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砂の花  作者: 高千穂ゆずる
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色とりどりの 第9話

「ローランはいっしょに帰らないの?」

 後輩刑事を先に帰らせたローランは、ソファの上でのびのびと寛いでいた。緊張感がまるでない。

「署に泊まり込みが続いてて、ちょっと息抜きがしたい」

 あくびともため息ともつかない大きな息を吐いて、ローランが伸びをする。

(ほんとう?)

 レナがルイスへ視線で訊くと、そのとおりだと肯定の返事が瞬きで返ってきた。

「この事件が解決したら休暇でも取って、あ、おばさんを呼んで手料理つくってもらったらどう?」

「料理なら母さんより俺の方が得意」

「そうでした」

 ローランの料理の腕前はレナがよく知っていた。肉料理、魚料理問わず上手だ。

「最近、おばさんと連絡取ってる? 元気?」

 上半身のストレッチを始めたローランの横へ腰を下ろす。

「元気そうだったよ。そういうレナは?」

「また訊く? 取るわけがないでしょ。知ってるくせに」

「ベンの方だよ」

「……オーブリーの話をしなくなったのっていつからだっけ」

 ルイスの前でわざとベンジャミンのことを言ったのがわかるから、レナもお返しとばかりにローランの父親の話を持ち出した。

「子供の頃はわりと話してたよね」

「死んだのが十歳の頃だし、殉職したってことを英雄視していた時期もあったから……そういう年頃を過ぎれば自然と話さなくなるもんじゃないか?」

「そういえば俺はほとんど話を聞いたことがないな」

 淹れ直したコーヒーを持って戻ってきたルイスも話に加わる。

「自分の知らない父親を知るとさ。そのことを自分の中で処理するのに時間もかかるし、それが意外なことなら尚さらだしな」

「意外なこと?」

 レナとルイスが顔を見合わせる。

「……じつは腹違いの妹がいるんだよね、俺」

「えっ」

 思ってもいなかったことを聞かされて二人は驚くしかない。

「へぇ、そういう大事なことをあたしに黙ってたんだ。自分の中で処理するのに時間がかかったっていうことは、ものすごく悩んだってことでしょ。アンタが悩んでたときにあたしはのほほんとしてたわけだ」

「ごめん。でも相手がいることだし、それにおまえが荒れてた頃だったからな」

 あの頃か、とレナは声を詰まらせた。イェシカの彼氏に襲われてしばらくはかなり荒れていたのだ。

「探さないの?」

「どこに住んでるかは知ってる」

「名乗り出たりとかはしないの? 妹でしょ」

「必要ない。彼女のしあわせが一番だから」

 優しいローランが言いそうなことだ。

「ローランが兄さんだって知れば、その子もしあわせが増えていいことだと思うけど」

 思ったままを素直に言う。レナにとってローランはそういう存在だからだ。

「もし、またそのことで悩んだときは相談に乗る。いつもは俺が相談ばかりしているから頼りないかもしれないが」

「二人とも今日はやさしい」

「いつもやさしいでしょ!」

「いつもじゃない」

 三人で顔を突き合わせ憎まれ口を叩き合うこの時間が、ずっと続けばいいのにとレナは思った。

 あんな事件は早く解決してしまえばいいのにと。

「そろそろ帰るわ」

 言ってローランがソファを立った。同時に連絡が入る。

「……そうか」

 通話相手の声が切れ切れに聞こえてくるが内容まではわからない。ただ、ローランの表情が厳しくなっていくのを見て事件絡みだということはわかった。

 レナの緊張感も増していく。今度は誰が被害者になったのか。

「誰が殺されたの」

「ん? いや、別の事件だからレナは安心していいよ。ルイスは俺といっしょに署へ戻った方がいいかもしれない」

 くいと顎を動かして玄関を指す。

「わかった」

 レナ絡みの事件以外なら自分も捜査に加わることになるかもしれない。ルイスは慌ただしく出かける準備をして、ローランと警察署へ向かった。


 解体工事中の廃ビルから白骨死体が出た。

 甲状軟骨にあたる箇所に鋭利なものでついたと思われる傷があった。ここに達するほどの深い傷なら、おそらく致命傷になっただろう。助けを呼ぶ間もなく死んだはずだ。

「喉、か」

 嫌な偶然にルイスもローランも眉を顰めた。

「まだ死亡時期も身元もわかっていないんだったな」

「そうらしいね。身元がわかれば早いんだけど」

 ローランは嘆息しながら苦笑した。

「大丈夫だ、ガイスラーは優秀だからな」

 鑑識課の同期をルイスが褒める。

「そうだね」

 ローランはホワイトボードに貼られた写真を凝視した。崩れ落ちた壁の中から頭蓋骨が覗いている現場写真だった。


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