、結界と不老不死、高速移動の三つのことができる訳がない。
「僕の能力は『魔神』
魔力を自在に操れるんだ」
よほど俺が、不思議そうな顔をしていたのだろう。
神様が仕方ないという雰囲気を醸し出しながら、種明かしをしてきた。
神様は「それくらい分かってほしい」とでも言うように苦笑している。
分かるわけないだろ。
俺はついさっき能力について知ったんだぞ......
ていうか、なんだよそのチート能力。
俺にも分けて欲しい......
「とにかく、僕は君に勝った
約束通り、学校に行ってもらうよ」
神様は嬉しそうだ。
俺が彼に出会ってから、彼の表情は休むことなく動いている。
忙しい男だ。
特に頭部が......
頭部前面以外は、そんなに忙しそうじゃない。
むしろ、のんびりしすぎな気がする。
気の抜けたようなのんびりとした動きだ。
さっきまでの戦いとは大違い。
そんな彼の動作からでも伝わってくるほど、嬉しそうだ。
神様は嬉しそうな顔を一転させ、まじめな顔で彼の学校の話を始める。
彼の作った学校は、中高一貫校。
神立丘の上中学高等学校だ。
その学校は、成績さえよければ年相応の学年で編入できるらしい。
転生者にとって、かなり都合の良い学校だ。
生前と同じ学年を繰り返さなくてよいのだ。
俺なんて成績さえよければ、生前高校に行ってすらなかったのに高二から始められるそうだ。
成績さえよければ......
一応勉強はしていたが、自分の学力がどのくらいなのかが分からない。
小三以降、同世代と同じテストを受けたことがない。同じテストどころか、テストも受けていない。
当然、成績の話などしたこともない。
もしかすると、小三以前に話した可能性はあるが、覚えていない。
俺は無事、高校二年生で編入できるのだろうか......
第二章『神国』・終了
次章・第三章『異世界学校』




